張子はりこ)” の例文
八十馬は、へなへなと肩も眼じりも下げてしまい、張子はりこの虎のように首を左右へぶるると振って後ろへ引っくりかえってしまった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その度にあるいは右に或は左に、張子はりことらの様に、彼の異常に低い所についている頭をチラチラと見せながら、難儀相なんぎそうに歩いて行くのである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一つ目小僧を滑稽なものと感じる感覚は一つ目小僧を生のものとして感じず、張子はりこか何かの細工ものとしてのそれを考えているからである。
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
ソレカラ江戸市中七夕たなばたの飾りには、笹に短冊を付けて西瓜すいかきれとかうり張子はりことか団扇うちわとか云うものを吊すのが江戸の風である。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
張子はりこの虎をあてがわれてもそれをいじくりまわすことはなく、ゆらゆら動く虎の頭を退屈そうに眺めているだけであった。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
いずれにしても、ここに参詣する者は張子はりこの鬼の面を奉納することになっているので、古い面が神前の箱に充満している。
半七捕物帳:65 夜叉神堂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
絵は有合せの書物や雑誌を題材にしたスケッチで寅年とらどしにちなんだ張子はりこの虎の絵が多かった。中々よく出来たのもある。
樽を張子はりこで、鼠色の大入道、金銀張分けの大のまなこを、行燈見越みこしたちはだかる、と縄からげの貧乏徳利どっくりをぬいと突出す。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは唐人とうじんの姿をした男が、腰に張子はりこで作った馬の首だけをくくり付け、それにまたがったような格好でむちで尻を叩く真似をしながら、彼方此方あっちこっちと駆け廻る。
梵雲庵漫録 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
平生から氣の合はない同僚を、犬だの、黴菌だの、張子はりこだの、麥酒罎だのと色々綽名をつけて、糞味噌に罵倒する。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
これを知らないで天地の大法に支配せられて……などと云ってすましているのは、自分で張子はりこの虎を造ってその前でふるえているようなものであります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この匪賊めらを統率して軍規に服せしめ戦果をあげるは天晴大将の大器のみ。大将の器は張子はりこでは間に合はぬ。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
その子の頭の上からは、げかかった金看板がぞろりと下り、弾丸にけずられた煉瓦の柱はポスターの剥げあとで、張子はりこのようにゆがんでいた。その横は錠前屋だ。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
このたれ下った花すだれに、上三分はさえぎられて見えないのでございますが、あの、鐘にうらみがと唄いまする、張子はりこの鐘がつり下げられているのでございます。
京鹿子娘道成寺 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
見ると、まだまだ私には若さも綺麗さも殘つて居さうに思つたので、一と芝居打つて見る氣になりました。武家育ちの張子はりこ細工のやうな娘に負けようとは思ひません
そして大きな百貨店で、首の動く張子はりことらだとか、くちばしでかねをたたく山雀やまがらだとか、いろんなめずらしいものを買い集めて、持っていたお給金を大方おおかたつかいはたしました。
海からきた卵 (新字新仮名) / 塚原健二郎(著)
今日も雨が降るので人は来ず仰向あおむけになつてぼんやりと天井を見てゐると、張子はりこの亀もぶら下つてゐる、すすきの穂の木兎みみずくもぶら下つてゐる、駝鳥だちょうの卵の黒いのもぶら下つてゐる
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
桜の釣板つりいた張子はりこの鐘、それからアセチレン瓦斯ガスの神経質な光。お前は金紙きんがみ烏帽子ゑぼしをかぶつて、緋鹿子ひがのこの振袖をひきずりながら、恐るべく皮肉な白拍子しらびやうし花子の役を勤めてゐる。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
高崎近くの豊岡とよおか張子はりこ達磨だるまで有名で、今も盛なものであります。すべて木型を用いて作ります。日を定めて市日いちびが立ちますが、農家や町家まちやなどでは年々あがなうことを忘れません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
干支えとしらべならてめえのを先にしろ」とあさ子はやり返す、「笑わしゃあがって、てめえなんぞ午どしなら竹んま、寅どしなら張子はりこの虎がいいところだ、すっこんでやがれ」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたくしはまた紙でつくった花環はなわに銀紙の糸を下げたり、張子はりこの鳩をとまらせたりしているのを見るごとに、わたくしは死んでもあんな無細工ぶさいくなものは欲しくないと思っている。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこでネネムは一人の検事をつけてフクジロを張子はりことらをこさえる工場へ送りました。
リーマン博士との初会合が終了した後で、僕は自分の頭が張子はりこではないかと疑った。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これは肥後熊本の人で、店は道具商で、果物の標本を作っていました。枇杷、桃、柿などを張子はりこでこしらえ、それに実物そっくりの彩色をしたもので一寸盛籠に入れて置物などにもなる。
軽焼が疱瘡痲疹の病人向きとして珍重されるので、疱瘡痲疹のまじないとなってる張子はりこの赤い木兎ずくや赤い達磨だるまを一緒に売出した。店頭には四尺ばかりの大きな赤達磨を飾りつけて目標めじるしとした。
以前もこの通りの著しい異色をそなえていた如く、速断する人がないとは限らぬが、張子はりこの人形だけは少なくともごく近世の発達のようで、その前はやはり夜分を主とした大燈籠であった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
まっかな幽霊の大撥条おおばねはもうこわれている。今や人はすべてそれを知っている。今はだれもその張子はりこを恐れない。小鳥はその案山子かかしになれ、兜虫かぶとむしはその上にとまり、市民はそれを笑っている。
それも、手のこんだ高価なものより、一刀ぼりとか、土焼とか、張子はりことか、そうした郷土玩具的なものが好きだった。震災前には客間が和室の八畳だったので、その違い棚に一杯にならんでいた。
解説 趣味を通じての先生 (新字新仮名) / 額田六福(著)
張子はりこよろいかぶとを軒にぶら下げ、ブリキの汽車や電車をならべ、セルロンドの人形やおしゃぶりをうず高く積みあげた、それこそ隣にも、そのまた隣にも見出せるであろう玩具屋になり了ったことは
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
汝のごとき張子はりこの牛は、ナポレオンの鼻息で吹き飛ぶであろう!
