権幕けんまく)” の例文
旧字:權幕
引掻ひつかきさうな権幕けんまくをするから、吃驚びつくりして飛退とびのかうとすると、前足まへあしでつかまへた、はなさないからちかられて引張ひつぱつたはづみであつた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そのころのおすみは十八の若さであったが、侍の前に出て、すごい権幕けんまくをもおそれずにきっぱりと断わった。先方はおこるまいことか。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いくら主人の娘でも無暗むやみに奉公人を殺して済むかというような、ひどい権幕けんまくの掛け合いに、主人方でも持て余して居ります。
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かれ詮方せんかたなくおやすみなさい、とか、左様さようなら、とかってようとすれば、『勝手かってにしやがれ。』と怒鳴どなける権幕けんまく
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
とんだ所へお泊りなすったと云うと、旦那が権幕けんまくを変えて、駈け出しておでなさったが、それ切りお帰りなさらないかえ
妾は非常な権幕けんまくで、二階へ上がってきたのだが、あんまり思いがけない言葉をきいたので拍子抜けがして、予定のプログラムが滅茶めちゃ々々になった。
ひどい権幕けんまくで頭と言わず身体からだと言わずぶん擲ぐられるもんですから、中には頭を割り血を吐く奴もあれば、甚しきは殺される奴も折々はあるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ここにちょっと敵の策略について一言いちげんする必要がある、敵は主人が昨日きのう権幕けんまくを見てこの様子では今日も必ず自身で出馬するに相違ないと察した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おとこ権幕けんまくおそろしかったので、三にん石段いしだんはなれてあるしました。あには、じっとおとこかおいてていました。
石段に鉄管 (新字新仮名) / 小川未明(著)
暴力か? あの権幕けんまくでは、腕ずくで、持ってゆくかもしれない。暴力ならば、たとえ金がなくても実行ができるのだ。
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、そのおとなしい上等兵が、この時だけはどう云うわけか、急にみつきそうな権幕けんまくを見せた。そうして酒臭い相手の顔へ、悪辣あくらつな返答をほうりつけた。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
女房思いで気の弱い伊助が、途方に暮れておろおろしているところへ、間もなく、小間物屋亀安の番頭が、頭から湯気を立てて、えら権幕けんまくで乗り込んで来た。
ひげモジャの職工服と、全裸の美青年とが、互いの腕をつかみ合いながら、恐ろしい権幕けんまくでにらみ合った。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
手塚は光一の権幕けんまくにおそれてしぶしぶ席を立った。ふたりは外へでた。と向こうのくだもの屋の前で彰義隊しょうぎたいがひとりの学生と話をしていた。光一はハッと思った。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
たといこれを拒絶きょぜつするも真実しんじつ国と国との開戦かいせんいたらざるは請合うけあいなりとてしきりに拒絶論きょぜつろんとなえたれども、幕府の当局者は彼の権幕けんまく恐怖きょうふしてただち償金しょうきんはらわたしたり。
ただ立ちどまって棒を構えた米友の権幕けんまくを見ると、それは冗談でないことがわかるのであります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私とても一々弟子たちのことを監視しているわけでもないが、時に触れ、こういうことをしばしば見受ける。どうも米原氏は権幕けんまくが違う。仕事に取っ附き方がひとと異っている。
近所の女が、たまたま、彼をつといっておどしたことがある。ルピック夫人が駈けつける。えらい権幕けんまくだ。息子むすこは、恩を感じ、もう、顔を輝かしている。やっと連れ戻される。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
店では、女が恐ろしい権幕けんまくで仙吉に何か食ってかかっているところだった。次郎はしかし、それには頓着せず、上酒の甕の蓋をとって、汲桶の水をその中にざあざあ流しこんだ。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
叔父は米の権幕けんまくがすごいので、こんな時に云ってもいけないと思ったので、其の日はもう何も云わないで帰って、日をあらためて往ったが、米は不知をきって頭から対手あいてにしなかった。
寄席の没落 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
最初のえらい権幕けんまくは何処へやら、どじょう髯は、猫のように、態度をあらためて
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あまりの権幕けんまくにお末は実を吐いて、嘗める仮為まねをしたんだと云つた。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
彼等は何も知らずに、何時いつものように、白い歯をむき出しながら、お前たちをからかいに来た。お前の兄たちがだしぬけに窓をあけて、恐ろしい権幕けんまくで、彼等を呶鳴どなりつけた。私もその真似まねをした。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
数間かずまじいやの権幕けんまくったらたいへんなものでした。
母の権幕けんまくに怖れて私は決心した。
