なんじ)” の例文
改造だの青磁社だのまだ出来上らないサルトルの飜訳ほんやくのゲラずりだの原稿だの飛び上るような部厚な奴を届けてなんじあくまで読めという。
余はベンメイす (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
たちまち使いが都から博徳と陵の所に飛ぶ。李陵は少をもって衆を撃たんとわが前で広言したゆえ、なんじはこれと協力する必要はない。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その弾機を押すと、がくのうしろはふたのように開いた。その蓋の裏には「マリアナがなんじに命ず。生くる時も死せる時も——に忠実なれ」
の時に疾翔大力、爾迦夷るかいに告げていわく、あきらかに聴け諦に聴け。くこれを思念せよ。我今なんじに梟鵄諸の悪禽あくきん離苦りく解脱げだつの道を述べんと。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
七章十七、十八節の「人をいかなる者としてなんじこれを大にしこれを心に留め、朝ごとにこれをそなわし時わかずこれを試み給うや」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
しかも「なんじは下がれ」といったのはギリシア語だったではないか。隆夫がギリシア語を知っているとは今まで思ったこともなかった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「だまれッ。なんじらのようなとうすみとんぼ、百ぴきこようと千びきあつまろうと、この呂宋兵衛の目から見れば子供のいたずらだわ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちんは、もっとそれ以上いじょうのもの、永久えいきゅう平和へいわもとめているのじゃ。はやく、ちんいしになり、くさになり、なんじ魔法まほうでしてもらいたい。」
北海の白鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
人は「王女になんじの思いを通じたが汝を王女は嫌いと云った」と告げたにも拘らず田夫はいても王女に自分を認めさせようとした。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
なんじの悪は汝自ら言え。悪はおのずから消滅すべし。』……しかもわたしは利益のほかにも愛国心に燃え立っていたのですからね。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なんじ元来一本槍に生れ付いているんだから仕方がない。スッカリ良い気持になって到る処にメートルを上げていたのが不可いけなかった。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「我は復活よみがえりなり、生命いのちなり、我を信ずる者は死ぬとも生きん。およそ生きて我を信ずる者は、永遠とこしえに死なざるべし。なんじこれを信ずるか。」
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
大阪府下よりの報知に、「大木に鎌を打ち立て、『なんじ、余の瘧を落とさば鎌を去るべし、治せざれば切り倒すべし』と命令すれば治す」
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
譬えば新体詩なんぞになんじと書いてナと読ませてナのおもかげとかナの姿とか読ませる。文字を見ずにただ聞くとはなが幽霊になったようだ。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
この引用中「よ、我なんじの顔の前にわが使をつかわす、彼汝の道を設くべし」(一の二)というのは、実はイザヤの言葉ではありません。
隣邦の人よ、しばし待て、なんじに無礼するものはおのずから亡ぶというので、このことを無遠慮に詠じている。我輩はこれを読んで非常に驚いた。
真の愛国心 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
... 忖度そんたくす。なんじの心底こそいやしむべし。』愚僧また問ふ—『さらば既に苦患なし、何とて貴国に宗教はあるぞ?』フルコム答へて—
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
この手紙を開きよみていわく、これを持ち行かばなんじの身に大なるわざわいあるべし。書きえて取らすべしとて更に別の手紙を与えたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私が生き残り、なんじが唯ひとり死んでゆくとしても、もし汝の死が一般的なものでないならば、私は汝の死において孤独を感じないであろう。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
呪詛のろいの杉より流れししずくよ、いざなんじちかいを忘れず、のあたり、しるしを見せよ、らば、」と言つて、取直とりなおして、お辻の髪の根に口を望ませ
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
作曲家、演奏家、管絃楽長、歌手、それからなんじ親愛なる聴衆、君らに一度は自己の姿を知らしてやろう。……君らはなんであろうと勝手だ。
すなわ殿騰戸あみおかのくみとより出で迎えます時、伊邪奈岐命いざなぎのみこと語りたまはく、愛しき我那邇妹命わがなにものみことわれなんじと作れりし国未だ作りおわらず、れ還りたまふべしと。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
例えば僕が、詩は音律要素を重視せねばならないと説くに対し、多くの意外な挑戦者等が、否、なんじの言うところは誤っている。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
歌劇の一枚物は旧盤時代の歌手の方が良いと思うが、しかしビヨルリンクの「なんじが小さき手」(ビクター愛好家協会第三集)などは傑作だ。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
その時かれは「なんじ、幼き第二の国民よ、国家の将来はかかってなんじらの双肩そうけんにあるのである。健在なれ、汝ら幼き第二の国民よ」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
二人は徳慶侯とくけいこう廖権りょうけんの子なり。孝孺怒って曰く、なんじ予に従って幾年の書を読み、かえって義の何たるを知らざるやと。二人説くあたわずしてむ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
『月光をしてなんじ逍遙しょうようを照らさしめ』、自分は夜となく朝となく山となく野となくほとんど一年の歳月を逍遙に暮らした。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
すれたものか文字のあとが微かに残っているばかりである。「なんじが祖ウィリアムはこの盾を北の国の巨人に得たり。……」
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
現代立法の不備——なんじが頭痛を覚えたのは、畢竟ひっきょうわれ等が、あまりに多量の力を用い、しかもそれが、あまりに急激に行われたことに基因する。
僕の恐怖感もこの点に発している。言説をもって解明出来ぬ。深淵しんえんを長くうかがえば、深淵もまたなんじを窺うであろうということが恐ろしいのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
古いシナ人の言葉で「艱難かんなんなんじを玉にす」といったような言い草があったようであるが、これは進化論以前のものである。
災難雑考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ああ、不幸な夢想者よ、なんじを閉じこめている三ピエの厚みの壁をまず破って出てみるがいい。死だ、死があるばかりだ!
