しま)” の例文
痛い所へさわられた様な気がしたんだね——君の話を中途でめさせてしまったが、今、おれは、その同じ疑いに悩まされているのだ。
疑惑 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
父も母も驚いて、大騒ぎして、薬をのんで、はきだしてしまえと言って、すすめたが、むっつりした兵さんは、やっぱり我慢していた。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
彼は遂にやむをえず、かたまりのそとへ出て、後ろの方に立って人の事で心配しているうちに、博奕ばくちはずんずん進行しておしまいになる。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
音信たよりも出来ないはずの音信が来て、初めからしまいまで自分を思ッてくれることが書いてあッて、必ずお前を迎えるようにするからと
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
暗いところで小父の脱棄ぬぎすてを畳んでいながら、二人の言合いをおそろしくも浅ましくも思ったお庄は、しまいに突っ伏して笑い出した。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
降ると見ばの歌を聞いたとて毒を飼われてしまった後に何になろう。かつ其歌も講釈師が示しそうな歌で、利休が示しそうな歌ではない。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一々事実にくっ付けて一分一厘すきのないようにキチキチとキメツケて行く苦しさに、いつも書きかけては屁古垂へこたれさせられてしまいます。
涙香・ポー・それから (新字新仮名) / 夢野久作(著)
表へ出れば、表門からであろうが、勝手口からであろうが、待ち構えている渡辺刑事に直ぐ見つかってしまう。そう周章あわてるに及ばない。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
思いのたけを書き綴って、人伝ひとづてに送っても返事が来ず、到頭とうとうしまいには、多与里の姿を見ただけでもうるさそうに顔を反ける左京です。
これ等が黄色なてらされて居るのを私は云ひ知れない不安と恐怖の目で見て居るのであつた。しまひには両手で顔を覆ふてしまつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
全戸皆がこんな掘立小屋で、何時まで経つても或ひは藁葺だとか瓦葺だとか、家らしい家にならないし、全く嫌になつてしまつたんですな。
私有農場から共産農団へ (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
「ウン。——」長造は、言おうか言うまいかと、鳥渡ちょっと考えたのち「こう世間が不景気でしなびちゃっちゃあ、何もかもおしまいだナ」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
元来がそう云う情ない依頼をあえてするくらいですから曲折どころではない、真直まっすぐに行き当ってピタリとしまいになるべき演説であります。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雛妓おしゃくの黄色い声が聞えたり、踊る姿が磨硝子すりガラスとおして映ったりした。とうとうおしまいには雛妓が合宿へ遊びに来るようになった。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
いがみ合っている仲だとすると絶えず姿を見ているだけ憎みも怨みも益々溜まって、不和が一層不和になり、しまいの果てには衝合ぶつかり合う。
死の復讐 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
俳句は客観写生に始まり、中頃は主観との交錯が色々あって、それからまたしまいには客観描写に戻るという順序を履むのである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「おくみさん、旦那は今晩はしまひごろの電車でなくては帰られないでせうから、もう先におやすみなさいな。今日はあなたもおくたぶれだし。」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
「漣もお伽噺ばかり書いてるようではうおしまいです、その内には必ず本統の小説を書きます」と、或時私に語った事があった。
あ「いゝえおっかさんは今日は五度いつたび御膳をあがって、しまいにはお鉢の中へ手を突込つッこんであがって、仕損しそこないを三度してお襁褓しめを洗った」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その次がめの肉といって一番しまいにロース物が出るかあるいはサラダが出る場合ですからロースポーク即ち豚のロースに致しましょう。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
自分は——と言い出すにきまっているから、どうせあとで知れることではあるが、今は何とかこのまま押しつけてしまわなければならない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
みじかふゆはもうちかけて黄色きいろひかり放射はうしやしつゝ目叩またゝいた。さうして西風にしかぜはどうかするとぱつたりんでしまつたかとおもほどしづかになつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
額安かくやすに、手取早く味覚の満足をふといつた風になり勝なので、感覚のさとさが段々だん/″\ゆるんで、しまひにはしびれかゝつて来るのではあるまいか。
茸の香 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「君の様にそう頭から嬉しがってしまえば何んでも面白くなるもんだが、矢代君粽の趣味など嬉しがるのは、要するに時代おくれじゃないか」
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
船長キャプテンの前で一等運転士の作った出鱈目でたらめの契約書に署名サインする時、何ということなしに為吉はシンタロ・サカモトと書いてしまった。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
