“垂(たれ)” の例文
正月三日の晩、伊勢屋總兵衞からの迎ひと言つて來た駕籠は、道庵を乘せると、嚴重に垂(たれ)を下ろして、滅茶々々に驅け出しました。
先棒(さきぼう)と後(うしろ)との声(こえ)は、正(まさ)に一緒(しょ)であった。駕籠(かご)が地上(ちじょう)におろされると同時(どうじ)に、池(いけ)に面(めん)した右手(みぎて)の垂(たれ)は、颯(さっ)とばかりにはね揚(あ)げられた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それまでは、不自然な部分が咽輪(のどわ)の垂(たれ)で隠されていたので判らなかったのだが、不思議な事に、易介は鎧を横に着ているのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
庭下駄を突っかけて、その駕籠の傍へ寄って来たおかみさんは、何か後ろめたいように見返しました時、前の駕籠の垂(たれ)が細目にあいて
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
垂(たれ)から透(すか)して、土間へ焚火(たきび)をしたのに雪のような顔を照らされて、娘が縛られていたのを見ましたが、それなり目が眩(くら)んでしまったです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何(なに)か噺(はなし)の端緒(いとぐち)でも求(もと)めたいといふ容子(ようす)で栗(くり)の木(き)の梢(こずゑ)からだらりと垂(たれ)てる南瓜(たうなす)の臀(しり)を見上(みあ)げながらいつた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
頼みける然ば無殘(むざん)なる哉(かな)水呑村の九助は豫(かね)て覺悟(かくご)とは言ながら我が罪ならぬ無實の災難(さいなん)今更怨(うら)んで甲斐(かひ)なしと雨なす涙に面を浸(ひた)し首うな垂(たれ)て面目なげに目を閉(とぢ)口には稱名(しようみやう)唱(とな)へ未來(みらい)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
垂(たれ)たる形状(かたち)は蝋燭(らふそく)のながれたるやうなれど、里地(さとち)のつらゝとたがひて屈曲(くつきよく)種々(しゆ/″\)のかたちをなして水晶(すゐしやう)にて工(たくみ)に作りなしたるがごとく、玲瓏(れいろう)として透徹(すきとをれ)るが暾(あさひ)の暉(かゞやき)たるはものに比(たぐ)ふべきなしと
十間ばかり隔(へだて)て、その次のはそれより少し脊が低くて、子供のような歩き方だ。また十間ばかり隔て最後の一人は長く黒髪を後(あと)に垂(たれ)ていて女のように思われた。その三人は、始終俯向(うつむ)いていた。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
怪しい女は蘆を折り敷いた上に胡坐(あぐら)をかいて盗み集めたらしい金を算(かぞ)えていた。算えながら垂(たれ)さがって来る頭髪(かみ)を隻手(かたて)で煩(うるさ)そうに掻(か)きあげていた。その指の間は蛇の鱗(うろこ)のようにきらきら光った。
女賊記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
敬太郎は主人一人の眼を掠(か)すめるのにさえ苦心していたところだから、この上下女に出られては敵(かな)わないと思って、いや宜(よろ)しいと云いながら、自分で下駄箱の垂(たれ)を上げて、早速靴を取りおろした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お登和嬢は頓(とみ)に答(こたえ)ず、垂(たれ)たる頭(こうべ)はいよいよ下を向て一雫(ひとしずく)涙の滴(たれ)し様子。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
垂(たれ)を下(さ)げた一梃(いっちょう)の駕籠(かご)の前に、返り血やら自分の血やらで、血達磨(ちだるま)のようになりながら、まだ闘士満々としている、精悍(せいかん)そのもののような鶴吉が、血刀を右手にふりかぶり、左手を駕籠の峯へかけ
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
洟(はな)っ垂(たれ)の一人が、不服そうに遠くから呶鳴り返してきた。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
正月三日の晩、伊勢屋総兵衛からの迎いと言って来た駕籠(かご)は、道庵を乗せると、厳重に垂(たれ)を下ろして、滅茶滅茶に駆け出しました。
「そんなら、ゆっくりめえりやしょう。——おせんちゃんが垂(たれ)を揚(あ)げておくんなさりゃ、どんなに肩身(かたみ)が広(ひろ)いか知(し)れやァしねえ。のう竹(たけ)」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そこで駕籠屋は急いで垂(たれ)をハネ上げると、駕籠の中から一刀を提げて出て来たのは、羽織袴の身分あるらしい覆面のさむらいでありました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そう言えば、欅(けやき)の枝に這(は)いかかって、こう、月の上へ蛇のように垂(たれ)かかったのが、蔦(つた)の葉か、と思うと、屋根一面に瓜畑になって、鳴子縄が引いてあるような気もします。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
