トップ
>
単衣
>
ひとえ
ふりがな文庫
“
単衣
(
ひとえ
)” の例文
旧字:
單衣
それもしかし、この上もなく質朴で地味な
単衣
(
ひとえ
)
に包んで、化粧さえも忘れた、お関の底光りのする美しさには比ぶべくもありません。
銭形平次捕物控:078 十手の道
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
そして、それを紛らすために
衣裳鞄
(
いしょうかばん
)
からポーラルの
単衣
(
ひとえ
)
と
単帯
(
ひとえおび
)
とを出して着替えたり、脱いだ衣裳を
衣紋掛
(
えもんか
)
けに掛けたりしていると
細雪:03 下巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
例の
縞
(
しま
)
の
襯衣
(
しゃつ
)
に、その
綛
(
かすり
)
の
単衣
(
ひとえ
)
を着て、紺の
小倉
(
こくら
)
の帯をぐるぐると巻きつけたが、じんじん
端折
(
ばしょ
)
りの
空脛
(
からずね
)
に、草履ばきで帽は
冠
(
かぶ
)
らず。
悪獣篇
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
開きの
襖
(
ふすま
)
があいていて、その部屋の入口に、セルの
単衣
(
ひとえ
)
を着て、頭の頂点で彼女なりに髪を束ねた葉子が、ちょこなんと坐っていた。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
あるいは
藍微塵
(
あいみじん
)
の
袷
(
あわせ
)
、
格子
(
こうし
)
の
単衣
(
ひとえ
)
、豆絞りの手ぬぐいというこしらえで、
贔屓
(
ひいき
)
役者が美しいならずものに
扮
(
ふん
)
しながら舞台に登る時は
夜明け前:02 第一部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
▼ もっと見る
『申し難いが、
細
(
こま
)
かい
銭
(
の
)
をすこし、お持ち合せはないか。実はかくの通り、
単衣
(
ひとえ
)
まで質に入れてしまったので、金策に出られぬ始末』
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
きのう、きょう、めっきり涼しくなって、そろそろセルの季節にはいりましたから、早速、黒地の
単衣
(
ひとえ
)
に着換えるつもりでございます。
灯籠
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
吉川と云う方は、
明石縮
(
あかしちぢみ
)
の
単衣
(
ひとえ
)
に、
藍無地
(
あいむじ
)
の
絽
(
ろ
)
の夏羽織を着て、白っぽい絽の
袴
(
はかま
)
を
穿
(
は
)
いて居た。二人とも、五分も
隙
(
すき
)
のない
身装
(
みなり
)
である。
大島が出来る話
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
章一は羽織と袴をとって
単衣
(
ひとえ
)
を脱ぐと女は
枕
(
まくら
)
を持って来た。しかし、章一は女の眼の下の
曇
(
くもり
)
の深い肉の落ちた顔が気になっていた。
一握の髪の毛
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
たるんだ声で答えながら、足許も
覚束
(
おぼつか
)
なく出て来たのは、茶の
単衣
(
ひとえ
)
に、山の出た
黒繻子
(
くろじゅす
)
の帯をしめた、召使いらしい老婆であった。
乳を刺す:黒門町伝七捕物帳
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
次々に濃くした
鈍
(
にび
)
の幾枚かをお重ねになった下には黄味を含んだ
淡
(
うす
)
色の
単衣
(
ひとえ
)
をお着になって、まだ尼姿になりきってはお見えにならず
源氏物語:36 柏木
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
それを
糊
(
のり
)
のついた白地の
単衣
(
ひとえ
)
に着替えて、茶の間の
火鉢
(
ひばち
)
の前に坐ると、細君はふと思い附いたように、
箪笥
(
たんす
)
の上の一封の手紙を取出し
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
沖の百万坪へスケッチにいった帰りで、洗い
晒
(
ざら
)
しの
単衣
(
ひとえ
)
は汗のため肌へねばりつき、
尻端折
(
しりっぱしょ
)
りをしなければやすらかには歩けなかった。
青べか物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
多計代は、ねまきの手綱染めの
単衣
(
ひとえ
)
の上に伊達巻をしめた姿で、化粧台に背をもたせ、もう一つの椅子に素足の両足をのせていた。
道標
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
三千代は何にも答えずに
室
(
へや
)
の中に這入て来た。セルの
単衣
(
ひとえ
)
の下に
襦袢
(
じゅばん
)
を重ねて、手に大きな白い
百合
(
ゆり
)
の花を三本ばかり提げていた。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
朝と、夕と、秋風の立っている山の中は、もう、
単衣
(
ひとえ
)
の重ね着でさえ、冷たかったし、薬湯を煎じている炉の火が、うれしかった。
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
紋服ではあるがあかじみた
単衣
(
ひとえ
)
を、二人ながらだらりと着流している。はいているたびも切れていれば、はいている雪駄も切れていた。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
