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おもかげ
ふりがな文庫
“
俤
(
おもかげ
)” の例文
山越しの
弥陀
(
みだ
)
の図の成立史を考えようとするつもりでもなければ、また私の書き物に出て来る「死者」の
俤
(
おもかげ
)
が、藤原
南家郎女
(
なんけいらつめ
)
の目に
山越しの阿弥陀像の画因
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
不幸で沈んだと名乗る
淵
(
ふち
)
はないけれども、孝心なと聞けば
懐
(
なつか
)
しい流れの花の、旅の
衣
(
ころも
)
の
俤
(
おもかげ
)
に立ったのが、しがらみかかる部屋の入口。
縁結び
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
ただいずこともなく誇れる
鷹
(
たか
)
の
俤
(
おもかげ
)
、
眉宇
(
びう
)
の間に動き、
一搏
(
いっぱく
)
して南の空遠く飛ばんとするかれが離別の詞を人々は耳そばだてて
聴
(
き
)
けど
おとずれ
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
「としのことを云ってくれるな」作次は左手で頬杖を突き、顔を
歪
(
ゆが
)
めた、「おさんか」と作次は遠い
俤
(
おもかげ
)
を追うような眼つきで
呟
(
つぶや
)
いた。
おさん
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
床は
勿論
(
もちろん
)
椅子
(
いす
)
でもテーブルでも
埃
(
ほこり
)
が
溜
(
たま
)
っていないことはなく、あの折角の
印度更紗
(
インドさらさ
)
の窓かけも最早や
昔日
(
せきじつ
)
の
俤
(
おもかげ
)
を
止
(
とど
)
めず
煤
(
すす
)
けてしまい
痴人の愛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
▼ もっと見る
まだどこか子供々々した
俤
(
おもかげ
)
のぬけきらぬ顔を
赭
(
あか
)
くし、パタ/\とその書面を叩き
乍
(
なが
)
らそれを奥方に見せに座を蹴つて立つた程であつた。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死
(新字旧仮名)
/
長与善郎
(著)
ただ亡児の
俤
(
おもかげ
)
を思い
出
(
い
)
ずるにつれて、無限に懐かしく、可愛そうで、どうにかして生きていてくれればよかったと思うのみである。
我が子の死
(新字新仮名)
/
西田幾多郎
(著)
五、
膃肭獣
(
オットセイ
)
の口髯に初恋の人の
俤
(
おもかげ
)
あり。この世の中にミミイ嬢のように立派なペンギン鳥は決して存在しているべきはずのものでない。
ノンシャラン道中記:08 燕尾服の自殺 ――ブルゴオニュの葡萄祭り――
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
この口唱が一しきり済んで、娘達のまぼろしの一めぐりしたあとへ、屋敷内のありとあらゆる倉々の
俤
(
おもかげ
)
が彼の眼の前で
躍
(
おど
)
り始めた。
老主の一時期
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
身長
(
みたけ
)
高く肉附きよく、腰もピーンと延びている。永らく
欧羅巴
(
ヨーロッパ
)
に住んでいたが、最近帰朝した日本人——と云ったような
俤
(
おもかげ
)
がある。
神秘昆虫館
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
姫は夜の闇にもほのかに映る
俤
(
おもかげ
)
をたどって、
疼
(
うず
)
くような体をひたむきに
抛
(
な
)
げ
出
(
だ
)
す。
行手
(
ゆくて
)
に認められるのは光明であり、理想である。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
大田黒
(
おおたぐろ
)
氏の書いた『影絵』の中のパハマンの項を読むと、レコードはパハマンの
俤
(
おもかげ
)
を伝えていないと言っている、恐らくそうであろう。
名曲決定盤
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
、
野村長一
(著)
譬えば新体詩なんぞに
汝
(
なんじ
)
と書いてナと読ませてナの
俤
(
おもかげ
)
とかナの姿とか読ませる。文字を見ずにただ聞くと
菜
(
な
)
の
花
(
はな
)
が幽霊になったようだ。
食道楽:冬の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
三十年近くも前の、私の若き頃の身の
俤
(
おもかげ
)
が、ひとりで幻想となって眼の底に浮かんできた。改めて、私はゆりかもめをみつめた。
みやこ鳥
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
で、京都では段々と仏師に名人もなくなり、したがって仏師屋も少なくなり、今日では、寺町通りへ行っても、昔日の
俤
(
おもかげ
)
はありますまい。
幕末維新懐古談:08「木寄せ」その他のはなし
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
そしてどういうものか、よく見なれた晩年の母の
俤
(
おもかげ
)
よりも、その写真の中の見なれない若い母の俤の方が、私にはずっと
懐
(
なつか
)
しい。
花を持てる女
