こう)” の例文
山家やまがあたりにむものが、邸中やしきぢう座敷ざしきまでおほききのこいくつともなくたゝるのにこうじて、大峰おほみね葛城かつらぎわたつた知音ちいん山伏やまぶしたのんでると
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こうじ果てた結果、あなたのことを思い出して、今日こんにち参上したわけで、どうか一つ折り入っての御願いですが、彫刻を教えて下さい。
ただが無いまでこうじきって、御余裕のある御挨拶を得たさの余りに申しました。今一応あらためて真実心を以て御願い致しまする。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何ののと、らちもないこと云われ、藤はお山へ返せなどとも云い、館を飛び出しては騒ぎ廻り、ほとほとこうじはてておりまする。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そればかりか、さしずめこれからの身のふり方にこうじ果てた。「すまじきものは嫉妬だなあ」彼はつくづく嘆じたことである。
接吻 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
びゅうびゅうと風は吹きつのっていた。赤坊の泣くのにこうじ果てて妻はぽつりと淋しそうに玉蜀黍殻とうきびがらの雪囲いの影に立っていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「今日まで、おこらえ遊ばしたものを、何でまた、俄かにさまで仰せあるか。玄蕃も、この儀には、ほとほとこうじ果てました」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は手首をあらはにして、私の方に差し出した。血のは頬からも唇からも失せて、だん/\蒼ざめてゐた。私はどうしていゝかこうじ果てゝしまつた。
晴高は人々のザワメキが静かになるまで浮かない面持で身の持て扱いにこうじ果てているようであったが、満堂のザワメキがおさまると、改めて威儀を張り
その男もほとほとこうじ果てていると、ある夜夢に一人の老翁現われて告げていうことには、かの木の伐り屑を毎夕がた焼き捨てれば成就するだろうという。
東奥異聞 (新字新仮名) / 佐々木喜善(著)
理想にかなわずとて、謝絶しければ、父母もこうじ果てて、ある日しょうに向かい、家の生計意の如くならずして、倒産のき目さえやがて落ちかからん有様なるに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ときには、ひどい発作ほっさを起して、流石さすがの百合子も介抱にこうじ果ててしまうことさえまれではありませんでした。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
裔一と漢文の作りくらをする。それがこうじて、是非本当の漢文の先生に就いてって見たいということになる。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
十盃や二十盃はおろか、何百盃なりと決して辭退はいたしませねど、いやはや左樣のことを仰せられましては、何ともお答にこうじまする。人生七十古來稀なりとやら。
山家ものがたり (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
お通夜の人々は自分の仕振りにこうじ果ててか、慰めの言葉もいわず、いささか離れた話を話し合うてる。夜は二時となり、三時となり、静かな空気はすべてを支配した。
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
それが、おりんの死体の処理という現実の問題に直面して、彼はいっそうこうじ果てたのであった。
その恋のハケ口にこうじ果てて、病床の中で羽子をついたり、病室の窓から凧を飛ばして僅かに慰め合う、あわれ深い姿を思いやって、ひどくしんみりしてしまったのです。
つれ王子へ花見にゆくつもりで辨當べんたうなぞも容易ようい致し參りましたれどはや草臥くたびれ殊にははらすきしより茲等こゝらで開いて一ぱいと思へど通に掛茶屋も有ねばじつこうじてをりしが只今たゞいま水をいたゞいたを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
半ばけ果てた、落ちぶれ者の父親とたった二人、親類からも友達からも、すっかり見捨てられ尽くして、明日のたつきにも、こうじ果てていた時、その頃これも名を成さず
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
こうじ果てて石に腰打ちかくれば別に苦痛も感ぜざるが、立てば身の重さ少しも減ぜず。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
あまつさへ久く病院の乾燥せる生活にこうじて、この家をおもふこと切なりければ、追慕の情はきはまりて迷執し、めては得るところもありやと、夜のおそきに貫一はいちなる立退所たちのきじよを出でて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こうじ果てているところへ魔がさしたというのでござりましょう、所化のころから出入りしておりましたるお檀家だんかの裕福なお家さまが、命とかけたわたしの思い人を金にまかせて奪い取り
茶袋は執念しゅうねく談じつける。店の者はそれを謝絶ことわるにこうじているらしくあります。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
はたとこうじ果ててまたはじめの旅亭にかえり戸を叩きながら知らぬ旅路に行きくれたる一人旅の悲しさこれより熱海あたみまでなお三里ありといえばこよいは得行かじあわれ軒の下なりとも一夜の情を
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
ことごとくぎこちなく視線のやりば首の位置すべてにこうじ果てきりきり舞いをはじめるような、そんな工合いの気持ちのことだと思うのですが、もしそれだったら、自意識過剰というものは
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
