餓死がし)” の例文
丁坊は餓死がしするか、さもなければこのへんの名物である白熊に頭からぱくりとやられて、向うのおなかをふとらせるか、どっちかであろう。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私の前には餓死がしと労働の二つの途があって私はただ常暗とこやみの国に行くために、その途の一つをたどらなければならないのだ。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
縁は不思議なもので、もしこの竹垣が破れていなかったなら、吾輩はついに路傍ろぼう餓死がししたかも知れんのである。一樹の蔭とはよくったものだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
毛利家の被官ひかん、清水長左衛門宗治むねはるが、わずか五千の士卒や農兵と共に、餓死がししてもと、死守している敵城なのであった。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「人間は皆死なゝければなりません、」一つの聲が私の直ぐ間近に聞えた、「けれども、もしあなたが餓死がししたなら、それが果されたわけなのですか。 ...
こうなると、いままで、すくってもらったものが、まったくべられなくなって、餓死がししたものもあります。世間せけんでは、きゅうに、金持かねもちの冷淡れいたんめました。
船でついた町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「つまり餓死がししたり自殺したりする手数を国家的に省略してやるのですね。ちょっと有毒瓦斯ガスをかがせるだけですから、たいした苦痛はありませんよ。」
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「眼のせいだな」と彼はまた呟いた、「——度の違うめがねを掛けているような気持だ、人間が餓死がしをするときは、こんなふうなことから始まるのだろうか」
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お猿や犬の太夫と同じやうに、食物とむちとで馴され、命がけの危ない藝當をさせられるくらゐなら、私は餓死がしした方が餘つぽどしだと思つたので御座います。
(四二)あるひいはく、(四三)天道てんだうしんく、つね善人ぜんにんくみすと。伯夷はくい叔齊しゆくせいごときは、善人ぜんにんものか。じんおこなひいさぎようし、かくごとくにして餓死がしせり。
成経 わしはあなたを一人この島に捨てて帰るほどなら、むしろ三人でこの島で餓死がしするほうがいい。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
右両説のいづれをるも同じと雖も、奈何いかんせん十日間の食糧を以て探検たんけん目的もくてきを果さんとの心算なれば、途中如何なる故障こしやうおこるありて一行餓死がしうれへあるやも計られず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
ぬまてしまはないうちにあめはふりましたが、そのあめのふらないうちに雜魚ざこはみんな餓死がししました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
飼犬かいいぬが主人の少年の病死の時その墓を離れず食物もとらずとうとう餓死がしした有名な例、鹿しかさるの子が殺されたときそれをしたって親もわざと殺されることなどたれでも知っています。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そう思い到ると日ごろ酒を好きな重吉が知らぬ他国でいねと同じように突然中気ちゅうきにでもなって、助けを求めるには声は出ず、食べるものもなく餓死がしでもしているのではなかろうか。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
しかるに彼らは真に心の独立を重んじ、ついには我が心にかなわぬしゅうあわを食わずとて首陽山しゅようざんかくれ、歌を詠じて餓死がししたところは、たしかに両人は心の独立を重んじた証拠である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
大岡殿に向ひいな昌次郎夫婦をころせし者傳吉の外には御座ござなく其故は昌次郎女房にようばうは元傳吉が妻にて傳吉はたゞ今の妻專と密通みつつう仕つり母諸共梅は離別りべつせられ道路だうろ餓死がし仕るべき有樣なるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
五十余年前の饑饉ききんの時、或所にて餓死がししたる人の懐に小判百両ありしときゝぬ。
これよりようや米塩べいえんの資を得たれども、彼が出京せし当時はほとんど着のみ着のままにて、諸道具は一切屑屋くずやに売り払い、ついには火鉢の五徳ごとくまでに手を附けて、わずかに餓死がしを免がるるなど
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
だが、まさか文代さんをこのままにしておいて餓死がしさせるというのではあるまい。「人間豹」の死刑はそんな生やさしいものではないであろう。ああ、いったいあいつは何を考えているのだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「それでは永久に洞穴のなかにいて餓死がしするつもりか」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
この夏、城のきさきは皆わが心の塔のうち餓死がししたり。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
餓死がしにきまった。
たずねびと (新字新仮名) / 太宰治(著)
さりとて地球の方へ引かえすことも出来ず宙ぶらりんになってしまって、ただもう餓死がしを待つより外しかたがないという恐ろしい空間帯くうかんたいだった。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とっている体、悪くしたら朝までに死んでしまうかも知れぬ。——いやいや、幾日も、人に気づかれずにいれば、それでなくても餓死がしするにきまっている