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
国語漢文の先生であったが、その顴骨の高い、君子らしい、声の美しい、長身の先生の
俤
(
おもかげ
)
は今もハッキリと目の前に浮んで来る。
光り合ういのち
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
と思うと、わしは何とも云えぬいやあな気持になった。そして、あのいまわしい姦夫姦婦の
俤
(
おもかげ
)
が、憎々しくわしの頭に浮上った。
白髪鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
彼は思い出すことがあったかのように、しずかに応えたのではあったが、その実、その名ざされた博士の
俤
(
おもかげ
)
さえ思い出してはいなかった。
あめんちあ
(新字新仮名)
/
富ノ沢麟太郎
(著)
子として父の
俤
(
おもかげ
)
を写して見ようとする場合にすらそれだ。まして他の人の俤をやである。それにつけてもつくづく創作の
難
(
むずかし
)
いことを知る。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
整然
(
きっちり
)
片附られた座敷の正面床の脇に、淋しく立掛られてある琴が、在らぬ主の
俤
(
おもかげ
)
を哀れに
偲
(
しの
)
ばせた、春日は
中央
(
まんなか
)
でじっと
四辺
(
あたり
)
を見廻して後
誘拐者
(新字新仮名)
/
山下利三郎
(著)
作家の
俤
(
おもかげ
)
のない小説はつまらない、という風に、これも二次的な理解で云ったのに、北原がくってかかって云っているのです。
獄中への手紙:08 一九四一年(昭和十六年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
その西側のものはかなりの修繕を加えた様子だが、東側のものは
殆
(
ほと
)
んど昔の
俤
(
おもかげ
)
をそのままに保ちつつ人々に存在を忘れられつつ
聳
(
そび
)
えている。
めでたき風景
(新字新仮名)
/
小出楢重
(著)
とは、言はずと知れたことだが、やゝもすると、昭和の名古屋に、宝永の
俤
(
おもかげ
)
が多分に残つて居るのは、あながち筆者のひが目ではないやうだ。
名古屋スケッチ
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
絣
(
かすり
)
の単物に、メリンスの
赤縞
(
あかじま
)
の西洋前掛けである。自分はこれを見て、また強く亡き人の
俤
(
おもかげ
)
を思い出さずにいられなかった。
奈々子
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
時々藤本看護婦の
俤
(
おもかげ
)
が空に浮んだ。私はうつとりと彼女の優しみに充ちた笑顔を眺めた。彼女の俤を夢に見ることも一度や二度ではなかつた。
世の中へ
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
豊雄はそのあとで、そこの主人の
蓑笠
(
みのかさ
)
を借りて家へ帰ったが、女の
俤
(
おもかげ
)
が忘られないので、そればかり考えているとその夜の夢に女の許へ往った。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
さながら
希臘
(
ギリシャ
)
か古
羅馬
(
ローマ
)
貴族の邸にでも佇んで在りし昔の豪華なる
俤
(
おもかげ
)
でも
偲
(
しの
)
んでいるかのような気持がしてくるのであった。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
忠太郎 五つといえばちッたあ物も判ろうに、生みの母の
俤
(
おもかげ
)
を、思い出そうと気ばかり
逸
(
はや
)
るが、顔にとんと憶えがねえ。
瞼の母
(新字新仮名)
/
長谷川伸
(著)
頭から毛皮を
被
(
かぶ
)
った
鬚
(
ひげ
)
ぼうぼうの
熊
(
くま
)
のような山男の顔の中に、李陵がかつての
移中厩監
(
いちゅうきゅうかん
)
蘇子卿
(
そしけい
)
の
俤
(
おもかげ
)
を見出してからも
李陵
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
されど最も我目に留まりしはそれにはあらず。君が目、君が黒髮なりき。人となり給へる今も、その
俤
(
おもかげ
)
は明に殘れり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
あくまで
豪毅
(
ごうき
)
、あくまで沈着、さながら
春光影裡
(
しゅんこうえいり
)
に
斑鳩
(
いかるが
)
の里を
逍遥
(
しょうよう
)
し給う聖徳太子の
俤
(
おもかげ
)
が
偲
(
しの
)
ばれんばかりであった。
メフィスト
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
一
度
(
ど
)
に
女房
(
にようばう
)
を
見
(
み
)
た
彼等
(
かれら
)
には
其
(
そ
)
の
時
(
とき
)
まで
私語
(
さゞめ
)
き
合
(
あ
)
うた
俤
(
おもかげ
)
がちつともなかつた。
彼等
(
かれら
)
は
慌
(
あわ
)
てゝ
寶引絲
(
はうびきいと
)
も
懷
(
ふところ
)
へ
隱
(
かく
)
して
知
(
し
)
らぬ
容子
(
ようす
)
を
粧
(
よそほ
)
うて
圍爐裏
(
ゐろり
)
の
側
(
そば
)
へ
集
(
あつま
)
つた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
売物と