少女は十二三歳ぐらいで、色の蒼白い清らかな
顔容
(
かおかたち
)
であった。白地に
鱗
(
うろこ
)
を染め出した新らしい
単衣
(
ひとえ
)
を着て、水色のような帯を結んでいた。
半七捕物帳:55 かむろ蛇
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
中古の
鼠色
(
ねず
)
縮緬
(
ちりめん
)
の
兵児帯
(
へこおび
)
が、腰でだらしなくもなく、きりっとでもなく
穏健
(
おんけん
)
に
締
(
しま
)
っている。古いセルの
単衣
(
ひとえ
)
、少し
丈
(
たけ
)
が長過ぎる。
かの女の朝
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
ある夜のことに藤吉が参りまして、
洗濯物
(
せんたくもの
)
があるなら
嚊
(
かかあ
)
に洗わせるから出せと申しますから、遠慮なく
単衣
(
ひとえ
)
と
襦袢
(
じゅばん
)
を出しました。
女難
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
その中にて小波先生は
双子縞
(
ふたこじま
)
の
単衣
(
ひとえ
)
に怪し気なる
夏羽織
(
なつばおり
)
、
白足袋
(
しろたび
)
雪駄
(
せった
)
にて黒眼鏡をかけし
体
(
てい
)
、貸座敷の書記さんに見まがひたる。
桑中喜語
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
着いたとき彼女は、胸から
裾
(
すそ
)
にかけて派手な秋草模様のついた
絽縮緬
(
ろちりめん
)
の
単衣
(
ひとえ
)
に、けばけばしく
金紙
(
きんし
)
や
銀紙
(
ぎんし
)
を張りつめた帯を背負っていた。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
見返ると船に乗る時着て来た
単衣
(
ひとえ
)
のじみな着物は、世捨て人のようにだらりと寂しく
部屋
(
へや
)
のすみの帽子かけにかかったままになっていた。
或る女:1(前編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
都会では、セルの
単衣
(
ひとえ
)
の肌ざわりに、爽涼を楽しむというのに、山の村では、
稗
(
ひえ
)
を刈り粟の庭仕事も次第に忙しくなってくる。
木の葉山女魚
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
色が浅黒く、いい恰幅で、藍がかった
極薄地羅紗
(
ごくうすじらしゃ
)
の
単衣
(
ひとえ
)
羽織に、透しのある
和蘭呉絽
(
オランダごろ
)
の帯しめ、れいの、お揃いの蕃拉布を襟に巻いている。
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
地味な柄の光らぬ
単衣
(
ひとえ
)
物。
黒絽
(
くろろ
)
の帯に、これだけは思い
切
(
きっ
)
て派手な縫い模様。上品でしかも
艶
(
つや
)
やかな
襟
(
えり
)
の好み、
八
(
や
)
つ
口
(
くち
)
の
匂
(
にお
)
い。
吸血鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
瓦斯銘仙
(
ガスめいせん
)
の
単衣
(
ひとえ
)
を着、白鉢巻を頭に巻いていた一郎は、刃渡り一尺五寸の日本刀で、先ず子供の首をはねた。続いて自ら割腹して、果てた。
霧の蕃社
(新字新仮名)
/
中村地平
(著)
涎
(
よだれ
)
が、金五郎の着ている、セルの
単衣
(
ひとえ
)
をつたって落ちる。なにをいっているのかわからないが、サクの名が、数度、呼ばれたようであった。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
すっかり日が暮れかけていたが、こっちは、もう冬ぞらがくれかかっているのに、洗いざらしの縞の
単衣
(
ひとえ
)
ものを引ッ張っているだけなんだ。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
そのバッチングはなかなかたしかでその人も終には
単衣
(
ひとえ
)
の肌を脱いでシャツ一枚になり、鋭いボールを飛ばすようになった。
子規居士と余
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
衣桁
(
えこう
)
から
単衣
(
ひとえ
)
を外して三尺を伊達に結ぶと、名ばかりの仏壇へ頬片を供えて火打ちを切ってお燈明を上げた。折れた線香からも結構煙は昇る。
釘抜藤吉捕物覚書:06 巷説蒲鉾供養
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
私は二枚ばかりの
単衣
(
ひとえ
)
を風呂敷に包むと、それを帯の上に背負って、それこそ
飄然
(
ひょうぜん
)
と、誰にも
沈黙
(
だま
)
って下宿を出てしまった。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
「こりゃ菊枝。父つあんが
昨晩
(
ゆんべ
)
買って来たのだぞ。ほら、水色の
蝙蝠
(
こうもり
)
。ほれから、この
単衣
(
ひとえ
)
も……両方で十三円だぢぞ。」
駈落
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
ミチミは
手拭
(
てぬぐい
)
を、カルメンのように頭髪の上に被って、その端を長くたらしていた。そして見覚えのある
単衣
(
ひとえ
)
を着ていた。
棺桶の花嫁
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
あのお方に十二
単衣
(
ひとえ
)
をおきせもうし、あの長い、黒いお
