解脱げだつ)” の例文
の時に疾翔大力、爾迦夷るかいに告げていわく、あきらかに聴け諦に聴け。くこれを思念せよ。我今なんじに梟鵄諸の悪禽あくきん離苦りく解脱げだつの道を述べんと。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
官能の享楽を捨離して、山中の僧院に真理と解脱げだつとを追究する出家者が、何ゆえに日夜この種の画に親しまなくてはならなかったのか。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
とは云え、世になき人の執念は、法華経の功力くりきによって、成仏じょうぶつ解脱げだつのすべもあれど、容易に度しがたいは、世にある人の執念……。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
不破の関の巻を読んだ人は、相当に色どりのあるロマンスを持ち、心の悩みに相当の解脱げだつを持ち来たしているということはわかります。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
古典がもつ人間苦解脱げだつの悲願と、今日の平和のねがいとを考えあわせて、時に夜空の星と語るような思いもされるのではあるまいか。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう差し向かいで猫板の上を突ついているのだが、里好師がすっかり解脱げだつしているだけに、双方すこしもつやっぽい気は起こらない。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その時はちょうど解脱げだつ仏母の小堂の横の石段に上って居りました。それからセラ大寺の大本堂の前を通って自分のへやに着きました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
命終せんとして雲に化しいわおに化す。そこに生死を解脱げだつして永世に存在を完うしようとする人間根本の欲望さえ遂げ得られるのではないか。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その時の快豁かいかつな気もちは、何ものをもってするも比すべきものがなかった。諸君、解脱げだつは苦痛である。しかして最大愉快である。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
拘泥のうちに拘泥を脱し得たりと得意なるものは彼らである。両者の解脱げだつは根本義において一致すべからざるものである。……
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
解脱げだつの路に近づくのでせう。」なんて云ふと、「人生は隧道トンネルだ。行くところまで行かずに解脱の光が射してくるものか。」
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
やがて菩提ぼだいの果を證することが出来ると云う其の煩悩を、始めから解脱げだつして居る自分たちは、近いうちに稚児髷を剃り落して戒律を受けたなら
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼は天災地變にさいなまれる人生の焦熱地獄に堪へられなくなつて、この假現の濁世ぢよくせ穢土ゑどからのがれようとしたのです。そして解脱げだつしようとしたのです。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
此派の詩人は我を解脱げだつして、世間相を寫す。その望むところは、作者の影空くして、ひとへに世態の著からむことなり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
「いき」に左袒さたんする者は amour-goûtの淡い空気のうちでわらびを摘んで生きる解脱げだつに達していなければならぬ。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
中にはまた、堅い信仰を持ツて泯然びんぜんとして解脱げだつした宗教家もあツたらうし、不靈な犬ツころの如く生活力が盡きてポツクリ斃れた乞食もあツたらう。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
これが、仙家せんけの不死の霊薬でござるよ。この一杯の霊酒を服すると、諸々もろもろの罪障を解脱げだつし、我等の魂は、汚い血肉を捨てて、生きながら浄土の法悦をける。
「それは年が若いからさ。無理もない。我輩のような独身ものはそこへ行くと楽だ。次に死は来世らいせへの解脱げだつなりという考え方がある。我輩はこれでも結構だ」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この人に寿ことほぎあって、今すこし生きぬいたらば、自分から脱皮し、因襲をかなぐりすてて、大きな体得を、苦悩の解脱げだつを、あきらかに語ったかもしれないだろうに——
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
仏滅後(お釈迦様が亡くなってから後)の最初の五百年が解脱げだつの時代で、仏様の教えを守ると神通力が得られて、霊界の事柄がよくわかるようになる時代であります。
最終戦争論 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
すさまじきまで凝り詰むれば、ここ仮相けそう花衣はなごろも幻翳げんえい空華くうげ解脱げだつして深入じんにゅう無際むさい成就じょうじゅ一切いっさい荘厳しょうごん端麗あり難き実相美妙みみょう風流仏ふうりゅうぶつ仰ぎて珠運はよろ/\と幾足うしろへ後退あとずさ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「信道知識」即ち同信同行の一類眷属けんぞくも、現世安穏、来世には生死を解脱げだつして三尊にしたがいまつり、不生不死なる涅槃ねはんの彼岸に逍遥しょうようせられ、しかも尽きざる功徳により
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
そこへ行ったら俺のような者でも解脱げだつ往生が出来るかとな。アッハハハ、馬鹿な話だ。懺悔しろとは餓鬼扱いな! これ売僧まいす、よく聞くがいい。懺悔はうぬの専売ではない。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
流転三界中るてんさんがいちゅう恩愛不能断おんあいふのうだん」と教える言葉には、もうすでにすでに自分はそれから解脱げだつしていたではないかとさすがに浮舟をして思わせた。多い髪はよく切りかねて阿闍梨が
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
参禅の三摩地を味い、諷経念誦ねんじゅ法悦ほうえつを知っていたので、和尚の遷化せんげして後も、団九郎は閑山寺を去らなかった。五蘊ごうん覊絆きはんを厭悪し、すでに一念解脱げだつ発心ほっしんしていたのである。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
