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怯
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おび
ふりがな文庫
“
怯
(
おび
)” の例文
橋場今戸の仮宅から元地へ帰ってまだ間もない
廓
(
くるわ
)
の人びとは、去年のおそろしい夢におそわれながら
怯
(
おび
)
えた心持ちで一夜を明かした。
箕輪心中
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
今
(
いま
)
まで
流
(
なが
)
し
元
(
もと
)
で
頻
(
しき
)
りに
鳴
(
な
)
いていた
虫
(
むし
)
の
音
(
ね
)
が、
絶
(
た
)
えがちに
細
(
ほそ
)
ったのは、
雨戸
(
あまど
)
から
差
(
さ
)
す
陽
(
ひ
)
の
光
(
ひか
)
りに、おのずと
怯
(
おび
)
えてしまったに
相違
(
そうい
)
ない。
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
ただ漠然と愛の誓ひを信じ、そして、漠然と幻滅の予感に
怯
(
おび
)
えてゐる自分を、もうこれ以上甘やかしてはゐられないといふ気がする。
双面神
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
捉
(
つか
)
まりはしないか、という不安に絶えず
怯
(
おび
)
えていたように、自分もまた世間の眼から隠れ、人にみつかるのを恐れながら暮して来た。
樅ノ木は残った:03 第三部
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
一人でいいのです……一人でいいのです……けれども一人でいるのなら暇を欲しいと、それ以来、看護婦が
怯
(
おび
)
え切っていますので……
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
▼ もっと見る
と、この時行く手にあたって、一つの人影が現われたが、これも何物かに
怯
(
おび
)
やかされたかのように、
奔牛
(
ほんぎゅう
)
のような速さで走って来た。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
ひらっと、人影は、縁を
跳
(
と
)
び下りた。するとどこかで彼の思わざる女の悲鳴がした。彼は
怯
(
おび
)
えにふかれ、泳ぐがごとく逃げに逃げた。
私本太平記:09 建武らくがき帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
釜屋の家族や奉公人達は、すつかり
怯
(
おび
)
えて遠くの方から眼を光らすだけ。その重つ苦しい空氣の中を、瀧五郎は、平次を案内しました。
銭形平次捕物控:155 仏像の膝
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
そばには小間使が立って、
怯
(
おび
)
え切った途方に暮れた顔をしている。私は小間使を退らせて、書類を机に重ね、暫く思案してから言った。
妻
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
何かと絶えず生の不安に
怯
(
おび
)
やかされている私のもう一つの姿は、私が自分勝手に作り上げている架空の姿に過ぎないのではないか。
菜穂子
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
私
(
てまい
)
がその顔の色と、
怯
(
おび
)
えた様子とてはなかったそうでございましてな。……お社前の火事見物が、
一雪崩
(
ひとなだれ
)
になって
遁
(
に
)
げ
下
(
お
)
りました。
眉かくしの霊
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
「それが外なのさ。あの四人は、確かに
怯
(
おび
)
えきっているんだ。もしあれが芝居でさえなければ、僕の想像と符合するところがある」
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
盲になつた馬は、
附近
(
あたり
)
が見えないから、今までのやうに物に
怯
(
おび
)
えて跳ねたり、飛んだりするやうな事は、まるで無くなつてしまふ。
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
顧みて怖れ
怯
(
おび
)
ゆるものを持たぬ背景があるとき、凡人といえども自らかかる毅然たる態度を維持することが出来易いと僕は思う。
青春論
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
藥でも
注
(
さ
)
されたらしく、物に
怯
(
おび
)
えたやうに、
逆
(
のぼ
)
せるばかりに泣き立てる赤ん坊をすかしながら、外の方へ出て行くものもあつた。
赤い鳥
(旧字旧仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
自分の気が
焦
(
あせ
)
るのではない、駕籠かきそのものが、この空気に
怯
(
おび
)
えて、そうして、おのずから早駕籠になってしまうのでしょう。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
お島は人に口を
利
(
き
)
くのも、顔を見られるのも厭になったような自分の心の
怯
(
おび
)
