うるさ)” の例文
自分が邪魔でやりきれなくなったのである。まるでうるさい他人のように其処いらに煩い自分がふさがっていて、厭らしくうんざりした。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
白雪 ええ、うるさいな、お前たち。義理も仁義も心得て、長生ながいきしたくば勝手におし。……生命いのちのために恋は棄てない。お退き、お退き。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うるさいよ」お島はまゆをぴりぴりさせて、「お前さんのように、私はあんなものにへっこらへっこらしてなんかいられやしないんだよ」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「このボートで往ってると、湖の魚が皆集まってくるのでございますよ、でも、あまり多く集まって来るのもうるさいではございませんか」
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
母親のおとよは学校の時間割までをよく知抜しりぬいているので、長吉の帰りが一時間早くても、おそくても、すぐに心配してうるさく質問する。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
老人の乞食が附近の物寂びた家の階段に腰を据ゑて帽をしづかに差出すのもうるさくなかつた。二人の画家は翌日再び来てこの塔の正面を描いた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
親に向って一番うるさく聴きがる貧窮者の景気の状態を食事の種類で見て取ろうとするその要領を幼く整理図計して呉れたものでありました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかしお霜婆の可愛がりやうは、太助やお牧などと違つて、どこかうるさいやうなところが有りました。どうして、ナカ/\御世辭ものでした。
しまいには、ひとりで顔が蒼くなるほどうるさく種種なことを考え出して胸が酸っぱくなって一時も早く帰らなければならないような気がした。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そうして彼の貧しい札にありつけなかった債権者の一部の者は、彼の顔をうるさのぞき込んだので、彼は一こと物を言わなければならなかった。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
なに世のなかひろいから、心配するがものはない。実は僕にも色々あるんだが。僕の方であんまりうるさいから、御用で長崎へ出張すると云つてね
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その男が帰って来ると、そのお母さんが言うのよ、ああああ、うるさいことだ、またわめき立てるんだろう、頭がわれそうだって。
その入野のすすき初尾花はつおばなと、いずれであろうかと云って、いずれの時かと続けたので、随分うるさいほどな技巧をらしている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
母馬おやうまうるささにがつかりして歸路きろにつきました。まちはづれまでくると、仔馬こうまきふあるきだしました。はやくいへへかへつておちゝをねだらうとおもつて。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
板台はんだいになざるたずさえて出入する者が一々門番に誰何すいかされ、あるいは門を出入するごとに鄭重ていちょう挨拶あいさつされるようになれば、商売はうるさくなりはせぬか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「このうるさい子猿つたら!」(アデェルをさう呼びながら)、「そんなうそしらせなんぞ云はせようと思つて、あんたをこの窓にのぼらせたのは誰?」
わしが初めて東京から帰ってきた年に大病にかかって座敷で寝てると、勝が蚊帳かやの側へってきちゃ悪戯いたずらをしたり小便を垂れたりしてうるさくって困ったよ。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
とし子には、彼の気持はわかつてゐた。どつちに口添へをしてもうるさい、黙つてなるまゝにまかすがいゝと云ふ風に、彼は何時でも考へてゐるらしかつた。
乞食の名誉 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
うるさいくらい稽古を積んだものだ。こんなことを思い起しながら、安部君の顔から壁間へきかんへ目を移すと、説教題が
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
落ち着きのないうるさい理屈っぽい愛情で彼をなやまし、二人はたがいに異なった性質であることを——彼が忘れようとつとめていたことを、始終彼に思い出さした。
しかもこれはをんなはうから種々しゆ/″\問題もんだい持出もちだしてるやうだそして多少いくらうるさいといふ氣味きみをとこはそれに説明せつめいあたへてたが隨分ずゐぶん丁寧ていねいものけつして『ハア』『そう』のではない。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そこで安直先生、わが鉱脈の底知れぬことよと自分で自分に感服して、またぞろ竜之助のおひげの塵をはらいにくる。まことにうるさいやつ。ピグミーとはかかる下等動物である。
西隣塾記 (新字新仮名) / 小山清(著)
親心からのお仕付けに違いなかったのではございましょうが世間の口はうるさいものでございまして、人の子であればこそ、ああまでも出来たもの、自分の腹を痛めた子供であれば
次兄が馬の世話をする役であつたが、房一はその傍にうるさくつきまとつて離れなかつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
昔、彼女と同棲どうせいしていた頃、私は彼女からやかましく飲み代を制限されるのに困り、また妻子のもとに送る金のことでもうるさく言われるのに閉口し、金を方々にかくしたことがある。
