おわ)” の例文
おわっても、それを読みはじめたときから私の胸を一ぱいにさせていた憤懣ふんまんに近いものはなかなか消え去るようには見えなかった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
私はエレディヤに関する彼の質問のおわるのを待って、忘れられぬ印象を残して行ったFの消息を訊ねた。彼も精しい事は知らなかった。
二人のセルヴィヤ人 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
病中の日記をしらべて見ると九月二十三日の部に、「午前ジェームスをおわる。好い本を読んだと思う」と覚束おぼつかない文字もんじしたためてある。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこで米友は庇の上へ腹這いになって下をのぞいて見ると、食事をおわったお歴々の連中は、しきりに比翼塚ひよくづかの噂をしているらしい。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いずれも勇気凛々りんりん、今日を限りにこの痛快無比の旅行と別るるのがのこり多いようにも思われ、またこのこうおわったという得意の念もあった。
ということになりおわる。僕は決して名利めいりが悪いとは言わない。名も利も求めずして来たるものならば、こばむべきものとは思わない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
勝平が、そう答えおわらないうちに、瑠璃子の華奢きゃしゃな白い手の中に燐寸マッチは燃えて、ほとばしり始めた瓦斯ガスに、軽い爆音を立てゝ、移っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ところが今夜、晩の食事をおわってからのことである。私にはすべてのものの無のうえに新たな一とすじの光明が突如として現れて来たのだ。
吾々の生前果して能くこの責任を尽しおわりて、第二世の長老を見るべきやいなや。之を思えば今日進歩の快楽中、亦おのずから無限の苦痛あり。
ソクラテスは鴆毒ちんどくおわったち、暫時の間は、彼方此方あちらこちらと室内を歩みながら、平常の如くに、門弟子らと種々の物語をして
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
言いおわったピアニストの平賀源一郎は、あっ気に取られている人々に一礼し、サッサと会場の外の初春のやみに姿を隠してしまいました。
はぐさの如く早晩誅鋤ちゅうじょされおわることと思うけれども、今日一部にかくの如き思想が存在しおるが故に、我輩はあえてこの説をなすものである。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
亭主は食べおわった茶碗に湯を注ぎ、それを汁椀しるわんにあけて飲み尽し、やがて箱膳はこぜんの中から布巾ふきんを取出して、茶碗もはしも自分でいて納めた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
看経かんきんも済み饗応もまたおわり、客は皆手の行き届きたることをめて帰れば、涙をもって初めし法事も、佐太郎の尽力をもて満足に済みたり
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
円味まるみを帯びた柔かな声で流暢りゅうちょうにリーダーを読みおわった先生は、黒い閻魔帳えんまちょうをひらいて、鉛筆でそっと名列の上をさぐっている。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
駒ヶ岳の麓、台ヶ原の客舎に昼餐をおわりたる束の間に、禿筆をぶりて偶感を記す、その文を成さざる、こいねがわくは我が興の高きを妨ぐるなからむ。
山を讃する文 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
そうしてプロの文化を作り得ない民族は必ず堕落滅亡するものとしたら、吾大和民族の文化的使命もこれでおしまいにおわったのではあるまいか。
享保以後無学無識の徒に翫弄がんろうせらるるに至って雅語ようやく消滅し俗語ますます用いられ、意匠の野卑と相待って純然たる俗俳句となりおわれり
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
石のおもてには所々ところどころけた所があるので、全く写しおわるまでにはすくなからぬ困難と時間とを要した。巡査もこんく待っていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それが隠そうたって、隠しおわせない、父の習慣なんですから。父はいつも、顔にチック(ビクビク顔を顰める無意識運動)を起す癖があるんですの。
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
と磯は腹のいた訳と二円ほか前借が出来なかった理由わけを一遍に話してしまった。そして話しおわったころやっはしを置いた。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
山川技師は読みおわると共に、あきれた顔をして、「何だい、これは」と云った。すると木村少佐は、ゆっくり葉巻の煙を吐きながら、鷹揚おうように微笑して
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
此方こちらのお若はそんな事は少しも知りませんで、セッセと掃除をおわり、ごみを塵取りに盛りながら、通りのにぎやかなのに気がいてフイト顧盻みかえりますと
こう語りおわったわが樹庵次郎蔵は、大きく高く両腕を天井に突き出してのびをするように立ち上ると、大ぼらでも吹いたあとのような清々した顔附で
放浪作家の冒険 (新字新仮名) / 西尾正(著)
と立ちつづく小家こいえの前で歌ったが金にならないと見たか歌いもおわらず、元の急足いそぎあし吉原土手よしわらどての方へ行ってしまった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
されど一郎は疾くその筋の手に捕はれて、その黯澹たる半世の歴史は、謀殺未遂犯てふ罪名の下に、葬られおわんぬ。
