なかだち)” の例文
ですから、この指環は、いつも私の志気を鼓舞し、勇気を増すのなかだちとなりまして、私の為にはこの上もなき励まし手なのでございます。
こわれ指環 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
うしてこの無邪気な少年の群を眺めるといふことが、既にもう丑松の身に取つては堪へがたい身の苦痛くるしみを感ずるなかだちとも成るので有る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
上の中央公論に載せた初稿はなかだちとなつて、わたくしに数多あまたの人を識らしめた。中には当時四郎左衛門と親善であつた人さへある。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
以前は多量のホクチをなかだちにして火を鑽って是を焚付けへ吹付けたものらしく、その痕跡は近世の火打箱の構造にも残っている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
放蕩ほうとうなかだち、万悪の源、時珍が本草ことごとく能毒を挙げましたが、酒は百薬の長なりとめて置いて、多くくらえばこんを断ったと言いましたぜ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ラテラノ」の寺、丈長き尖柱オベリスコス、「コリゼエオ」の大廈たいかあと、トラヤヌスの廣こうぢ、いづれか我舊夢を喚び返すなかだちならざる。
なさん是かへつ罪人ざいにん多くならんなかだち也とあざけりし人多しとかや是非ぜひ學者がくしやろんなりといにしへより我朝わがてうおきてにぞかゝる事なけれども利の當然たうぜんなり新法しんはふ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その方の召使いの妾等を願望のなかだちとなし、度々登城仕らせ、殊に数日逗留、その節莫大の金帛相い贈り、内外の親睦を結び置き候儀、不届き至極。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
讃否さんぴは別として、現代思想というものが、幾分か領会せられるなかだちになるとすれば、雑誌に家常茶飯を出すのも、単に娯楽ばかりでなくなりますね。
そういう試みは一時的に多少私の不安をでさすってくれたとしても、更に深い不安に導くなかだちになるに過ぎなかった。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
第二、亀の背に歌書きたるは何のためか、いたづらの遊びか、何かのまじなひか、あるいは紅葉題詩といふ古事にならひて亀に恋のなかだちでも頼みたる訳か。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
はじめ飯沼弘経寺の梅痴上人がなかだちをなしたという事をわたくしは聞いたのみである。三田台裏町妙荘山薬王寺に葬られて積信院一乗妙道大姉の法諡ほうしをおくられた。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なかだちは過し雪の日ぞかし」ともあれば「かくまでに師は恋しかりしかど、ゆめさらこの人を夫と呼びて、ともに他郷の地をふまんとは、かけても思ひよらざりしを ...
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
中にもこの服従と云ふものが、ステパンの為めには、僧院内の生活を余程容易たやすくしてくれるなかだちになつた。
瓦に劣る世をよとはおぼしも置かじを、そもや谷川の水おちて流がれて、清からぬ身に成り終りし、そのあやまちは幼気おさなぎの、迷ひは我れか、なかだちは過ぎし雪の日ぞかし。
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
今日のりきみは身をそん愚弄ぐろうまねくのなかだちたるを知り、早々にその座を切上げて不体裁ぶていさいの跡を収め、下士もまた上士に対して旧怨きゅうえんを思わず、執念しゅうねん深きは婦人の心なり
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いよ/\一室をてらさば吾が身上のこらずのちからつくしてもとむべし、なかだちして玉はるべしといひしが、そのゝちなにの便たよりもなくてやみぬ、空言そらごとにてありしと思はる云云。
一方また、神祇官の卜部うらべなかだちにして、陰陽おんみょう道は、知らず悟らぬうちに、古式を飜案して行っていた。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
しかも特質もちまえのわがまま剛情が累をなして、明治政府に友少なく、浪子をなかだちせる加藤子爵などはその少なき友の一にんなりき。甲東没後はとかく志を得ずして世をおえつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
読書、弾琴、月雪花、それらのものは一つとして憂愁をいやすに足らず、うたた懐旧のなかだちとなりぬ。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いえ、ほんとうで。………その女房になかだちを頼みまして、一度か二度はそう云うこともございましたか知れませんが、格別打ち解ける、と云うところまでは参りませなんだ」
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
われすなはち神となりたる也。感謝す、予はこの驚絶、駭絶の意識をば、直接に、端的に、神より得たり、一毫いちがう一糸だに前人の証権をなかだちとし、しくは其の意識に依傍したる所あらざる也。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
かわうそなかだちとして文通するを、かねてかの魚を慕いいた蛸入道たこにゅうどう安からず思い、烏賊いかえびを率いて襲い奪わんとし、オコゼ怖れて山奥に逃げ行き山の神に具して妻となる物語絵を見出し
斯かる塲合ばあいに於ては美麗びれいなる石斧石鏃類は幾分か交換のなかだちの用を爲せしならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
S氏はこわれかかった仏像をなかだちとして昔の仏工とつき合っているだけに、いろいろ珍しい話を聞かせてくれた。特におもしろかったのは天平の仏工が台座の内側に残した落書きのことである。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
