無慚むざん)” の例文
こんな無慚むざんな裏切りはない、どれほど非情な人間にも、こういう酷薄なまねはできないだろう、杉永のためにも生かしてはおけない。
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
土煙がだんだん静まって、無慚むざんにも破壊した車体が見えてきた。車体は裏返しになり、四つの車輪が宙にがいているように見えた。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あぶが刺し、蜂が刺す、大きな毒蟻どくありが噛み、文覚の五体は、しばらくすると無慚むざんな有様となったが、彼は足の指一つ動かさなかった。
數人とも知れぬ人を斬つて、泥棒まで働いた、兇惡無慚むざんな辻斬が、平次の膝の下に敷かれて、シクシク泣いて居るのも受取れないことです。
いやもう一つ、わたくしが気を失って倒れておりました間に、つい近所の町筋では無慚むざんな出来事が起ったのでございました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
乳母 そのきずましたが、此眼このめましたが……南無なむさんぼう!……ちょうどこの立派りっぱ胸元むなもとに。いた/\しい、無慚むざんな、いた/\しい死顏しにがほ
もう湯気はあがってはいず、丸いどんどん焼は無慚むざんにゆがんでいた。扶佐子はそれを下駄で下水のみぞこみながら
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
葉子は見えも外見もなく、くすぐったそうに苦笑するのだったが、そうなると彼女も清川によって、無慚むざんに路傍にたたのめされた花束のようなものであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
従妹いとこの富美子は当時十九の而も非常な美人でしたから、身代金を与えても戻さぬ所を見ると、ひょっとしたら無慚むざんにも賊の毒手にもてあそばれているのかも知れません。
黒手組 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
殿の屋形にいてからの姫は日夜拷問ごうもん責苦せめくい、そのはてはとうとう屋形のうしろの断崖から突き落されてこと切れた。無慚むざんな伝説であるが、伝説はまだ終らない。
そして、むんずと伸ばした手は無慚むざんに千浪の体を引き寄せて、飽くまで離さぬほどな力をこめた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分は無慚むざんの僧で、御仏みほとけの戒めを知らず知らず破っていたことも多かったであろうが、女に関することだけではまだ人のそしりを受けず、みずから認める過失はなかった。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
町「おのれ蟠龍軒、眼さえも見えぬ父上様を、よくもだまして引出し、無慚むざんにも切殺したなア、さアおのれも武士の端くれ、名告なのって尋常に勝負せい、さア/\悪党、いかに/\」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
透かさぬ早業はやわざさかさに、地には着かぬ、が、無慚むざんな老体、蹌踉よろよろとなって倒れる背を、側の向うの電信柱にはたとつける、と摺抜すりぬけに支えもあえず、ぼったら焼のなべを敷いた
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
直ちに吉良上野を聯想れんそうするのが、「忠臣蔵」によって煽られた民間常識とされているが、上野介の精神分析を試みて、彼が江戸城においては暴虐にして冷酷無慚むざんな所行を繰返しながら
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
であるのに、わづか一代を隔てて、何うしてこんな不幸がその藤田一家を襲つたのであらうか。何うしてその祖父祖母の孫に今の重右衛門のやうな、乱暴無慚むざんの人間が出たのであらうか。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
無法に住して放逸無慚むざん無理無体に暴れ立て暴れ立て進め進め、神とも戦え仏をもたたけ、道理をやぶって壊りすてなば天下は我らがものなるぞと、叱咜しったするたび土石を飛ばしてうしの刻よりとらの刻
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
格納庫は、まださかんに燃えている。しかしトラスト型の鉄骨と、飛行機の形骸けいがいを、無慚むざんにもさらして、はや、火焔も終りに近かった。老博士は、敵の銃口に身をさらしながら、なおも言葉をつづける。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
無慚むざん、という言葉がある。そして、無慚な事実、というものもある。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
何といふ無慚むざんなことを人間はするものなのだらう。……
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
あゝ無慚むざんなり、われの日メノイチオスを——勇將を
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
いやもう一つ、わたくしが気を失つて倒れてをりました間に、つい近所の町筋では無慚むざんな出来事が起つたのでございました。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
綱をおろして、引上げて見ると、紛れもないお春、手古舞姿のまま、背後うしろに背負った花笠の赤い緒で、見るも無慚むざんに絞め殺されていたのでした。
何の罪の報いか、気の毒なことよのう、いくらもある公達の中で生捕りになって、生き恥をさらすとは、前世の宿縁としてもあまりにも無慚むざんじゃ。
助なあこの恋は、一と月ばかり続いただけで、無慚むざんにうち砕かれた。或る夜、芳野の漉き小屋の中で、彼は怒りのためにふるえながらお兼をなじった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
或いは無慚むざんな糸子の傷ついた姿を見ることかと思われていたが、それはまず見ないで助かったというものだ。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