髪
(
ぐし
)
を、おすべらかしにおさせもうして、日本の女性の代表に、外国へいっていただきたい。
九条武子
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
南風であった為か、瀑壺に落ちてずぶ濡れになって以来、衣物は絶えず生乾きであったにも拘らず、シャツに
単衣
(
ひとえ
)
一枚で左程寒くは感じなかった。
木曽駒と甲斐駒
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
絣
(
かすり
)
の
単衣
(
ひとえ
)
一枚に、二日分の握飯を腰へ
結
(
ゆわ
)
えつけた田舎青年は、このデッキの
欄干
(
らんかん
)
にツカまって…………
唄
(
うた
)
ったものだが。
冬枯れ
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
今、目の前に、見るに堪えぬ
死態
(
しにざま
)
をしている。衣物は、薄い
単衣
(
ひとえ
)
で、それすら、破れた肩を幾度となく
継
(
つ
)
いであった。
僧
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
これはちょうど
榕樹
(
あこう
)
の陰に、幼な児を抱いていたのですが、その葉に
後
(
うしろ
)
を
遮
(
さえぎ
)
られたせいか、
紅染
(
べにぞ
)
めの
単衣
(
ひとえ
)
を着た姿が、夕明りに浮んで見えたものです。
俊寛
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
するともうだれか来たのかというように奥から先生が出てきましたが、ふしぎなことは先生があたりまえの
単衣
(
ひとえ
)
をきて赤いうちわをもっているのです。
風の又三郎
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
朝枝は水っぽい花模様の
単衣
(
ひとえ
)
を着、
薄赤
(
とき
)
色の
兵児
(
へこ
)
帯を垂らしているが、細面の頸の長い十六の娘で、その
四肢
(
てあし
)
は、
佝僂
(
せむし
)
のそれのように萎え細っていた。
潜航艇「鷹の城」
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
枯木のやうな体にはうすよごれた
単衣
(
ひとえ
)
とぼろを綴ぢ合はせた見るからに重さうなものを着てゐました。そして彼女はぼんやりと沖の方を眺めてゐました。
白痴の母
(新字旧仮名)
/
伊藤野枝
(著)
猟の日、橘はうす青い
単衣
(
ひとえ
)
に
山吹匂
(
やまぶきにおい
)
を着て父についていたが、津の
茅原
(
かやはら
)
も、和泉の
猟夫
(
さつお
)
も、弓、太刀をはいて、濃い晩春の
生田川
(
いくたがわ
)
のほとりに出て行った。
姫たちばな
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
膝
(
ひざ
)
ぎりの水兵の服を着て、編み上げ靴をはきたり。一人の曲者は五つか、六つなるべし、紫
矢絣
(
やがすり
)
の
単衣
(
ひとえ
)
に
紅
(
くれない
)
の帯して、髪ははらりと目の上まで散らせり。
小説 不如帰
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
金伽羅童子
(
こんがらどうじ
)
、
制陀伽童子
(
せいたかどうじ
)
が笛を吹いて行くと、揃いの
単衣
(
ひとえ
)
を着た二十余名の若い者が、
団扇
(
うちわ
)
を以て、馬上の天狗もろともに前後左右から
煽
(
あお
)
ぎ立てました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
ましてある面積を有する平面を
備
(
そな
)
うるものは必ず両面がある。
雁皮紙
(
がんぴし
)
のごとき
薄
(
うす
)
い紙でも表裏はある。
綿衣
(
わたいれ
)
、
袷
(
あわせ
)
はいうまでもなく、
単衣
(
ひとえ
)
さえも表裏がある。
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
絹袴が無い時には、絹袴の出物は無いかと彼に
訊
(
たず
)
ねてみたく思った。瓦斯織の
単衣
(
ひとえ
)
がほしい時には、瓦斯織の単衣の出物は無いかと彼に訊ねてみたく思った。
阿Q正伝
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
「香染の
単衣
(
ひとえ
)
、
紅
(
くれない
)
の
濃
(
こまや
)
かなる
生絹
(
すずし
)
の袴の、腰いと長く、衣の下よりひかれたるも、まだ解けながらなめり。」
日本精神史研究
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
その
単衣
(
ひとえ
)
は汗にびしょぬれていた、かれはひたいから雨のごとく伝わり落ちる汗を手ぬぐいで
拭
(
ふ
)
き拭きした。
ああ玉杯に花うけて
(新字新仮名)
/
佐藤紅緑
(著)
この頃余の著物はフランネルのシヤツ一枚、フランネルの
単衣
(
ひとえ
)
一枚にて夜も昼も同じ事なり、ただ肩をもたげて仕事などする時はこの上に
綿入袢纏
(
わたいれはんてん
)
一枚を加ふ。
明治卅三年十月十五日記事
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
“単衣”の意味
《名詞》
(たんい)一重の着物。単物。
「ひとえぎぬ」参照。
(出典:Wiktionary)
“単衣”の解説
単衣(ひとえ、単)とは、平安装束で着用する裏地のない着物のこと。
(出典:Wikipedia)
単
常用漢字
小4
部首:⼗
9画
衣
常用漢字
小4
部首:⾐
6画
“単衣”で始まる語句
単衣物
単衣襲
単衣帯
単衣絣
単衣帛髪
単衣羽織
単衣跣足