ちな)” の例文
狂言の文左衛門は、この頃遊所で香以を今紀文ととなえ出したにちなんで、この名をりて香以を写したものである。東栄は牧冬映である。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ちなみに、小室君は当年三十歳、而立じりつというところだが、却って職を失って、新たにスタートを切り直す努力をしているのだった。
秀才養子鑑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それには、池に近い位置にちなんで「池の茶屋」とした文字もあらわしてある。お力夫妻はそこにお三輪や新七を待ちうけていた。
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
食通の多い世の中にも、この家の主人のように料理に情熱を有つ人は少かろう。鮹にちなんでの主人のはなしがまた一段と面白かった。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
(是等の戰ひにトルクァート、己が蓬髮おどろのかみちなみて名を呼ばれたるクインツィオ、及びデーチとファービとはわが悦びていたたふとほまれを得たり)
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
幕府の末期までこの辺に伝馬町てんまちょう大牢おおろうとともに芳原よしわらがあったので、芳町といい大門通りというのも、それにちなんだものだと言われていたが
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
支那で馬にちなんで驚駭きょうがいと書き『大毘盧遮那加持経だいびるしゃなかじきょう』に馬心は一切処に驚怖思念すとあるなど驚き他獣の比にあらざるに由る。
残雪にちなめる山名は白馬岳の外にも幾つかある。其中の二、三の例を挙げて見ると、同じ山脈の山にじい岳というのがある。
白馬岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
多くそのときの季節や月日にちなんだ話であった。彼岸ひがんのことや屈原くつげんについての小話があったのを覚えている。私を除いた三人の先生が話をした。
西隣塾記 (新字新仮名) / 小山清(著)
それに比べると、今の絵葉書屋は甚ださびしいような気がする。その頃は双六ばかりでなく、歌留多にも歌舞伎にちなんだものは少なくなかった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
七月七日は、七夕たなばたちなみ、玉礀ぎょっかん暮鐘ぼしょうの絵を床に、紹鴎じょうおうのあられ釜を五徳ごとくにすえ、茶入れは、初花はつはなかたつきが用いられた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で役者の方でも、狂言にちなんだ物を娘たちにわかって人気を集めたもので、これを浅草の金華堂きんかどうとかいうので造っていた。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
奈良の陰陽師はみな幸徳井の同流として、その祖と称する吉備大臣にちなみ、吉備塚をもって起原としたものかもしれぬ。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
しめっぽい風の絶え間ない圧迫を顔に感じながら、ゆっくり歩いて、神話にちなんだ像が欄干についている橋を渡ると、しばらく港づたいに進んだ。
ちなみに——この遺書は内容を厳秘にして小生の旧友藤波弁護士に委託しましたもので藤波自身もこの内容を存じません。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
唯、糸七の遠い雪国のその小提灯の幽霊の徜徉さまよう場所が小玉小路、断然話によそえて拵えたのではない、とすると、蛙にちなんで顕著なる奇遇である。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その証拠というのも物々しいが、行々子は全国の隅々にわたって、その名とちなみのある一定の昔話をもち伝えている。
然し僕は、ブロークン・ハートにちなんで、この題目を選んだ訳では決して無い。それほどの茶気は僕には無いのだ。
恋愛曲線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
ちなみに、棚田判事は、趣味の方面においては特異なる作曲をもって聞こえ、都内有数の、刑事訴訟法の権威である。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
鶴見にはこの町名にちなみ、動物に因んだ隼男というのが好ましかった。彼がここで特にそういうのは、別に正根まさねという名を持たされていたからである。
その竹町ととなうるは佐竹邸の西門のとびらは竹を以て作れるに依りその近傍を竹門と称したれば右にちなみて町名となせり。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして終りに「ちなみに」とあって、当時までの被害寺院と首を盗まれた死人の姓名とが、五つ六つ列記してある。
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わざわざあんな下手な字なんか書いて、この会の名をそれにちなんでつけることにしたのも、そのためだったんだ。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ちなみにいふ、この趣向は小説の上にはありふれたりといへども、蕪村時代にはまだ箇様かような小説はなかりしものなり。蕪村はたしかに小説的思想を有したり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
後にロードの爵位を授けられたのは一九三二年のことでありますが、その称号をロード・オブ・ネルソンとうのはこの生地にちなんだものであるのでした。
ロード・ラザフォード (新字新仮名) / 石原純(著)
せふかさね/″\りようえんあるをとして、それにちなめる名をばけつ、ひ先きのさち多かれといのれるなりき。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
予、蜀に入る、往来皆な之をぎる。韓子蒼舎人、泰興県道中の詩に云ふ、県郭連青竹、人家蔽緑蘿と。欧公の句にちなめるに似て而かも之を失す。
「鼠の顔」の謎をこしらえるというので、まず鼠にちなむものはないか考えた。そしてミッキーを得た。——ミッキー・マウスではすこし長すぎて手に負えない。
