ゆる)” の例文
本山から出府している坊主は十一人ありましたが、ほかの寺に宿を取っていた七人はこの事件に関係がないというのでゆるされました。
半七捕物帳:25 狐と僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これみな本妻というもののなく召仕めしつかえの女にて家内を治むるゆえ軽々しく相成り、不相応なる者を奥深く出入りをゆるし不取締りにて候。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
小「てまいは何んだ、賊だな、音羽が左様のことでわしに無心をいうわけはない、また金はもとより懐中には無いが、寄り附くとゆるさんぞ」
お心懸りになっては、折角の茶にもさわりますから有態ありてい申し上げましょう——実は、お察しの通り、真にゆるされたのではございませぬ。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一と通り形式的な取り調べがあって、二日の後には佐吉はゆるされ、訴人をした木戸番の八は、無宿牢へ叩っ込まれてしまいました。
U氏がコンナ事でYをゆるすような口吻くちぶりがあるのが私には歯痒はがゆかった。Yは果してU氏の思うように腹の底から悔悛くいあらためたであろう乎。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
また立ちて祈る時、人を怨むることあらばゆるせ、これは天にいます汝らの父の、汝らの過失を免し給わんためなり。(一一の二二—二五)
成善は経史けいし兼松石居かねまつせききょに学んだ。江戸で海保竹逕かいほちくけいの塾を辞して、弘前で石居の門をたたいたのである。石居は当時既に蟄居ちっきょゆるされていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あげ何卒なにとぞゆるしてたべわたしは源次郎といふをつとのある身金子が入なら夫より必ずお前にまゐらせん何卒我家へ回してと泣々なく/\わびるを一向聞ず彼の雲助くもすけは眼を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其処に転生して、其土地の人と共食すると、異形身に化して了うて、其国の主のゆるしが無ければ、人間身に戻る事は出来ない。
私の弱つた魂にあなたは祈祷の義務をゆるして下さるだらう。あまつさへあなたは私の疲れた眼の上に安眠のヴェールを曳いて下さるだらう。
愛は、力は土より (新字旧仮名) / 中沢臨川(著)
渠水きよすゐ波なく、古宮空しく聳ゆる處、我が爲めには神話中の夢幻界を現じ來れり。我は兒童の如く合掌して祈祷したり。父よ、我諸惡をゆるせ。
「そうおっしゃるなら、ゆるして上げましょう、今晩はあなたの精進をさまたげないで上げましょう、では、わたしが代って」
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
天皇憐愍れんみんして使を遣して犯状の軽重を覆審ふくしんせしむ。是に於きて、恩をくだしてことごとくに死罪已下いげゆるし、並に衣服を賜ひ、其れを自ら新にせ令む。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
そして脇差をさす事をゆるされていた。私の幼い時の名は誠太郎であったが、後に富太郎となった。これが今日の名である。
うたおぼすらむ。然れども昼牟子を風の吹き開きたりつるより見奉るに、更にものおぼえずつみゆるし給へ云々うんぬん」とある。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
火を城に放とうと思うたのであると苦しい答弁をしたのでゆるされたが、本多は云分立たずであったので勘当されてしまった。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
我輩固より此亂臣賊子の罪をゆるすに非ず、之をにくみ之を責めて止まずと雖ども、は唯我々臣子の分に於て然るのみ。
帝室論 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
『莫迦に僕を邪魔にする! が、マアゆるして置け。その代り儲かつたら、割前を寄越さんと承知せんぞ。左樣なら。』
札幌 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「どうぞおゆるし下さい。坊ちゃんは一時間もすればきっと醒めます。どうぞあの本のことだけはいわないで下さい。」
おれが悪かった、ゆるしてくれ。これで、せめて、このおれが、昔の身分で両刀を腰にさしてでもいた時なら、お前も、もっと信用してくれようが——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ゆるされし罪は消えぬべきも、歴々まざまざ挫傷すりきずのそのおもてに残れるを見れば、やましきに堪へぬ心は、なほすべき事あるををしみてわたくしせるにあらずやと省られて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
私は彼女をしっかりと押さえて、私の言うことをよく聞いて、わたしをゆるしてもらいたいと切願すると、彼女はわたしの口から眼へかけて鞭で打った。
『おゆるしあれ、陛下へいかよ』とつてかれは、『こんなものみまして、でも、おしになりましたとき、おちやみかけてましたものですから。』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
もっともの次第とあって倒れた動物を食う事をゆるされた。犬の望みで免状をしたため賜わったのを、犬の内もっとも大きく信用もあらばとて牧羊犬に預け置いた。
じょちゅうげなんあやまちをしでかして、主婦に折檻せっかんせられるような時には、嬰寧の所へ来て、一緒にいって話してくれと頼むので、一緒にいってやるといつもゆるされた。
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
