一思ひとおも)” の例文
「私は持病が起るとこれを飲むと骨節の痛むのがとまる。これは病院にいる人がくれた毒薬じゃ。これを飲めば一思ひとおもいに楽になるからそうなさい。」
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その絶頂に立っておりました棒切れと、その尖端さきに結びつけてあるヤシの枯れ葉を、一思ひとおもいに引きたおして、眼の下はるかの淵に投げ込んでしまいました。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まへさん、お正月しやうぐわつからうたうたつてるんぢやありませんか。——一層いつそ一思ひとおもひに大阪おほさかつて、矢太やたさんや、源太げんたさんにつて、我儘わがまゝつていらつしやいな。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こりゃアとても生きている事は出来ないて、面目ないからいっ一思ひとおもいに死ぬより外に仕方がない、寧そのこと身を投げようか、いや己は身を投げても死ねゝえや
「だけど今じゃもう別れたくっても別れられない破目はめになっている。こんなことだったら、いつか別れかけたときに一思ひとおもいに思い切ってしまえばよかった……」
私はそれまで躊躇ちゅうちょしていた自分の心を、一思ひとおもいに相手の胸へたたき付けようかと考え出しました。私の相手というのはお嬢さんではありません、奥さんの事です。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
如何いかいやしうても大事だいじない、一思ひとおもひにはふいか?……「追放つゐはう」……「追放つゐはう」でころさるゝのはおれいやぢゃ! おゝ、御坊ごばうよ、追放つゐはうとは墮獄だごくやからもちふることばうなごゑ附物つきもの
私事わたくしこと其節そのせつ一思ひとおもひに不法の事を申掛け、愛想あいそを尽され候やうに致し、離縁の沙汰さたにも相成候あひなりさふらはば、誠に此上無きさいはひ存付ぞんじつき候へども、此姑このしうとめ申候人まをしさふらふひとは、評判の心掛善き御方にて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しか一思ひとおもいにいさぎよく殺され滅されてしまうのではなく、新時代の色々な野心家のきたならしい手にいじくり廻されて、散々なぐさまれはずかしめられた揚句あげくなぶり殺しにされてしまういたましい運命。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
女のなまめかしい笑顔があった。讓は今一思ひとおもいに出ないとまたしばらく出られないと思った。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もうかうなつたうへは、あなたと一しよにはられません。わたしは一思ひとおもひに覺悟かくごです。しかし、——しかしあなたもおになすつてください。あなたはわたしのはぢ御覽ごらんになりました。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それが出来ないような意気地なしなら、首でもくくって一思ひとおもいに死んでしまえ
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ちからかたむつくさぬうち、あらかじ欠点けつてん指示さししめして一思ひとおもひに未練みれんてさせたは、むしすくなからぬ慈悲じひである……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
小鳥ことりは、ただ一思ひとおもいに、ゆけるところまでぼうとおもったのでありましたが、いまはつかれて、どこかにりて、すこしのあいだやすまなければならなかったのであります。
小さな金色の翼 (新字新仮名) / 小川未明(著)
何卒どうぞお見逃し下さい、親共は堅い気性でございまして、此の儘帰れば手打に相成ります、それもいといませんがかえってなまじい立腹をさせるよりは今一思ひとおもいに死んだ方が宜いと存じますから……
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
けよ! このむねよ! 破産はさんした不幸みじめこゝろよ、一思ひとおもひにけてしまうてくれい! 此上このうへらうはひれ、もう自由じいうるな! けがらはしい塵芥ちりあくため、もと土塊つちくれかへりをれ、きてはたらくにはおよばぬわい
もし『幸福』を掴まえる気ならば、一思ひとおもいに木馬を飛び下りるがい。——いわば小えんも一思いに、実生活の木馬を飛び下りたんだ。この猛烈な歓喜や苦痛は、若槻如き通人の知る所じゃない。
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ただいままでのように穴の掃除ばかりしていては駄目なんです。それじゃいつまでっても肉のあがりこはないから、今度は治療法を変えて根本的の手術を一思ひとおもいにやるよりほかに仕方がありませんね」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なぶるな。ひと生死いきしにあひだ彷徨さまよところを、玩弄おもちやにするのは残酷ざんこくだ。貴様きさまたちにもくぎをれほどなさけるなら、一思ひとおもひにころしてしまへ。さあ、引裂ひきさけ、片手かたてげ……」とはたとにらむ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うまは、ほんとうにそうかとおもいました。そして、一思ひとおもいにうみそうとはねがりました。けれど、二けんとはべず、うみなかちてんでしまいました。これをたからすは
馬を殺したからす (新字新仮名) / 小川未明(著)
が、大牛おほうしる、つまとらはれたしろである……よしそれ天狗てんぐでも、らすところでない。こゝ一刀いつたうろすは、かれすく一歩いつぽである、とさはやかに木削きくづらして一思ひとおもひにきざみてた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ちかづいてれば、るほど、うつくしいとりでした。どうしたら、つかまえられるかとかんがえていましたが、一思ひとおもいに、つかまえるよりしかたがないと、ねらいをさだめた刹那せつなとりは、ったのです。
二人の軽業師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
うだ。一思ひとおもひに短銃ピストルだ。」
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)