所望しょもう)” の例文
あまつさえ「物惜しみをするな」とまで云われたのがぐっと答えて、左大臣が所望しょもうとあらば、どんな物でも差出す料簡りょうけんになったのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
マーキュ 猫王ねこまたどの、九箇こゝのつあるといふ足下おぬしいのちたッたひとつだけ所望しょもうしたいが、其後そののち擧動次第しこなししだいのこ八箇やッつたゝみじくまいものでもない。
こう覚悟をきめてみると、ここに悠々としている必要はない、例の宝蔵院の槍のことも、この場合、っての所望しょもうでもないのですから。
「折から差しかゝったお寺へ寄って水を一杯所望しょもうした。奴、しこれをやらなかったら、アメリカ発見が出来ずにしまったろうというのさ」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
だがなおよく考えると、喜劇きげき所望しょもうしてくれなかったことは結局けっきょくありがたかった。なぜといって、どうそれをやるかくふうがつかなかった。
されば如何いかにもして汝をば罪に落さず、敵と名告り討たれたいと思いし折から、相川より汝を養子にしたいとの所望しょもうに任せ、養子につかわし
所望しょもうなら名前までいうことが出来ます。……加代姫が帰ったあとでここへやって来ましたのはね、和泉守の小小姓で三枝数馬という男です。
「ほほう、物が欲しい。」吉良は、にこにこして、「子供よのう。必ずともに寵愛いたす——との証拠しるしにな。面白いぞ。して何が所望しょもうじゃ。」
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
木之助は始め辞退したが、あまり勧められるので立派な座敷にあがり、そこで所望しょもうされるままに、五つ六つの曲をいた。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そして訪問の口実として一杯の水を所望しょもうした。わたしは、自分は池で水を飲んでいる、と答え、その方を指さし、柄杓ひしゃくを貸してあげようといった。
すると虚子が近来つづみを習っているという話しを始めた。謡のうの字も知らない連中が、一つ打って御覧なさい、是非御聞かせなさいと所望しょもうしている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そうか、それほどまでに所望しょもうなら代えてやろうか、じゃが、五両出して妖怪ばけものの首を欲しがる奴は、天下広しといえども貴様だけだろうよ、自由かってにせい」
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
れからいよ/\巴里に着して、先方から接待員が迎いに出て来ると、一応の挨拶終りて此方こっちよりの所望しょもうは、随行員も多勢たぜいなり荷物も多いことゆえ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
十勝の山奥に来て薩摩琵琶とは、思いかけぬ豪興ごうきょうである。弾手ひきて林学士りんがくしが部下の塩田君しおだくん鹿児島かごしま壮士そうし。何をと問われて、取りあえず「城山しろやま」を所望しょもうする。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
世間には来賓祝辞を所望しょもうされる機会が来るのを一つの楽しみにして、学校の卒業式などにのぞむ人も少なくはないが、それにしては人がらが少し変わりすぎている。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
所望しょもういたしてよろしいものなら、なにとぞ、一念発起の心根をあわれみ、塵労じんろう断ちがたい鈍根の青道心にいたわりを寄せ給いて、浮世の風が解脱の障礙とならぬよう
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
榛軒は辺幅へんぷくおさめなかった。渋江の家をうに、踊りつつ玄関からって、居間の戸の外から声を掛けた。自らうなぎあつらえて置いて来て、かゆ所望しょもうすることもあった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
更に自分にも一服との所望しょもうありしかば、しょう覚束おぼつかなき平手ひらてまえを立ておわりぬ。貧家ひんかにこそ生い立ちたれ、母上の慈悲にて、いささかながらかかるわざをも習い覚えしなりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
音枝に熱い茶を所望しょもうしておいて、安江は文吉と向いあってすわりながら、つとめて何気なく
雑居家族 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「……おう、筑州どの。ひとつその男につかわされい。——甥めが、お杯を所望しょもうと申しおる」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
されば、名にしおはゞの歌につけて、都鳥の所望しょもうにも、一つはつたものと思つてい。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そして所望しょもうされるままに曾根崎そねざき新地しんちのお茶屋へおちょぼ(芸者の下地したじ)にやった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
馬のき声を所望しょもうされて、牛の鳴くまねと間違えて勇におこられ、うちじゅうを笑わせた。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかるに日本人が西洋料理を食べる時にはわざわざ独得の技術を捨てて調法な箸を使わずに不便なフークを使うのはその意を得ない。僕は折々西洋料理屋へって箸を所望しょもうするよ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その仕合には、越中守綱利えっちゅうのかみつなとし自身も、老職一同と共に臨んでいたが、余り甚太夫の槍が見事なので、さらに剣術の仕合をも所望しょもうした。甚太夫は竹刀しないって、また三人の侍を打ち据えた。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