えを紛らせるために、一層
精悍
(
かいがい
)
しい様子をして立働いていた。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
そんな悪少年は島の内で制裁すればいいと思われるのに、それがどうして、島の
成人
(
おとな
)
たちが逆に
怯
(
おび
)
えている有様なのだそうだ。
環礁:――ミクロネシヤ巡島記抄――
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
こんな日には、彼は昔から地震に対する恐怖で
怯
(
おび
)
えねばならなかつたのだけれども、今日はこの激しい風のためにその点だけは安心であつた。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
私の姿も見えている。多分、私の顔に見覚えがあるかも知れない。で、すっかり
怯
(
おび
)
えきって、飛び立とうともしないのだ。
博物誌
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
なんと物の恐ろしさに
怯
(
おび
)
えぬ人たちの多いことかと呆れざるを得ない。しかし、何割かの覚醒者は残存しているはずだ。
美術芸術としての生命の書道
(新字新仮名)
/
北大路魯山人
(著)
黙ってきいていた母の顔は土色になってむしろ何かに
怯
(
おび
)
えているようだった。そしてただ最後に、「まあ可哀相に……」と
呻
(
うめ
)
いたばかりであった。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
例へば、余り善良なものは却つて
悪
(
あく
)
人であるかの如く
怯
(
おび
)
えるものだといふシヱクスピヤの言事は高橋に当
箝
(
はま
)
るだらう。
高橋新吉論
(新字旧仮名)
/
中原中也
(著)
「しかし狼がゐると云ふのは嘘だといふ話だぜ。俺達の気嫌をとるために奴等は
故意
(
わざ
)
と狼に
怯
(
おび
)
えて見せたんだとさ。」
武者窓日記
(新字旧仮名)
/
牧野信一
(著)
母親は
怯
(
おび
)
えと反抗心から、その後は羽がいの
嘴
(
くちばし
)
もしっかり胴へ掻き合せた鳥のように、世間というものから殆ど隔絶して、家というものと子供とを
蝙蝠
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
幸子は暮れに風邪を引いてから寒さに
怯
(
おび
)
えて、ずっと引き
籠
(
こも
)
ってばかりいたが、映画好きの雪子も、ひとりでは決してそう云う所へ出歩かなかった。
細雪:03 下巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
物に
怯
(
おび
)
えたように、香取の体は軽く揺れた。しかし、訶和郎の姿は闇の中を
夜蜘蛛
(
よぐも
)
のように宮殿の方へ馳け出した。
日輪
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
妙源 こんな風に
怯
(
おび
)
えながら。
甲斐
(
かい
)
のない見張りをしているうちには、もうとっくに上って、どこぞ雷にさかれた
巌間
(
いわま
)
にでも潜んでいるか知れぬことだ。
道成寺(一幕劇)
(新字新仮名)
/
郡虎彦
(著)
彼はもうすっかり
怯
(
おび
)
えてしまって、とうとう横手の窓をポーンと明けると、鏡を手文庫ごと窓外に放りだした。
軍用鼠
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
私は、
人氣
(
ひとけ
)
のない廊下に立つてゐた。私の前には、朝食堂の
扉
(
ドア
)
があつた。私は、
怯
(
おび
)
え震へながら、立ち止つた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
それは
豪
(
え
)
らかったが、それが世にいう幽霊というものだと、云われた時には、
却
(
かえっ
)
てゾッと
怯
(
おび
)
えたのであった。
子供の霊
(新字新仮名)
/
岡崎雪声
(著)
その物に
怯
(
おび
)
えた
蘆
(
あし
)
の
嫩葉
(
わかば
)
の風に
顫
(
ふる
)
えるような顔を、長者の
女
(
むすめ
)
は座敷の方から
覗
(
のぞ
)
くようにしておりました。
宇賀長者物語
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
人を見ると自分を叱るのではないかと
怯
(
おび
)
える卑屈な癖が身についていて、この時も、
譫言
(
うわごと
)
のように「すみません」を連発しながら寝返りを打って、また眼をつぶる。
竹青
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
何しろ道幅が狭いので、家
毎
(
ごと
)
にユラユラと震動して、子供なぞは悲鳴をあげながら
怯
(
おび
)
えた位であった。
いなか、の、じけん
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
やや
鳶色
(
とびいろ
)
がかった、全然南国的に輪廓の鋭い顔から、黒い、柔らかく陰で囲まれた、そして
瞼
(
まぶた
)
の重すぎる眼が、夢みるように、またいくらか
怯
(
おび
)
えたように覗いている。
トニオ・クレエゲル
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
が、その声は、まったく予期しない結果をひき起しました。若杉さんは、自分の声が終るか終らぬかに、次の部屋から夫の声に
