註文ちゅうもん)” の例文
またビール一ダースの追加、一人がコールドビーフを註文ちゅうもんすると、お由さんが気に入っていたのか、何かしきりに皿を指さしている。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
死を見ること帰するが如しなどと看板を掲げて教育を施して易々と註文ちゅうもん通りの人間が造れるものなら、第一に日本は負けていない。
咢堂小論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
倉持は空腹を感じていたので、料理と酒を註文ちゅうもんし、今母のいた部屋で、気仙沼けせんぬま烏賊いかの刺身でみはじめ、銀子も怏々くさくさするので呑んだ。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
日本ですらそうでありますから、今にわかにパリで季の事を言った所で、それが人々に受け入れられるということは無理な註文ちゅうもんであります。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
かまちがだだ広く、炉が大きく、すすけた天井に八間行燈はちけんの掛かったのは、山駕籠とつい註文ちゅうもん通り。階子下はしごしたの暗い帳場に、坊主頭の番頭は面白い。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すでに見たように、彼は自らを語ることも人に語られることも共に嫌いだったが、これは二つとも註文ちゅうもんどおりに行っていない。
それはかくも、わたくし神様かみさまからなにのぞみのものをえとわれ、いろいろとかんがいたすえにたったひとつだけ註文ちゅうもんしました。
景品はその前夜に註文ちゅうもんした。当日の朝、僕が学校の事務室へ行った時には、もう僕たちの連中が、大ぜい集って、盛んにくじをこしらえていた。
水の三日 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
太后は政治に御註文ちゅうもんをお持ちになる時とか、御自身の推薦権の与えられておいでになる限られた官爵の運用についてとかに思召しの通らない時は
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あがって来た小女(お光という名であった)に、符牒ふちょうのような言葉で註文ちゅうもんを命じてから「あなたはまだ酒は飲まないのか」と訊いた。深喜はうなずいた。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
くれないで、彼奴あいつをおいつめた方がよかったんだ。そして、みんな彼奴の註文ちゅうもんに、こっちがはまったことになる。まったくわれながらだらしがないわい
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
このみせは、まちふるくからの箔屋はくやだったので、金持かねもちの得意とくいおおく、またとおくからも、註文ちゅうもんけていました。
心の芽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
大きなことをいうと思ったが、だんだんくと、大牟田にある三井の染料工場から「劇薬」をシャくうのに使うとかで、別誂べつあつらえの註文ちゅうもんだったという。——
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
僧の是円ぜえんや幾多の智識をあつめて、評議連日におよび、彼は、それらの憲法の起草委員たちへ、註文ちゅうもんをつけて
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうしておいて、試みに代金を請求してみると、今上げるからちょっと場をはずしてくれという女の註文ちゅうもん
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おまけに、ぜんざいを註文ちゅうもんすると、女夫めおとの意味で一人に二杯ずつ持って来た。碁盤ごばんの目の敷畳に腰をかけ、スウスウと高い音を立ててすすりながら柳吉は言った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
彼は一週間も十日もほとんど人間と会話をする機会がなかった。外に出て、煙草を買うとき、「タバコを下さい」という。喫茶店に入って、「コーヒー」と註文ちゅうもんする。
永遠のみどり (新字新仮名) / 原民喜(著)
全体に食物は、油濃いものの外は、あまり註文ちゅうもんをおっしゃらないので、いつでしたか歯が痛むといって、蕎麦掻そばがきばかりを一カ月も続けられたのには皆あきれました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
原子兵器の出現にってから、あわててその方面に関係した器械を註文ちゅうもんするというのでは仕様がない。しかしそれに類したことが、実際にしばしば起っているのである。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そんな心掛こころがけは、このたちにはそもそも註文ちゅうもんするだけ無理むりなのです。そういうところは、この子たちも大人おとなおなじです。「すすめッ」と、世間せけんつよい人たちはいいます。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
彼はまごまごしていて田舎者いなかものと笑われないようにと、西洋料理へ往ったときに朋友ともだちの云ったことばをそのまま用いて料理を二皿ふたさらとビールを註文ちゅうもんすると、婢が出て往ったので
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼の註文ちゅうもんすることは、神が何故に人間を、昆虫のように生態させてくれなかったかと言うのである。昆虫の生態は、幼虫時代と、蛹虫ようちゅう時代と、蛾蝶がちょう時代の三期に分れる。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
晴れたる風景画は晴れたる日の幾日かを要求し、雨の日の絵は同じ雨を毎日註文ちゅうもんして見たりするが、それは画家のためのみの存在にはらず、勝手気ままに晴れて行く。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
食事をすませると、ヨハンは行く先の註文ちゅうもんをしない梶に困惑したものか、またホテルへ連れて帰った。彼の部屋の下の道から、ヴァイオリンの音締ねじめの音がときどきれて来た。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
さてどうも娑婆しゃばのことはそう一から十まで註文ちゅうもん通りにはまらぬもので、この二三箇月前から主はブラブラわずらいついて、最初は医者も流行感冒はやりかぜの重いくらいに見立てていたのが
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
