真似まね)” の例文
旧字:眞似
と、母親ははおやおしえました。するとみんな一生懸命いっしょうけんめい、グワッ、グワッと真似まねをして、それから、あたりのあおおおきな見廻まわすのでした。
作らないでも済む時に詩を作る唯一の弁護は、詩を職業とするからか、又は他人に真似まねの出来ない詩を作り得るからかの場合に限る。
艇長の遺書と中佐の詩 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
慚愧ざんきの冷汗やら、散々なことでありましたが、それにつけても思うには、男と生まれて、こんな馬鹿気ばかげ真似まねの出来るものではない。
(頭を前後左右に動かし)首の附け根が少し痛いのは、別段、関係はないか……。いやに、お静かですな。眠つた真似まねをしてますね。
医術の進歩 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
彼らの残りの生涯しょうがいは、自己真似まねをすることのうちに過ぎてゆき、昔生存していたころに言いし考えあるいは愛したところのことを
「あっ、怪物どもが、こっちへ向って歩きだした。おれたちを見つけたのかもしれんわい、早く、おれたちは死骸の真似まねをするんだ」
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「これがわたくしの思いつきでして」、それから子供の集まってるところへ行ってその真似まねをしてみせると、案外によくあめが売れた。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
その怖ろしい躍動を真似まねるだけの力も、妨げるだけの力もないお雪ちゃんは、歯を食いしばって、眼を閉づるよりほかはありません。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「アイ、目出度いのい」——それが元日村の衆への挨拶あいさつで、お倉は胸を突出しながら、その時の父や夫の鷹揚おうような態度を真似まねて見せた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
つまり頬をふくらし、唇で山蜂の飛ぶ音を真似まね、かくて不満の意を表わすという次第しだいだ。そのうちに、きっとやらずにはいないだろう。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
所歓いろいて了ふし、旦那取だんなとりは為ろと云ふ。そんな不可いや真似まねを為なくても、立派に行くやうに私が稼いであるんぢやありませんか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
だれおれ真似まねをするのは。とつて腹を立て、其男そのをとこ引摺ひきずり出してなぐつたところが、昨日きのふ自分のれて歩いた車夫しやふでございました。
年始まはり (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
妻はしばしば「あなた方は、従兄弟いとこ同士なら、ときどきは何か言うものよ。唖だって、従兄弟同士なら、手真似まねで語り合っているわよ」
秋草の顆 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
『外で何を勝手な真似まねをして居るかわかりもしない女房のお帰宅かへりつゝしんでお待申まちまうす亭主じやアないぞ』といふのが銀之助の腹である。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
なに、今の小説を見るのに、ただ思ったことをダラダラと書いて行けばいいらしいのだから、私にだってあの位の真似まねは出来よう。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
女も今度は素直に盃を受けて、「そうですか、じゃ一つ頂戴しましょう。チョンボリ、ほんの真似まねだけにしといておくんなさいよ」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
真似まねる事のできぬ隠れたる遺伝のあることを信ずるがために、初めてこの国の永続ということが、何よりも大事な問題となるのである。
家の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
が、これがもしスパイの余得であったなら同志を欺くためにもこういう不当所得のかされるような真似まねは決してなかったろう。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「何だ、つまらねえ真似まねを……、鈴虫ならきもするが、目明しなんざあ可愛らしくもねえ。いッそ川の中へ蹴転がしてしまいなせえ」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
他の文芸を知らず、ただ俳句のみを知って、それで他の文芸の長所とする所をも真似まねて見ようとするのはおろかなことではあるまいか。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「わしの家はな、下司の貧乏人とは格が違うんだからな、ふだん子供を外へおっぽり出して遊ばせるような真似まねはできないんだよ」
子供らは旗をこしらえて戦争の真似まねをした。けれどがいして田舎は平和で、夜はいつものごとく竹藪たけやぶの外に藁屋わらやあかりの光がもれた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「痛えッ!」「痛かったら死ね、死んだ真似まねでもしろ」「何にいッ」と捕手とりてが机の上に跳ねあがって大河内を追っかけはじめた。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「こっちで言いたい言葉じゃ、貴公、山県狂介のところで、下男げなんのような居候いそうろうのような真似まねをしておるとかいう話じゃが、まだいるのか」
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
「軽業の一座で、その赤い髪の中に銀色の角を植え、裸体になって、鬼の真似まねをして居た其方そなたを、引取ってやったのは誰の恩だ」
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
