内端うちわ)” の例文
はじめて、白玉のごとき姿を顕す……一にん立女形たておやま、撫肩しなりとはぎをしめつつつまを取ったさまに、内端うちわ可愛かわいらしい足を運んで出た。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どこまでも内端うちわにおとなしやかな娘で、新銘撰の着物にメリンス友禅の帯、羽織だけは着更きかえて絹縮きぬちぢみの小紋の置形、束髪に結って、薄く目立たぬほどに白粉をしている。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
何かと云えばいま一人の女房を立てて、自分はいかにも控え目にしていた、そんな内端うちわな女のそういう云い知れぬ魅力というものは何処から来るのだろうかと、男は自問自答した。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ことし十八とはいうものの、小柄で内端うちわで、肩揚げを取って去年元服したのが何だか不似合いのようにも見えるほどな、まだ子供らしい初心うぶの十吉にとっては、それがなんの問題にもならなかった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一人が揃えた雪駄せったに、内端うちわ白足袋しろたびの足がかかる。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
綺麗きれいつまをしっとりと、水とすれすれに内端うちわ掻込かいこんで、一人美人がたたずむ、とそれと自分が並ぶんで……ここまで来るともう恍惚うっとり……
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たとは迂哉おろか。今年如月きさらぎ、紅梅に太陽の白き朝、同じ町内、御殿町ごてんまちあたりのある家の門を、内端うちわな、しめやかな葬式とむらいになって出た。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれどもむかしから懇意こんいな者は断らず泊めて、老人としより夫婦が内端うちわに世話をしてくれる、よろしくばそれへ、そのかわりといいかけて、折を下に置いて
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不忍しのばずいけ懸賞けんしやうづきの不思議ふしぎ競爭きやうさうがあつて、滿都まんとさわがせたことがある。いけ内端うちわ𢌞まはつて、一周圍ひとまはり一里強いちりきやうだとふ。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
美女 (おくれたる内端うちわな態度)もうもう、決して、虚飾みえ栄燿えようを見せようとは思いません。あの、ただ活きている事だけを知らせとう存じます。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こう、おめえ一ツ内端うちわじゃあねえか、知己ちかづきだろう、暴れてくれるなって頼みねえ、どうもしやあしねえやな。そして乗られなかったらいて行くさ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
細い褄先つまさきやわらかくしっとりと、内端うちわ掻込かいこんだ足袋たびまって、其処そこから襦袢じゅばん友染ゆうぜんが、豊かに膝までさばかれた。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ははあ搦手からめてから出たかと思う、その提灯がほんのりと、半身の裾を映す……つまの人よりも若く、しっとりと、霧につたもみじしたくれないの、内端うちわに細さよ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
着物きものは、ちやつた、おなじやうながらなのをて、阿母おふくろのおかはりにつた、老人としよりじみた信玄袋しんげんぶくろげた、朱鷺色ときいろ襦袢じゆばん蹴出けだしの、内端うちわながら、なまめかしい。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
門附は手拭の上へばちを置いて、腰へ三味線を小取廻ことりまわし、内端うちわに片膝を上げながら、床几の上に素足の胡坐あぐら
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これを聞いて、かがんで、板へ敷く半纏はんてんすそ掻取かいとり、膝に挟んだ下交したがいつま内端うちわに、障子腰から肩を乗出すようにして、つい目のさきの、下水の溜りに目を着けた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
界隈かいわい景色けしきがそんなに沈鬱ちんうつで、濕々じめ/\としてるにしたがうて、ものもまた高聲たかごゑではものをいはない。歩行あるくにも内端うちわで、俯向うつむがちで、豆腐屋とうふやも、八百屋やほやだまつてとほる。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
界隈かいわいの景色がそんなに沈鬱ちんうつで、湿々じめじめとして居るにしたごうて、住む者もまた高声たかごえではものをいわない。歩行あるくにも内端うちわで、俯向うつむがちで、豆腐屋も、八百屋やおやも黙って通る。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
両膝をほっそりと内端うちわかがめながら、忘れたらしく投げてたすそを、すっと掻込かいこんで、草へ横坐りになると、今までの様子とは、がらりと変って、活々いきいきした、すずしい調子で
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「誰も、そんな事を言いはしませんよ。」とお千世がなだめるように優しく云って内端うちわに酌ぐ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
草鞋わらじ穿く時、さきへ宿のものの運んだ桐油包とうゆづつみの荷を、早く背負しょって、髪を引きしめた手拭てぬぐいを取って、さっまぶたを染めて、すくむかと思うほど、内端うちわにおじぎをしたおんなを見ると
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
矢張やっぱり内端うちわぢや、お前様立つて取らつしやれ、なになう、わしがなう、ありやうは此の糸の手を放すと事ぢや、一寸ちょっとでも此の糸を切るが最後、お前様の身があぶないで、いゝや、いゝや
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
裾が鳥居をくぐると、一体、聖心女学院の生徒で、昼ははかま穿く深い裾も——風情は萩の花で、鳥居もとに彼方あなた此方こなた、露ながらあかるく映って、友染ゆうぜんさばくのが、内端うちわな中になまめかしい。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ずかと無遠慮には踏込み兼ねて、誰か内端うちわ引被ひっかついで寝た処を揺起ゆりおこすといった体裁……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多日たじつやまひしようして引籠ひきこもり、人知ひとしれず諸家しよか立入たちいり、内端うちわ樣子やうすうかゞるに、御勝手ごかつてむなしく御手許おてもと不如意ふによいなるにもかゝはらず、御家中ごかちう面々めん/\けて老職らうしよく方々かた/″\はいづれも存外ぞんぐわい有福いうふくにて
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
影があざになって、巴が一つ片頬かたほに映るように陰気にみ込む、と思うと、ばちゃり……内端うちわに湯が動いた。何の隙間すきまからか、ぷんと梅の香を、ぬくもりで溶かしたような白粉おしろいの香がする。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それも愛想がないのぢやないわいなう、お前様は可愛かわいらしいお方ぢやでの、わし内端うちわのもてなしぢや、茶もんであがらうぞ、火もいて当らつしやらうぞ。何とそれでも怪しいかいなう」
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
読む方は、筆者が最初に言ったある場合を、ごく内端うちわに想像さるるがい。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いいえ、」と内端うちわに小さな声で、ものを考えるがごとく蝶吉はいった。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
内端うちわながら判然はっきりとしたすずしい声が、かべいて廊下で聞える。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
内端うちわに積りまして一万円ばかりですって。」
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雁首がんくび俯向うつむけにして、内端うちわに吸いつけて
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
信也氏は思わず内端うちわに袖を払った。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
内端うちわに、品よく、高尚と云おう。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
内端うちわながら二ツ三ツステッキって
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つぼみぐらいな内端うちわな声。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)