もっ)” の例文
ふもとの村へもって行ってこの笛を吹くのだ。雪が降って外へ遊びに出られなくても、この笛があれば、吹いて楽しく家で遊んでいられる。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこへ久し振りに、今井から端書はがきが来て、僕は初めて細君の死去を知った。「伊東で火葬にして、遺骨は故郷へもって帰って埋葬する」
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
かえって口きゝ玉うにも物柔かく、御手水おちょうず温湯ぬるゆ椽側えんがわもって参り、楊枝ようじの房少しむしりて塩一小皿ひとこざらと共に塗盆ぬりぼんいだ僅計わずかばかりの事をさえ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
れがその交際つきあい朋友ほういう互に交って遊ぶ小供遊こどもあそびあいだにも、ちゃんと門閥と云うものをもっ横風おうふう至極しごくだから、小供心に腹がたって堪らぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それで泡立てるには深い鉢へ白身を入れてこういう風に棒の頭をもって手で押付けたり上げたり根気よく幾度も同じ事をしているのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
漱石氏はまた『ホトトギス』を今少し機関の備わった堂々とした雑誌にして発行したらよかろうという考をもっていたのであった。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
私はふくつらをして容易にたない。すると、最終しまいには渋々会いはするが、後で金をもってかれたといって、三日も沸々ぶつぶつ言ってる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
(三)ナニ僕より角の多いやつがおる。馬鹿いいたもうな。およそ世界わ広しといえども、僕より余計に角をもった奴わないはずだ。
三角と四角 (その他) / 巌谷小波(著)
生首を二つもって通るのだから驚きます。中には殿様へ訴える者もありました。孝助はすぐに五郎三郎の所へ行って敵を討った次第をのべ、こと
「此頃は江戸菊えどぎくが大変よくさいているのよ、江戸菊をもって来ましょうねエ。」とお富は首をちょっとかしげてニコリと笑って。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
さあ、今書いたこの手紙を貴公等の親方、プラスビイユ君の所へもって行くんだ。オイ、クレマンスや、ポロニャス殿を玄関まで御送り申上げろ。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
最後には、どの様な恐ろしい目にあわせてやるか、それは細い点までも、ちゃんと計画が出来上っていたが、直様すぐさまそこへもって行ったのでは、余りにあっけない。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
幾許いくらもってるんだい。」と惣吉は不思議そうな顔をした。「そんなら餡麪麭あんパンを買ってこいよ。」
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
奈何いかなる事情わけ訊問たずねしに、昨夜廿一二にじゅういちにのこうこう云う当家こなたのお弟子が見えて、翌日あす仏事があるから十五軒前折詰おりづめにして、もって来てくれとあつらえられましたと話され、家内中顔を見合せて驚き
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
ドバなら知て居る仏英の間の海峡(谷)困るなア冗談じゃ無いぜ賭場とは賭博場ばくちばだアネ(大)成るほど賭場は博奕場ばくちばか夫なら博奕場の喧嘩だネ(谷)爾サ博奕場の喧嘩で殺されたのよ博奕場だから誰も財布の外は何ももって行ぬがサア喧嘩と云えばすぐに自分の前に在る金を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
吉太は黒い鳥をもったまま、考え込んだ。遠いものを追うような眼付をした。いつしか両眼からは熱い涙が湧き出て、涙は彼の頬に流れた。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
兄の家来が一人ひとりあるその家来に、只の枕をして見たいからもって来いといったが、枕がない、どんなにさがしてもないと云うので、不図ふと思付おもいついた。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
お登和嬢「ハイ出来ますとも、アイスクリームといえばモー出来ていますからもって参ります。大原さん、今度こそ本当のアイスクリームですよ」
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
お秀の父は東京府とうきょうふに勤めて三十五円ばかり取って居て夫婦の間にお秀を長女かしらとしておうめ源三郎げんざぶろうの三人の児をもって、左まで不自由なく暮らしていた。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
日曜日は近頃に無い天下晴れ、風も穏かでちりたず、暦をくって見れば、旧暦で菊月初旬きくづきはじめという十一月二日の事ゆえ、物観遊山ものみゆさんにはもって来いと云う日和ひより
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
金兵衞も清左衞門も之を聞くと等しく慌てゝ茶椀と箸をもったなりで戸外おもてへ飛出したから見物人は驚きました。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なる程、われ正直にすぎおろかなりし、おたつ女菩薩にょぼさつと思いしは第一のあやまり、折疵おれきずを隠して刀にはを彫るものあり、根性が腐って虚言うそ美しく、田原がもって来た手紙にも
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ハッとして、振り向くと、それは、一人の女中が、今届いたらしい封書をもって来たのだった。
