何処いづく)” の例文
旧字:何處
大伴旅人の歌に、「此処にありて筑紫つくし何処いづく白雲の棚引く山のかたにしあるらし」(巻四・五七四)というのがあって、形態が似ている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「なう/\あれなる御僧ごそうわが殿御かへしてたべ、何処いづくへつれて行く事ぞ、男返してたべなう、いや御僧とは空目そらめかや」の一節。
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
しかし、何処いづくの国、何時の世でも、Précurseur の説が、そのまま何人にも容れられると云ふ事は滅多にない。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
二人は無言のまゝ長き舗石しきいしを、大鳥居の方に出で来れり、去れど其処には二輌の腕車くるまを置き棄てたるまゝ、何処いづく行きけん、車夫の影だも見えず
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そのやうに聞きわけうては、もはや何処いづくへも連れてゆかぬぞや。あれ、入日にも間近いさうな。急いで参りませう。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
たゞかたちばかり、何時いつ何処いづくでも、貴方あなたおもとき其処そこる、ねんずるときぐにへます、おあそばせばまゐられます。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
北海道馬の驢馬ろばに等しきが二頭、逞ましき若者が一人、六人の客を乗せて何処いづくへともなく走り初めた、余は「何処へともなく」といふの心持がたのである。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
それもかなはでひんがしに還り玉はんとならば、親と共に往かんは易けれど、か程に多き路用を何処いづくよりか得ん。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼に心を寄せしやからは皆彼が夜深よふけ帰途かへりの程を気遣きづかひて、我ねがはくは何処いづくまでも送らんと、したたおもひに念ひけれど、彼等の深切しんせつは無用にも、宮の帰る時一人の男附添ひたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
けたたましく自動車の鳴りぜる音、咽喉太のどぶとの唸り笛さへり霜の夜凝よごりに冴えて、はた、ましぐらに何処いづくへか駈け去りぬ。底冷そこびえの戸の隙間風、さるにても明け近からし。
又更に物質上の整理、経済上の種種しゆ/″\の用意、幸福と歓喜とのみなもとである家政を好く按排あんばいする等の為に熟達した機敏をつて居る事も、この階級を除いて何処いづくに発見せられるでせうか。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
君は透見すきみゆる霞の如き薄紗うすものの下に肉色したる肌着マイヨをつけ給ひたれば、君が二の腕、太腿の、何処いづくのあたりまでぞ、唯一人君を寝室ねべやに訪ふ人の、まことに触れ得べき自然の絹にして
舞姫 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
言ひすべのなからんやと、事に托して叔母なる人の上京を乞ひ、事情を打明うちあけて一身いつしんの始末を托し、只管ひたすら胎児の健全を祈り、みづから堅く外出をいましめし程に、景山かげやまは今何処いづくに居るぞ
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
大聖威怒王だいしやうゐぬわう折伏しやくぶくの御劒をも借り奉り、迦楼羅かるらの烈炎の御猛威おんみやうゐにもり奉りて、直に我が皇の御敵を粉にも灰にもくだき棄て申すべし、さりながら皇の御敵の何処いづくの涯にもあらばこそ
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
およそコンなけで、その原因は何処いづくに在るかと云えば、新日本の文明富強はすべて先人遺伝の功徳に由来し、吾々われわれ共は丁度ちょうど都合のい時代に生れて祖先のたまものただ貰うたようなものに違いはないが
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
江戸城中を混雑せしめたる当時と今日とを並べ見るの利益を有する人々には我文明の勢、なほ飛瀑千丈、直下して障礙しやうがいなきに似たる者あらんか、東西古今文明の急進勇歩、我国の如きもの何処いづくに在る。
どちら向いても野の中に唯一人取残されて、昨日きのふ迄の仲間が今日は散々ちり/″\になつて行く後影うしろかげを見送るでもなく、磨いたように光る線路を熟々つく/″\と眺めれば線路は遠く/\走つて何処いづくともなく消えて行く。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
千島ちしま事抔ことなどうはさしあへるを耳にしては、それあれかうと話してきかせたく鼻はうごめきぬ、洋杖ステツキにて足をかれし其人そのひとにまで、此方こなたよりゑみを作りて会釈ゑしやくしたり、何処いづくとさしてあゆみたるにあらず
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
彼らは何処いづくに幾何の詩美を感得したるかを疑はざるを得ざるなり。
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
何処いづくやらむかすかに虫のなくごとき
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
埋みし犬の何処いづくにか
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
世上の窮通何処いづくの辺
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
うりめば子等こども思ほゆ、くりめば況してしぬばゆ、何処いづくよりきたりしものぞ、眼交まなかひにもとなかかりて、安寝やすいさぬ」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
伊沢氏の家乗に森川宿とあるのは、恐くは与力斧太郎が家であらう。所謂いはゆる郷南きやうなん何処いづくなるかは未だ考へない。天明寛政の間に豊洲は二十四歳より四十三歳に至つたのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
けたたましく自動車の鳴りぜる音、咽喉太のどぶとの唸り笛さへ、り霜の夜凝よごりに冴えて、はた、ましぐらに何処いづくへか駈け去り去りぬ。底冷そこびえの戸の隙間風、さるにても明け近からし。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ヒユウ/\と枝を鳴らせる寒風も、今は収まりて、電燈の光さびしき芝山内しばさんないの真夜中を山木剛造の玄関には、何処いづくにか行かんとすらん、一子剛一のま自転車に点火せんとしつゝあり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
実に我が行先は何処いづくで、自から問ふて自から答へることが出来なかつたのである。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
その後は何処いづくへ行き居つたか、——おお、この枯木の梢の上に、たつた一人登つてゐるのは、まぎれもない法師ぢや。御坊ごばう。御坊。……返事をせぬのも不思議はない。何時いつか息が絶えてゐるわ。
往生絵巻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
日のうち宛然さながら沸くが如く楽み、うたひ、ひ、たはむれ、よろこび、笑ひ、語り、興ぜし人々よ、彼等ははかなくも夏果てし孑孑ぼうふりの形ををさめて、今将いまはた何処いづく如何いかにして在るかを疑はざらんとするもかたからずや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
と見る/\面色赤くなり青くなり新聞紙引裂ひきさき何処いづくともなく打付うちつけたり。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
第一の人 して何処いづくの誰が拉はれたのぢや。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
卑怯ひけうなり何処いづくぐる。」
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此処は何処いづくと我問へば
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いな。火は何処いづくにて。」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
なお、「あま飛ぶや雁のつばさの覆羽おほひば何処いづく漏りてか霜のりけむ」(巻十・二二三八)の例がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
即ち瑞長の裔は今猶何処いづくにか存続してゐて、三種の佚書もそこに埋伏してゐると云ふ場合である。わたくしは初に宗家の裔鑑三郎さんを尋ね得て、次に「又分家」の裔二世全安さんを尋ね得た。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
何処いづくにか潜めゐる彼人かのひとの吾が還るを待ちてたちまち出で来て、この者と手をり、おもてを並べて、可哀あはれなる吾をば笑ひののしりもやせんと想へば、得堪えたへず口惜くちをしくて、如何いかにせばきと心苦こころくるしためらひゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
何処いづくやらむ
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)