○余が所望しょもうしたる南岳なんがく艸花画巻そうかえまきは今は余の物となつて、枕元に置かれて居る。朝に夕に、日に幾度となくあけては、見るのが何よりの楽しみで、ために命の延びるやうな心地がする。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
その方はどうじゃな。別してねじ切った奴が所望かな、それとも薄いが所望しょもうかな
所望しょもうして打ってもらうという例さえまれにはあった。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
五郎は所望しょもうして、また味わってみた。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
と、弟子入でしいりを所望しょもうするのでした。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
濃くれし緑茶を所望しょもう梅雨つゆ眠し
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
お母さんと妹の清子さんと女中の三人暮らしで男切れがないから、私はむし所望しょもうされて留守居役を引き受けているのである。
恩師 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
今宵はお客様のっての所望しょもうで二度まで間の山節をうたい返した上、その因由いわれなどを知っている限り話させられたので、これほどおそくなろうとは思わなかった
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一手所望しょもうだ……という男の声は、さんをみだした闘場において、確かなひびきをもって栄三郎の耳をうった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
我輩わがはいはこの一段に至りて、勝氏のわたくしめにははなはだ気の毒なる次第しだいなれども、いささ所望しょもうすじなきを得ず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いつも不意に所望しょもうせられるので、身を放さずに持っている笛である。夜はしだいにふけて行く。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しばしば諸侯から所望しょもうされたほどの名誉のものどもで、毎年十月十五日の紀州侯の誕生日には、おなじく御休息ごきゅうそく染岡そめおかの腰元と武芸の試合を御覧にいれることになっているが
「そしてなお申すには。——いつかまた、きっと尊氏の命を狙うぞ、目的をとげるまでは、所望しょもうしてやむまいと、太々ふてぶてしくも言い払い、どこへやら姿をかくし去ってござりまする」
しかも今度の縁談は先方からっての所望しょもうだと云う事、校長自身が進んで媒酌ばいしゃくの労をる以上、悪評などが立つわれのないと云う事、そのほか日頃私の希望している東京遊学のごときも
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
細面ほそおもてきれいな女でした、その女が、下谷したやに住んでいる旗本はたもとの三男に見染みそめられて、たってと所望しょもうされて、そこに嫁に往ったところが、その男がすぐやまいで亡くなったので、我家うちへ帰って来ているうちに
鼓の音 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お絹は叔母に所望しょもうされて与えしなり。
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「いいや。悪事千里を走る。ぜんなんぞ門をでざらんやです。そこで今回ご三男様なんさまのお相手にきみのところの末のお子さんをご所望しょもうなさるのです」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
すなわちこれ我輩わがはいが榎本氏の出処しゅっしょ所望しょもうの一点にして、ひとり氏の一身のめのみにあらず、国家百年のはかりごとにおいて士風消長しょうちょうめに軽々けいけい看過かんかすべからざるところのものなり。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
って生れた美貌びぼうが仇となり、無頼漢同様な、さる旗下の次男に所望しょもうされて、嫌がる彼女を金銭かねで転んだ親類たちが取って押さえて、無理往生に輿入れさせようというある日の朝
ひとみの門前婆さんのことだから、筆墨を所望しょもうされたら、狼狽してほこりの溜ったのを吹き吹き、申しわけをしながら、やっと取り出さないまでも、こんなに念の入ったのを出されようとは案外で
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「どこかないか。湯漬ゆづけなと所望しょもうするところは」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「君が所望しょもうしたからさ。ロマンスといえば、これぐらいのものさ。僕のことだから、何うせ荒い」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
また或は各地の固有に有余ゆうよ不足ふそくあらんには互にこれを交易こうえきするもなり。すなわち天与てんよ恩恵おんけいにして、たがやして食い、製造して用い、交易こうえきして便利を達す。人生の所望しょもうこの外にあるべからず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「しからば再勝負を所望しょもうする」
「出淵氏、所望しょもうじゃのう」
(新字新仮名) / 吉川英治(著)