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
ややもすれば上に偶語ぐうごし、剣をあんじてその君主に迫らんとしたる勇夫健卒も、何時いつの間にやら君臣の大義に支配せられ、従順なる良臣となりおわれり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
佐内坂を登りおわると、人通りが少くなった。時雄はふと振返って、「それでどうしたの?」と突如としてたずねた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そして一方では支那人を麻酔さした。痴呆症となしおわらしめた。他方では軍閥や匪徒に武器と弾薬を供給した。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
儀式がかったことだけを派手はでに行なって万事おわるという様子であったのに、自分は反感を感じたものだし
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と語りおわって、また高く笑った。今は全く顔付も冴えざえとした平生つねの主人であった。細君は笑いながら聞き了りて、一種の感に打たれたかのごとく首を傾けた。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おわるとまたスッと坐って、両肱を前にぱたりと投げ出した。そうして両手の指を深い前髪の中に、突き入れて笑った。それから、右の人差指を一寸鼻の上に当てた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
即ち作者は圓朝若き日のそが悶々の姿をば、いささか写し出さむと試みたりけり。拙筆、果たしてよくその大任を為しおわせたるや否や。看官みるひと、深く咎め給わざらむことを。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
十七日の出初式が無事おわったらそろそろはじめます。やっぱりすこし風邪の用心が必要で、近所への散歩もまだ出ませんから。風のひどいのに辟易へきえきしていた次第です。
僧輩無事に食いおわって寺に還り、かかる所へ往かぬが好かろうと相戒めて、明日より一僧も来ない。
パウロが「すでにわれ生けるにあらず基督キリスト我にありて生けるなり」といったように、肉的生命のすべてを十字架に釘付けおわりて独り神に由りて生きんとするの情である。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
青年は不安がないでもなかったが、仙妃の態度が未だおわらざる宿縁をぐ以外に何もないように見えるので、注がれるままに酒を飲み、すすめらるるままに肴を口にした。
賈后と小吏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかし、彼はその足で、たらばがにのような顔を役所につきだした。役人から、弁明の言葉をむっちりした顔で聞いていた。聞きおわった彼は、親方らしくぶすりと云った。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
わたしはだまって、かつおぶしをかきおわると、一杯ビールを飲みほして、しゃべり出していた。
カンナとオンナ (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
れいの通りおく一間ひとまにて先生及び夫人と鼎坐ていざし、寒暄かんけん挨拶あいさつおわりて先生先ず口を開き、このあいだ、十六歳の時咸臨丸かんりんまるにて御供おともしたる人きたりて夕方まではなしましたと、夫人にむかわれ
この厄介な怖るべき電波嬢は、博士の手にその操縦盤が帰ったため、かえって博士の手によって行動することとなり、助手のピーターを逆に取押さえるところで物語はおわっている。
人造物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今日も——ようやく講堂のひさしに陽もうすずいて、上人の説法がおわり、一同が礼儀を終って、静かに席を散ろうとすると、それへ外から息をあえいで戻ってきた一人の弟子が
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それがおわると、れい大入道おうにうどう紳士しんしが、どもりのやうな覚束おぼつかない日本語にほんご翻訳ほんやくしてくれた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
タムソン—テートの書物が遂に完結せずにおわった一つの理由は、レーリーのこの書とマクスウェルの『電磁気学』が出て、それで大体書くべきことは尽されたからというのであった。
レーリー卿(Lord Rayleigh) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
勢を得たので七、八人の者が続いて訴えたが、そのおわったのは三時にもなっただろう。スルと参事官が立上って、大体要領は得た、更に何か変った、新しい方面のうったえは無いかと尋ねた。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
一人を追躡ついじょうして銀明水ぎんめいすいかたわらまで来りしに、吹雪一層烈しく、大に悩み居る折柄、二人は予らに面会をおわりて下るにい、しきりに危険なる由を手真似てまねして引返すべきことをうながせしかば
「梅林堂」のおくめさんの赤いたすきこそいまついに完全な「伝説」になりおわった。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
『折焚く柴の記と新井白石』はかろうじて稿をおわるに近し。試験を終らば兄は帰省せん。もししからば幸いに稿をたずさえ去って、四宮霜嶺先生に示すの機会を求むるの労を惜しまざれ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
一篇の小説を書きおわってその中の人物と別れる時には心から彼等との別れを惜しみ
「僕はこの女を愛しているんだ」あの人は妾が手紙を読みおわるのを待って言った。「あまり突然で僕は自分でも自分が信じられなかった、だが今はっきりとわかったから白状しておく」