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大いに面目を失いましたが、しかし心のうちでわ、まだ負惜しみという奴があって、おのれ生意気な画板め、余計な角をもって来やがって、よくも乃公おれに赤恥をかかせやがったな。
三角と四角 (その他) / 巌谷小波(著)
数分後御目見えに出て来た料理女は信用の出来る立派な身元証明書をもっていた。相当な年齢としのなかなか元気ものらしく、家事の仕事は人手を借らずにどんな事でも遣ってけると云う。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
必然きっと餓鬼がきたのだ何か食うとぐ治ると云って、もっている饅頭まんじゅうれた、僧はよろこんで一ツくったが、奈何いかにも不思議、気分が平常に復してサッサッと歩いて無事に登山が出来たと話した事があった
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
長さが一尺ばかりだから男でもチョン髷にいって居る髪の毛は是だけのたけは有るが今時の事だから男は縮毛ならかって仕舞うからないのは幾等いくらか髪の毛自慢の心が有る奴だ男で縮れっ毛のチョン髷と云うのは無い(大)爾々そう/\縮れッ毛は殊に散髪にもって来いだから縮れッ毛なら必ず剪て仕舞う本統に君の目は凄いネ(谷)爾すれば是は
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
一切万物売るより外なしと考えて、いささか頼みがあると云うのは、私の父は学者であったから、藩中では中々蔵書をもって居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
夜が明けますと太郎と二郎と二人して、弁当を腰に下げて、杖をもって、草鞋わらじ穿いて、同じ、扮粧いでたちで出掛たのであります。
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それに第一誠実で、親切な心があって無邪気で物堅いから良人おっともっては女の幸福だね。才子肌さいしはだの人や豪傑気取ごうけつきどりの人物は決して幸福な良人でない。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「あア、明日あすいでになる時、お花を少しもって来て下さいませんか、何んでも宜いの。仏様にあげたいから」
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
其の時お内儀さんが此金これをと云って下すったから、ソックリお前のとこもって来てやったら、お前が気の毒がって、以来はモウ横山町の横と云う字にも足は踏かけめえと云って
新聞一枚に堅き約束を反故ほごとなして怒り玉うかとかこたれて見れば無理ならねど、子爵のもとゆきてより手紙はわずかに田原が一度もっきたりしばかり、此方こなたからりし度々の消息、はじめは親子再会のいわい
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
といって、とても薬なんかもっていないということを知りぬいているから、どういう返事をするか聞きたかった。婆さんは、少しも顔のそうを変えなかった。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
... もっていて食べると中毒する。五月でなくっても悪水の注ぐ水で発生した牡蠣は往々中毒する。下水の流れ込むような処で取ったのは食うべからずだね」客
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
井上博士は横浜にも一ヶ所事務所をもって居ましたが、僕は二十五の春、この事務所に詰めることとなり、名は井上の部下であってもその実は僕が独立でやるのと同じことでした。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
まア和尚さんきゝになって下せえまし、お嬢様は粂どんに逢いてえ一心から、莫大ばくでえ金子かねもって家出をしたから、大方泥坊にけられて途中でるの遣らねえのといったもんだから
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
... 今に君が家でももったら妹に命じて君の御妻君ごさいくんに教えて進ぜよう」大原は失望の気味「イヤそれは少しお門違かどちがい、僕は御令妹の調理された者をたべたいのが志願だね」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
小さなかねを鳴らして、片手に黒塗の椀をもって、戸毎こごと、戸毎に立って、経を唱え托鉢をして歩いた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
其お信が高橋梅であるということは、だれも知らないのです。僕も証拠はもっません。けれども老僧がお信のことを語る中に早くも僕は今の養母がすなわちそれであることを確信したのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
と礼を云いながら心のうちで大層金子かねもって居やアがるとう思いました。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
先ず自分から人たるのつとめを実行しておいて他人の事をも言ねばならん。実行の人は常に愉快の心をもっておられるが不実行の人は多く不平や怨嗟えんさの声を発するようだね。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
と老人は独言ひとりごとをいって、籠を柱からはずすと、大事に捧げて、自分等がふせる居間にもって行く。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
『お前は何を考がえて居るのだ。もって生れた気象なら致方しかたもないが、乃父おれはお前のような気象は大嫌だいきらいだ、最少もすこ確固しっかりしろ。』と真面目まじめの顔で言いますから、僕は顔も上げ得ないで黙って居ました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
私は、たもとでその沸えたぎっている煎薬の土瓶を下して、周蔵の言うがままにそれを茶碗に移して枕許にもっいってやると、彼はむくりと起き上って、熱いやつをぷうぷうと吹き出した。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)