たづ)” の例文
「エアさんはそこにゐますか。」と主人あるじは、半分席から立上つて、入口の方を見まはしながらたづねた。私はドアの傍にまだ立つてゐた。
「一体君たちは、こんなことをしてゐて、しまひに何うなるんだね。」彼は腹這はらばひになつて、たばこをふかしながら、そんな事をたづねた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
昨日きのふ碓氷うすひ汽車きしやりて、たうげ權現樣ごんげんさままうでたとき、さしかゝりでくるまりて、あとを案内あんないつた車夫しやふに、さびしい上坂のぼりざかかれたづねた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「や、お初めて。」とリンコルンは初めて気がいたやうに会釈をした。「早速ではなは無躾ぶしつけなやうだが、一寸おたづねしたいと思つて……」
何でもその辺の人に「越後ゑちごで偉かつた人は誰ですか。」とたづねると「それは上杉謙信うへすぎけんしんと良寛さんです。」と答へるさうである。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
餘り笑ふので其の譯をたづねると、シャクの排斥を發議した例の長老が最近それと同じ樣な慘めな經驗をしたといふ評判だからだ、と言つた。
狐憑 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
あいちやんはたゞほかにはなんにもかんがへつきませんでした、『それは公爵夫人こうしやくふじん受持うけもちよ、ことなら夫人ふじんたづねたはういわ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
友もやゝ酔つた様子で、やうや戸外おもてくらくなつて行くのを見送つて居たが、不意に、かうたづねられて、われに返つたといふ風で
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
おつれあひは、とか、御家族は、とか、私の一人ぼつちなわびしい状態を見て、いたはりの心からたづねるのであつたらう。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
主は彼に向ひて宮の家内かないの様子をたづねけるに、知れる一遍ひととほりは語りけれど、娘は猶能なほよく知るらんを、のちに招きて聴くべしとて、夫婦はしきりさかづきすすめけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「貴様は何をしようとしてゐるのだ。」——かうたづねられたら、私は何と答へる事が出来るのでせう。「己は、この男を罪人にしようとしてゐるのだ。」
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
きみごろからだは何うかね。」としばらくして私はまた友にたづねた。私たちふとかならどツちかさきの事をく。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「それとも」と和作は追かけるやうにしてたづねた。「飯島先生の話でどうかなつたのぢやあ、ないのかい?」
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
あの坊さんの梟がいつもの高い処からやさしくたづねました。穂吉は何か云はうとしたやうでしたが、たゞ眼がパチパチしたばかり、お母さんが代って答へました。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
男優A ぢや、こつちからたづねるがね。君は、どういふ証拠をつかまへて、そんな詰問をするんだね?
職業(教訓劇) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「で、どんな忠告を受けたんだい。」とTは黙して置けぬと云ふ風に、真面目まじめになつてたづね出した。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
途中でトランク一つの代価をたづねると娘店員が来て、zwei milliarden dreimal hundert millionen Mark と云つた。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ある劇場監督デイレクツウルの事について議論のある晩でムネ・シユリイは黙つて聴いて居たが、食事のしまひ際にユウゴオが「君はデイレクツウルと云ふ職を何と考へるか」とたづねたので
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「さうよ、土がまだ妙に冷たいもんな。」と、それと並んで同じ労働しごとをしてゐる同じ年格好の、もう一人の男が云つた。そして、どこか不平をらすやうな調子でたづねた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
仲裁に入つた男の睾丸こうぐわん蹴上けあげて気絶さしたとか、云々うんぬんの通信なんだがそれに間違ひはありませんか、一応おたづねする次第です——と云つたやうな話を聞き、ひどく狼狽らうばいした訳です。
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
番臺の女房にお光の事をたづね、あたふたと歸つて行つたといふだけのことです。
「Fまちはまだかな‥‥」とまた河野かうのいて、おもしたやうにたづねた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「私をたづねて來たのは如何いふ御用です。」
「君は何派だい。」と道助はたづねた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
