上着うわぎ)” の例文
西の山地からいて来たまだ少しつめたい風が私の見すぼらしい黄いろの上着うわぎをぱたぱたかすめながら何べんも通って行きました。
サガレンと八月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
すると、すぐさまこん棒がとびだして、上着うわぎといわず、ジャケツといわず、つぎからつぎへと相手の背中せなかをぽかぽかなぐりつけるのでした。
正二しょうじくんは、みんなが上着うわぎのそでをちょっとまくって時計とけいるときのようすが、についていてうらやましくなりました。
正二くんの時計 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ごらんくださいませ。これが、おズボンでございます。これが、お上着うわぎでございます。これが、おがいとうでございます」
すその長い黒の上着うわぎをきこんで、半ズボンをはき、つばの広い黒い帽子ぼうしをかぶっています。なかなかいきで、スマートです。
あめの袋と、まんじゅうの包みを出し、久助はお燕にそれを喰べさせた。——見れば、久助は、着ていた上着うわぎを失って、襦袢ひとつになっている。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「トウモロコシだよ、お前、まぐさにするトウモロコシだよ。」「あの人はあそこに住んでいるんでしょうかね?」と黒い女帽子が灰色の上着うわぎに訊く。
くまつかいの五郎が、ようかん色になったビロードの上着うわぎをつけ、長ぐつをはいて、シュッシュッとむちをならしながら、おりのそばへいきました。
正坊とクロ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
叙して「上着うわぎ媚茶こびちゃの……縞の南部縮緬、羽織はおり唐桟とうざんの……ごまがら縞、……そのほか持物懐中もの、これに準じて意気なることと、知りたまふべし」
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
怪しい男は、うずくまって靴下くつしたをぬいだと思うと、こんどは上着うわぎをぬぎ、チョッキのボタンをはずしはじめた。
夫は上着うわぎをひっかけるが早いか、無造作むぞうさに春の中折帽なかおれぼうをかぶった。それからちょっと箪笥たんすの上の披露式の通知に目を通し「何だ、四月の十六日じゅうろくんちじゃないか?」
たね子の憂鬱 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「今も持っていますよ。いつだって、上着うわぎの中へかくして、持ち歩いていますよ。」と、おっしゃいました。
するとおば上からは、ごりょうのお上着うわぎと、おはかまと、懐剣かいけんとを、お別れのおしるしにおくだしになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
あるいは男の子のズボンがひざの下何寸かに垂れ下っていて上着うわぎに大きなバンドがあり、それへいきな帽子を着せたものだから、遠く望むと請負師うけおいしの形であったりする。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
ふたりは、おまねきをうけてから、それはおかしいように、のぼせあがって、上着うわぎよ、がいとうよ、ずきんよと、まい日えりこのみに、うき身をやつしておりました。
「また食い過ぎたんだろう」と自分は叱るように云ったなり、枕元に胡坐あぐらをかいて上着うわぎを脱いだ。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
バンドもはずし、上着うわぎからズボンも取らせた。何から何までばたばたふるって調しらべてみた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
ブルは牛みたいなからだに、拳闘けんとうのしたくをかためて、堂々とあらわれた。ぼくは背広服せびろふく上着うわぎをぬいだきりだ。柔道じゅうどう稽古着けいこぎも持ってないし、わざと平気な顔をして出ていくと
小指一本の大試合 (新字新仮名) / 山中峯太郎(著)
そろそろ女の洋服がはやって来て、女学校通いの娘たちがくつだ帽子だと新規な風俗をめずらしがるころには、末子も紺地の上着うわぎえりのところだけ紫の刺繍ぬいのしてある質素な服をつくった。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
白い上着うわぎ酒瓶さけびんの蔭にかくしてなにか整頓に夢中になっているように見せて置いて、しかるのち、その蔭に鈴江をよびこむと、春ちゃんの機嫌をわるくするようなことを言っちゃならねぇぞと
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
シャツはながし、ズボンしたみじかし、上着うわぎさかないたにおいがする。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
おび上着うわぎてしばかり、うつしてものをもはず。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
寄って来て、みどりの上着うわぎに手をかける。
富士男は上着うわぎをするするとぬいだ。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
おおこまどり、鳴いて行く鳴いて行く、音譜おんぷのようにんで行きます。赤い上着うわぎでどこまで今日はかけて行くの。いいねえ、ほんとうに
イーハトーボ農学校の春 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
