つかさ)” の例文
悄然せうぜんとして浜辺に立つて居ると二人の貴人が其の前に現はれた。一人は大気のつかさアシーナの女神で、一人は伝令神マアキュリーである。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
当時はまだ法科大学フランス部の学生であった若槻わかつき礼次郎君、荒井賢太郎君、入江良之りょうし君、岡村つかさ君、織田よろず君、安達峯一郎みねいちろう君等
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
「許都に入らず、許都の郊外にたむろして、不慮の災いに備え、また長史王必おうひつを府内に入れて、御林の兵馬は、すべて彼の手につかさどらせよ」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ルーというのはチベットではその家の財宝をつかさどって居る神さんである、殊に龍王がその家の運をよく守って居るものであるから
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
一番外には困る輪が黒墨を流したように際限なく未来につらなっている。そうして宗近君はこの未来をつかさどる主人公のように見えた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
五百いおが藤堂家に仕えていた間に、栄次郎は学校生活にたいらかならずして、吉原通よしわらがよいをしはじめた。相方あいかた山口巴やまぐちともえつかさという女であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これらは天が人の生死をつかさどり、人を知り、また自然の運行を支配するものであることを前提として言われたように見える。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
天地渾沌てんちこんとんとして日月じつげついまだ成らざりし先高天原たかまがはらに出現ましませしにりて、天上天下万物のつかさと仰ぎ、もろもろの足らざるを補ひ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
下役でさへさうだとすれば、別当とか、侍所のつかさとか云ふ上役たちが頭から彼を相手にしないのは、むしろ自然のすうである。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
左右に居流れたは検断所のつかさ、評定衆、問注所の司、引付衆ひきつけしゅう越訴おっそ奉行、祗候人しこうにんの人々で、同じくいずれも武装していた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その時パリサイ人にてニコデモという老人があり、ユダヤ人のつかさたる有力者であったが、世間をはばかって夜ひそかにイエスを訪い教えを乞うた。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
人々ひとびとこころせよ、それはなんじらを衆議所しゅうぎしょわたし、会堂かいどうにてむちうたん。また汝等なんじらわがゆえによりて、つかさたちおうたちのまえかれん。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
秩父ちちぶのおくにゐました秩父のつかさも、たいへん心配しまして、ある日、三峰山みつみねさんの中に、三峰の法師をおとづれました。
鬼カゲさま (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
または国々のつかさからなり、恒例の弊物をささげて参同する者を派遣せられる御定めであったというまでであろう。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
西日本三十三ヶ國のはかりつかさなる京都の神善四郎と並んで、互に犯すことなく六十餘州の權衡を管轄くわんかつしました。
五十嵐十風は其廢業したつかさ事靜岡しづ子を手裡に收めて意氣揚つて七條の停車場に下りた。迎へに來て居つた増田に「これは僕の妻で」といつて引合はした。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
科学の神殿を守る祭祀さいしつかさになろうと志す人、また科学の階段を登って栄達と権勢の花の山に遊ぼうと望む人達にはあまり参考になりそうに思われないのである。
科学に志す人へ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
煩わせば姉さんにしかられまするは初手しょての口青皇せいこう令をつかさどれば厭でも開くはちの梅殺生禁断の制礼がかえって漁者の惑いを募らせ曳く網のたび重なれば阿漕浦あこぎがうらに真珠を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
いかにもとおむかしのこと、ところひとも、きゅうにはむねうかびませぬ。——わたくしうまれたところは安芸あき国府こくふちち安藝淵眞佐臣あきぶちまさをみ……代々だいだいこのくにつかさうけたまわってりました。
天皇はそれではじめてみこ御前ごぜんへお通しになりました。それから阿知直あちのあたえに対しても、ごほうびにくらつかさという役におつけになり、たいそうな田地でんぢをもおくだしになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
また船のへさきの方に我は顔して坐りなどする者をば将監様とよぶ。これは江戸の頃の水の上のつかさ向井将監にかけて云へるにて、将監のやうに坐りて傲り高ぶれるといふ意なるべし。
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
はては三宅の鉄物店の番頭宮崎つかさ——と国臣は変名していた——の正体まで洗われそうになったので、この二代目雲浜は竹崎から回航した最後の貿易船に打ち乗って、連島を去った。
志士と経済 (新字新仮名) / 服部之総(著)
しかして単独に生活する動物では親が同じく教育をもつかさどるが、社会をなして生活する動物では社会中の個体の間に分業が行なわれ、生殖するものと教育を司どるものとの別が生ずる。
生物学より見たる教育 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
