“引入(ひきい)” の例文
往還(わうくわん)よりすこし引入(ひきい)りたる路(みち)の奥(おく)に似(に)つかぬ幟(のぼり)の樹(た)てられたるを何かと問へば、酉(とり)の市(まち)なりといふ。行(ゆ)きて見るに稲荷(いなり)の祠(ほこら)なり。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
再び夢心に引入(ひきい)れられもしたのでありましょうけれど、なかなか、そんな事を云っていられる混雑方(こんざつかた)ではなかったのです。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今歳(ことし)のなつの避暑(へきしよ)には伊香保(いかほ)に行(ゆ)かんか磯部(いそべ)にせんか、知(し)る人(ひと)おほからんは佗(わび)しかるべし、牛(うし)ながら引入(ひきい)れる中川(なかゞは)のやどり手近(てぢか)くして心安(こゝろやす)き所(ところ)なからずやと
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それにも拘(かかわ)らず、由紀子の肉体的魅力に満足しなかった卓二は、京野(きょうの)夢子という映画女優上りの妖しき女を引入(ひきい)れ、由紀子の見る前もはばからず、同じ屋根の下で
話(はなし)を聞(き)いて見(み)ると、如何(いか)にも面白(おもしろ)さうなので、つい/\魔道(まだう)に引入(ひきい)れられて了(しま)つた。
車上(しやじやう)の人(ひと)は目早(めばや)く認(みと)めて、オヽ此處(こゝ)なり此處(こゝ)へ一寸(ちよつと)と俄(にはか)の指圖(さしづ)に一聲(いつせい)勇(いさ)ましく引入(ひきい)れる車(くるま)門口(かどぐち)に下(お)ろす梶棒(かぢぼう)と共(とも)にホツト一息(ひといき)内(うち)には女共(をんなども)が口々(くち/″\)に入(い)らつしやいまし。
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と呼ぶ、……本を読んでたとは、からりと調子が変って、引入(ひきい)れられそうに滅入(めい)って聞えた。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ともすれば昏々と死の淵に引入(ひきい)れられそうな幽里子は、僅(わず)かに夢幻の眼を開くと
と呼(よ)ぶ、……本(ほん)を讀(よ)んでたとは、からりと調子(てうし)が變(かは)つて、引入(ひきい)れられさうに滅入(めい)つて聞(きこ)えた。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
有無を言わせずに引入(ひきい)れて枕席に侍(はべ)らせた例もあり、ひどいのになると、櫓の上に立って、自分の鉄砲の腕前を試すために、城下を通る町人を、鳥を撃つように撃ち殺した大名さえあります。
ましてや夜(よる)でも夜中(よなか)でも傘屋(かさや)の吉(きち)が來(き)たとさへ言(い)へば寢間着(ねまき)のまゝで格子戸(かうしと)を明(あ)けて、今日(けふ)は一日(いちにち)遊(あそ)びに來(こ)なかつたね、何(ど)うかお爲(し)か、案(あん)じて居(ゐ)たにと手(て)を取(と)つて引入(ひきい)れられる者(もの)が他(ほか)にあらうか
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
最(もつと)も上手(じやうず)が演(えん)ずるのを聞(き)いたら、話(はなし)の呼吸(こきふ)と、声(こゑ)の調子(てうし)で、客(きやく)をうまく引入(ひきい)れるかも知(し)れぬが、こゝでは随筆(ずゐひつ)に文章(ぶんしやう)で書(か)いたのと、筆記本(ひつきぼん)に言語(げんご)のまゝ記(しる)したものとを比較(ひかく)して、おなじ言葉(ことば)ながら
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
まだ誠の神の教(おしえ)を耳に入れようともしない余吾之介ですが、それでも近頃は、鹿の子の敬虔な日常に引入(ひきい)れられて、何んとなく謙虚な心構えになって行くのをどんなに嬉しく眺めて来たことでしょう。
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
勢(いきほ)ひよく引入(ひきい)れしが客(きやく)を下(お)ろして扨(さて)おもへば恥(はづ)かしゝ、記憶(きおく)に存(のこ)る店(みせ)がまへ今(いま)の我(わ)が身(み)には往昔(むかし)ながら世(よ)の人(ひと)は未(ま)だ昨日(きのふ)といふ去年(きよねん)一昨年(をとゝし)、同商中(どうしやうちゆう)の組合曾議(くみあひくわいぎ)或(あるひ)は何某(なにがし)の懇親曾(こんしんくわい)に登(のぼ)りなれし梯子(はしご)なり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
唯吉(たゞきち)も引入(ひきい)れられたやうに笑(わら)ひながら
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
盡(つく)さして引入(ひきい)れし利(り)も少(すく)なからず世(よ)は塞翁(さいをう)がうまき事(こと)して幾歳(いくとせ)すぎし朝日(あさひ)のかげ昇(のぼ)るが如(ごと)き今(いま)の榮(さかゑ)は皆(みな)松澤(まつざは)が庇護(かげ)なるものから喉元(のどもと)すぐれば忘(わす)るゝ熱(あつ)さ斯(か)く對等(たいとう)の地位(ちゐ)に至(いた)れば目(め)の上(うへ)の瘤(こぶ)うるさくなりて獨(ひと)りつく/″\案(あん)ずるやう徑(けい)十町(じつちやう)を
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
づかしや女子(をんな)の身(み)不似合(ふにあひ)の菓(くだ)もの賣(う)りも一重(ひとへ)に活計(みすぎ)の爲(ため)のみならず便(たよ)りもがな尋(たづ)ねたやの一心(しん)なりしが縁(ゑに)しあやしく引(ひ)く方(かた)ありて不圖(ふと)呼(よ)び入(い)れられし黒塗塀(くろぬりべい)お勝手(かつて)もとに商(あきな)ひせし時(とき)後(あと)にて聞(き)けば御稽古(おけいこ)がへりとや孃(じやう)さまの乘(め)したる車(くるま)勢(いきほ)ひよく御門内(ごもんうち)へ引入(ひきい)るゝとて出(い)でんとする我(われ)と行違(ゆきちが)ひしが何(なに)に觸(ふ)れけん我(わ)がさしたる櫛車(くしくるま)の前(まへ)には
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)