貴女あなた)” の例文
もちろん、これは何でもないことなんですよ。僕が貴女あなたを愛するということは絶対なんですから。ただそれがほんの少しばかり障害を
華やかな罪過 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
頬邊ほつぺたは、鹽梅あんばいかすつたばかりなんですけれども、ぴしり/\ひどいのがましたよ。またうまいんだ、貴女あなたいしげる手際てぎはが。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たゞ臨終に貴女あなたのお名前を囈語うはごとのやうに二度繰り返したのです。それで、万一貴女あなたに、お心当りがないかと思つて参上したのですが。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
その用意もして来て下さい……その外にも、また色々沢山書いてあります。……それで貴女あなたは今日のジョージの仕事皆手伝いましたか
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「いやけっして、そんな甘い插話エピソードではないのです。僕は貴女あなたの所へ、これを最後と思って来たのですよ。ところで、八木沢さん……」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「まあ、大概たいがいのことはわかつてゐるつもりですが、貴女あなたがはからなら、大久保おほくぼ生活せいくわつがいつそくはしくわかつてゐるはずぢやないですか。」
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
小五郎はふるえながら云った、「父はあんなに貴女あなたを愛している、結婚して三年このかた、父はなんでも貴女の云うままになって来た」
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夫人おくさん貴女あなたが芸術家ですつて。これは初めて伺ひました。結構な内職をお持ちですね。世間へは精々内証ないしようにして置きませうね。」
『僕こそ。』と言ひながら、男は少許すこし離れて鋼線はりがねの欄干にもたれた。『意外な所でまたお目にかかりましたね。貴女あなたお一人ですか?』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「現に伯母さん、貴女の所へ私の両親も来る、貴女あなたの旦那様も来るとおつしやつたでせう——怪物でも、不思議でもありませんよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
『暫くお目にかからなかったが、今宵こよいは計らずも、一生に、又とあるまじき、不思議な役目を仰せつけられた。——貴女あなたも、この平四郎も』
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「美奈子さん、それでは約束が違やしませんか——僕はお父さんの——いや社長のお許しを受けて、貴女あなたと婚約をした筈になっているのです」
では貴女あなたには何を措いても、手頼りになるような人物を、お求めにならなければなりません。一人ぼっちでござりましょう。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「なに貴女あなたそれほどでも有りますまいで……なんでもいたほどではないものどす……そー御心配しやはると御子をこはんより貴女あなたほうが御よはりどすえ」
夜汽車 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
「そんなに云うものじゃありませんよ、私は貴女あなたにお話したいことがありましたから、お呼びしましたけれど、貴女が逃げるじゃありませんか」
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
貴女あなたは私を離婚すると里子に言ったそうですが、その理由わけを聞きましょう。離婚するなら仕ても私は平気です。あるいむしろ私の望むところで御座います。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
幸田さんこそ、パスツウルの規那園キナゑんなンて、とてもハイカラぢやないの? 貴女あなたは勉強家だから、すぐ、仏蘭西語も、安南語も覚えちやふでせう。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
しかし貴女あなたの手のように色を白くする法を聞かせてくださったら魚を上げましょうというと、それは何でもない事犬の皮の手袋をめるのだと答う。
夫人ふじん屹度きつと無事ぶじであらうとはれたにかゝはらず、日出雄少年ひでをせうねんも、わたくしも、最早もはや貴女あなたとは、現世このよでおかゝこと出來できまいとばかり斷念だんねんしてりましたに。
「思い出しました。貴女あなたでしたか? その指輪は、私が、機関車のパイプを切ってこしらえた指輪でしたがなあ。」
喫煙癖 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「ミチ子さん(こう呼んでもいいかしらと僕は思った)貴女あなたはあの事件のあった時間、何処どこへいらっしゃいました」
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は今ここに貴女あなたを妹と呼ばして頂きたい。私には今与えられた天分と云おうか、何と云っていいか、ああ、やはり恋人と云って熱愛すべき方がいい。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「これは大変だ。貴女あなたはAさんのお嬢様に違いありません。然し五階のお部屋にいるお嬢さんは……」と叫んだ。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
お察し致しますという貴女あなたの御言葉はかえってつらいという詞には、のり越えられぬしがらみの体験をひびかせている。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
それを、貴女あなた……いや、どうも、ああいう手合に逢っちゃかないませんて、卒然いきなりかくしてた棒を取直して、おやッと思う間に、ポンと一つ鼻面をちました。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