併しああ何という仕合せなことであったか、射たれた女は何事もなく、ただこれのみは無慚むざんにも射ちくだかれた飲物の器を前にして、ボンヤリと立っているではないか。
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
はれ、無慚むざんな! こゝに若殿わかとのころされてござる、のみならず、二日ふつかはふむられてござったヂュリエットどのが、ついいまがたなっしゃれたやうにながして、ぬくいまゝで。
美女の姿は、依然として足許によこたわる。無慚むざんや、片頬かたほは土に着き、黒髪が敷居にかかって、上ざまに結目むすびめ高う根がゆるんで、かんざしの何か小さな花が、やがて美しい虫になって飛びそうな。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親父も一人や二人討って掛ろうとも無慚むざんに殺されることは有りませんが、何うかいう係蹄わなに掛って、左様な横死をいたしたので、誠に残念なことでございますから、私は直様すぐさま仇討に出立致し
無慚むざんにも首斬られてしまった——と語るのであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
助なあこの恋は、一と月ばかり続いただけで、無慚むざんにうち砕かれた。或る夜、芳野の漉き小屋の中で、彼は怒りのためにふるえながらお兼をなじった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
平次はさう言つて、火鉢の中に火ばしを突つ込んで、無作法に掘り返しました。よくならされた灰は無慚むざんにも掻き荒され、中からピンと飛び上がつたもの。
さまし給ふに合點がてんゆかずと無理にこぢあけ這入はひり見ればは如何に隱居は無慚むざんにも夜具の中に突殺つきころされあけそみて死したればアツとばかりに打驚きあきれ果てぞ居たりける
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
カオルはそれに応える代りに、はふり落ちる泪を手で抑えつつ大きくうなずいた。無慚むざんな最期を遂げた亡き父に対する悲しみが、今や新たになみだを誘ったのに相違なかった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ふるき代の富貴ふうき栄耀えようの日ごとにこぼたれ焼かれて参るのを見るにつけ、一掬いっきく哀惜の涙をとどめえぬそのひまには、おのずからこの無慚むざんな乱れをべる底の力が見きわめたい
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
斎藤氏の見るも無慚むざんきずついた顔面はそうした武勇談の話し手として至極似つかわしかった。
二癈人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と見ると、あたり、胸へ掛けて、無慚むざんや、さっと赤くなって、垂々たらたらと血に染まった。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こやつがむべきモンタギューがこしなる宿やど裳脱もぬけからで、無慚むざんや、愛女むすめむねさや
此の苦痛を助かりたいと、始めて其の時に驚いて助からんと思っても、それはても何の甲斐もない事じゃ、此のを知らずして破戒無慚むざん邪見じゃけん放逸ほういつの者を人中じんちゅうの鬼畜といって、鬼の畜生という事じゃ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
與へ干殺ほしころさんとこそたくみけれされ無慚むざんなるかな藤五郎は其身不行跡ふぎやうせきとは云ながらわづか三でふ座敷牢ざしきらう押籠おしこめられ炎暑えんしよの甚はだしきをもしのぎかね些々さゝたる庇間ひあはひの風を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ふるき代の富貴ふうき栄耀えようの日ごとにこぼたれ焼かれて参るのを見るにつけ、一掬いっきく哀惜の涙をとどめえぬそのひまには、おのづからこの無慚むざんな乱れをべる底の力が見きはめたい
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
しかし、この世に生れて来た者を殺す、ということは無慚むざんであり人倫に反する。必要があると認めたら、まだ胎内にあるうち、つまり「人間」にならぬまえに始末すべきである。
その上に、見るも無慚むざんなあの死に方、……君にあいつの死顔を一目見せてりたかった。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
古谷局長は、さっきからだまりこくって、二号艇の無慚むざんな光景にむかっていた。彼は、あの二号艇にのりこんでいた部下の丸尾技士の安否あんぴについて、いろいろと考えていたのだ。
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それを掻払かいはらうごとく、目の上を両手で無慚むざん引擦ひっこすると、ものの香はぱっと枕にげて、縁側の障子の隅へ、音も無く潜んだらしかったが、また……有りもしない風を伝って、引返ひっかえして
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どうと投出す機會はずみに切込九郎兵衞がやいばあつと一聲さけび女の體は二ツになり無慚むざんの最期に惣内はお里と心得心もそらおのれ女房のかたきめと追詰々々切むすび九郎兵衞諸共もろとも曲者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
破壊し死体の頭部を鋭利なる刄物をもって切断しいずこにか持去れるものの如く無慚むざんなる首なし胴体のみ土にまみれて残り居れり一方急報により×裁判所××検事は現場に急行し×署楼上に捜査本部を
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おれは無慚むざんなことをしている。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あわれに無慚むざん光景ようすだっけ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)