あたい)” の例文
旧字:
ソコで其の片股かたももだけ買う事に決めて、相当のあたいを払い、もしも暇ならば遊びに来いと云うと、田舎漢いなかものの正直、其の夜再び出直して来た。
揃っていれば、勿論こんな店にあるべきものではないはずだが、それにしても何程いくらというだろうと、あたいを聞くと、ほんの端金はしたがねだった。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
自分じぶんいえには、これよりは、おおきなきかごのあることがあたまかびました。で、ついこの小鳥ことりあたいをきいてみるになりました。
自由 (新字新仮名) / 小川未明(著)
分割して私地となし、百姓に売与して年々にそのあたいもとむ。今より後、地を売ることを得じ。みだりに主となつて劣弱を兼併することなか
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
西鶴のあたいを思切って低くして考えれば、谷崎君がわたくしを以て西鶴の亜流となした事もさして過賞とするにも及ばないであろう。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その技芸もとより今日こんにちの如く発達しおらぬ時の事とて、しぐさといい、せりふといい、ほとんど滑稽に近く、全然一見いっけんあたいなきものなりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
本来、びた公の言うことなぞは、冷笑にも、嘲笑にもあたいしないのですが、こんなことをべらべらしゃべるのは、何か相当の受売りなのである。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、それらは皆、人手に渡すに忍びない恩人たちの真心の物でもあるし、また、そのすべてを渡しても、馬のあたいには足りそうもなかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一人がなよやかな気高いこうを贈るために女房連に頼み入れば、一人は七種香しちしゅこうあたい高いものを携えてこれを橘の君に奉れと申し出るのであった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
味噌を選ぶは勿論もちろん、ダシに用ゐる鰹節かつおぶしは土佐節の上物じょうもの三本位、それも善き部分だけを用ゐる、それ故味噌汁だけのあたい三円以上にも上るといふ。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
いやしくも人間の意義をまったからしめんためには、いかなるあたいを払うとも構わないからこの個性を保持すると同時に発達せしめなければならん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
利をつけて返すくらいさほど困難なことでもなし、またそのくらいなあたいで婿に買占められるような、僕の梓君じゃあない。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新聞が「妖虫事件」という異様な見出しをつけて、この事件を報道したのももっともであった。そいつは「妖虫」の名にあたいする怪人物に相違なかった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「これにて一時の急をしのぎたまえ。質屋の使いのモンビシュウ街三番地にて太田と尋ねん折りにはあたいを取らすべきに」
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「この世の悪魔あくまの店にあるものは何ものもみな相応のあたいがあって売買ばいばいされるが、価なしに得らるるものは独りかみのみ」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その姿を見ると、わたしは、この真の悲しみの生きた記念碑は、こういう壮大なもののすべてにもあたいすると思った。
あの朝鮮に住む無智な工人たちの誰もが作り得た一個の飯碗めしわんあたいだになき粗末なる品、それをあの偉大な光悦こうえつが驚歎したとはいかなることであろうか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
殊に大きいギャントリイ・クレエンの瓦屋根の空によこたわっていたり、そのまた空に黒い煙や白い蒸気の立っていたりするのは戦慄せんりつあたいするすさまじさである。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
豚の肉は全く調理法次第だ。あたいの点においても調理法次第で牛肉よりはるかに高くなる。生の肉を買ってみ給え、東京辺ではく上等で二十二、三銭位だろう。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
かもじのあたいも日本の十倍位するのである。首筋のあたりで髪を切つて、そしてたゞちゞらせて垂らした人もあるが、さう云ふ人も床屋へ来て網を掛けさせて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
は呉服屋に付けて貰えばいと云て、夫れからどの位のあたいかと云たら、ひとえ羽織の事だから一両三分だとう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
大臣は年がいってもなおはなやかな派手はでな人で、よく笑う性質なのであるが、こうした侮蔑ぶべつするにあたいする山の修験僧と向き合って、衛門督の病気の当初から
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そこには自負にあたいする何らかのものが存している。「いき」を好むか、野暮をえらぶかは趣味の相違である。絶対的な価値判断は客観的には与えられていない。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
一般的に、食欲の著しく減退しているこの時期に、うなぎがもてはやされるというのは、うなぎが特別扱いにあたいする美味食品であることに由来しているようだ。
鰻の話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