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「サア、こゞえ死ぬほど寒くはないし、餓死がししたにしてはよく肥つて居るし、——矢つ張り急病でせうな」
愛する友が互いに呪い合い、けがす言葉を吐き合い、互いに殺し合おうとする! 名誉ある武士のすえが、食物を争い合う。あゝ、そんなあさましいことをするよりわしは餓死がしを選ぶ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
直接世間を相手にする芸術家に至ってはもしその述作なり製作がどこか社会の一部に反響を起して、その反響が物質的報酬となって現われて来ない以上は餓死がしするよりほかに仕方がない。
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
五十余年前の饑饉ききんの時、或所にて餓死がししたる人の懐に小判百両ありしときゝぬ。
数日の食糧をたづさへてるも中途に餓死がしせんのみ、ふ今夜此地に露宿ろしゆくし、明朝出立二日間位の食糧をたづさへて水源探究たんきうおもむき、而してふたたび当地に帰らんのみと、人夫等異口同音かたく此説を
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
つひ首陽山しゆやうざん餓死がしせり。これつてこれれば(四一)うらみたるかか。
だが、明智やきみたちが、この洞くつの道にまよって、かってに餓死がしするのは、おれの知ったことじゃないからね。二十面相のじゃまだてをしたきみたちの自業自得じごうじとくというものだよ。ハハハ……。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
恨み遺恨ゐこんに思ふかせがれ惣内と里と不致居る旨申掛離別りべつ致候故私しども親子道路だうろ餓死がしも仕つるべく候處惣内儀見兼候儘私し共を引取ひきとり世話せわいたしくれ其後百姓共取持にて惣内へ里を娶合めあはせ候然るに九助は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「そうだ。われわれを待っているものは燃料の欠乏だ。食料がなくなることだ。そしてみんな餓死がしするのだ。ああ、おれは餓死するまえに頭が変になりたい」
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
餓死がししても守りきると覚悟している城内の将兵だけに、一人の藤吉郎を見ても、その眼は殺気立っていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
餓死がしする迄も默つて居なければならなかつたでせうか、——玄龍の娘で、この朝井家を横取りしようとしてゐる不義の子のお玉、私の娘のお直を狂ひ死にさせるほどの目に逢はせた時代
あなたを一人見捨てて都へ帰るほどなら、わしはこの島で餓死がしすることを選ぶ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
質朴しつぼくあいするに堪へたり、余炉辺にし一客にふて曰く、是より山奥にいたらば栗樹くりありや否、余等一行探検たんけん中途ちうとにして飢餓きがおちゐることあらん乎、栗等の果実くわじつりて餓死がしのがれんとすと
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
言れて戻るそのつらさかくては終に親子共餓死がしより外に目的めあてなし如何成ばこそ斯迄にあはれの身とは成けるぞやおもまはせばまはす程妻のお久にわかれしが此身の不運ふうん不幸ふかうぞと思案に暮て居たりしが所詮斯樣の姿にて故郷こきやうはぢ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
蜂谷にミドリ、それに進も手をかしてドアをこじ明けると、内部を調べてみた。するとはたせるかな、その中には慾深い犬吠が、黄金塊おうごんかいいだいて餓死がししているのを発見した。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
糧道もたれ、水路もふさがれ、外部ともまったく絶縁されている城兵約三千五百が、餓死がしに瀕するのはまずこの一月中旬と見ていたのである。それが月の末になっても陥ちない。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眼の不自由な宗兵衞は、二十四になる伜の宗次郎と一緒に、骨にみるやうな貧苦と鬪ひ拔きましたが、近頃はその戰鬪力もうせ、餓死がしを待つばかりの果敢はかない身の上に落ち込んでゐました。
わがおかせる罪のため、ついに私の上に天罰てんばつが下った。今や私はこの檻の中で餓死がしするばかりだ。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
Ⅲ ピオはおそらく日本政府の追捕をおそれて人跡なきところに餓死がしせしならんか?
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この調子でいくと、四人はコロラド大峡谷の中で餓死がしするおそれがあることが分った。食糧係の河合は、目を皿のように丸くして、この一件をどうするかについて一同に相談をかけた。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ああ……味方の援軍がここに到る時は、遂に、三千の城兵は餓死がしした後か」
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むなしく餓死がしはせぬつもりだが、さりとて、この一城と、五百のお味方を失いたまわば、岡崎浜松も危うからんと——胸がいたむ。あくまでも——最期の一瞬までも——たとえ土を喰い草を
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前途に対する希望は、ここでしずかに餓死がしするばかりである……。
その人たちは、あやうく餓死がしの一歩手前で救われたのだった。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
滅亡か餓死がししかないような時代であったからである。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)