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涎
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よだれ
ふりがな文庫
“
涎
(
よだれ
)” の例文
毛脛
(
けずね
)
が大の字を書いている。胸は、はだけているし、
涎
(
よだれ
)
は畳にベットリだ。鼻から
提灯
(
ちょうちん
)
を出していないのがまだしもの寝顔であった。
松のや露八
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
まるで寺小屋の芝居に出て来る
涎
(
よだれ
)
くりのような、うすぎたない、見すぼらしい、人前に出るさえ
耻
(
はず
)
かしい姿になってしまって居る。
母を恋うる記
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
四人の看守が四人共、ポッカリ口を開き、
涎
(
よだれ
)
を垂らして居眠りを始めたのだ。それも舟を
漕
(
こ
)
ぐという様な生やさしい眠りではない。
黄金仮面
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
善良なる村の紳士淑女も、秀才も、
涎
(
よだれ
)
くりも、
木端微塵
(
こっぱみじん
)
でありました。
周章狼狽
(
しゅうしょうろうばい
)
、右往左往に逃げ散ります、
蜘蛛
(
くも
)
の子を散らすが如く。
大菩薩峠:29 年魚市の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
と云いさして源次は、眼を真白く
剥出
(
むきだ
)
したまま、ユックリと唇を噛んで、
獣
(
けもの
)
のようにみっともなく流れ出る
涎
(
よだれ
)
をゴックリと飲み込んだ。
斜坑
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
▼ もっと見る
あの
漂泊
(
さすらい
)
の芸人は、鯉魚の神秘を
視
(
み
)
た紫玉の身には、もはや、うみ汁のごとく、
唾
(
つば
)
、
涎
(
よだれ
)
の臭い乞食坊主のみではなかったのである。
伯爵の釵
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
訊かれたことに答えるのが非常に苦痛らしく、額をぬぐったり、口のまわりを手の甲で(
涎
(
よだれ
)
でも出ているように)
擦
(
こす
)
ったりした。
赤ひげ診療譚:08 氷の下の芽
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
火鉢でじいじいと
炒
(
い
)
ためてくれるハムの味、
卵子
(
たまご
)
のむし方、
香
(
こう
)
のもの、思い出して
涎
(
よだれ
)
が出るのだから、よっぽど美味かったのに違いない。
朝御飯
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
絶えず
涎
(
よだれ
)
が垂れるので、畳んだ手拭で
腮
(
あご
)
を拭いている。顔位の狭い面積の処で、一部を強く引っ張れば、全体の形が変って来る。
カズイスチカ
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
「えへへへへへへ」お調子者の嘉平次は、上機嫌になりながら、そのだらしない口元から、落ちそうになる
涎
(
よだれ
)
を、左の手で幾度も拭った。
仇討三態
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
夥
(
おびたゞ
)
しい庭石や
石燈籠
(
いしどうろう
)
の
類
(
るゐ
)
を積んだ大きな荷車を、
逞
(
たく
)
ましい雄牛に曳かして來るのにも逢つた。牛の口からは、だら/\と
涎
(
よだれ
)
が流れてゐた。
東光院
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
緑樹のかげに
榻
(
とう
)
(こしかけ)を寄せて、麥酒の満をひく時、卓上に香魚の
塩焙
(
えんはい
)
があったなら涼風おのずから
涎
(
よだれ
)
の舌に湧くを覚えるであろう。
香魚の讃
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
「『朝に死し、夕べに生るるならひ、ただ水の泡にぞ似たりける……』と云ふのは……」先生の牛の
涎
(
よだれ
)
のやうな講義の聲はぱつたり止んだ。
猫又先生
(旧字旧仮名)
/
南部修太郎
(著)
涎
(
よだれ
)
が、金五郎の着ている、セルの
単衣
(
ひとえ
)
をつたって落ちる。なにをいっているのかわからないが、サクの名が、数度、呼ばれたようであった。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
へツ、親分の前だが、
糞
(
くそ
)
でも喰へと言ひたいくらゐのもので。二十一になつてニキビだらけで、頭でつかちの
涎
(
よだれ
)
くりですぜ。
銭形平次捕物控:289 美しき人質
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
こけた
頬
(
ほお
)
、
涎
(
よだれ
)
を流しているしまりのない
顎
(
あご
)
のあたり、三年まえきたとき見掛けたよりは、グッと衰弱しているのがわかった。
冬枯れ
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
あの親父さん、このごろ急にグルーシェンカに血道をあげて、あの女の顔を見ただけで、
涎
(
よだれ
)
をだらだら流してるじゃないか。
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
