賜物たまもの)” の例文
その材料にはどんなうわぐすりが合うか、どんな焼方が合うか、どんな形が合うか、自然の賜物たまものを素直に受けそれを大切にすることが大事である。
雲石紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
この御警策の賜物たまものでございましょう、わたくし風情ふぜいの眼にも、東福寺の学風は京の中でも一段と立勝たちまさって見えたのでございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
この二つの信念は、磯長しながびょうに籠った賜物たまものであった。聖徳太子からささやかれた霊示であると彼は感激にみちて思う。けれど
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今度の戦争に勝ったのは教育家の賜物たまものであるなどとめられるけれども果してそうであろうか、私はチト怪しく思っている。
教育家の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
少年時代のむかしにかえって、春を待つという若やいだ心がわたしの胸に浮き立った。幸か不幸か、これも震災の賜物たまものである。
十番雑記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
咲子は母方の遠縁に當つてゐる未知の女であつたに拘らず、二歳年上であることが母性愛を知らない圭一郎には全く天の賜物たまものとまで考へられた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
ああら有難ありがたし、これも腹式呼吸のおかげ、強健術実行の賜物たまものぞと、勇気日頃に百倍し、半身裸体に雨を浴びてぞ突進する。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
試みにたもとを探りて、悪僕より奪い置きたる鍵をむれば、きしと合いたる天の賜物たまもの、「占めた。」とじればひらくにぞ、得たりと内へ忍び入りぬ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それよりは漸次ぜんじ快方におもむきければ、ひとえに神の賜物たまものなりとて、夫婦とも感謝の意を表し、そののち久しく参詣を怠らざりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
すべての情を汲み分けて我らの苦患くげんを救う主。今日君よりの賜物たまものを、今宵こよい我が家に持ち行きて、飢えたる婆を悦ばせん。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ひとあれほどにてひとせいをば名告なのらずともとそしりしもありけれど、心安こゝろやすこゝろざすみちはしつて、うちかへりみるやましさのきは、これみな養父やうふ賜物たまものぞかし
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
三吉がこの山の中で書いたものは——達雄夫婦の賜物たまもののように——手荷物の中に納めてあった。彼の心は暗い悲惨な過去の追想から離れかけていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは一つの賜物たまものであるが、それが一般的に発現するには神の国の経綸より見たる時代的必要がなければならない。
まあ待ち給え、君は、第一次の長州征伐の成功成功と言いたがるが、あれは尾張藩の功ではないよ、薩摩の西郷が、中に立って斡旋尽力した賜物たまものである。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まして大夫たゆうげんは思い出すだけでさえ身ぶるいがされた。何事も豊後介ぶんごのすけの至誠の賜物たまものであることを玉鬘も認めていたし、右近もそう言って豊後介をめた。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「僕に云わせると、これも余裕の賜物たまものだ。僕は君と違ってくまでもこの余裕に感謝しなければならないんだ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは旨い字か、拙い字か、おとなか、子どもか、手の字か、心の字か、はた人格の賜物たまものか、それとも、学者の書か、高僧の筆か、あるいは書家の字か……。
覚々斎原叟の書 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
ワーニャ この土地の借金がきれいに片づいて、おまけにちゃんとここまで、無事に持ってこれたのは、ひとえにこの僕という人間一個の努力の賜物たまものなんだ。
その幸運のなかばはブラームスのおかげであったにしても、結局はドヴォルシャークの長い努力の賜物たまもので、まことに見事な大器晩成ぶりであったと言ってよい。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
人に百歳の寿なく、社会に千載せんざいの生命なし。さすがに社会的経綸けいりん神算しんさん鬼工きこうを施したる徳川幕府も、定命ていめいの外にづべからず。二百年の太平は徳川幕府の賜物たまものなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
黛夫人の髪毛かみのけの中から出て来た貴妃の賜物たまもの夜光珠やこうじゅ……ダイヤだね……それから青琅玕せいろうかんの玉、水晶のくだなぞの数点を身に付けて、生命いのちからがら山林に紛れ込んだが
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかし好色の大物主おおものぬしは、容易に放そうとはしなかった。ギラギラ輝く眼の中には、淫蕩いんとうの気が充ち充ちている。美食と運動との賜物たまものによって、彼の腕力は強かった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
妻のある為めに後ろに引きずって行かれねばならぬ重みの幾つかを、何故好んで腰につけたのか。何故二人の肉慾の結果を天からの賜物たまもののように思わねばならぬのか。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
晩秋の夕陽ゆうひを浴びつつ高田の馬場なる黄葉こうようの林に彷徨さまよい、あるいは晴れたる冬の朝青山の原頭げんとうに雪の富士を望むが如きは、これ皆俗中の俗たる陸軍の賜物たまものではないか。