貴女あなたが御無事でお帰りかとあとで大きにお案じ申しました、あれから直ぐにお帰りでしたか、へー此方こなたがお父様とっさまでございますか、初めてお目に懸りました
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おそくから済みません……失礼ですが、貴女あなたは?……ああ、そうですか、私は、弁護士の大月と云うものですが
白妖 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
ことにこの方は毎日の前で見ているのだから、どうにもムシャクシャする訳だし、それに、本当のことを云うと、「用心しないと貴女あなたも猫に見換えられる」
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
『あゝ、こんな夏になつてから、私は一人の娘さんを見つけました、あなたそれは貴女あなたなのですよ、肩揚のある、私の相手にふさはしい娘さんそうでせうね』
味瓜畑 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
今は得意絶頂の仏さま、貴女あなただっていつ何時、私みたいなことにはなりかねないかも知れませんよ。——それは、妓王の精一杯の無言の抗議だったのである。
私の友よ、友の霊よ、この歌の一つ一つが、貴女あなたの息から生れたものなのだ、それぞれに生命いのちがあるのだ——
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
貴女あなたのお家の女中さんは田舎の人で饂飩うどんやお蕎麦そばを上手に打つとうかがいましたからそういう人に煉らせたりでっちさせたりしたならばかえってよく出来ましょう
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
だがそのことにもまして私が云いたいのは、そのときから私は貴女あなたを愛していたのです。そしていまもなお私の愛に変りのないことを知ってもらいたいのです。
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
既にマショオは恋人ペロンヌに向って「私のものはすべて貴女あなたの感情でできた」と告げている{6}。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
書生として使いくれよとの重井の頼みいなみがたく、先ずそのむねを承諾して、さて何故にかかる変性男子へんしょうだんしの真似をなすにやとなじりたるに、貴女あなたは男の如き気性きしょうなりと聞く
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
拙僧わたし貴女あなたのお助けをするために、ここに来たもので御座る。定めしその箪笥の中には、貴女の心配になるのも無理のない何かがあるのであろう。貴女のために私がそれを
葬られたる秘密 (新字新仮名) / 小泉八雲(著)
貴女あなたの云ふことはノンセンスよ。」などゝ、朋輩の間で言ひ合つたことを勝代は思ひ出して獨り笑ひをした。そして、「辰さんはこの英語の意味を理解して居るのか知らん。」
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
今迄数回の通告に応諾の意を表さなかった貴女あなたは当然制裁を甘受せねばなりません、明夜十時三十分を期してひそかに、戸外へ出て一丁東の四辻まで来て下さい、この命令に従うことが
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
するとあの辺に兄貴の部屋があって其の隣が私の部屋だったのだ。そこから廻縁を通ってここにあの部屋があった。おけいさん、貴女あなたが初めてこの家へ入って来たあの部屋があったのだ。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
その傍へ行って、亭主は「貴女あなたは何を望むか」ときかなければならない。その時女房は、お客の方へみを投げながら、亭主の方へは振り向きもしないで、「マルチニ」と一言だけいう。
パーティ物語 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「それでしたら、家庭裁判所に持ち出せばきつと貴女あなたのいひ分が通りませうよ」
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
このわたしの唇は何日いつしっかり結んでいて高慢らしく黙っていたのだが、今こそは貴女あなたの前にひざを突いて、この顫う唇を開けてわたくしの真心が言って見たい。ああ、何卒どうぞ母上を呼んでくれい。
ついに目科のいましめを打忘れて横合より口をいだせり余「ですが内儀ないぎ、老人の殺された夜、太郎どのが其職人の家へ行かれた留守に貴女あなた何所どこに居たのです」倉子はあたかも余が斯く問うを怪む如く其まなこ
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「ですけれども、三日の約束で出てまゐりましたのですから。」と、わたくしはあくまでも帰ると云ひました。さうして、もし貴女あなたがおのこりになるならば、自分ひとりで帰つてもいと云ひました。
貴女あなた、お宅へあがって、今日は土曜日だから、清三さんがお帰りになったかどうか郁治いくじがうかがって来いと申しますものですから……いつもご無沙汰ばかりいたしておりましてねえ、まアほんとうに
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「僕は真面目に貴女あなたに聴いて頂きたい事があるんですが……」
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
もしさうだつたとしたら、貴女あなたはどんな気がします。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
貴女あなたのうちは遠くて、通いがたいへんでしょう」
白い道 (新字新仮名) / 徳永直(著)
貴女あなたのおたずねになる方は、ここにいる人ですか」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「お婆さん、そう貴女あなたのように心配したら際限きりが有りませんよ。今日英学でもらせようと言うにはほかに好い学校が無いんですもの。捨吉の行ってるところなぞは先生が皆亜米利加アメリカ人です。朝から晩まで英語だそうです」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)