“午後(ごゝ)” の例文
午後(ごゝ)は降(ふ)り止(や)んだが晴(は)れさうにもせず雲(くも)は地(ち)を這(は)ふようにして飛(と)ぶ、狹(せま)い溪(たに)は益々(ます/\)狹(せま)くなつて、僕(ぼく)は牢獄(らうごく)にでも坐(すわ)つて居(ゐ)る氣(き)。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
清(きよ)らかな水(みづ)が滾々(こん/\)と泉(いづ)み流(なが)れて、其邊(そのへん)の草木(くさき)の色(いろ)さへ一段(いちだん)と麗(うる)はしい、此處(こゝ)で一休憩(ひとやすみ)と腰(こし)をおろしたのは、かれこれ午後(ごゝ)の五時(じ)近(ちか)く、不思議(ふしぎ)なる響(ひゞき)は漸(やうや)く近(ちか)くなつた。
入梅(つゆ)になッてからは毎日(まいにち)の雨降(あめふり)、其(それ)が辛(やつ)と昨日(きのふ)霽(あが)ツて、庭柘榴(ざくろ)の花に今朝(けさ)は珍(めづ)らしく旭(あさひ)が紅々(あか/\)と映(さ)したと思(おも)ツたも束(つか)の間(ま)、午後(ごゝ)になると、また灰色(はいいろ)の雲(くも)が空(そら)一面(いちめん)に擴(ひろ)がり
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
明(あ)くれは日曜(にちえう)、終日(ひねもす)寢(ね)て居(い)ても咎(とが)むる人(ひと)は無(な)し、枕(まくら)を相手(あひて)に芋虫(いもむし)を眞似(まね)びて、表(おもて)の格子(こうし)には錠(でう)をおろしたまゝ、人訪(ひとゝ)へとも音(おと)もせず、いたづらに午後(ごゝ)四時(じ)といふ頃(ころ)に成(なり)ぬれば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
午後(ごゝ)になつて此(こ)の例年(れいねん)にない雪(ゆき)も歇(や)んだ。空(そら)が左(さ)もがつかりしたやうにぼんやりした。おつぎが騷(さわ)いだ心(こゝろ)も靜(しづ)まつて又(また)水(みづ)を汲(く)みに出(で)た時(とき)、釣瓶(つるべ)の底(そこ)は重(おも)く成(な)つて抑(おさ)へた鍵(かぎ)の手(て)から外(はづ)れようとして居(ゐ)た。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
小田原(をだはら)は街(まち)まで長(なが)い其(その)入口(いりぐち)まで來(く)ると細雨(こさめ)が降(ふ)りだしたが、それも降(ふ)りみ降(ふ)らずみたいした事(こと)もなく人車鐵道(じんしやてつだう)の發車點(はつしやてん)へ着(つ)いたのが午後(ごゝ)の何時(なんじ)。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
昨日(きのふ)の午後(ごゝ)より谷中(やなか)の母(かゝ)さんが急病(きうびやう)、癪氣(しやくけ)で御座(ござ)んすさうな、つよく胸先(むなさき)へさし込(こ)みまして、一時(じ)はとても此世(このよ)の物(もの)では有(あ)るまいと言(い)ふたれど、お醫者(いしや)さまの皮下注射(ひかちうしや)やら何(なに)やらにて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
森閑(しんかん)とした浴室(ゆどの)、長方形(ちやうはうけい)の浴槽(ゆぶね)、透明(すきとほ)つて玉(たま)のやうな温泉(いでゆ)、これを午後(ごゝ)二時頃(じごろ)獨占(どくせん)して居(を)ると、くだらない實感(じつかん)からも、夢(ゆめ)のやうな妄想(まうざう)からも脱却(だつきやく)して了(しま)ふ。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
さるほどに相添(あひそ)ひてより五年(ねん)目(め)の春(はる)、梅(うめ)咲(さ)く頃(ころ)のそゞろあるき、土曜日(どえうび)の午後(ごゝ)より同僚(どうりよう)二三人(にん)打(うち)つれ立(た)ちて、葛飾(かつしか)わたりの梅屋敷(うめやしき)廻(まわ)り歸(かへ)りは廣小路(ひろこうぢ)あたりの小料理(こりようり)やに、酒(さけ)も深(ふか)くは呑(のま)ぬ質(たち)なれば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
死人(しにん)のやうな顏(かほ)をして僕(ぼく)の歸(かへ)つて來(き)たのを見(み)て、宿(やど)の者(もの)は如何(どん)なに驚(おどろ)いたらう。其驚(そのおどろき)よりも僕(ぼく)の驚(おどろ)いたのは此日(このひ)お絹(きぬ)が來(き)たが、午後(ごゝ)又(また)實家(じつか)へ歸(かへ)つたとの事(こと)である。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
不愉快(ふゆくわい)の人車(じんしや)に搖(ゆ)られて此(こ)の淋(さ)びしい溪間(たにま)に送(おく)り屆(とゞ)けられることは、頗(すこぶ)る苦痛(くつう)であつたが、今更(いまさら)引返(ひきか)へす事(こと)も出來(でき)ず、其日(そのひ)の午後(ごゝ)五時頃(じごろ)、此宿(このやど)に着(つ)いた。突然(とつぜん)のことであるから宿(やど)の主人(あるじ)を驚(おどろ)かした。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)