荊棘いばら)” の例文
この小説家のために一歩の発展をうながされて、開化の進路にあたる一叢ひとむら荊棘いばらを切り開いて貰ったと云わねばならんだろうと思います。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この時われ手を少しく前にのべてとある大いなる荊棘いばらより一の小枝を採りたるに、その幹叫びて何ぞ我を折るやといふ 三一—三三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
今はどうか知らぬが、昔は中国のある地方では、それが荊棘いばらのようにしげっていて、原住民はこれを伐採ばっさいし燃料にしたと書物に書いてある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
和歌子は親しみの少ない継母ははと義理の妹達とが、彼女の失敗を牙を磨いて待っている恐ろしい荊棘いばらの床に帰らねばならなかった。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
さらばなんじは神を見ざりしか? 神は十字の木の上に居たまいぬ、足をたれ手をけられ、白き荊棘いばらの小さき冠を頭にかぶりて居たまいぬ。
なんじ我言に背いて禁菓を食ひたれば、土は爾の為にのろはる。土は爾の為に荊棘いばらあざみを生ずべし。爾は額に汗して苦しみて爾のパンをくらはん」
草とり (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
木立わづかにひまある方の明るさをたよりて、御陵みさゝぎ尋ねまゐらする心のせわしく、荊棘いばらを厭はでかつ進むに、そも/\これをば
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
節くれだつた木の杖で荊棘いばらのしげみを押し分けると、二人の面前には、昔噺にあるとほりの鶏の脚で立つた小舎が現はれた。
人生の、ひとつの、より輝かしい時期じきが、私にはじまつたと思つた——花やよろこびと共に、荊棘いばらや辛勞をも受けるであらう時期。
なんじ我言に背いて禁菓きんかいたれば、土は爾の為にのろわる。土は爾の為に荊棘いばらあざみしょうずべし。爾は額に汗して苦しみて爾のパンをくらわん」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そうして小坊主を対手にしていると朝になって通りかかった者に注意せられ、気がいてみるとじぶん荊棘いばらと相撲をとって血みどろになっている。
(新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかしその華やかにして遠慮がちな新婚生活は、一心同体となって勇ましくも荊棘いばら多き人生行路を突き進まんには、余りにはかなき生活であります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼が友の安楽房とわかれて取った道も、元より荊棘いばらでないはずはない。いや、住蓮のほうは、もっとひどかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、わたしが垣を越えようとするたびごとにとんで来て、荊棘いばらや、とげのついた針金を掻きわけてくれる。
ロミオ なに、こひ温柔やさしい? 温柔やさしいどころか、粗暴がさつ殘忍あらけなものぢゃ。荊棘いばらのやうにひとむねすわい。
栄光の王は神の右に坐するありて、ソクラット、保羅パウロ、コロンウェルのはい数知れぬほど御位みくらいの周囲に坐するあり、荊棘いばらかんむりを頂きながら十字に登りし耶蘇基督いえすきりすと
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
それで彼らは一刻も早く奥地地帯へ踏み込もうと土人軍どもを鞭韃した。しかしどのように鞭韃しても荊棘いばらに蔽われた険阻の道をそう早く歩くことは出来なかった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
尤もソクラテスは跣足はだし雅典アゼンスまちを説教し歩いたやうだが、うち荊棘いばらのやうな女房かないを持つてゐた身には、雅典の街は羽蒲団のやうに踏み心地がよかつたに相違ない。
朝又もちあぶりて食し、荊棘いばらひらきて山背をのぼる、昨日来もちのみをきつし未だ一滴の水だもざるを以て、一行かつする事実にはなはだし、梅干をふくむと雖も唾液つばつゐに出できたらず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
荒地の中には、まばらな小松や灌木の間に、低い荊棘いばらや茅草が茂っていて、小さな花がぽつりと咲いていたりする。その片隅で、平助は鍬の柄を杖に腰を伸して立上った。
土地 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
が、クリストが十字架くるすにかけられた時に、彼をくるしめたものは、独りこの猶太人ばかりではない。あるものは、彼に荊棘いばらかんむりいただかせた。あるものは、彼に紫のころもまとわせた。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
荊棘いばらはいよいよ深くてとても行かれる所でない。酒の罎も岩へ打つゝけたらそれ迄である。木苺を採つて食つた。黄色い玉のふわふわとして落ち相になつたのは非常に甘い。
炭焼のむすめ (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
針の蓆に座っているより、荊棘いばらの道を勇敢に掻き分けて進みます。養父に云わせると私の父は気狂いだったそうですから、私も今に気狂いになって何を仕出かすか分りません。
深夜の客 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
ほおけて夜業よなべ仕事に健康もすぐれず荊棘いばらの行く手を前に望んで、何となし気が重かった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ふるい街道は是れは街道ではない、廢道になつてしまつて居るのである、荊棘いばらが一杯生えて居つて、それを古學者連が刈除いて道にしようと思つたけれども、人民は從つて行かない。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