締殺(しめころ)せし段(だん)最(もつと)も重罪(ぢうざい)なり然ながら後悔(こうくわい)致し自訴(じそ)に及びし段神妙(しんめう)に似(に)たり其始末(しまつ)は何故何樣の所業(しよげふ)に及びしや仔細(しさい)有る事ならん眞直(まつすぐ)に申立よと有ければ久八首(かうべ)を垂(たれ)私し事計(はか)らずも千太郎を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と、小さな旋風(つむじかぜ)が起ってそれが薄(うっ)すりと塵(ちり)を巻きながら、轎夫(かごかき)の頭の上に巻きあがって青い簾(すだれ)の垂(たれ)を横に吹いた。簾は鳥の飛びたつようにひらひらとあがった。艶麗(えんれい)な顔をした夫人が坐っていた。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
相手は新造(しんぞう)ですから、賃銀(ちんぎん)なんかいいかげんに定(き)めて、駕籠の垂(たれ)を上げると、娘は小風呂敷包みを持ったまま、馴れた調子でポンと乗りましたが
駕籠(かご)の垂(たれ)を明けっぱなして、海を一面にながめながら、女長兵衛式に納まって、外にいる若いのを相手に話すお角さん。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
欲(よく)のねえお人(ひと)だなァ。垂(たれ)を揚(あ)げてごらんなせえ。あれ見(み)や、あれが水茶屋(みずちゃや)のおせんだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
出て戻(もど)る頃漸々東が白(しら)み出し雨も小降(こぶり)に成たる故浮羅々々(ぶら/\)戻る向(むかう)より尻(しり)つぺた迄引端打(ひつはしをり)古手拭(ふるてぬぐひ)で頬冠(ほゝかぶ)り傘(かさ)をも指ずに濡(ぬれ)しよぼ垂(たれ)小脇差(こわきざし)をば後ろへ廻し薄氣味惡(うすきみわる)き坊主奴(ばうずめ)が來るのを見れば長庵故傘(かさ)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
入口の片隅に、フト燈(あかり)の暗い影に、背屈(せくぐ)まった和尚がござる! 鼠色の長頭巾(もっそう)、ト二尺ばかり頭(ず)を長う、肩にすんなりと垂(たれ)を捌(さば)いて、墨染の法衣(ころも)の袖を胸で捲(ま)いて、寂寞(じゃくまく)として踞(うずくま)った姿を見ました……
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこで槍を投げ捨てて、御徒町へ行けと駕籠屋へ言いつけたままで、垂(たれ)を上げて駕籠の中へ身を隠してしまわれました。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
垂(たれ)をおろすと、中には医者の玄道が乗っていることになるのです。石原の利助の子分が、五六人網を張っている中を、駕籠は掛声もなく、向島の方へ飛びます。
そうして、脇差を差して刀を提げて、悠々と店先まで出て来ると、駕籠の垂(たれ)が上ってその中から姿を見せたのはお絹。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そんなしみつ垂(たれ)な三下野郎を相手ぢや役不足だ。手柄爭ひをする心算(つもり)なら、平次に出て來いつて言へ。憚(はゞか)りながら四ツ目の銅八だ、見込んだ下手人に間違ひがあるもんか。
この時に神尾主膳が駕籠の垂(たれ)を上げて外を見ると、おりから来かかった駒井能登守と面(かお)を合わせたが、さあらぬ体(てい)で
駕籠の垂(たれ)を下ろしているので、どこを通るのか見当はつきませんが、扉(と)の下の方に商売用の水牛の匙(さじ)を挟んで、糠をこぼして行くくらいのことは出来たのです。平次はその後を追いました。
八州の役人は、その駕籠へ近寄って、手ずから垂(たれ)を揚げたものですから、駕籠屋どもは、もう二の句がつげません。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
飛付くように駕籠の垂(たれ)を押上げて
横目でジロリジロリと竜之助の一行を眺めましたが、竜之助の笠はかなり深いのに、垂(たれ)のない駕籠で、お雪の姿はありありと見えましたから、離れると
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
飛付くように駕籠の垂(たれ)を押上げて
女長兵衛の格で納まっているお角が垂(たれ)を上げて見ると、棒鼻をおさえているのは、権八よりはまだ若い、振袖姿のお小姓らしい美少年が、刀の鯉口を切って
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
頭巾を被って面(かお)の全部はほとんど見えないから、米友が身悶(みもだ)えしているうちに、その頭巾を被った若い娘は前の方の駕籠へ、市五郎が手を取って乗せて垂(たれ)を下ろしてしまいました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
駕籠屋は、乗主(のりぬし)に対する義務として、わざわざ注意して、頼みもしないのに進行を止めて、垂(たれ)まで上げて見せようとする。それにぜひなく人垣の隙間から主膳が見ると、苦りきってしまいました。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
駕籠の中から垂(たれ)を上げて、米友を呼びかけたのはお絹でありました。
威勢よく店前(みせさき)へ着いた一挺(ちょう)の駕籠(かご)、垂(たれ)を上げると一人の女。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お銀様が、垂(たれ)を上げない駕籠の中から返事をする。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
駕籠屋が外から垂(たれ)を上げたものです。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、垂(たれ)を手あらく掻(か)き上げて
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)