小家のわびしい物のも、源を辿たどればこの木の御器ごきのなげきであった。その中へ米ならば二ごうか三合ほどのあたいをもって、白くして静かなる光ある物が入って来た。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それが、たいへん高価なもので、品質によっては、一グラムのあたいが、金一グラムにひとしいものもある。そして、百キログラムぐらいの大きなかたまりもあった。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
「危急の場合とはいえ、われらごとき者の槍の石突をお当て申し、おん名を冒しまいらせた罪は万死にあたいすべし。吉信ただいまうちじにつかまつる、おんゆるし候え」
死処 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし英国人はその根を伝えて栽培し、一盆のあたい往々数ポンドに上っていると書き加えているが、その石蒜がいかなる経路を取ってかの国に伝えられたかは語っていない。
精神科学の原理原則は、もっともっと恐ろしい、驚目、駭心がいしんあたいする事実を提供しているんだよ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すると総理大臣の言うにはこれはたっとい物ゆえあたいをいって貰いたい。その価を上げたいからということであった。私は殿下に上げたものですから価を戴く必要はないと答えました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
同時にこれを蒐集した規則的方法と、各年におけるその相互の一致は、注目にあたいする。
こうなってみると毛のあたいもなかなか馬鹿ばかにできぬもので、毛頭もうとうその事実にいつわりはない。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
今宵の祝賀のまとであるべき花嫁を初め、親や仲人なこうどが、銘々の苦しみにもだえているにもかかわらず、祝賀の宴は、飽くまでも華やかだった。あたい高い洋酒が、次ぎから次ぎへと抜かれた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
馬はそこで肆の中へ坐って、肆の男にあたいを言わして、やすねで売ったので、数日のうちに売りつくした。馬はそれから陶にせまって旅準備たびじたくをして、舟をやとうてとうとう北へ帰ってきた。
黄英 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
手前から其のあたいを差上げますから、何うか手前へおゆずりを願いたいものでございます
悠々たる哉天壌てんじょう遼々りょうりょうたるかな古今。五尺の小躯を以て此大をはからむとす。ホレーショの哲学ついに何等のオーソリチーをあたいするものぞ。万有の真相は唯一言にしてつくす。曰く「不可解」。
巌頭の感 (新字新仮名) / 藤村操(著)
実際彼の頭脳は金にあたいしますよ、彼の住居すまいはハルムステッドのラックノーマンションです
とたちまち、あたいも知れぬほどの財宝が我々の眼前に光りきらめいて現われた。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
俊寛 清盛よ、お前がわしに課した苛責かしゃくあたいをお前に知らさずにはおかぬぞ!
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
また女は、羞恥を知り、慎みて宜しきにかなう衣もて己を飾り、編みたる頭髪かみのけと金と真珠とあたいたかき衣もては飾らず、善きわざをもて飾とせん事を。これ神をうやまわんと公言する女にかなえる事なり。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
まあ半分は、高いあたいを出した大事の切符を使えば気が済むのでもあった。
村芝居 (新字新仮名) / 魯迅(著)
エウマイオスは自分で革を截断せつだんして履物を作ったといわれ、オデュッセウスは非常に器用な大工で指物師であったように記されている。我々にとってこれは羨望せんぼうあたいすることではないであろうか。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
またかなり複雑な家庭が生む様々な出来事に対しても、常に貴方の愛はなく従って妻としてのあたいを認められない私はどんなに頼り少く淋しい日を送ったかはよもや御承知なきはずはないと存じます。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
米一升が三十銭近いあたいを持っているのに、一家三人の家族が、一日四十銭で、よく生きて行けるものだと、昔は自分もそうした生活の中にあったのだが、今の市平には不思議に思われる程であった。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「うむ、なるほど、これは面白い……買取ろう、あたいはなにほどだ?」
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
幾多の瞬間、幾多の時間、彼女に会い彼女の香りを吸い彼女の存在でおのれを養うという限りない幸福を、彼は楽しんできたのであった。しかも彼はその幸福のあたいをほんとうには知っていなかった。
日本中をはじめ、から朝鮮の珍稀ちんきな香炉をずいぶんと金にあかしてたくさん集めてもっておられたが、あのうちの一つだけでも、大店おおだなの一つや二つにはあたいする大財産じゃ。あの香炉は皆どうなったかな
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
土地のあたいは年々上って来て居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私は学校の帰途、その店頭に立って「ああ、ほしいなあ」とは思ったが、あたいくと二円五十銭なり。無論、わたしの懐中ふところにはない。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「これをむすめ土産みやげっていってやろう……?」と、父親ちちおやは、かんがえたのでした。そして、おばあさんに、あたいをたずねました。
お父さんの見た人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)