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
故に我々は神に対することによって人格であり、而してまた神を媒介とすることによって私はなんじに対し、人格は人格に対するということでもある。
絶対矛盾的自己同一 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
なんじ可憐なる意気地なき、心臓の鼓動しやすき、下腹のへこみやすき青年文士よ、なんじの生るる事百年ばかり早過ぎたり
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
斯くて師は町奉行所に至りしに当時の奉行池田播磨守召出してなんじは水戸さきの中納言殿より月扶持を贈らるゝ由、彼の君の事を憂ひ申すやいかにと問ふ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なんじも立派な武士さむらいだから逃隠にげかくれはいたすまい、なんの遺恨あって父織江を殺害せつがいして屋敷を出た、ことに当家の娘と不義をいたせしは確かに証拠あって知る
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
もし僕がなんじわれにあたえよと申し出すことを、彼女もないない待ち受けているならば、彼女はあらかじめそれを承諾しそうな気色を示すべきはずである。
「……身につけている蛮衣はなんだ、螺髪らほつとはなんだ、眉間みけん白毫びゃくごうとはそもそもなんだ、なんじはいずれの辺土から来た頓愚だ、云え、仏とはそもなに者か」
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
なんじ自身の如く隣人を愛せよ」といったのは彼ではなかったか。彼は確かに自己を愛するその法悦をしみじみと知っていた最上一人ということが出来る。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
俊寛 (月をにらみつつ)いかに月天子げってんしなんじの照らすこの世界をわしはのろうぞよ。汝の偶たる日輪にちりんをも呪うぞよ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
こりゃ六兵衛、なんじ盗人ぬすっとでない証拠しょうこを見せるために、の手のひらに書いた文字を当ててみよ。うまくはんじ当てたならば、のぞみ通りの褒美ほうびをとらせよう。
とんまの六兵衛 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
なんじわが若き日のたけき友よ、かくてわれらなお再び結ばれたり……しかし詩はそれきりで終わってしまった。それは完成しなかった。渾然とはならなかった。
僕は、かのブルタスのごとく誇らかに叫ぶことができる——「おお美徳よ、なんじはただ一つの名に過ぎず!」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
『ほんの少し待っていて下さらない?』と、う夫人の言葉を聴くと、『なんじ妖婦ようふよ!』と、心の中で叫んでいた信一郎の決心も、またグラ/\と揺ごうとした。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
なんじごとき畜生道の言葉をあやつるやつは、なぐるよりほかに手の施しようがないのだ。張り手を受けろ。」
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
なんじらは決して我が死をなげくに及ばぬ、我が業力ごうりきここに尽きて今日めでたく往生するのは取りも直さずわが悪因業あくいんごうここに消滅して今日より善因業を生ずるのである。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
なんじの熱心にでて以後はわらわが教えて取らせん、汝余暇よかあらば常に妾を師と頼みて稽古を励むべしと云い
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
... せおって! 人に怨みがあるものかないものか! 見よ、見よ、ここ三代が間になんじの屋敷にぺんぺん草を生やしてくれん!』『ええ、やかましいやい、ソレ、もっと薪を ...
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
正義の為に富豪を罰する我が団体の名を断りなくかたりて、私欲の為に肉身をあざむく、その罪大なり。すみやかなんじの得たる金を差出せ、然らずんば我等は暴力をって汝に臨まん。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
弱きものよなんじの名は女なり、しょせんは世に汚れた私でございます。美しい男はないものか……。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)