ねえ、私のお話を半分きりにして置くといふのは、それをおしまひまでする爲めに朝食の卓子テエブルに出て參りますといふ保證みたいなものでせう。
おさやんは町の裁縫師匠の処へ縫物子ぬひものこになつて行くことになりましたから二人はしまひまで一所の学校へは通へませんでした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ねがはくは陛下へいかよ』とつて軍人ネーブは、『わたしいたのでは御座ございません、その證據しようこには、しまひになにいて御座ございません』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
純之進は無言だまったまま、娘に構わずに寝てしまった。娘はまめまめしく布団のすそたたきなどしたが、純之進から言葉が無いので、手持なく去った。
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
『英語を交ぜて書いたのは面白いぢやありませんか、初めのマイデヤサーだけは私にも解るが、しまひの文句は何といふ意味です? 甲田さん。』
葉書 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
そしてしまいには、彼等が内地でそうされたと同じように「小作人」にされてしまっていた。そうなって百姓は始めて気付いた。——「失敗しまった!」
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
と一つうなずくと、もうそれで診察はおしまいだった。もちろん尾田自身でも自ら癩に相違ないとは思っていたのであるが
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
かれ起上おきあがつて聲限こゑかぎりにさけび、さうしてこゝより拔出ぬけいでて、ニキタを眞先まつさきに、ハヾトフ、會計くわいけい代診だいしん鏖殺みなごろしにして、自分じぶんつゞいて自殺じさつしてしまはうとおもふた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
衣食のことよりも更に自分を動かしたのは折角これまでに計営けいえいして校舎の改築も美々しく落成するものをすてしまうは如何いかにも残念に感じたことである。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
まだ出発間際まぎわまでにはいくらかの時間があった。かねて岸本はこの都を去る前に、一番しまいにもう一度見て行きたいと思うほど好きな薔薇園ばらえんがあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その人がつかれてしまうとまた他の人を引っぱりだしてやらせる。皆が嫌がるとしまいには一人で、オフィリヤでもハムレットでも墓掘りでもやってしまう。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
うです、一緒に来ませんか、森でナトゥール・テヤーテルがあるんで、これからしまいの幕を撮しにゆくんです。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
見物がいくばくとも数知れず出たのでしたから、ちょっと見られぬ有様でして、しまいには柳橋の芸者が、乙姫おとひめになってこの水神祭に出るという騒ぎでした。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
そんな人達ならば何とか口を利くでしょうが、初めからしまいまで一度も口を利いたこともないので、座敷のうちは気味の悪いほどにしんとしているんです。
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
トルストイ、ドストイエフスキーに比して、更に Dawn をメレジコウスキーから期待されたゴオルキイも、ねつから行くところまで行かずにしまつた。
小説新論 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
些事とは云ふものの、それは矢張り、充分に、彼女の考へを直ぐにき乱してしまふだけの可能力は供へてゐた。
惑ひ (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
その人の物語をしまいまで聞いたものは立ちどころに神隠しにかかってしまうなどと云う噂もあって、都の人達は顔さえ見るのも恐しがっていたようでした。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
これはしまいがまずかったが、もっと高尚な、巧妙な方法で大奥を動かして、権勢を握った坊主がいくらもある。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今日の二勇士の首途かどでを見んと、四方から雪崩なだれのごとく押しよせて、すでにその日の九時頃には、さしもに広き公園も、これらの人々を持って埋まってしまった。
月世界競争探検 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
私の腹を見抜いた本屋はしまいまでうんと云わないのである。私はよけいに腹を立て、正札通りの金を投げつけるように置き、「問答集」を抱えて飛び出した。
彼は二三度まぶしそうに、またたきしたがすぐ顔をふせてしまった。暗い影がその赤黒い顔をさっと走り通った。
(新字新仮名) / 楠田匡介(著)
私はこの本のおしまひのところで、君達に良寛さんの偉いところが、わかつたかどうか、きくつもりである。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
佐伯氏は、つまずいてはいくどもやり直しながら、しまいまで吹きおえると、蘆の中へそっと木笛フリュートを置いた。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
根吉 おかみさん、もし辰三郎が帰ってきたら、こう成れば仕方がねえから、覚悟してしまえというがいい。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
日本料理店へ行くと、はなからしまいまで魚ばかりという家がある。それがみんな生臭いか水っぽいかだ。
猫料理 (新字新仮名) / 村松梢風(著)