美しい女優たちは、自分たちの前にたって荊棘いばらの道を死ぬまで切りひらいたひとの足もと平伏ひれふして、感謝の涙に死体の裳裾もすそをぬらし、額に接吻し、ささぐる花に彼女をうずめつくすであろう。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
黒髪は乱れてえりもつれ頬にかかり、ふッくりした頬もしし落ちて、すそたもともところどころ破れ裂けて、岩にすがり草をみ、荊棘いばらの中をくぐり潜った様子であるが、手を負うた少年のかいなすがって
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
病弱な室長の寝小便の罪を自分で着て、蒲団ふとんを人の目につかない柵にかけて乾かしてもやつた。うしてたうとう荊棘いばらの道を踏み分け他を凌駕りようがして私は偏屈な室長と無二の仲好しになつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
荊棘いばらの中に身をころがして、もだえなやんだ聖者フランシスが、その悔悟の結果が、人類にどういう影響を及ぼすだろうかと考えていたかなどと想像するようなものは、人の心の正しい尊さを
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私は後へ引返して、逆に最初の道へもどろうとした。そして一層地理を失い、多岐に別れた迷路の中へ、ぬきさしならず入ってしまった。山は次第に深くなり、小径は荊棘いばらの中に消えてしまった。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
愛の荊棘いばらよ、末期まつごの苦の時、この罪ある心のなかにその針を突き通し給へ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
昂奮こうふんしないでおきなさいツ。ではこれから自分達じぶんたちみちが、どんなにけはしい、文字もじどほりの荊棘いばらみちだつてことが、生々なま/\しい現實げんじつとして、おぢやうさん、ほんとにあなたにわかつてゐるんですか……
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
牛は四、五十頭もいるであろうと思われたが、人も家も少しも見えぬのである。それからまた暫く歩いていると、路傍の荊棘いばらの中でがさがさという音がしたので、余は驚いた。見ると牛であった。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
そこここの血の荊棘いばらあなやそのくらき底より
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
『おもひ』はつや荊棘いばらみちを、今し
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
覚醒かくせいいきどおる不眠症の荊棘いばら
我等これをこゝに曳き來らむ、かくて我等のからだはこの憂き林、いづれも己を虐げし魂の荊棘いばらの上に懸けらるべし 一〇六—一〇八
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
樹木は荊棘いばらの方へ身をかがめ、荊棘は樹木の方へ伸び上がり、灌木かんぼくはよじ上り、枝はたわみ、地上をはうものは空中にひろがるものを見いださんとし
青い鳥は巌の一方へ廻ってやはり尖を伝って往ったが、巌が次第に低くなって四辺あたり荊棘いばらの茂った処へ往くと見えなくなった。李張はそのあたりへ注意した。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
監獄のように廻らした木柵の代りに荊棘いばらが自然に垣根をなしていた。門の扉ははずれたままで、門側には伸び放題に伸びたポプラが微風にそよいでいた。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
二人は手に手をとつて、じめじめした沼地をば、深々と生ひはびこつた荊棘いばらにひつ掻かれたり、殆んど一足ごとにつまづいたりしながら、前へ前へと進んで行つた。
「まことに、これはちんがいま住む所にふさわしい。見よ、四方は荊棘いばらのみだ。荊棘の獄よ」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一方は生れながら暗い運命を背負って、荊棘いばらの道を辿らねばならぬ貧しい私生児。
美人鷹匠 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
荊棘いばら山椒さんせうの樹のやうなもので引爬ひつかいたのであらう、雨にぬれた頬から血が出て、それが散つて居る、そこへ蝋燭の光の映つたさまは甚だ不気味だつた。漸く其処へ歩み寄つた晩成先生は
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
肩には、紫の衣がかかっている。ひたいには荊棘いばらかんむりがのっている。そうしてまた、手や足には、むちあとや切りきずが、薔薇ばらの花のように赤く残っている。が、だけは、ふだんと少しも変りがない。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
感謝祭に来た時には荊棘いばらの迷路であった十坪ほどの地面が今は隙間すきまもなく花に埋まって、夏の日の光の中でいちばん麗しい光がそれを押し包んでいた。私は自分の醜さを恥じながらその側を通った。
フランセスの顔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
御主おんあるじかんむりとなつた荊棘いばらの木よ、血塗ちまみれの王のひたひめた見窄みすぼらしい冠。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
からたちの荊棘いばらがもとにぬぎ掛くる蛇の衣にありといはなくに
長塚節歌集:1 上 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
真素肌ますはだ悲哀かなしみよ血のする荊棘いばらのなかを
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
回憶おもひでしげき荊棘いばらみちくだ
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)