放免! ゆるしてやれ、六カ月牢に行かせるな! それを言ったのはだれだろう。いやだれが言えるものか。私の聞き違いかしら。市長の奴が言うはずはない。
有がたう御座いますと済まして行く顔つきせいさへあれば人串談ぢようだんとてゆるすまじけれど、一寸法師の生意気とつまはぢきして好いなぶりものに烟草たばこ休みの話しの種成き。
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その代りに銘々めいめいに何か望みの本や玩具を買ってやる事にして、それで現代が生み出したこの一種の新しい父親の義務といったようなものをゆるしてもらう事にした。
小さな出来事 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
我らの日用の糧を今日もあたえ給え、我らに負債おいめあるものを我らのゆるしたるごとく、我らの負債をも免し給え。我らを嘗試こころみに遇せず、悪より救い出し給え……アーメン
反逆 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
如何いかなる珍味といえども純白なる良心に勝るものあらんや、罪よりゆるされし安心、神を友と持ちし快楽、永遠の希望、聖徒の交り——、我は世の富めるものに問わん
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
挂塔けいとうゆるされたのが、去年の霜月であったから、安居あんごはまだ半年に及んだばかりであったけれども、惟念の念頭からは、諸々もろもろの妄念が、洗わるるごとくに消えて行った。
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
十一才の誕生の日には母のゆるしを得て一日学校を休み、例の通り少しばかりのいはひをしてらいました。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
「馬鹿者ッ。詑びたとてゆるさぬと言うたら免さぬわッ。さ! 抜けッ。抜かずばブッタ斬るぞッ」
「それは神様があなたにお授け下さるでせう。どうぞわたくしの悪かつた事をゆるして下さい。」
あたしは、あの人がどんなにあやまつたつて、こればかりはゆるせないと思つてゐるんでせう。
驟雨(一幕) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
何事をも永遠にゆるすものの目の前で、のた打ち廻るような必死の苦痛を、最初たった一人が受けたなら、その外の一切の人間の罪は、もうそれであがなってあまりあろうではないか。
なぜならばおよそ懺悔というものは自分のこれまでした罪業ざいごうの悪い事を知って其罪それを悔いどうかこれをゆるしてくれろ、これから後は悪い事しないというのが一体の主義である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
若又此約束を違へて参らざる者は、雲の原までもさがし出し、其身の事は申に及ばず、一門までも成敗すべしと有て、すなはち籠の戸をひらき、数百の科人をゆるし出して放されけり。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
さればこそ土地のものは、総六に魔がしたといった。正直の通った親仁は、やがて、ただ通りがかりの旅の客に、船を一そう頼まれたとばかり、情を解せざる故をもて、程なくひとやゆるされた。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「その一緒について來たと云ふ奴はどうしたらう。Fが引張られたのを見て逃げちまつたか、それとも今にFがゆるされて出て來るかと思つて、時計が惜しくてまだこの邊にうろ/\してるんだらうか」
不良児 (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
長吉ちょうきちはやっとゆるされてそのがた学校がっこうもんたのでありました。かれみちあるきながら、算術さんじゅつや、暗誦あんしょうなどのない、すずめの世界せかいやからすの世界せかいがつくづくこいしくうらやましかったのであります。
残された日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こうされたことも共に神にゆるされねばならぬ——
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
汝らもし人の過失をゆるさば
文「えー御両所、此の者どもは二人共酔って居りますから、どうかゆるしてやって下さい、そんなに人を無闇に切るものでは有りません」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まったくもって、この慮外は、我を忘れた不埒ふらちにございました。……がしかし、これも憂国のほとばしりと、あわれ、みゆるしあらせ給え。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
盜みし當人のいでざる中は文右衞門の片口かたくちのみにてゆるわけには成り難く尤も百兩の紛失ふんじつは言掛りなしたる久兵衞こそあやしき者なれととく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのうち罪なくして罰せられたものが一人と、罪あつてゆるされたものが一人と、引き續いて出來て、どちらも十太夫に連係した事件であつた。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
神の前に出ようとする者は、まず己に負債おいめある者をゆるし、己の敵の罪を赦さねばならない(マタイ六の一二—一五参照)。
また一方には親方の庄蔵から町名主まちなぬしにその事情を訴えて、六三郎の赦免をしきりに嘆願したので、結局六三郎はお構いなしということでゆるされた。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)