「——切下げ髪にして、黒いはかま穿いてネ。突然いきなり入って来たかと思うと、説教を始めました。恐しい権幕けんまくでお雪を責めて行きましたッけ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鈍痴漢とんちんかんの、薄鈍うすのろ奴等やつらくすり糸瓜へちまもあるものか、馬鹿ばかな、軽挙かるはずみな!』ハバトフと郵便局長ゆうびんきょくちょうとは、この権幕けんまく辟易へきえきして戸口とぐちほう狼狽まごまごく。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
武田たけだは、先生せんせい権幕けんまくこうしがたいとると、自分じぶんからせきて、先生せんせいのいられる教壇きょうだんまえへきてちました。先生せんせい
白い雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「寒月が何かその御令嬢に恋着れんちゃくしたというような事でもありますか」あるなら云って見ろと云う権幕けんまくで主人はり返る。「まあ、そんな見当けんとうでしょうね」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と云う文治の権幕けんまくを見ると、平常へいぜいごく柔和の顔が、いかり満面にあらわれて身の毛のよだつ程怖い顔になりました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それが雷師匠に輪をかけたかとも思われるほど凄まじい権幕けんまくであるので、お豊は又びっくりした。
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「まだ雑言ぞうごんをやめ居らぬか。」と、恐ろしい権幕けんまくで罵りながら、矢庭やにわ沙門しゃもんへとびかかりました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お銀様の権幕けんまくすごくなりました。その釣り上った眼の中から憎悪ぞうおの光がほとばしるように見えました。
お千は杜の権幕けんまくおどろいて、命令に服従した。そして邸跡にトタン板を探しはじめた。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と云う綽名さえある位で、おどしても、すかしても、又、なぐ権幕けんまくを見せても
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
倭文子はもう、この老人と取組み合いでもしかねまじき権幕けんまくだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すると、ジャアク先生は、すごい権幕けんまくで、僕にあてました——
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
そりゃ、あなた、日本の国情がどうあろうと、こっちの言い分が通るまでは動かないというふうに——槓杆てこでも動かないいわのような権幕けんまくで。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「大変な権幕けんまくだね。君、大丈夫かい。十把一とからげをほうり込まないうちに、君が飛び込んじゃいけないぜ」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
頭から一喝した仁王のような門番が取って食いそうな権幕けんまくですから、忠作は怖ろしくなって飛び出しながら、黒塗の堂々たる大門を見上げると、正面三カ所にくつわの紋があります。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
兄の権幕けんまくがあまり激しいので、お道もさすがに途方に暮れたらしく、そんなら申しますと泣いてあやまった。それから彼女が泣きながら訴えるのを聞くと、松村はまた驚かされた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何だっても此の野郎が申分ねえなんて先刻さっき権幕けんまくはなんだ、今にも打斬ぶっきるべえとしやがって、何うもはアわしア勘弁したくってもつれの鹿の八どんに済まねえから、矢張やっぱり出る処へ出ますべえ
そのとききっと「当社ではそのような規程きていがありません。そういうことを要求される作家にはこっちからお断りします」などと、当初原稿料をねぎったことも忘れて、大変な権幕けんまくで返事をよこす。
この権幕けんまくにおそれて、きみさんは、げていってしまいました。
僕たちは愛するけれど (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは実際常談さえうっかり言われない権幕けんまくに違いなかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ですが、それはおどかしです。わざと作って見せた権幕けんまくです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あなたくらい冷酷な人はありはしないと非常な権幕けんまくなんで、僕もせっかくの計画の腰を折られてしまった。君等にも弁解するが僕の英語は決して悪意で使った訳じゃない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
唯お婆さんのはげしい権幕けんまくで言ったことが何事なんにも知らずに出掛けて行った捨吉を驚かした。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
検視の役人は米友の訊問を打捨てて、弁信の糺問きゅうもんにとりかかろうとします。お蝶は傍でハラハラするけれども、盲目の悲しさに、弁信は一向、役人の権幕けんまくを見て取ることができずに
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
って変った文治郎の権幕けんまくは、肝に響いて、流石さすがの國藏もびっくり致しましたが
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)