こじり)” の例文
古風にさしたり袋棚ふくろだなの戸二三寸明し中より脇差わきざしこじりの見ゆれば吉兵衞は立寄たちよりて見れば鮫鞘さめざやの大脇差なり手に取上とりあげさやを拂て見るに只今人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
追いかけて、つかまえたのは、さいぜん道庵先生が嘲笑あざわらった三人連れのお差控え候補者の中の、いちばん年かさな侍の刀のこじりです。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二人の浪士が、こじりを上げて、疾風を切るししみたいに、追いかけていた。一人の浪士の着物のえりに、赤い吹矢が、突き刺さっていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
篤と父母に計つてと思ひしものを……如何にせんかとの迷ひはおそかつた。太刀のこじりが地を突いた音に氣づく時、小室は早馬上の人であつた。
古代之少女 (旧字旧仮名) / 伊藤左千夫(著)
袴を避けた着流しである。大小はどうやら短いらしい、羽織の裾をわずかに抜いてこじりの先だけを見せている。儒者といったような風采である。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一同が提げ刀のまま入り乱れて席を譲り合いながら、座につこうとする時、ひとりの侍の刀のこじりが、他の一人の刀に触れて、かちっと音を立てる。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
うしても其処そこを通らなければ出られないから、安田はわざと三人の刀のこじりを出して置きますと、長い刀の柄前つかまえにお隅がつまづきましたのを見ると
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そして何処からかストライキ全盛時代に買入れたドスを一本持出して来ると、そいつのこじりでドンと床を突きながら
坑鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
もう四五年で七十のこじりを取らうとする年の割には、皺の尠い、キチンと調つた顏に力んだ筋を見せて、お梶は店の男女や客にまで聞える程の聲を出した。
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「ええ畜生」かっとなって刀のこじりで突っついたら、刀は鞘ごとぽきりと折れ、小判はやはり微動もしなかった。
玉のいしだたみ暖かにして、落花自ずから繽紛ひんぷんたり、朱楼紫殿玉の欄干こがねこじりにししろがねを柱とせり、その壮観奇麗いまだかつて目にも見ず、耳にも聞かざりしところなり。
日の出前に城に上り、浅黄木綿のぶっさきの羽織のうしろから、山鳥やまどりの尾のように大刀のこじりをつきだし、思入れ深く、姫山ひめやまにつづく草むらを歩きまわっていた。
無惨やな (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼が、長剣のこじりで扉をこずき開けると、眼一杯に、オフェリヤの衣裳を着た、幡江の白い脊が映った。
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
と安来節のかけ声で尻を叩き乍ら湯槽へ駆け下りやうとしたら湯番の爺に棕櫚箒しうろぼうきこじりで支へられた。
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
すると、巡査たちも突貫して来て、サーベルのこじりをむけて私たちの方へ突っかかって来ます。さア、それから撲る、突く、蹴る、踏む、猛り狂ったように暴れまわるのです。
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
随分場合によると、部屋の中に甲冑を著て刀をさした人間が何人も出なければならぬこともありますから、立とうとする時に刀のこじりで障子や壁を破るようなおそれがないでもない。
久保田米斎君の思い出 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ずいずいと近寄りながら、こじりじょうを手もなく叩きこわして、さッと蓋をはねのけました。
と——中の一人は、刀のこじりで、そういいつつ、こつこつ、川人足の肩をたたいていた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
これが真個ほんとの押掛けで、もとより大鎧罩手こて臑当すねあての出で立ちの、射向けのそでに風を切って、長やかなる陣刀のこじりあたり散らして、寄付よりつきの席に居流れたのは、鴻門こうもんの会に樊噲はんかいが駈込んで
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「撃てば響けと」にて一旦出で、女房を刀のこじりにて押へ入ることあり。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
巡査まわり様が階子はしごさして、天井裏へ瓦斯がすけて這込はいこまっしゃる拍子に、洋刀サアベルこじりあがってさかさまになったが抜けたで、下に居た饂飩うどん屋の大面おおづらをちょん切って、鼻柱怪我ァした、一枚外れている処だ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
石に腰百合の中なるこじりかな
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
さっきから、じろと睨んでいた楊志は、いきなり山刀をさやぐるみ腰から抜いて、ずかずかと立っていき、刀のこじりで、桶を叩いた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう二人を左見右見とみこうみしながら、頼母は酸味ある微笑をしたが、やがて提げていた刀のこじりで主税の肩をコツコツと突き
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と竜之助は、片手を殺していながら、片手をのべて、お雪ちゃんの手から、刀のこじりをとって、おさえてしまいました。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もう四五年で七十のこじりを取らうとする年の割には、皺のすくない、キチンと調とゝのつた顔に力んだ筋を見せて、お梶は店の男女や客にまで聞える程の声を出した。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