外人が鋭意して真似まねんともがく所以ゆえんのものを、われにありてはみだりに滅却し去りて悔ゆるなからんとするは、そもそも何の意ぞ。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
もう後へは退かれぬようになって、未練なわしの心にもどうぞ死ぬ覚悟がつこうかと、それをたのみにあんな真似まねをしてみたのだ。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
そうすると、あすこが安藤阪あんどうざかで、の茂ったところが牛天神になるわけだな。おれもあの時分には随分したい放題な真似まねをしたもんだな。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
幸子は自分には真似まねも出来ないが、こう云う癖を取るのが上手な妙子に聞かせたらと思うと、ひとり可笑おかしくてたまらなかった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
西洋人には真似まねの出来ない一種の技術を持っている。西洋料理を食べる時にもフークで物をすより箸で挟んだ方がよほど楽だ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかし近頃ちかごろではもうそんなへた真似まねはいたしません。天狗てんぐがどんな立派りっぱ姿すがたけていても、すぐその正体しょうたい看破かんぱしてしまいます。
彼は絶えずその真似まねだけはやって来た。しかし、彼の母が頭の中に浮び上るとまたその次の日も朝からズボンに足を突き込んで歩いていた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「お前が倉知くらちさんへ往っていると云うから、ついでに挨拶あいさつして来ようと思って、あがらずに来た、何故なぜそんな、つまらない真似まねをするのだ」
白っぽい洋服 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
外国の下手な探偵作家があきあきするほどくり返し、そうして日本の探偵作家が真似まねをしはじめたトリックだ。だが、手数はかかっている。
五階の窓:05 合作の五 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それで問題は全く最初に返って、天然の雪の結晶の出来る通りに真似まねをすれば良いという極めて平凡な結論に達したのである。
雪を作る話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
あのヨハネ伝の弟子でしの足を洗ってやる仕草を真似まねしていやがる、げえっ、というような誤解を招くおそれなしとしないので一言弁明するが
美男子と煙草 (新字新仮名) / 太宰治(著)
『俺はかうして彼らと肩を並べるために、伸び上り/\警句めいた事を云つてゐるが、そんな真似まねをして何の役に立つのだ。』
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
勿論、私はソクラテスの真似まねをするというわけではないが、書斎には常にこのソクラテスと、リンコルンのバストを飾っておく。
ソクラテス (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そうして私は汗だくになって、決勝点に近づくときの選手の真似まねをして、死にものぐるいの恰好かっこうで、ペダルを踏みながら、村に帰ってきた。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
紫の君も同じように見に立ってから、雛人形の中の源氏の君をきれいに装束させて真似まねの参内をさせたりしているのであった。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「およしなさい、みつともない! 第一この私に、そんな真似まねができると思つて?『女性解放』青年同盟の執行委員の私に!」
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
「さあ、投げ。」と云いながら十人の黒いばけものがみな真似まねをして投げました。バラバラバラバラ真珠の雨は見物の頭に落ちて来ました。
父はわたしの教育のことには、ほとんど風馬牛ふうばぎゅうだったが、さりとてわたしを馬鹿ばかにするような真似まねは、ついぞしたことがない。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
要するに初めからきちんとした箱詰めの様な生活を真似まねるよりも、境遇に適応した活動をしてそこに規則のある生活を造ることが必要である。
先生はいきなり私たちの真似まねをしてシャツを脱ぎて、上半身裸になつてもう一度酒を飲みました。先生のその格好は古い壁画のやうでした。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
前様めえさまもの、祖父殿おんぢいどん真似まねをするだ、で、わし自由じいうにはんねえだ。間違まちがへて先生せんせいだ、師匠ししやうはつしやるなら、祖父殿おんぢいどんばらつせえ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
仰向あおむい蒼空あおぞらには、余残なごりの色も何時しか消えせて、今は一面の青海原、星さえ所斑ところまだらきらめでてんと交睫まばたきをするような真似まねをしている。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「どうも困るな、こんな取着とりつ身上しんしょうで、そんな贅沢ぜいたく真似まねなんかされちゃ……。何だか知んねえが、その引物ひきものとかいう物をそうじゃねえか。」
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
……それを今流行はやりの露助の真似まねをして、飛んでもないことをケシかけるものがあるとしたら、それこそ、取りも直さず日本帝国を売るものだ。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「ハハハ、じたばたするない。手前てまいわしでもまだ羽の生えそろはない子供だ。そんな大それた真似まねをするのは、早いぞ!」
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)