金物と云ってもやはり本物で、金は慶長小判、銀は二朱銀を用いていましたから、あの小判が一枚あればなぞと
涎
(
よだれ
)
を流して覗いているのもある。
半七捕物帳:65 夜叉神堂
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
コチートの悉く凍れるもこれによりてなりき、彼は六の
眼
(
まなこ
)
にて泣き、涙と血の
涎
(
よだれ
)
とは三の
頤
(
おとがひ
)
をつたひて
滴
(
したゝ
)
れり 五二—五四
神曲:01 地獄
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
「きみは、おおお面白いことを云う」帆村が口のあたりについている
涎
(
よだれ
)
らしいものを手の甲で
拭
(
ぬぐ
)
い
乍
(
なが
)
ら云うのであった。
西湖の屍人
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
しかもそのまん中には、髪をまん中から分けた若い男が、口を
開
(
あ
)
いて、
涎
(
よだれ
)
を垂らして、両手を
翼
(
つばさ
)
のように動かしながら、怪しげな踊を踊っていた。
路上
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
破れた扉に、赤い、白い
涎
(
よだれ
)
かけが、いくつも縛りつけてあったし、堂の中の石地蔵は頭の上にまで、それを乗せていた。
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
薔薇
(
ばら
)
の花は
頭
(
かしら
)
に咲て活人は絵となる世の中独り文章
而已
(
のみ
)
は
黴
(
かび
)
の生えた
陳奮翰
(
ちんぷんかん
)
の四角張りたるに
頬返
(
ほおがえ
)
しを附けかね又は舌足らずの
物言
(
ものいい
)
を学びて口に
涎
(
よだれ
)
を
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
「
涎
(
よだれ
)
くり
進上
(
しんじょう
)
、お
饅頭
(
まんじゅう
)
進上
(
しんじょう
)
」と、お美夜ちゃんは涎くりの手まねやら、お饅頭をこねたり、
餡
(
あん
)
をつめたり、ふかしたりの
仕草
(
しぐさ
)
、なかなかいそがしい。
丹下左膳:03 日光の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
「どうも、
失敗
(
しくじ
)
ってばかりいる」と、にんじんは
眩
(
つぶや
)
く——「それに
奴
(
やつ
)
らのきたねえ
涎
(
よだれ
)
で、こら、指がべたべたすらあ」
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
腰は二
重
(
え
)
に崩れ、
咳
(
せ
)
いたり痰を吐いたり、水
洟
(
ばな
)
をすすり上げたり、
涎
(
よだれ
)
を流したり老醜とはこのことかむしろ興冷めてしまったが、何れにしても怪しい。
猿飛佐助
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
水谷は頭に
腫物
(
おでき
)
の跡が
充満
(
いつぱい
)
ある、
何時
(
いつ
)
も口から
涎
(
よだれ
)
の伝はつて居る厭な厭な子でした。そして水谷は子供のくせに
千筋縞
(
せんすぢしま
)
の
双子織
(
ふたこおり
)
の着物を着て居ました。
私の生ひ立ち
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
中幕の両優を「天下無類、古今無類」といふ四字にて
済
(
すま
)
せ、片市と松助の
涎
(
よだれ
)
くりと三助とを評せしは大利口なり。
両座の「山門」評
(新字旧仮名)
/
三木竹二
(著)
なんとなれば万邦・万人、みな
涎
(
よだれ
)
を流し、
牙
(
きば
)
を磨し、みなその
呑噬
(
どんぜい
)
の機会をまつをもって少しく我に乗ずべき隙あらばたちまちその国体を
亡
(
うしな
)
うに至らん。
将来の日本:04 将来の日本
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
何も大路であるから不思議なことは無い。たまたま又非常に重げな
嵩高
(
かさだか
)
の荷を負うて
喘
(
あえ
)
ぎ喘ぎ大車の
軛
(
くびき
)
につながれて
涎
(
よだれ
)
を垂れ脚を
踏張
(
ふんば
)
って行く牛もあった。
連環記
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
そこの神社の境内の奥まったところに、赤い
涎
(
よだれ
)
かけをかけた石の牛が一ぴき
臥
(
ね
)
ていた。私はそのどこかメランコリックな
目
(
まな
)
ざしをした牛が大へん好きだった。
幼年時代
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
吉里はにやにや笑ッていて、それで笑いきれないようで、目を
坐
(
す
)
えて、体をふらふらさせて、口から
涎
(
よだれ
)
を
垂
(
た
)
らしそうにして、手の甲でたびたび口を拭いている。
今戸心中
(新字新仮名)
/
広津柳浪
(著)
そこに立つてゐるのは、間のぬけた顔をした男で、
涎
(
よだれ
)
をくり/\何か
他愛
(
たあい
)
もないことをいつてゐた。よく聞いてみると、
頤
(
おとがひ
)
がはづれて困つてゐるといふのだつた。
茶話:06 大正十一(一九二二)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
三田は唇の厚ぼつたい、舌が長過て
涎
(
よだれ
)