汝、六五家を出でてほとけいんし、六六未来みらい解脱げだつの利慾を願ふ心より、六七人道にんだうをもて因果いんぐわに引き入れ、六八堯舜げうしゆんのをしへを釈門しやくもんこんじてわれに説くやと、御声あららかにらせ給ふ。
そこで詩人が歌うように、若き日には物皆悲しく、生きることそれ自体が、既に耐えがたい苦悩なのである。しかるに中年期に入って来ると、人は漸くこうした病症から解脱げだつしてくる。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
この一自覚の中に、救ひも、解脱げだつも、光明も、平安も、活動も、乃至ないし一切人生的意義の総合あるにあらずや。嗚呼吾れは神の子也、神の子らしく、神の子としてふさはしくきざるべからず。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
戀とは言はず、情とも謂はず、ふや柳因りういんわかるゝや絮果ぢよくわ、いづれ迷は同じ流轉るてん世事せじ、今は言ふべきことありとも覺えず。只〻此上は夜毎よごと松風まつかぜ御魂みたますまされて、未來みらい解脱げだつこそ肝要かんえうなれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
あのかならず表われるといっていた解脱げだつの表情の徴候は発見されなかった。ほかのすべての者がこの機械に寝かされて見出したものを、将校は見出さなかったのだった。唇は固くつぐまれていた。
流刑地で (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
むかし笠置かさぎ解脱げだつ上人が、栂尾とがのを明恵みやうゑ上人を訪ねた事があつた。その折明恵は質素じみ緇衣しえの下に、婦人をんなの着さうな、の勝つた派手な下着をてゐるので、解脱はそれが気になつて溜らなかつた。
友は愚にもつかん事を言っているのだが、其愚にも附かん事を、人生だ、智慾だ、煩悶だ、肉だ、堕落だ、解脱げだつだ、というような意味の有り気な言葉で勿体を附て話されると、何だか難有ありがたくなって来て
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
このお菊の霊は伝通院でんづういん了誉上人りょうよしょうにん解脱げだつさしたのであった。
皿屋敷 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
現世を止揚して解脱げだつを得ようという要求を持つには、『古事記』の物語の作者である日本人はあまりにも無邪気であり朗らかであった。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
の時に疾翔大力、爾迦夷るかゐに告げていはく、あきらかに聴け諦に聴け。これを思念せよ。我今なんぢに梟鵄もろもろ悪禽あくきん離苦りく解脱げだつの道を述べんと。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
まもりであり、愛の剣である。自他の生命のうえに、きびしい道徳の指標をおき、人間宿命の解脱げだつをはかった、哲人の道でもある。
宮本武蔵:01 序、はしがき (新字新仮名) / 吉川英治(著)
解脱げだつの路に近づくのでせう。」なんて云ふと、「人生は隧道トンネルだ。行くところまで行かずに解脱の光が射してくるものか。」
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
解脱げだつぶつの坂 というのでその解脱〔仏〕母の坂を登って行くと右側にノルサン(善財童子ぜんざいどうじの住んで居る峰という意味)
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
当時の仏教は霊験れいげん仏法や儀礼仏法が盛んであったが、然し心の底から生死の問題に就て解脱げだつを求める人もすくなくなかった。
うれしい事に東洋の詩歌しいかはそこを解脱げだつしたのがある。採菊きくをとる東籬下とうりのもと悠然ゆうぜんとして見南山なんざんをみる。ただそれぎりのうちに暑苦しい世の中をまるで忘れた光景が出てくる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
名聞利養みょうもんりようが如何ばかり向上するとても解脱げだつ出離しゅつりの道を示してはくれない。学問が深くなり、名誉が高くなるにつれて、彼の心の煩悶は増して来た。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この解脱げだつは何によって生じたのであろうか。異性間の通路として設けられている特殊な社会の存在は、恋の実現に関して幻滅の悩みを経験させる機会を与えやすい。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
「庵室に居りましたよ、——間違っちゃいけません。私には羅刹女らせつじょ解脱げだつさせる法力はありません」
第九願、もろもろの有情をして天魔外道げどう纏縛てんばく、邪思悪見の稠林ちょうりん解脱げだつせしめ、正見に引摂いんじょうせしむるの願。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
そう云うことがあってから十箇月ばかりを経、明くる年の夏の終りに父は此の世を去ったのであるが、最期さいごの折には果して色慾の世界から解脱げだつしきれていたであろうか。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼は最初の煩悶からまったく解脱げだつして、今ではその教義に自分の信仰を傾けているらしかった。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
煩悩に対するに煩悩をもってする——という建前たてまえから、自分は女色煩悩を漁って来たのだが、それすらをすべて解脱げだつした宗七に、たった一つ残っている煩悩の二字は? それは
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
仏身より摩睺羅伽まごらかまで、三十三身にげんじたまい、天人、人間、禽獣まで、解脱げだつせしめたもう観世音菩薩の、観世音菩薩普門品ふもんぼんを、血書きして今日で二十一日、写経は完成と思ったに
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
衣をいで之をばくし、とうを挙げて之をるに、刀刃とうじん入るあたわざりければ、むを得ずしてまた獄に下し、械枷かいかたいこうむらせ、鉄鈕てっちゅうもて足をつなぎ置きけるに、にわかにして皆おのずから解脱げだつ
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
の時に疾翔大力しっしょうたいりき爾迦夷るかゐに告げていはく、あきらかに聴け、諦に聴け。これを思念せよ。我今なんぢに、梟鵄けうしもろもろ悪禽あくきん離苦りく解脱げだつの道を述べんと。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)