空屋あきや)” の例文
なお其袂そのたもとから手巾はんかちーふ取出とりだして、声立てさせじと口にませた。くして冬子は、空屋あきやまで手取てど足取あしどりに担ぎ去られたのであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
……かはあたり大溝おほどぶで、どろたかく、みづほそい。あまつさへ、棒切ぼうぎれたけかはなどが、ぐしや/\とつかへて、空屋あきやまへ殊更ことさらながれよどむ。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
隣家は津田という小児科の医者、その隣りが舟大工ふなだいく、その隣りが空屋あきやであったが、近頃其所へ越して来た母娘おやこの人があった。
K市街地の町端まちはずれには空屋あきやが四軒までならんでいた。小さな窓は髑髏どくろのそれのような真暗な眼を往来に向けて開いていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
研究するのが好きだからさ。だからあの空屋あきやを買ってみたくなったんだよ。そんな犯罪事件のあった遺跡あとを買って、落付いて調べてみると、意外な事実を
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ってというので、音助に言付け万事出立の用意が整いましたから立たせて遣り、ようやく五日目に羽生村へちゃく致しましたが、聞けば家宅うち空屋あきやに成ってしまい
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
でも、もう、久しい間空屋あきやになっていましたので、敷石のあいだから雑草がえだし、庭の花圃も荒れほうだいに荒れて、見るかげもないようになっていました。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
或る一つの部落では全部がすでに空屋あきやとなって、まだ倒壊してしまわずにいた。また他の村では老人が一人おって、物うげに何ともしようのない窮状を告げたともある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
同勢は空屋あきやへ寄って来てほしいままに酒をあおったり、四辺あたりはばからぬ高声で流行唄をうたったりした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
廊下口から上つて行くと、家の中がからんとしてゐて、なんだか空屋あきやに入つたやうであつた。
湖水めぐり (旧字旧仮名) / 野上豊一郎(著)
これが盛りの時であったなら、戸をたたいたり、案内をうたりするまでのことはないはずなのが、空屋あきや同然の今の場合では、それでも容易に応ずる者が無いものですから
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
また今の旧下士族が旧上士族に向い、旧時の門閥もんばつ虚威きょいとがめてその停滞ていたいを今日にらさんとするは、空屋あきやの門にたちて案内をうがごとく、へび脱殻ぬけがらを見てとらえんとする者のごとし。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
今少しは引いてもいいと言われるほど長く空屋あきやになっていた古い家で、造作もよく、古風な中二階などことにおもしろくできていたが、部屋が多過ぎていまだに借り手がないとのこと。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「そりゃお客さん、何かの間違いでしょう。東隣は私の兄の別宅で、三年ほど前に貸してあった者が、時とすると怪しいことがあったので、引移して空屋あきやになっておる。どうして爺さんや婆さんがおるものかね。」
阿繊 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
空屋あきやとは驚いたな」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それもお値段ねだんによりけり……川向かはむかうに二三げんある空屋あきやなぞは、一寸ちよつと紙幣さつ一束ひとたばぐらゐなところはひる、とつてた。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この茅葺かやぶきは隣に遠い一軒家であった。加之しか空屋あきやと見えて、内は真の闇、しずまり返って物のおとも聞えなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
F市外の公園の入口に在る檜御殿ひのきごてんと呼ばれた××教の教会堂が、先年の不敬事件に関する信者の大検挙以来、空屋あきや同然になっていたのを自分の名前で買い取らせて
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そこであっちの村から五本、こっちの村から三本、と続々届け出るものがある。役人らは毎日それを取り上げ、一軒の空屋あきやを借り受け、そのなかに積んで置いて、厳重な戸締まりをした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
生徒散じ教員さって塾が空屋あきやになれば、残る者は乃公おれ一人だ、ソコで一人の根気で教えられるけの生徒を相手に自分が教授してる、ソレも生徒がなければいて教授しようとはわぬ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ところで、わたしが、おうらすくみちとして、すゝむべき第一歩だいいつぽは、何処どこでもい、小家こいへ一軒いつけんさがことだ。小家こやでもいゝ辻堂つじだうほこらでもかまはん、なんでもひとない空屋あきやのぞみだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、咫尺しせきも弁ぜざる冥濛めいもうの雪には彼も少しく辟易へきえきして、にぐるとも無しに空屋あきや軒前のきさきへ転げ込んだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
縁辺の話を決定とりきめたいという親類の意見から、暫く役目のお預りを願って、その空屋あきや同然の古屋敷に落付く事になると、賑やかな霞が関のおつぼねや、気散きさんじな旅の空とは打って変った淋しさ不自由さが
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
此處こゝ空屋あきやつてります……昨年さくねんんでましたつてなんえんもありませんものが、夜中やちうことわりもなしにはひつてまゐりましたんですもの。れましては申譯まをしわけがありません……
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
美人を絞殺して空屋あきやの天井に吊しておく。
書けない探偵小説 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
木下闇こしたやみ、其の横径よこみち中途なかほどに、空屋あきやかと思ふ、ひさしちた、たれも居ない店がある……
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「心得てるさ、ちっとも気あつかいのいらないように万事取計らうから可いよ。向うが空屋あきやで両隣がはたけでな、つんぼの婆さんが一人で居るという家が一軒、……どうだね、」と物凄ものすごいことをいう。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
影法師かげぼふしつゆれて——とき夏帽子なつばうし單衣ひとへそでも、うつとりとした姿なりで、俯向うつむいて、土手どてくさのすら/\と、おとゆられるやうな風情ふぜいながめながら、片側かたかはやま沿空屋あきやまへさみしく歩行あるいた。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
よろしいかね、これえうするに、すくなくとも空屋あきやかぎる……りますか、ひとない小家こやはあるか。れば、其処そこく。これからあしぐにきます。——宿やどかへつて一先ひとま落着おちつけ? ……呑気のんきことを。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たしかに、其家そのいへ空屋あきやはず
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)