のたれさうな薄汚ないぢいさんの顏を思ひ出して胸が惡くなつた。
大阪の宿
(旧字旧仮名)
/
水上滝太郎
(著)
あやうく
涎
(
よだれ
)
が垂れそうになりはじめた頃、助手君は「先生」という。ぼくは、江上さんにつられて眼じりを下げていた顔を権威ある教授の顔になおしてふりかえる。
オフ・ア・ラ・コック・ファンタスティーク:――空想半熟卵――
(新字新仮名)
/
森於菟
(著)
彼はペンをとる手さえふるえだしたのみならず、
涎
(
よだれ
)
さえ流れ出した。〇・八のベロナールをつかいさめたのちは、はっきりしているのは僅か半時間か一時間だった。
二つの庭
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
其処此処に綺麗な花が飾ってある。ピアノを弾く人も来ていた。
乃公
(
おれ
)
はアイスクリーム、菓子、蜜柑、ジェリー、サイダ、サンドイッチ等の事を考えたら
涎
(
よだれ
)
が出た。
いたずら小僧日記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
とにかく安々と夜明まで寝て、眼が
覚
(
さ
)
めた時は、もう
居眠
(
いねぶ
)
りはしていなかった。通例のごとく身体全体を畳の上につけて長くなっていた。そうして
涎
(
よだれ
)
を垂れている。
坑夫
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
流れかかった
涎
(
よだれ
)
を慌てて吸い上げると、部長は赤く禿あがった額をてれくさそうに永いこと拭いた。
罠を跳び越える女
(新字新仮名)
/
矢田津世子
(著)
実枝は口の中で
呟
(
つぶや
)
き、この手紙のどこが重吉の食欲をそそったのであろうかと、も一度手にとって眺めてみた。笑いつかれて
涎
(
よだれ
)
を流している重吉に手拭をとってやり
暦
(新字新仮名)
/
壺井栄
(著)
パ、それより王の最愛の妾となり、三千寵幸一身に集まり、明けても暮れても王の
涎
(
よだれ
)
を受け続けた。
十二支考:10 猪に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
これが艶麗なる芸者でも連れて乗ったのなら、乗客が注目して、僕の艶福を羨むであろうが、縮れっ毛の坊主襟の愚妻を見て
涎
(
よだれ
)
を垂らす奴もないんだが、其処が人情だ。
空想としての新婚旅行
(新字新仮名)
/
正宗白鳥
(著)
民さんは昌さんとちがって、僕を見ると人なつこく寄ってきて、その小さな眼に何だか溶けるような笑いを見せて、いくらか
涎
(
よだれ
)
を吸い気味にいろんなことを話しかける。
石ころ路
(新字新仮名)
/
田畑修一郎
(著)
連
(
つれ
)
の
三
(
みつ
)
折合ずそれがため志しばかりで
左
(
さ
)
のみ長旅はせず繪圖の上へ
涎
(
よだれ
)
を垂して日を送りしが今度其の三ツ備はりたればいでや時を失ふべからず先づ木曾名所を探り
西京
(
さいきやう
)
大坂を
木曽道中記
(旧字旧仮名)
/
饗庭篁村
(著)
小さい口から
嘗
(
な
)
めかけの飴玉を取出して、
涎
(
よだれ
)
の糸をひいたまま自分の口に押し込んだりした。
老妓抄
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
けれども牛は金と銀の紙を
貼
(
は
)
られた角をによきつと立て、眠たそうな
眼
(
め
)
をパチ/\させ、長い
涎
(
よだれ
)
をくり/\、のつそりとそこへ立つてをりますが、疲れたやうではありません。
拾うた冠
(新字旧仮名)
/
宮原晃一郎
(著)
所在なくなったその子供は教卓に
凭
(
もた
)
れかかった。そこからしばらく、がくがくと動いている教師の顎を眺め、眺めているうちに彼のだらしない唇のすみからは
涎
(
よだれ
)
が垂れ落ちた。
白い壁
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
持物蕩楽なる金満家の主人にして若し小間物屋の店の者にでも見せたらば
斯
(
かゝ
)
る紳士を得意にし
度
(
た
)
しと必ず
涎
(
よだれ
)
を流すならん、
何故
(
なにゆえ
)
に
斯
(
かく
)
も立派に
出立
(
いでたち
)
しや、余は不審の思いを為し
血の文字
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
尾を股の間へしつかりと
挾
(
はさ
)
んで、耳を後へ引きつけ、その竹片に噛みついた口からは、白い牙を
露
(
あらは
)
して、
涎
(
よだれ
)
をたらたらと流しながら、彼の家の前の道をひた走りに走つて行く。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
目を奪われ、魂を盗まれた、二人の
破落戸
(
ならずもの
)
、一人の慾婆、そうした秘密を嗅ぎ分けることも、見わけることも出来ず、めいめいの
煩悩
(
ぼんのう
)
、慾念に、
涎
(
よだれ
)
も流さんばかりの浅間しさだ。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
“涎(
唾液
)”の解説
唾液(だえき、saliva)は、唾液腺から口腔内に分泌される分泌液である。水、電解質、粘液、多くの種類の酵素からなる。ヒトでは、正常なら1日に1-1.5リットル程度(安静時唾液で700-800ミリリットル程度)分泌される。成分の99.5%が水分であり、無機質と有機質が残りの約半分ずつを占める。とくに病的に分泌量の多い場合、流涎症(りゅうぜんしょう)ということがある。
(出典:Wikipedia)
涎
漢検1級
部首:⽔
10画
“涎”を含む語句
垂涎
竜涎香
涎掛
涎懸
涎垂
涎衣
龍涎香
唾涎
鼻涎
飢涎
風涎
血涎
羨涎
竜涎
涎食
涎臭
涎繰
涎液
涎流
大涎
...