ふと眼が栄三郎が袖で隠すようにしている脇差のこじりへおちると、思わずはっとして眼をこすった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
たゞこしらつき貳尺四寸無名物むめいものふち赤銅しやくどうつるほりかしらつの目貫りよう純金むくつば瓢箪へうたんすかぼりさや黒塗くろぬりこじりぎん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
年代記ものの黒羽二重くろはぶたえ素袷すあわせに剥げちょろ鞘の両刀をこじりさがりに落しこみ、冷飯ひやめし草履で街道の土を舞いあげながら、まるで風呂屋へでも行くような暢気な恰好で通りかかった浪人体。
顎十郎捕物帳:01 捨公方 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
又は総軍の鹿島立かしまだち馬蹄ばていの音高く朝霧をって勇ましく進むにも刀のこじりかるゝように心たゆたいしが、一封の手簡てがみ書く間もなきいそがしき中、次第に去る者のうとくなりしも情合じょうあいの薄いからではなし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と、身を泳がせながら、侍の腕が新九郎のこじりをぐいと掴んだ。酔っているのですぐ足が浮く、新九郎は蹌々よろよろと後ろへ引かれた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月の光を故意わざと避けて、大小のこじりばかりを薄白くぼかして、北条美作と桃ノ井兵馬とが、今悠々と歩いて行く。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
抱えるようにしていたけれど、両刀のこじりは羽織の下からはずれて見えています。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
羽二重はぶたへ小袖羽織こそでばおり茶宇ちやうはかま、それはまだおどろくにりないとして、細身ほそみ大小だいせうは、こしらへだけに四百兩ひやくりやうからもかけたのをしてゐた。こじりめたあつ黄金きん燦然さんぜんとして、ふゆかゞやいた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
手に取上とりあげ能々よく/\見ば鞘は黒塗くろぬりこじりぎんつばは丸く瓢箪へうたんすかしありかしらつのふち赤銅しやくどうにてつるの高彫目貫は龍の純金なりしかば直八は心に合點うなづきモシ/\道具屋さん此脇差わきざし何程いくらで御座りますハイそれは無名なれども關物せきものと見えます直價ねだんの所は一兩三分に致しませうとふを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そして、駈け乱れる跫音あしおとのすきに、彼方の土倉の一つへ駈けた。俊基の身を、内へ隠して、彼自身は、倉の外に、太刀のこじりらして立った。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少し紋也の姿勢がのび、突いていた刀がヒョイと上がり、こじりが左の脇の下から、背後のほうへ突き出された。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と言って主膳は、やや遠く離して置いてあった例の梨子地の鞘の長い刀の手繰たぐって身近く引寄せて、鞘のこじりをトンと畳へ突き立てて、朧銀ろうぎん高彫たかぼりした松に鷹の縁頭ふちがしらのあたりに眼を据えました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小袖をかぶったまま、さぎのように、みよしに屈んでいた男は、振り向いた弾みに、刀のこじりを、かたんと、屋形の角に音をさせて
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中身は二尺、鞘は四尺、こじりは頑丈に鋭く強く、地に立てるに適当であるはず。鍔は尋常より一廻り大きく、足かかっても辷らぬよう、刻み目多く刻してあるはず。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と言ってわざと、覆面の刀のこじりを取りました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
会所の前にたたずんだ二人の影がある。どっちも、露除つゆよけの笠に素草鞋すわらじ合羽かっぱすそから一本落しのこじりをのぞかせ、及び腰で戸をコツコツとやりながら
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いって止めたは熊太郎で、これも傍らの大刀を取ると、こじりで郡兵衛の袴の裾を抑えた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
刀の持主はすでに自分から死の穴へ逆さに首を突っ込んで行ったかのような姿勢になり、こじりと足の裏を高く上げて、敵の前に身をさらしてしまった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「今度は俺だ」と浪人風の男が、刀を鞘ぐるみ引っこ抜き、こじりをグッと突き出した。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
具足、太刀のこじりなど、雑兵とは見えなかった。また、味方にしては、幕の裾をあげて、うかがっている容子ようすがおかしい。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こいつ怪しいと眼を付ければ、寸の詰まった道中差し、こじりに円味の加わったは、ははあ小野派一刀流で、好んで用いる三しゃ作り! ふふんこいつ贋物にせものだな! ビーンと胸へ響いたものよ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
少し離れた後から従いて行く女中のお常は、伊達若衆の新九郎の腰にきらめく太刀のこじりと、金糸銀糸の千浪の帯とが並んで行く後ろ姿をねたましく見た。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鍔際つばぎわを握った左の手が、ガタガタふるえているらしい。刀のこじりが上下して見える。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
早打はやうちの男か、またサクサクとここへ雪の峠越とうげごえをしてきたものがある。ほおかむりの上に藁帽子わらぼうし、まるで、顔はわからないがみのの下から大小のこじりがみえた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)