野狐 (新字新仮名) / 田中英光(著)
かわいて来た洗髪にピンがゆるんで、束髪そくはつがくずれてくるうるささが、しゃっきりして歩かなくってはならない四辺あたりと、あんまり不似合なのに気がつくと、とって帰したいようになった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
為吉が神戸中の海員周旋宿を渡り歩いた末、昨日きのう波止場に近いこの合宿所へ流れ込んで、相部屋でその男と始めて会った時も、男は黙りこくって、うるさそうに為吉を見やったけだった。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
しんの心は、要らないどころか、大事だいじで大事でならないものを、うるさいなどゝあんまり世間並せけんなみなことを仰言るな、あなたのめぐまれた母の愛を、なほこのうへとも眞面目まじめにお大切たいせつになさいまし。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
人目ひとめくるは相身互あひみたがひ、浮世うきようるさおもをりには、身一みひとつでさへもおほいくらゐ、あなが同志つれはずともと、たゞもうおのこゝろあとをのみうて、人目ひとめくる其人そのひとをば此方こちらからもけました。
そのうちに蟋蟀こおろぎの声が普通よりも騒々しくなりました。池の中では蛙が鳴いてゐました。蠅はくつついて来てうるさくなりました。時々微風が、矢庭に街道を吹き立てて埃を巻きあげました。
それに、電話がすぐそばにあるので、間断ひっきりなしに鳴ってくる電鈴が実にうるさい。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
蒲「疫病神やくびようがみ戸惑とまどひしたやうに手形々々とうるさい奴だ。おれが始末をして遣らうよ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
音次郎はうるさいお京と、近頃自分のことをよく思はない叔父の彦兵衞を一緒に殺すことを考へたのだよ、——お京を心中に誘つて舟の中から川へ飛び込んだが、前から船頭の傳三を仲間に引入れ
まだか! と私は、うるさく思ひ好い加減にごまかさうとして、重々しく
環魚洞風景 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
その方が、うるさくなくていいでしょう。ねえ、お父さん。
盗難 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
うるさいな。まだ早いじゃないか」
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
(役人が、又何か、うるさいことを)
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
先生は、うるさそうに首を振って
母親のおとよは学校の時間割までをよく知抜しりぬいてゐるので、長吉ちやうきちの帰りが一時間早くても、おそくても、すぐに心配してうるさく質問する。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いい事にして、同勢がのめずり込む、臭いの汚いの、うるさいのって——近頃まで私は、煩って寝る時というと、その夢を見たんです。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小夜子はそれをことさらうるさがっているような口吻くちぶりらしていたが、庸三自身もかげでどんなことを言われていたかはわからないのであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「なんでもその男の人が、私の処を聞いたぞなし。私は知らん顔していた。あんまりうるさいから、木曾きそだってそう言ってやった」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何だつてあの子のことであなたは私にうるさく云ふんです! 何故あなたはアデェルを私の相手にと指定するのです?
その唇の紅さ、頬の蒼白さ、病的にばらばらに、かれの頬のあたりまでなびいてくるような髪の毛のうるささを感じながら、かれは飽くこともなく見つめたのである。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
家内が何うしたの子供が斯うしたのと、事故ばかりあって、はたで聞いているのもうるさい。向上心なぞはちっともない。ひまがあると、碁を打つ。将棋を差す。謡曲を唸る。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
蓄音機をかけて見ても、三味線をひいて見ても、歌つて見ても、何の感興もおこつては来ません。だん/\にさびしくなつて来るばかりです。うるさくなつて来るばかりです。
父の性質としてかういふうるさい役務は好まなかつたのであるが、人物に乏しい僻村へきそんでは他に適當な候補者が見つからないので、據所よんどころなく選ばれ據所なく承諾したのらしかつた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
まるでうるさい他人のやうに其処いらに煩い自分がふさがつてゐて、厭らしくてうんざりした。
小さな部屋 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
みずのえだのかのとだの、八朔はっさくだの友引だの、つめを切る日だの普請ふしんをする日だのとすこぶうるさいものであった。代助は固よりうわの空で聞いていた。婆さんは又門野の職の事を頼んだ。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
房一は、これはうるさい相手だなと思ひながら、わざとゆつくり構へてゐた。実は、さつき裏口から二人を見かけた時に、すでにぴんと感じてゐた。こんな風体の連中は河原町には他にない。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)