毛遂
(
もうすい
)
が
嚢
(
ふくろ
)
の
錐
(
きり
)
ずっと突っ込んでこなし廻るをわれから悪党と
名告
(
なの
)
る悪党もあるまいと俊雄がどこか
俤
(
おもかげ
)
に残る
温和
(
おとなし
)
振りへ目をつけてうかと口車へ腰を
かくれんぼ
(新字新仮名)
/
斎藤緑雨
(著)
音楽の
喩
(
たとえ
)
を設けていわば、あたかも現代の完備した大風琴を以って、古代聖楽を奏するにも比すべく、また言葉を易えていわば、昔名高かった麗人の
俤
(
おもかげ
)
を
『新訳源氏物語』初版の序
(新字新仮名)
/
上田敏
(著)
日本歴史上の名将東郷平八郎元帥の
俤
(
おもかげ
)
をすら親しくは余は一度も見たことがない、乃木大将は或時士官学校の前から四谷の方へ出る処、荒木町であったか
生前身後の事
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
奇遇に驚かされたる彼の
酔
(
ゑひ
)
は
頓
(
とみ
)
に
半
(
なかば
)
は消えて、せめて昔の
俤
(
おもかげ
)
を認むるや、とその人を
打眺
(
うちなが
)
むるより外はあらず。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
蟹十郎
(
かにじゅうろう
)
の吾太夫は寿美蔵の師匠張より見好きも、
貫目
(
かんめ
)
に乏しく、翫太郎の道庵は
適
(
はまり
)
役にて好し。小由の桜茶屋女房は松之助の
俤
(
おもかげ
)
あれど、つんけんし過ぎたり。
明治座評:(明治二十九年四月)
(新字旧仮名)
/
三木竹二
(著)
本店の方は前述のごとく
昔日
(
せきじつ
)
の
俤
(
おもかげ
)
はないが、支店特異の腕前は現在新橋
辺
(
あたり
)
の寿司屋としては、まず第一に指を屈すべきで、本店の
衣鉢
(
いはつ
)
は継がれたわけである。
握り寿司の名人
(新字新仮名)
/
北大路魯山人
(著)
お佐代さんは
形
(
なり
)
ふりに構わず働いている。それでも「岡の小町」と言われた昔の
俤
(
おもかげ
)
はどこやらにある。このころ黒木孫右衛門というものが仲平に逢いに来た。
安井夫人
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
以上の経過を、犬射は言葉すくなに語りおえたのであるが、すると、見えぬ眼を海上にぴたりと据え、そこを墓とする、武人の
俤
(
おもかげ
)
を
偲
(
しの
)
んでいるようであった。
潜航艇「鷹の城」
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
今でも
西蔵
(
チベット
)
その他の未開国には一婦多夫と女の家長権とが古代の
俤
(
おもかげ
)
を
遺
(
のこ
)
している。文明国においても
娼婦
(
しょうふ
)
や
妓女
(
ぎじょ
)
のたぐいは一種の公認せられた一婦多夫である。
私の貞操観
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
ノルウェイの渓谷の新緑は特殊な柔味があり、木々の枝葉は生い繁り、夏には北方の気候の
俤
(
おもかげ
)
は更にない。
人口論:02 第二篇 近代ヨオロッパ諸国における人口に対する妨げについて
(新字新仮名)
/
トマス・ロバート・マルサス
(著)
建築に於ても、東大寺の
法華堂
(
ほつけだう
)
、法隆寺
東院
(
とうゐん
)
の
夢殿
(
ゆめどの
)
、
新薬師寺
(
しんやくしじ
)
、正倉院その他が、当時の
俤
(
おもかげ
)
を伝へてゐる。
二千六百年史抄
(新字旧仮名)
/
菊池寛
(著)
不思議さ、忍藻の眼の中には三郎の
俤
(
おもかげ
)
が第一にあらわれて次に父親の姿があらわれて来る。青ざめた姿があらわれて来る。血、血に染みた姿があらわれて来る。
武蔵野
(新字新仮名)
/
山田美妙
(著)
所が、不思議な事に、劉の健康が、それから、少しづつ、衰へて来た。今年で、酒虫を吐いてから、三年になるが、往年の丸丸と肥つてゐた
俤
(
おもかげ
)
は、何処にもない。
酒虫
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
草に
涵
(
ひた
)
され草を養っている水の集りが中央に二、三の細流を湛えて、雑魚や水すましの群れこそ見えないが、里の小川の
俤
(
おもかげ
)
を偲ばせて、
静
(
しずか
)
に山の影を浮べている。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
美しい娘も老いて
俤
(
おもかげ
)
が変ったのであろう。私の
稚
(
おさな
)
い眼には格別の美人とも見えなかった。店の入口には小さい庭があって、飛石伝いに奥へ
這入
(
はい
)
るようになっていた。
二階から
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
全く世事を超脱した高士の
俤
(
おもかげ
)
、イヤ、それよりも
一段
(
もつと
)
俗に離れた、俺は生れてから未だ世の中といふものが西にあるか東にあるか知らないのだ、と云つた様な顔だ。
葬列
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
風俗三十二相(三十二枚
揃
(
そろ
)
ひ)は晩年の作なれどもその筆致の綿密にして人物の姿態の余情に富みたる、
正
(
まさ
)
にこれ明治における江戸浮世絵最終の
俤
(
おもかげ
)
なりといふべし。
江戸芸術論
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
俤
漢検1級
部首:⼈
9画
“俤”を含む語句
俤人
俤立
俤橋