唐突だしぬけ)” の例文
『だつて引越し方があんまり唐突だしぬけだからさ。』と言つて、銀之助は気を変へて、『しかし、寺の方が反つて勉強は出来るだらう。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
とまた言い掛けたが、青芒あおすすきが川のへりに、雑木一叢ひとむら、畑の前を背かがみ通る真中まんなかあたり、野末のもやを一呼吸いきに吸込んだかと、宰八唐突だしぬけ
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうも苦しくて死にそうでしたよ。」と唐突だしぬけにいって、私は出来るだけ婆さんを驚かして、今少し複雑な情味ある話を聞きたいと思った。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
繰返して申すと、竹やは台所で蝋燭を探してい、私は、電話でじれっぽくなっていた時、暗がりの中で、唐突だしぬけにピストルの音がしたのです。
偽悪病患者 (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
自分が唐突だしぬけに前後不揃いの言葉で頼んだのを、娘が継ぎ足して、始終を話して、「お気の毒だが見て来て」と丁寧に頼んだ。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
が、彼はあまりに触れられたくない急所に、相手が唐突だしぬけに触れてきたことに、かなりな不快を感ぜずにはおられなかった。
蘭学事始 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
アコ長は、真顔になって、長い顎を撫でながら、とほんとなにかかんがえていたが、そのうちに、れいによって唐突だしぬけ
顎十郎捕物帳:22 小鰭の鮨 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
すると、唐突だしぬけに夕立がざつとおろして来た。八郎右衛門は羽織の事も光琳の事もすつかり忘れて、慌てて逃げ出して来た。
唐突だしぬけに、その家並の軒端と覚しきところから圧しつけるような声が懸かった。僕はその声に、飛びあがるほど驚いた。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは勿論もちろん彼娘あれだッて口へ出してこそ言わないが何んでも来年の春を楽しみにしているらしいから、今唐突だしぬけに免職になッたと聞いたら定めて落胆するだろう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
わっと、血しおを浴びてたおれたのは、伏原半蔵だった。唐突だしぬけに、仲間の者を討たれたので他の人々も
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、その中にお婆さんが、唐突だしぬけにゲラゲラ腹をかかえて笑い出すと、その菰をつい剥がしたの。
四月馬鹿 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
此處こゝ發見みつけときぼくおもつた此處こゝるなられないでも半日位はんにちぐらゐ辛棒しんぼう出來できるとおもつた。ところぼく釣初つりはじめるともなく後背うしろから『れますか』と唐突だしぬけこゑけたものがある。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
不作法ぶさはふ言辭げんじ麻痺まひして彼等かれらはどうしたら相互さうご感動かんどうあたるかと苦心くしんしつゝあつたかとおもやう卑猥ひわいな一唐突だしぬけあるにんくちからるとの一にんまたそれにおうじた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
中村なかむらさんと唐突だしぬけ背中せなかたゝかれてオヤとへれば束髪そくはつの一むれなにてかおむつましいことゝ無遠慮ぶゑんりよの一ごんたれがはなくちびるをもれしことばあと同音どうおんわらごゑ夜風よかぜのこしてはしくを
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
詩人と令嬢との恋愛をはぶき、唐突だしぬけに結婚を持ち出して来たのは、ツムジ曲がりのチェスタアトンらしく、私にはひどく愉快でしたが、恋愛好きの読者にはあるいは不満かもしれません。
孔雀の樹に就いて (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
といったばかりではいかにも唐突だしぬけだが、井戸の下に広がっている茫漠ぼうばくたる大広間だ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と話をして居ますと、唐突だしぬけに隔ての襖をガラリ引開け這入って来たは大きな男で
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
唐突だしぬけのようだが、これはもう長い問題である。折角里で架設してくれるという電話が、清之介君の固い辞退の為め、まだそのまゝになっているので、妙子さんが始終ヤキモキするのだった。
女婿 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
自分は餘りに唐突だしぬけな話題の變轉に唯だ首を頷付うなづかせたまゝ高佐君の顏を見た。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
「さやう。」劉は、あまり問が唐突だしぬけなので、曖昧な返事をしながら、救を求めるやうに、孫先生の方を見た。孫先生は、すまして、独りで、盤面に石を下してゐる。まるで、取り合ふ容子はない。
酒虫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こんな風に唐突だしぬけに知りあうようになって、しかし互いの性質も境遇も知るまもなく、いきなりきちがいじみた恋人同士になった過程について、世間の人は、この上なく妾たちを軽蔑し、それは、妾たちが
華やかな罪過 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
この国には午前午後の区別が無いとかねてベデカア氏に注意せられて居たのだが余り唐突だしぬけなので弱つた。見れば頭上の時計迄が二十四時間で書かれて居るのである。其れから僕の時計を五十五分進ませた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
松本は余り唐突だしぬけなのでいさゝか面喰っている検事に向って云った。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
唐突だしぬけな平次の言葉に、治兵衛はのけらんばかり。
明智は余り唐突だしぬけの話なので、面喰って聞返した。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「あんまり、唐突だしぬけな話で訳がわからんが」
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
成程——斯んなに可笑しい話といふものは稀にしか無い! 斯んなにも笑ひたくて噴き出したくてヂリヂリ込み上げて来て一寸でも圧してみたなら一つぺんに爆発しさうな可笑しさつたら無い! 駄夫は又堪まりかねて唐突だしぬけに笑ひ転げて了つたのである。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「だって、何をッて、お前さん、どこか、お茶屋か、待合からかけてくれれば可いじゃありませんか、唐突だしぬけに内へなんぞ来るんだもの。」
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「妙なものだテ」とお種は思出したように、「旦那が未だ郷里くにの方に居る時分——まあ、唐突だしぬけと言っても唐突に、ふいとこんなことを言出した。 ...