「何てんです、それは?」とたづねた。
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
私は土人にたづねました
古代土器の印象 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
「アデェル」と私はたづねた。「あなたがお話しになつた、その綺麗な氣持ちのいゝ町にゐらした時は、誰方どなたと御一緒でしたの?」
だが、色々試してゐるうち、孔雀の世間馴れた素振そぶりが、これまで初心うぶ生娘きむすめでなかつた事を証拠立てて来た。草人は不安さうな目付をしてたづねた。
あいちやんは、はたおもあたることあるものゝごとく、『それで此處こゝ此麽こんな澤山たくさん茶器ちやきがあるのねえ?』とたづねました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
と年の少い子が無邪気にたづねた。何て馬鹿な質問をするんだらうといふやうに、みんなはその子の顔を見た。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
周三は垂頭うつむき加減で、默ツて、神妙しんめうに聞いてゐたが、突如だしぬけに、「だが、其の贅澤ぜいたくを行ツてゐた時分と、今と、何方が氣樂だと思ひます。」とぶしつけにたづねる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「あれは今誰がすんでゐる」とたづねるので、知つてゐる通り、「ガルモンチ侯爵一家」と答へますと、「それ見給へ、その名前は、羅馬ローマ時代から伝つてゐるのだ。」
けむり(ラヂオ物語) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
番頭ばんとうんでもらつてたづねますと、——勿論もちろんころをとこではなかつたが——これはよくつてました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
やがて帰来かへりきにける貫一は二人の在らざるを怪みてあるじたづねぬ。彼はしづかに長き髯をでて片笑みつつ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こつちからたづねもせぬのに、寺の玄関の三畳の窓へ来た女のことをも上さんは話した。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
梟のお母さんが、大きな眼を泣いてまぶしさうにしょぼしょぼしながらたづねました。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
或る日、表町の外食券食堂へ行く途中(私達家族三人は主食配給が遅配がちなのと、隣組の輪番制当番がうるさかつたので外食にきりかへたのだ)一人の年増としま婦人からかうたづねられた。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
平次は平凡なことをたづねました。この男のこたへを試さうといふのでせう。
わたしは度を失ひながら、かく茶の間に上げた。「どうしてこんなに遅く来た? 何かあつたのか?」かうたづねても、無感覚に黙つてゐる。わたしの癇癖かんぺきの突発を恐れてゐる事が感ぜられた。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
志願兵殿しぐわんへいどの何時なんじでありますか‥‥」と、背後うしろから兵士へいし一人ひとりたづねた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「何を笑つたんだい。」Tが闇の中からたづねた。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
幾らか気になると云つたやうにたづねた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
駅長さんにたづねたら
桑名の駅 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
せんからおたづねしようと思つてゐましたが、お父樣の御親類のエア家の方から、何かお聞きになつたことはありませんか。
『それはかくしまひからはじめにかへるのにはうしたらいの?』とあいちやんが突飛とつぴなことをたづねました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
大学生はくやしがつて、何家どこの子供か知らとたづねてみると、文科大学の内藤湖南博士が秘蔵ひぞだつたさうだ。
随分お達者で御機嫌ごきげんよろしう……みいさん、お前から好くさう言つておくれ、よ、し貫一はどうしたとおたづねなすつたら、あの大馬鹿者は一月十七日の晩に気が違つて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
声——よし、それは後でたづねる。帰りは何時の電車へ乗つた? こつちへ着いた時間でもいゝ。
クロニック・モノロゲ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
其處そこたづねまして、はじめて、故郷ふるさとまでとほくない、四五十里しごじふりだとふのがわかつて、それから、かんざしり、おびつて、草樹くさきをしるべに、つとをかさねてかへつたのでございます。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
だれか工手学校に入るんですか。」主人は拡げて見ながら、たづねた。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)