上着うわぎはキラキラかがやくほど赤く、むねは白く、前足はくろ、そして、しっぽがまた、鳥のはね毛のようにふさふさしていました。
ヘンゼルはそこにかがみこんで、その小石を上着うわぎのポケットにいっぱいつめられるだけつめこみました。それから、うちにもどって、グレーテルに
エヌは、こうこたえて、上着うわぎのかくしから、なにかとりだしました。それは、ぬぐいにつつんだかがみのかけらでした。
はたらく二少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その小さな女の子も、じぶんとおなじように、はだしのままで、黒っ茶けた木綿もめん上着うわぎを着ていました。
岡の家 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
馬のくらに縛りつけて、すぐ鎌倉へ追い下せとあった。静は、武者の手に引っ立てられる母へ、自分の上着うわぎを脱いで老いの肩をつつみ、その耳もとへ、熱い息してささやいた。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かみをふりみだし、いきをはずませて、上着うわぎのえりもはだけてしまっている。れいのふるびたシルクハットは、とっくにどこかへすっとんだらしく、頭へのっかっていなかった。
おどりこは、ちいさなぬのに、湯わかしから湯をそそぎます。これはコルセットです。——そうです。そうです、せいけつがなによりです。白い上着うわぎも、くぎにかけてあります。
そして読みながら上着うわぎのぼたんやなんかしきりになおしたりしていましたし燈台看守とうだいかんしゅも下からそれを熱心ねっしんにのぞいていましたから
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
小僧こぞうよごれたしろ上着うわぎはたらいていました。顔色かおいろあおくて、からだがやせてばかりおおきくていました。
塩を載せた船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ユダヤ人は、お百姓ひゃくしょうさんがほかの上着うわぎをきないうちは、とてもつれていくことができないとみてとりました。
そして、自分の青い上着うわぎのすそをひろげて、その上に、雪のひらをつもらせました。
博士はくしはひとり言をいって、上着うわぎとチョッキをぬいだままの姿すがた台所だいどころにおりていった。
白衫はくさん銀紗ぎんさ模様という洒落しゃれた丸襟の上着うわぎに、紅絞べにしぼりの腰当こしあてをあて、うしろ髪には獅子頭ししがしらの金具止め、黄皮きがわの靴。そして香羅こうら手帕ハンケチを襟に巻き帯には伊達なおうぎびんかざしには、季節の花。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
口子くちこは赤いひものついた、あいめの上着うわぎを着ておりましたが、そのひもがびしょびしょになって赤い色がすっかり流れ出したので、しまいには青い着物もまっかに染まってしまいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
こいでいるほうの男は、見たところ、まずしい漁師りょうしのようでした。こがらで、やせこけて、いかにも雨風あめかぜに打たれたという顔をしていました。そして、うすっぺらな、すりきれた上着うわぎを着ていました。
タネリがゆびをくわいてはだしで小屋こやを出たときタネリのおっかさんは前の草はらでかわかしたさけかわぎ合せて上着うわぎをこさえていたのです。
サガレンと八月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「どれ、ひろえないかな。」といって、かおしたのは、おもいがけないしろ上着うわぎ床屋とこや主人しゅじんでした。
子供の床屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこで、じぶんの上着うわぎをぬいで着せてやりました。それからまたすこし行くと、こんど出てきたこどもは、スカートがほしいというので、女の子はそれもぬいで、やりました。
うでもなまくら、刀も赤錆あかさび上着うわぎ一枚きれはしない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すぐ前のせきに、ぬれたようにまっ黒な上着うわぎを着た、せいの高い子供こどもが、窓から頭を出して外を見ているのに気がつきました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
やがて、おとうさんとおかあさんがねてしまいますと、ヘンゼルはそっとおきあがり、じぶんの上着うわぎをきました。それから、くぐり戸をあけて、こっそりとおもてにでていきました。
円顔まるがおのくるりとしたおとこが、しろ上着うわぎて、ただ一人ひとりひかえていましたが、めったにきゃくはいっているのをませんでした。なんとなく、みすぼらしく、それに狭苦せまくるしいかんじがしたからでしょう。
子供の床屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そしてきゅうくつな上着うわぎかたを気にしながら、それでもわざとむねって大きく手をって町を通って行きました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
仕立屋したてやさんはこういって、上着うわぎのボタンをはずして、大男にあのおびを見せました。
「ええ、王子さま。あなたのきものは草のでいっぱいですよ」そして王子の黒いびろうどの上着うわぎから、緑色みどりいろのぬすびとはぎのを一ひらずつとりました。