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と、こんな風なことをブツブツ呟いていたが、またしても首を垂れ、千思万思といった体に呻吟していたが、ややしばらくののち唐突だしぬけに顔をあげ
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それを聞いて、僕は口の裡で、「ッ——」と叫んだ。一つは唐突だしぬけに僕の名前を呼ばれたのにも驚いた。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
青年の問は、美奈子が何と答へてよいか分らないほど、唐突だしぬけだつた。彼女は、一寸こたへに窮した。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
や負けた、娘が先へ走り寄ッた。唐突だしぬけに娘があれエと叫んだ、自分は思わずびッくりした,見れば、もウ自分の傍にいた、真青になッて、胸を波立たせて、向うのくさむらを一心に見て。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
「おつう」と唐突だしぬけんだ。かれいきほひよくんで自分じぶん拍子拔ひやうしぬけしたやうにしてたが
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
女は幾らかおちついて言つた。そしてかうして唐突だしぬけに訪ねて来た一部始終を話した。それによると、女は長い事胃腸病で困つてゐたが、あるの夢に若い男が来ておなかさすつて呉れた。
と話をして居ると、唐突だしぬけに一人の老爺おやじうしろの襖を開けて這入って参りまして
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
だいぶ、いてから、やはり不安でならないように、兵部は唐突だしぬけ
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と団さんが稍〻やや唐突だしぬけにお父さんのネクタイのピンを問題にした。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一体、何家どこを捜す? いやさ捜さずともだが、仮にだ。いやさ、しちくどう云う事はない、何で俺が門をうかごうた。唐突だしぬけに窓をのぞいたんだい。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こういう深刻な無言劇パントミイムが永久に続くかと思われたころ、印東はひきつったような笑い方をしながら唐突だしぬけに口を開き
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
其時迄、黙つて二人の談話はなしを聞いて、巻煙草ばかりふかして居た準教員は、唐突だしぬけ斯様こんなことを言出した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それは、先刻さっき狼狽して釜場の方へ飛んで行った湯屋の女房であった。彼女は、のぞあなへ当てた片眼の前で、余りにも唐突だしぬけに職人の一人が声を発したので吃驚びっくりしたのである。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
青年の問は、美奈子が何と答えてよいか分らないほど、唐突だしぬけだった。彼女は、一寸ちょっと答に窮した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
こゝまで喋舌しやべつて来ると、喜劇役者は唐突だしぬけにぼろぼろ涙を流して泣き出した。
孝「何をいうのだ、唐突だしぬけに、貴様と喧嘩する事は何もねえ」
夢中になった渠等かれらそばで、駅員が一名、そっと寄って、中にもめ組の横腹のあたり唐突だしぬけに、がんからん、がんからん、がんからん。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
唐突だしぬけ背後うしろから声を掛けた人がある。思はず丑松は顔色を変へた。見れば校長で、何か穿鑿さぐりを入れるやうな目付して、何時の間にか腰掛のところへ来て佇立たゝずんで居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この場の唐突だしぬけな乱闘に、プールから飛びあがって呆然としていた入浴客は、ここに始めて、目の前の活劇が、いま全市を震駭しんがいさせている稀代の怪魔蠅男の捕物であったと知って
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
唐突だしぬけにこちらへ向きなおると、なんとも形容のつかぬ愁然たる面もちで
黒い手帳 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)