中や表紙の図案を流用しながら、自分の意匠いしょうを加えて、画工にき上げさせ、印刷屋に印刷させて、問屋の註文ちゅうもんに応じていた。ちらしや広告の文案も助手を使って引き受けていた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
流行の型でなく、保守的な型のを註文ちゅうもんした。流行型の学生服を着て歩くと、頭が悪いように見えるからいけない。じみな型の洋服を着て歩くと、とても、秀才らしく見えるものだ。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ところがそこの主人の云う所によると、鬘その物は死体の冠っていたのとすっかり当てはまるのだけれど、それを註文ちゅうもんした人物は、私の予期に反して、いや私の非常な驚きにまで
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
丁度そこへ給仕が註文ちゅうもんしたものを持って来た。男はそれをい事にして、女が「おっしゃいよ、仰しゃいよ」と云っても、給仕の方を目で見て、じれったそうな身振をするばかりである。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
正三君は安斉先生が追々おいおいこわくなくなってきた。それはこの老人の信任がダンダンましてきたからである。時々学監室へ呼びこまれるが、註文ちゅうもんを承った後で、いつもねぎらってもらえる。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
子どもとそのお母さんたちとに、ともどもに読めるものをという、朝日の企てに動かされたのであったが、私にはもうそういう註文ちゅうもんに合うような文章を書くことができなくなっているらしい。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
じいさんは毎日時刻を計って楽屋の人たちの註文ちゅうもんをききに来た後、それからまた時刻を見はからって、丼と惣菜そうざいこうものを盛った小皿に割箸わりばしを添え、ついぞ洗った事も磨いた事もないらしい
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ぼく達はすみっこでチョコレエトクリイムをもらい、二人でぼそぼそめているとき、入口のドアを荒々あらあらしくして一人のアメリカの大学生が入ってきて、なにも註文ちゅうもんせず、スタンドの前に立ち
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
ちょっとそれもむずかしい註文ちゅうもんなのでござりました。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こんな註文ちゅうもんが遠慮なく煮方の方へやって来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何だかだととても註文ちゅうもんがむずかしくて、私もそれで厭気いやきも差したの。自殺したのも、内面にそういう悩みもあったんじゃないの。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
芸妓募集、年齢十五歳より三十歳まで、衣服相談、新宿十二社何家と云う風に申込みの人の註文ちゅうもんを三行に縮めて受付けるのだ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
参拝者さんぱいしゃなかで一ばんにかずおおく、また一ばんにうつくしいのは、矢張やはなん註文ちゅうもんもなしに、御礼おれいらるる方々かたがたでございましょう。
HはS村の伯父おじを尋ねに、Nさんはまた同じ村の籠屋かごや庭鳥にわとりを伏せる籠を註文ちゅうもんしにそれぞれ足を運んでいたのだった。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なぜかといえば、その人選じんせんはとにかく、あらそうべき焦点しょうてんにはこちらになんの相談そうだんもなく、こういう無類むるい部門分ぶもんわけをして、勝手かって註文ちゅうもんをつけてきたのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「勿論です——何処か、近まわりの墓地から都合をするように、私たちで、此家ここのうちへ頼んだんですが、それには、はなから婦人のをと云う註文ちゅうもんでしたよ。」
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
註文ちゅうもんでもあるのか、さかんに揚げて、金網の上に順よく並べているのを遠くから見ていますと、そこへ一人の男が来て、いきなりそれを一つつまんで、隣の酒屋へ入りました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「どれ、ちょっとって、ねるかせておくれ。」と、おばあさんは、註文ちゅうもんをしました。
千代紙の春 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのころ私達は酒など飲むことがなかったのに、銀座裏のバーへはいり(一番静かそうだから這入はいったのである)一番高い洋酒をでたらめに註文ちゅうもんして、黙って睨合にらみあっていた。
篠笹の陰の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「安川さん。つかぬことを聞く様だが、ここに並んでいる人形は皆註文ちゅうもんの品だろうね」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
気がへんになっていては、こんなに見事に仕事の註文ちゅうもんをつけられませんよ。僕たちは、この恐竜撮影に成功して、本年の世界映画賞を獲得する確信をもって、やっているんですからね。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お殿様はじめ我と思わんものから種を集めて品物を買いそろえる。註文ちゅうもんが千差万別だから、新年早々一仕事のようだ。富田さんの判定はんていによると、お殿様が毎年一番いい種をお出しになる。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「今日はいしが奢るから、みんな好きな註文ちゅうもんをして頂戴、今日は一世一代よ」
いしが奢る (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ねぎとチーズを壺焼つぼやきにしたスープ・ア・ロニオンとか、牛舌オックス・タングのハヤシライスだとか、莢隠元アリコベルのベリグレット・ソースのサラダとか、彼がふだん好んだものを註文ちゅうもんしたので鼈四郎は慥え易かった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私実家がKなもので、前からよく知っているので御座いますが、その人がこの附近で本を欲しがってる人から、毎月新刊の註文ちゅうもんをとりまして、東京まで買い出しに行ってくれるんで御座います。
I駅の一夜 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)