西丸にしまるひかやくつかさ、今で言えば文書課長に当る身が、羽振はぶりがいいといったところで、要するにちまたの一剣術使い、神保造酒風情ふぜいに、背に腹は換えられない、ペコペコでもないが、この通り
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
俗に「おえびすさま」といへばどんな片田舍の子供でも知らない者のないやうな事代主の神とは、漁業の祖神であるばかりでなく、農業と商業とをつかさどる神でもある。そのことが既に平和の神である。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
我は時としてこの帽子或は我が運命をつかさどるにあらずやと思ふ事あり。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
普通あたりまえの漢学者であって、大阪の藩邸に在勤してその仕事は何かというと、大阪の金持かねもち加島屋かじまやこういけというような者に交際して藩債の事をつかさどる役であるが、元来父はコンナ事が不平でたまらない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
デ・ミニストル・ハン・コロニイン(外国の事をつかさどる大臣の官名)
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そのつかさのものが然るべき時にいたすであろう。10930
かたくなに、言向ことむけがたきつかさかな。
意識にこれだけの分化作用ができて、その分化した意識と、眼球めだまと云う器械を結びつけて、この種の意識は眼球がつかさどるのだと思いつく。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「大丈夫、信をうけて、しばしなりと、一国の大事をつかさどるうえは、たとい死んでも、惜しみはない」と、感激していった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこへ会堂つかさヤイロという人が来て、自分の小娘が危篤だから、早く来て手を置いて下さい、とせつにお願いした。
西日本三十三ヶ国の秤のつかさなる京都のしん善四郎と並んで、互に侵すことなく六十余州の権衡を管轄かんかつしました。
たゞ伊勢太神宮の御屯倉みやけを預かつて相馬御厨みくりやつかさであるに過ぎぬのであるに、父の余威をるとは言へ、多勢の敵に対抗して居られるといふものは、勇悍ゆうかんである故のみでは無い
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
日本全国六十余州に散在している陰陽師おんみょうじつかさ中御門中納言なかみかどちゅうなごんの一族の姫、故あって民間に育ちたれば、その名もいやしく山尾とは云えど、性来うまれながらの義侠止められず、女ばかりの党を作り
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
第一女子は家の内事をつかさどるのつとめあるが故に学事勉強のいとま少なし。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「上人。——今あれへ行ったお弟子は、三、四年前まで、この地方の修験者のつかさとして怖ろしい勢力を持っていた播磨公弁円はりまのきみべんえんではございませぬか」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人間活力の示現を観察してその組織の経緯一つをつかさどる大事実から云えばどうしても今私が申し上げたように解釈するよりほか仕方がないのであります。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
汝らみずから(に)心せよ、人々汝らを衆議所にわたさん。汝ら会堂にかれて打たれ、かつわがゆえによりて、つかさたちおよび王たちの前に立てられん、これは証をなさんためなり。
我をつかさどるものの我にはあらで、先に見し人の姿なるをしく、怪しく、悲しく念じ煩うなり。いつの間に我はランスロットと変りて常の心はいずこへかうしなえる。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
親鸞はおらぬかっ、愚禿ぐとくはどこにおるかっ。すでにここに立ち帰っておろうが。常陸ひたち一国の修験のつかさ播磨公はりまのきみ弁円が、破戒無慙むざんの念仏売僧まいすに、金剛杖の灌頂かんじょうをさずけに参った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
閑花素琴かんかそきんの春をつかさどる人の歌めくあめしたに住まずして、半滴はんてき気韻きいんだに帯びざる野卑の言語を臚列ろれつするとき、毫端ごうたんに泥を含んで双手に筆をめぐらしがたき心地がする。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
幸いにも、黄蓋は武具兵粮ひょうろうつかさどる役目にあれば、丞相だに、だく! とご一言あれば、不日、呉陣を脱して、呉の兵糧武具など、及ぶかぎり舷に積載してお味方へ投じるでござろう
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「見番は何でも男の人間だと思います」「何をつかさどっているんですかな」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「世間は広うございますぜ、小野派ばかりが剣術のつかさでもあるめえし、もっと腹を大きくお持ちなせえ。そしてたまにゃ男らしく、グンと酒でも仰飲あおらなけりゃ、生身が続くもんじゃありません」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうなされた弁円どの、おん身が佐竹侯に迎えられ、修験しゅげんつかさとしてこの地方へ下られていると聞き、いつかは折を得て、ゆるりと話したいと思うていたが、つい機縁ものう打ち過ぎてあった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一家の会計をつかさどっていない彼の財嚢ざいのうは無論軽かった。空のまま硯箱すずりばこそば幾日いくかも横たわっている事さえ珍らしくはなかった。彼はその中から手に触れるだけの紙幣をつかみ出して島田の前に置いた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)