たとへ)” の例文
たとへにも天生峠あまふたうげ蒼空あをぞらあめるといふひとはなしにも神代じんだいからそまれぬもりがあるといたのに、いままではあまがなさぎた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
許され代々村長役たるべき旨仰付おほせつけられしかばよろこび物にたとへん方なく三浦屋の主人并びに井戸源次郎を始め其事に立障たちさはりし人々にあつく禮を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「そりや物のたとへだ。辻斬が怖いわけぢやありませんよ。はゞかりながらこんなガン首に糸目はつけねエ、どこへでも出かけませう。さ、親分」
銭形平次捕物控:126 辻斬 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
此御歌は人のひたる物ほしみして身を亡すにたとへたまへるにや。此皇子の御歌にはさる心なるも又見ゆ。大友大津の皇子たちの御事などを
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
けれど其性質は悪くはない相で、子供などには中々優しくする様子であるから、何うだ、重右衛門、姿色みめよりも心と言ふたとへもある、あれを貰ふ気は無いかと勧めた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
丁度 Mueller の書いたものに矢張同じやうなたとへがあります。言語を河に譬へてあります。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
借家しやくやして母屋おもやを取らるゝたとへなるべし、とはこれ大江戸おほえどありがたきめぐみならずや。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
たとへにいふ寝耳ねみゝに水の災難さいなんにあふ事、雪中の洪水こうずゐ寒国の艱難かんなん暖地だんちの人あはれみ給へかし。
ヱズヰオの山の姿はたとへば焔もて畫きたる松柏の大木の如し。直立せる火柱はその幹、火光を反射せる殷紅あんこうなる雲の一群ひとむらはその木のいたゞき、谷々を流れ下る熔巖ラワはそのひろく張りたる根とやいふべき。
たとへれば彼等かれらせばいとはいひながらはねてはせぬほりへだてゝ、かも繁茂はんもした野茨のばら川楊かはやなぎぼつしつゝをんなやはらかいらうとするのである。れは到底たうていあひれることさへ不可能ふかのうである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
伯父をぢは母親のやうに正面からはげしく反対をとなへはしなかつたけれど、聞いて極楽ごくらく見て地獄ぢごくたとへを引き、劇道げきだうの成功の困難、舞台の生活の苦痛、芸人社会の交際の煩瑣はんさな事なぞを長々なが/\と語つたのち
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
母はニツコリ笑つて、それは西洋風のたとへの言葉で、金といふものは大層貴い、れなものだから、其場合が貴くつてまれな機会だといふ代りに黄金といふ重宝な一字で間に合せるのだとおいひでした。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
たとへ侍馬廻りと申ても銃にて働く者ハ、刀ハなくても可然存候。
女ごころのたとへにも
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
物のたとへですよ、——あの内儀も大した年増だが、娘のお新はもつと綺麗ださうで、婿になる約束の巳之吉が、落目の坂田屋を
ぞ頼みけるこれ陰徳いんとくあれば陽報やうはうありとのたとへの如く此事このこと後年こうねんに至つて大岡殿の見出しにあづかる一たんとはなりぬされば新藤夫婦は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
やがまたれい丸太まるたわたるのぢやが、前刻さつきもいつたとほりくさのなかに横倒よこだふれになつてる、木地きぢ丁度ちやうどうろこのやうでたとへにもくいふがまつうわばみるで。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もしたとへを進めて、哲學は科學の親なるゆゑに、小天地想派は常に個想派に優れり、常識は科學の材たるに過ぎねば、類想派は最下なりといはゞ、おほいなる僻事ひがごとならむといへり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
蕨ノ根ニ隠リテカヾマリヲレルガ、春ノ暖気ヲ得テ萌出ルハ、実ニ悦コバシキたとへナリ。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
かれたとへて是をいふなり。
「それは物のたとへですよ。一と目見ても千兩の値打のある女を、一日眺めても、十六文で濟むといふから大したものでせう」
も見ずに迯行にげゆきしが殘りし二人は顏見合せこはい者見たしのたとへの如く何樣どんな人やらよくんと思へば何分おそろしく小一町手前てまへたゝずみしがつれの男は聲をかけいつその事田町とほりを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
……やま地平線上ちへいせんじやう遠霞とほがすんで、荒涼くわうりやうたる光景くわうけいあたか欄干らんかんしぼつて、あみをばかり、ぱつとさばいておほきくげて、すゑひろげたのにたとへたのだらう。と、狼狽うろたへてたのである。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かれたとへて是をいふなり。
犬に喰はれてしまへと言ふたとへの通り、先づお常をちよいと半殺しにして、手本を見せた上、お紋を殺す氣になつたんだらう——と斯う言ひます。
「あゝ、んでもない、……たとへにも虚事そらごとにも、衣絵きぬゑさんを地獄ぢごくおとさうとした。」
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大きい眼を不安と疑惧ぎぐに見開いたまゝ、可愛らしいもののたとへにまでされた、『お靜さんの弓なりの唇』からは紅の色まですツとせてしまつたのです。
人間にんげんが、とりけだものよりえらいものだとさういつておさとしであつたけれど、うみなかだの、山奥やまおくだの、わたしらない、わからないところのことばかりたとへいていふんだから、口答くちごたへ出来できなかつたけれど
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「物のたとへですよ、——全く大した娘で、娘は、何んにも言ひませんが、腹の中ぢや泣いて居ますね、可哀想に」
「さうか、丁度宜い、八五郎も來てゐる、三人寄ればのたとへの通り、下手な智慧でも出し合つて見よう」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
物のたとへですよ。ね、親分。さうでせう。叶屋の重三郎は谷中の鬼と言はれた人間だが、金がうんとあつて用心深いから、二た間續きの離屋はなれには、女房のお徳も寄せつけねエ。
銭形平次捕物控:130 仏敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「物のたとへだ、——そんな手もあるまいといふ話さ。なあ親方」
「物のたとへでございます、親分さん」
「へエ、たとへが碁と來たね」
「物のたとへで——」
「物のたとへですよ」