其方そつち)” の例文
其邊そのへんには』とひながらねこは、其右そのみぎ前足まへあしつてえがき、『帽子屋ぼうしやんでる、それから其方そつちはうには』とほか前足まへあしつて
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
多分、お糸が出現してから、金五郎の心が急速に其方そつちへ傾いて行くのを見て、一時は踊に沒頭して、何も彼も忘れようと骨を折つたのでせう。
「ああ、今其方そつちへ行くから。——さあ、客が有るのだ、好加減に帰らんか。ええ、放せ。客が有ると云ふのにどうするのか」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「さうですか。旦那はいける方だつたんですか。わたしと来たらお酒も煙草も、両方ともカラいけないんですよ。其方そつちなら誰にも負けません。」
にぎり飯 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
級は違つてゐても、鈴の樣な好い聲で藤野さんが讀本を讀む時は、百何人が皆石筆や筆を休ませて、其方そつち許り見たものだ。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
其方そつちを振向くと、丁度ちやうど、今二十はたち位になる女が、派手な着物を着た女が、その渡船小屋わたしごや雁木がんぎの少し手前のところから水へと飛込んだ処であつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
ハイ御免ごめんなさい。主人「へいこれはいらつしやい。客「両掛りやうがけ其方そつちへおあづかり下さい。主人「へい/\かしこまりました。客「おいてりますかな。 ...
(和)茗荷 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
僕がういふ科学書生で、平素しよつちゆう其方そつちの研究にばかり頭を突込んでるものだから、あるひは僕見たやうなものに話したつて解らない、と君は思ふだらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
入物いれもの其方そつちのですが、そのつまらん中身なかみ持參ぢさんですとひたいところを、ぐツと我慢がまんして、余等よら初對面しよたいめい挨拶あいさつをした。
「知らないわ。馬鹿らしい。きな人がある位なら、始めつから其方そつちつたらいぢやありませんか」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「ゆうべは夜中よなかから、よくいてたよ——ちゝ、ちゝ——と……あきさびしいな——よし。其方そつちへやつときな。……ころすなよ。」小栗をぐりかたはらからをついて差覗さしのぞいた。
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
殺した時其方そつち利根川とねがはへ死骸を打込うちこまふといつたら三五郎が言には川へ流しては後日ごにち面倒めんだうだ幸ひ此彌十に頼んで火葬くわさうもらへば死骸しがいも殘さず三人の影もかたちも無なるゆゑ金兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
五六三頁にも、お銀の言葉として「其方そつちのお邸へ行つてはなりません」というのがある。
中里介山の『大菩薩峠』 (新字新仮名) / 三田村鳶魚(著)
さうすると何となく、どうしても、見にだけでも、かずには居られなくなる。……さう云つた訳で、ボールのあるごとに、ちよい/\自分は其方そつちへ出かけて行つて、人々の踊るのを眺めてゐた。
私の社交ダンス (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
しかういふものか此時このときばかり、わたしこころめう其方そつち引付ひきつけられた。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
お酉さまへ諸共もろともにと言ひしを道引違ひきたがへて我がかたへと美登利の急ぐに、お前一処には来てくれないのか、何故其方そつちへ帰つてしまふ、あんまりだぜと例の如く甘へてかかるを振切るやうに物言はずけば
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ついでにこんなものも其方そつちへ渡さう。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
それもそこに行かうと言ふ意志がかれを其処にれて行つたのではなかつた。かれは唯ぶら/\と歩いて其方そつちへと行つた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
眞つ直ぐに兩國へかゝると、橋のたもとで何處かの小僧さんが待つて居て、『増屋の主人が小梅こうめれうに居るから、其方そつちへ持つて行くやうに』といふ傳言ことづてです
此人が予の入社した五日目に来て、「今度小樽に新らしい新聞が出来る。其方そつちへ行く気は無いか。」
勝手かつて木像もくざうきざまばきざめ、天晴あつぱ出来でかしたとおもふなら、自分じぶんそれ女房にようぼうのかはりにして、断念あきらめるが分別ふんべつ為処しどころだ。見事みごとだ、うつくしいと敵手あひてゆるは、其方そつち無理むりぢや、わかつたか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
エヽいてります…おくの二番へ御案内ごあんないまうしなよ。客「エヽ此莨入このたばこいれ他人ひとからの預物あづかりものですから其方そつちへおあづかりなすつて、それから懐中ふところちつとばかり金子かねがありますが、これも一しよにおあづかりなすつて。 ...
(和)茗荷 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
電車には近頃漸く乗り馴れた。何か買つて上げたいが、何がいか分からないから、買つて上げない。しければ其方そつちから云つてて呉れ。今年ことしこめいまが出るから、売らずに置く方がとくだらう。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
とりさまへ諸共もろともにとひしをみち引違ひきたがへてかたへと美登利みどりいそぐに、おまへしよにはれないのか、何故なぜ其方そつちかへつて仕舞しまふ、あんまりだぜとれいごとあまへてかゝるを振切ふりきるやうに物言ものいはずけば
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其進路そのコース沿うて其方そつち此方こつち排置はいちされました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
此方の紐と其方そつちの紐とを結び合はせた。ぐつと引上げた。つぎはぎだらけの茶色をした帆が川風にはた/\動いた。
船路 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
其方そつちからは行けませんよ。厚い生垣いけがきがあつて、北へ行くには南の方へ出て、屋敷をグルリと一と廻りするんです」
菊池君はヤヲラ立ち上つて、盃を二つ持つて来たが、「マア此方こつちへ来給へ、菊池君。」と云ふ西山社長の声がしたので、盃を私と志田君に返した儘其方そつちへ行つて了つた。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
くささとつては、昇降口しようかうぐち其方そつちはしから、洗面所せんめんじよたてにした、いま此方こなたはしまで、むツとはないてにほつてる。番町ばんちやうが、また大袈裟おほげさな、と第一だいいち近所きんじよわらふだらうが、いや、眞個まつたくだとおもつてください。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なにをしやアがる、しやアがるな、モツと其方そつちりやアがれ。
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「待つてくれ、醫者が居るなら、其方そつちは急ぐことはあるまい、——その時碁を打つて居たのは誰と誰なんだ」
いづれも其方そつちにのみ気を取られて居るから、自分の其処に行つたのに誰も気の付く者は無い。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
『昼寝してたんぢやないのか! 今神山さんが来たが、其方そつちへ行つてもいか?』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
豊年ほうねん坊主は、小奴こやつこの三味線で、何にか踊つてゐたやうで、大きな花火が揚がつて、皆んな其方そつちを向いた時、お絹さんはいきなり悲鳴をあげて船底に倒れました。
かう言つて人達は其方そつちの方へと走つて行つた。それは町の角である。長い町を通つてこれから寒い風の吹く野に出ようとする角である。通りかゝつた荷車や人足や女子供などが一杯に其処に立留つた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「おツ、數珠をきつて、岡つ引の子分にならうか、——若し又、其方そつちが負けたら」
「卑怯は其方そつちだ。名乘らなきや眼へ行くぞツ」
「本人の氣持などを其方そつちのけにね」