軍用鼠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ピオニーと云うのは前から飼っているコリー種のめすで、去年の五月に神戸の犬屋から買った時にちょうど花壇に咲いていた牡丹ぼたんちなんで名をつけたのだが
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
法輪寺大鏡にる案内抄をみると、法輪寺は法琳寺あるいは法林寺ともかき、また生駒いこま郡富郷村三井の土地名にちなんで三井寺、御井寺ともいうそうである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
折柄の俄雨に傘を借りにきた男が、破れ傘にちなみある法界坊の話をいろいろと聞かされているうち、とうとうお天気になってしまったという埒口らちくちもない一席。
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)
紅葉山人というは青年時代に芝にすまっていたちなみから紅葉山もみじやまの人という意味で命じたので、格別ひねくらない処に洒落の風が現われている。第二に筆跡である。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それは善悪両面と鏡の両面にちなんだ枕がきのついた七冊続きであったが、画工の勝川かつかわ春亭しゅんていと争いを起してここにはしなくも文壇画壇のかなり大きな事件となった。
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
元明女帝の和銅元年、御宴にした三千代のさかずきに橘が落ちたのにちなんで橘宿禰の姓をたまわったのである。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そして出来あがつた上は太秦うづまさのそれにならつて牛祭を催す事にめて、伊原青々園せい/\ゑん祭文さいぶんを、梅幸ばいかうの振付で、その往時むかし丑之助うしのすけの名にちなんで菊五郎が踊るのだといふ。
ちなみに、若松村が若松町になったのは、明治二十四年三月一日、戸数八八一、人口三一三一。明治五年には若松村は戸数二〇、人口五八〇の一漁村にすぎなかった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
鮭の鑵詰かんづめを食う日で、すなわちその鑵詰の広告のようなものと判断された。そうしてそれが当日行われたいわゆる「節約デー」にちなんだものだという事に気が付いた。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
とは本年のお題「紙」にちなんで口吟してみた腰折れであるが、実のところわたくしはあまり紙くずを多くつくる方でもなし、また自分の習作の全部を紙くずと思うほど
幸福のなかに (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
その名にちなんで大いによろこばれだんだん仏教の話も出ましたけれども、私はチベット語の一つも知らずサラット居士の通弁で幼稚な英語をもって話をしただけであります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
これは賢秀の心をる為に云ったのでは無く、其翌年鶴千代丸に元服をさせて、信長の弾正だんじょうちゅうの忠の字にちなみ、忠三郎秀賦ひでますと名乗らせて、真に其言葉通り婿にしたのである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大阪の芝居が終ると、阪急電車で駈けつけた、あんまりよく通ったので、おやじが、勲章の代りに、シルヴァー・ダラーの名にちなんで、大きな、外国の銀貨を呉れたものだった。
神戸 (新字新仮名) / 古川緑波(著)
煉瓦石の製造場があるにちなんで、煉瓦餅といふのを賣つてゐる停車場で、その子供が一人減り、そのまた次ぎで一人減り、みんなゐなくなつた頃、義雄の汽車は岩見澤に着した。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
この決定にちなんで、日本ペン倶楽部は日本独自の立場を持つものであるが、同時に
今日の文学の展望 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
作りは父の好みで、彼女の爲めにとりの歳にちなんで金無垢きんむくの雞の高彫たかぼりを目貫めぬきに浮き出させ、鞘は梨子地なしぢで、黒に金絲を混ぜたふさ付きの下げ緒が長く垂れ、赤地金襴の袋に入つてゐる。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
車夫くるまやに鶴子をおぶつてもらひ、余等は滑る足元に氣をつけ/\鐵道線路を踏切つて、山田のくろを關跡の方へと上る。道もに散るの歌にちなむで、芳野櫻を澤山植ゑてある。若木ばかりだ。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
車夫くるまや鶴子つるこおぶってもらい、余等はすべ足元あしもとに気をつけ/\鉄道線路を踏切って、山田のくろ関跡せきあとの方へと上る。道もに散るの歌にちなんで、芳野桜よしのざくらを沢山植えてある。若木わかきばかりだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「あるとも/\、わしの名はそれにちなんだものだ。オレ・リユク・ウイといふのは、日本の言葉で言へば、をつぶれ、といふことだよ。お前もちよつと、わしの国へ行つてみないか。」
夢の国 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
そこで産婦に向かって、モーキイとするか、ソッシイとするか、それとも殉教者ホザザートの名にちなんで命名するか、とにかくこの三つのうちどれか好きな名前を選ぶようにと申し出た。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
茶器は昔から古物を尊び、由緒ある品などは莫大ばくだいな価額のように聞きましたのに、氏は新品で低廉の器具ばかりをそろえて、あんの名もそれにちなんで半円とか附けられたとかいうことでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
従来もとよりかの家は二三吉備の鴨別かもわけすゑにて家系すぢめも正しければ、君が家に二四ちなみ給ふは二五はた吉祥よきさがなるべし。此の事のらんは二六老が願ふ所なり。二七大人うし心いかにおぼさんやといふ。