また天皇、その弟速總別の王なかだちとして、庶妹ままいも女鳥めとりの王を乞ひたまひき。
それが更に仇を結ぶのなかだちを為し、更に将来の大戦の種子を蒔くものであるとして、その次の大戦争がまたかくの如く更に新たなる仇を結んで、またその次の大々戦争の種子を蒔くものとすれば
列強環視の中心に在る日本 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
さりぬべきなかだちをたのみて山中まさしとつがせしめ。家に仕えし老僕なにがしを始め下女など数多あまた付き添わせ。近き渡りにしかるべき家屋ありしを求めて。これに住居させ。残るところなく世話をせしかば。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
この雪冤せつえんの文を作った外崎さんが、わたくしの渋江氏の子孫を捜し出すなかだちをしたのだから、わたくしはただこれだけの事をここにしるして置く。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
堂塔の新築改造には、勧進かんじん奉化ほうげ奉加ほうがとて、浄財の寄進を俗界に求むれども、実は強請に異ならず。その堂内に通夜するやからも風俗壊乱のなかだちたり。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かくて薄暗き燈火ともしびは、これと親むなかだちとなるものなりと云ひぬ。紳士の詞は未だをはらぬに、傍より叱々しつ/\いましむる聲す。そは開場ウヱルチユウルの曲の始まれるが爲めなりき。
むしろ文字をなかだちとして外国の文化に親しみ、久しく眼前の事実を看過みすごして、ただいたずらに遠来の記録の、必ずしも正確豊富でないものを捜索していたことは
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いよ/\一室をてらさば吾が身上のこらずのちからつくしてもとむべし、なかだちして玉はるべしといひしが、そのゝちなにの便たよりもなくてやみぬ、空言そらごとにてありしと思はる云云。
この書生輩の行末ゆくすえを察するに、専門には不得手ふえてにしていわゆる事務なるものに長じ、に適せずして官に適し、官に容れざればに煩悶し、結局は官私不和のなかだちとなる者、その大半におるべし。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
さすがに広き玄関前もところせきまでつらなりたり。こは篠原子爵が宮崎一郎のなかだちにて。松島秀子と新婚の祝宴を開くなり。故子爵が世にあらば鹿鳴館などにて西洋風の饗応きょうおうをひらかるべきなれど。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
幾らか気色を直し肝癪かんしゃくやわらぐるなかだちとなり、失せた血色の目のふちのぼる頃、お万が客は口軽く、未練がないとはさすがは兼吉つあんだ、好く言つた
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
江戸には雪のふらざる年もあれば、初雪はことさらに美賞びしやうし、雪見のふね哥妓かぎたづさへ、雪のちや賓客ひんかくまねき、青楼せいろうは雪を居続ゐつゞけなかだちとなし、酒亭しゆていは雪を来客らいかく嘉瑞かずゐとなす。
この時アヌンチヤタが我をしりぞけて人に從ひし悲痛は、却りて我心を抑し鎭むるなかだちとなりぬ。
これは書状に申遣候筈なれども、人をなかだちにして申が却而かへつてこたへ宜候哉。私詩をほらせくれよと書肆のぞみ候。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
としも十七なればかねてむこをと思ひをりたるをりからなれば、かのしのび男が実心まごゝろめで早速さつそくなかだちはしをわたし、姻礼こんれいもめでたくとゝのひてほどなく男子をまうけけり。其家そのいへなほさかゆ。
わたくしは永く其人がわたくしの研究上頗る重大なる資料を得るなかだちをなしたことを忘れぬであらう。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
特にかの過去帖に遠近の親戚しんせき百八人が挙げてあるのに、初代瑞仙のただ一人の実子善直というものが痕跡こんせきをだにとどめずに消滅しているという一事は、この疑を助長するなかだちとなるのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
末造がお玉に買って遣った紅雀は、図らずもお玉と岡田とがことばを交すなかだちとなった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
殊に比良野助太郎と書した荷札が青森の港に流れ寄ったという流言などがあって、いよいよ心を悩まするなかだちとなった。そのうちこの年十二月十日頃に青森から発した貞固の手書しゅしょが来た。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これぞ余が冤罪えんざいを身に負いて、暫時の間に無量の艱難かんなんけみし尽くすなかだちなりける。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これぞ余が寃罪を身に負ひて、暫時の間に無量の艱難をけみし盡すなかだちなりける。
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
これぞ余が冤罪ゑんざいを身に負ひて、暫時の間に無量の艱難かんなんけみし尽すなかだちなりける。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その容貌の見合でさえ、なかだちをするものの云うのを聞けば、いつでも先方では見合を要せないと云っているということだ。女は好嫌を言わない。只こっちが見て好嫌を言えば好いというのだ。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これも間接に山城河岸の父子をして忌諱ききを知らしむるなかだちとなったであろう。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何遍なんべん言うてもあの女でない女房は生涯持ちませぬとの熱心に、物固い親類さへ折り合ひて、小花を嫁に取引先なる、木綿問屋の三谷がなかだちしたとか、兼吉はまたけふが日まで、河岸かしを変へての浮気勤うわきづとめ
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)