怯
(
おび
)
えた妻の恐ろしい悲鳴をききました。
若杉裁判長
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
仄
(
ほの
)
かに星の光っている暮方の空を眺めながら、「いっそ私は死んでしまいたい。」と、かすかな声で呟きましたが、やがて物に
怯
(
おび
)
えたように、
怖々
(
おずおず
)
あたりを見廻して
妖婆
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
ふいと風が吹立ツて、林は
怯
(
おび
)
えたやうに、ザワ/\と
慄
(
ふる
)
へる……
東風
(
こち
)
とは謂へ、
尚
(
ま
)
だ雪を
嘗
(
な
)
めて來るのであるから、
冷
(
ひや
)
ツこい手で引ツぱたくやうに風早の頬に
打突
(
ぶツか
)
る。
解剖室
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
主人の半九郎をはじめ、荒木陽一郎、松原源兵衛のふたり、
被害妄念
(
ひがいもうねん
)
に
怯
(
おび
)
やかされているのが、宵の口から集って、チビリ、チビリ、さかずきのやり取りをしている。
魔像:新版大岡政談
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
石のように硬くなって、
怯
(
おび
)
えた目つきでそれをきいていた三人の顔に、さっと喜びの光が射した。
秘境の日輪旗
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
多くは彼よりも年上であって、その
嬌態
(
きょうたい
)
で彼を
怯
(
おび
)
えさせ、その拙劣なひき方で彼を失望さした。
ジャン・クリストフ:04 第二巻 朝
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
否
(
いいえ
)
、直ぐに逃げ出したのでございました。けれども淀君の声が
脳裡
(
あたま
)
に深く沁み込んで翌朝から発熱致しました。医者は何かに
怯
(
おび
)
えたのらしいと申す丈けで治療の方針が立ちません。
ぐうたら道中記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
葉子さんはそれを「父は
怯
(
おび
)
えたような眼付をし、まともにわたくしを見なかった。」
わが愛する詩人の伝記(三):――萩原朔太郎――
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
何故
(
なにゆえ
)
とは知るよしもなけれど、ただこの監獄の
様
(
さま
)
の
厳
(
いか
)
めしう、
怖
(
おそ
)
ろしきに心
怯
(
おび
)
えて、かつはこれよりの苦を
偲
(
しの
)
び出でしにやあらんなど、
大方
(
おおかた
)
に
推
(
お
)
し
測
(
はか
)
りて、心
私
(
ひそ
)
かに同情の涙を
湛
(
たた
)
えしに
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
こちらが一字も書かぬのに雑誌社までを
怯
(
おび
)
えさせるとはなにごとか。まさか私が惨死体になるとは思わないが、脅迫されれば私は必ず書く。しつこく喰い下って来ればいっそう詳しく書く。
“指揮権発動”を書かざるの記
(新字新仮名)
/
犬養健
(著)
次に『心経』に「罣礙なきが故に
恐怖
(
くふ
)
あることなし」とありますが、
恐怖
(
くふ
)
とは、ものにおじることです。ものに
怯
(
おび
)
え
怖
(
おそ
)
れることです。恐ろしいという気持です。つまり不安です。心配です。
般若心経講義
(新字新仮名)
/
高神覚昇
(著)
一つは彼らに十二分の自信があったためでもあるが、もう一つは、こういう犯罪を
敢
(
あえ
)
てする者の、一種の不感症的性格から、彼らはなんら
怯
(
おび
)
えることもなく、その数日を過ごすことが出来た。
月と手袋
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
曲もない白壁のやうな空を見るために、森林を犠牲にしなければならなかつたのであらうか、私は眼かくしの革を取り去られたときの、馬の
怯
(
おび
)
えを感じた、森と私の交感を妨げやうとするのは
亡びゆく森
(新字旧仮名)
/
小島烏水
(著)
もとより
雲州
(
うんしう
)
は佐々木の
持国
(
もちぐに
)
にて、塩冶は
三一
守護代
(
しゆごだい
)
なれば、
三二
三沢
(
みざは
)
三刀屋
(
みとや
)
を助けて、経久を
亡
(
ほろぼ
)
し給へと、すすむれども、氏綱は
外
(
ほか
)
勇
(
ゆう
)
にして内
怯
(
おび
)
えたる愚将なれば果さず。かへりて吾を国に
逗
(
とど
)
む。
雨月物語:02 現代語訳 雨月物語
(新字新仮名)
/
上田秋成
(著)
吉原土手から
大門
(
おおもん
)
を這入りまして、京町一丁目の
角海老楼
(
かどえびろう
)
の前まで来たが、馴染の
家
(
うち
)
でも少し極りが悪く、敷居が高いから
怯
(
おび
)
えながら這入って参り、窮屈そうに固まって隅の方へ坐ってお辞義をして
文七元結
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
怯
漢検準1級
部首:⼼
8画
“怯”を含む語句
卑怯
卑怯者
怯気
怯々
怯懦
気怯
物怯
勇怯
怯者
聞怯
御卑怯
怯勇
怯々然
心怯
氣怯
卑怯至極
悪怯
怯弱
怯気々々
怯惰
...