これはジッド先生の賜物たまものです。私はアフリカでの思ひ出が、果して先生にとつて愉快なものであるかどうか、疑問に思つてをりますので、巴里では一度も訪問を致しません。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
杉籬のはさみすてが焚附たきつけになり、落葉の掃き寄せが腐って肥料になるも、皆時の賜物たまものである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
まるで天の賜物たまもののように、降ってきたわけなんですよ! で、あれはまず第一番に、馬車のしたくを言いつけました! わたしはもう今さららしく申しませんが、女ってものは
我等女性が忘れてならないこの后からの賜物たまものは、長い間の習わしで、女性の心が盲目であったのに目を開かせ、心の眠っていたものに夢をさまさせ、女というもの自身のもつ美果を
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
今は紳商とて世に知られたるかの山木ごときもこの賜物たまもの頂戴ちょうだいして痛み入りしこともたびたびなりけるが、何これしきの下され物、もうけさして賜わると思えば、なあにやすい所得税だ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
彼女を、純真な女性であると信じていた自分は、そうした賜物たまものを、どんなによろこんだかも知れなかった。彼女を囲んでいる多くの男性の中で、自分こそ選ばれたるただ一人であると思った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あんたには何でもないつて? 若くて、生命せいめいと健康に滿ちた、美しくて人を惹きつける、地位と財産といふ賜物たまものを與へられてゐる貴婦人が一人の紳士の前に掛けて微笑ほゝゑんでゐる、その紳士を
アシビキ号の辻中佐との一糸いっし乱れぬぴったりと呼吸いきの合った賜物たまものだった。
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
殘し非人に左右さいうせらるゝ事なく席薦たゝみの上にて相はて先祖累代るゐだい香華院ぼだいしよに葬られ始終しじう廟食べうしよく快樂けらくを受るは之れ則ち光が賜物たまものにしてあだながらも仇ならずかへつておんとこそ思ふ可けれ依て元益親子は光をうらむ事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その彼にも、その苦痛を、冷静に、淡々たる一句につづめて表現し得る或る日が到来した。少しばかりの余裕が心の中にもたらした賜物たまものといっても好い。鶴見にはその日にはじめて発心ほっしんが出来たのである。
これこそ誠に食道楽会の賜物たまものなれと人々たがいよろこえり。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その周囲に構成される賜物たまものほかならぬ。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
それは皆王妃の賜物たまものであった。
織成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
血と汗の賜物たまものなり。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
この御警策の賜物たまものでございませう、わたくし風情ふぜいの眼にも、東福寺の学風は京の中でも一段と立勝たちまさつて見えたのでございます。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
「なまいきなことをほざく下郎げろうだ、汝らがこのご城下で安穏あんのんにくらしていられるのは、みなわれわれが敵国と戦っている賜物たまものだぞ。ばちあたりめ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤枝五百石のお家は、その鎧と太刀さきの賜物たまものであるということをお忘れなされたかと、彼は叱るように言った。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これは一つは、与八が道庵先生に親炙しんしゃしている機会に、見よう見まねに習得した賜物たまものと見なければなりません。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
存分に美しい旋律を氾濫させたのは、ヘンデルのイタリー修業の賜物たまものでないとは言えなかったわけである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
ゆえに富貴ふうき必ずしも不正ならず、子夏が「富貴ふうきてんに在り」と言ったのは、意味の取りようによって富貴必ずしもあくと言えず、むしろてん賜物たまものという意に取れる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
御用窯ごようがまとしての苗代川は白物を育てたであろうが、少くとも黒物を続け得たのは協存の賜物たまものと思える。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
大勢の人々は、こんな有り難い賜物たまものいただかぬとは、何という馬鹿であろう。あれだけの宝物があれば、都でも名高い金持ちになれるのにと、あきれ返ってしまいました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
仰げば節穴かと思うあかりもなく、その上、座敷から、し入るような、透間すきますこしもないのであるから、驚いて、ハタと夫人の賜物たまものを落して、その手でじっとまなこおおうた。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おのれらわれを誰とか思う! 大塔宮様股肱の郎党、村上彦四郎義光と知らずや! ……錦の御旗は朝敵討伐の、無上の標識、主上よりの賜物たまもの! 汝らごとき卑賎の下郎に
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もし質問する人でもあったら一々明細に説明する事の出来るのは皆当時の経験の賜物たまものである。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
出水のうれいが無い此村も、雹の賜物たまものは折々受けねばならぬ。村の天に納める租税そぜいである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)