そうなるとまた佐助の言葉がアヤフヤに思えどちらの云うことが本当やらさっぱり訳が分らなくなりこうじ果てたが佐助以外に相手があろうとも考えられず今となってはきまりが悪いのでわざと反対なことを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こうずるせき
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
引返ひっかえした処で寝る家もない場合。梓一人が迷惑してこうじ切っている処を、あかりがないと、交番でとがめられたが、提灯ちょうちんの用意はなし、お前さん。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さしずめ加賀町さんへこの事を知らせなければならぬが、それには留守番がないしと処置にこうじていた所へ、丁度僕が来合せたというのであった。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかしその後はどう云ってよいか継ぎ穂にこうじて黙ってしまった。すると老女は仮面めんのような顔をわずかほころばして笑ったがおだやかな調子でこう云った。
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
申す者が、お身のような男だから、聞く方も、冗談とは思うだろうが、かりそめにも嫁入り前のむすめ、迷惑至極じゃ。——こうじ果てておるもつれ話を
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな事をさせては飛んだ事になるだろう。そんな事をさせては飛んだ事になる。葉子はますます弱身よわみになった自分を救い出すすべこうじ果てていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
いかに仏心仙骨の保胤でも、我ながら、我がおぞましいことをして退けたのには今さらこうじたことであろう。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
朝鮮遠征に心から賛成の大名などは一人もをらず、各人所領内に匪賊の横行、経済難、こうじ果てゝゐる。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
ひきずりながらあとに從ひ音羽町の七丁目迄來りしが長三郎は此時は頻に腹痛ふくつうなし初めこらへ難なく成しかばかはやいらんと思へども場末ばすゑの土地とてかりんと思ふ茶屋さへあらぬにこうじたり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
こうじ果ててうかうか日を送ると、昨夜又々摩訶毘盧遮那仏まかころしゃなぶつ夢枕に現じてのおつげに、大伝馬町の佐久間勘解由のもとをなぜ訪ねて参らぬのじゃ、怠慢至極——ともっての外の御叱りじゃ
後刻のちともいわさず、今が今という速急な話……こうしてこうじ果てて考えている時間さえも今の人の話の容子ではあぶないほどのこと……ハテ、どうしたものかと考えた所で師匠は留守
おそれたるにもあらず、こうじたるにもあらねど、又全くさにあらざるにもあらざらん気色けしきにて貫一のかたちさへ可慎つつましげに黙して控へたるは、かかる所にこの人と共にとは思懸おもひかけざる為体ていたらく
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
がんりきからこう言ってせがまれると、お角もこうじ果ててしまいます。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「相手の正体がはっきりわかってこそ、吾人の強味が発揮される。古びた壺一個、この八百八町に消えてしまったものを、いかにして探しだせばよいか、拙者らはその方策にこうじはてておる始末」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、法印、こうじ果ててつぶやいて
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
のらくらものの隙稼ひまかせぎに鑑札だけは受けているのが、いよいよ獲ものにこうずると、極めて内証に、森の白鷺を盗みうちする。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こうじ果てた波越警部は、今日も又、彼の唯一の智恵袋明智小五郎を訪ねて、残念ながらその教えを乞う外はなかった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
が、迦羅奢がらしや夫人が、もっとこうじ果てていることは、忠興ただおきの余りに度の過ぎた強い愛情のあふれであった。
父は捨てどころにこうじて口の中にふくんでいた梅干の種を勢いよくグーズベリーの繁みに放りなげた。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
前田医師は夫人の様子にむしろいくらか狼狽して、素朴な怒りをあらはしかけたが、持つて行き場にこうじ果てて、やがてこの好人物は自然にうつむいてしまつてゐた。
おろかしい獣は愈々いよいよかなわぬ時は刃物をもみまする、あわれに愚かしいことでござります。人がこうじきりますればろくでないことをも致しまする、あわれなことでござりまする。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あらふ水のなきをばこうじゐる容子ようすを計らず庭越にはごしに見やりて此方こなたに打向ひ茲等邊こゝらあたりに見もかけ立派りつぱ姿なりさだめし通行の方である可きに水がなければおこまりならん此方へ這入て遠慮ゑんりよなく手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
平次はこうじ果てた樣子です、小娘のお松が刺されてから、もう七日以上も經つて居り、昨夜はお雪まで殺されかけて居るのに、どうも大男の伊太郎を縛る氣になれない錢形の平次でした。
なんぢの命を与へよとせまらるる事あらば、その時の人の思は如何いかなるべき! 可恐おそろしきまでに色を失へる貫一はむなしく隆三のおもて打目戍うちまもるのみ。彼はいたこうじたるていにて、長き髯をば揉みに揉みたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)