つけやがったのう。俺らあな、虫の報せがあるんだ。あらしがなんでえ、何で、なあんでえ! へん、紙子細工や張子はりこの虎じゃあるめえし、べら棒め、濡れて落ちるよな箔じゃあねえや。柄にもねえ分別するねえ。
その頼みに思う三笠龍介氏は、三河島の見世物小屋で、張子はりこの岩の中に潜んでいた賊の一味の為にきずつけられ、まだ病院生活を続けているのだ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
張子はりこの顔や、練稚児ねりちご。しゅくしゃ結びに、ささ結び、やましな結びに風車かざぐるま。瓢箪に宿る山雀、胡桃くるみにふける友鳥ともどり……
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一間もあろうかと思う張子はりこの筆や、畳一畳敷ほどの西瓜のつくりものなどを附け、竹ではたわまって保てなくなると、屋のむねに飾ったなどの、法外に大きなのがあった。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
干支えとしらべならてめえのを先にしろ」とあさ子はやり返す、「笑わしゃあがって、てめえなんぞ午どしなら竹んま、寅どしなら張子はりことらがいいところだ、すっこんでやがれ」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
せっかく日本から買って来た山雀やまがら張子はりことらてて、みんなと一しょにボウトに乗りうつりましたが、それでもセルゲイとの約束の武者人形だけはしっかりかかえていたのです。
海からきた卵 (新字新仮名) / 塚原健二郎(著)
銀価ぎんか下落げらく心配しんぱいする苦労性くらうしやう月給げつきふ減額げんがく神経しんけい先生せんせいもしくは身躰からだにもてあますしよくもたれのぶた無暗むやみくびりたがる張子はりことらきたつて此説法せつぱう聴聞ちやうもんし而してのち文学者ぶんがくしやとなれ。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
注文によってはこれも何んでも彫る。どんなつまらないものでも彫る。そこで、洋傘のを彫る。張子はりこの型を彫る(これは亀井戸かめいどの天神などにある張子の虎などの型を頼みに来れば彫るのです)
「金の茶釜の正体が張子はりこ金箔きんぱくを置いたのとでも判ったのかい」
そして、呼吸がそろうと、彼らは立ち上がるや否や恐ろしい勢いで、そこにある張子はりこの仏像へ飛びついていった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おもけずまた露地ろぢくちに、抱餘かゝへあままつ大木たいぼく筒切つゝぎりにせしよとおもふ、張子はりこおそろしきかひな一本いつぽん荷車にぐるま積置つみおいたり。おつて、大江山おほえやまはこれでござい、らはい/\とふなるべし。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今は到底売れないが昔亀戸かめいどの「ツルシ」といって、今張子はりこの亀の子や兵隊さんがありますが、あの種類たぐいで、裸体の男が前を出して、そのきへ石を附けて、張子の虎の首の動くようなのや
……雛形は出来たがこれは骨ばかり、一寸見るとなんだかさっぱりわからない。変なものが出来ましたが、張子はりこ紙で上から張ってみますと、案外、ありありと大仏さまの姿が現われてきました。
青眼鏡は云いながら、張子はりこの岩のうしろへ手を突込んで、スルスルと一丈程もある黒い棒のようなものを引っぱり出し、それを立ててトントンと地面を突いた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
禪師ぜんじられたるくび我手わがて張子はりこめんごとさゝげて、チヨンと、わけもなしにうなじのよきところせて、大手おほでひろげ、ぐる數十すうじふぞくうてすこやかなることわしごとし。ついきずえてせずとふ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ころりと参った張子はりこ達磨だるま
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)