かけ)” の例文
これしかしながら汽車きしやがやがて飛行機ひかうきつて、愛宕山あたごやまから大阪おほさかそらかけ前表ぜんぺうであらう。いや、割床わりどこかた、……澤山たんとおしげりなさい。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
肉のとらわれを脱して、高きにかけらんとねがうたましいばかりは、ますます濡れ輝いてゆくのを感じます。深く深くなりまさります。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
争闘の上をかけって来るべき勝利を告ぐる高らかな声に、みずからなろうと欲していた。復活したおのが民族の叙事詩を歌っていた。
唯願はくは上人の我が愚※おろかしきを憐みて我に命令たまはむことをと、九尺二枚の唐襖に金鳳銀凰きんほうぎんわうかけり舞ふ其箔模様の美しきも眼に止めずして
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
一房の羊毛がまた群れを離れたと思うと、白い泡となって空をかけりながら、やがて煙となり、蒸気となり、ついになんにも無くなってしまう。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
雪之丞、小褄も、ちらほらと、踏み乱して、軒下から軒下、露地から露地を、目の前をかけりゆく、黒い影をひた慕いに慕う。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
現在の重太郎に取っては、里の人間は総て我が敵であると云ってもい。の里に向って、悪魔は天をかけり行くのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一匹の桜いろの蝶が、奇蹟のやうにひらひらと、平気で、わたしの視野をかけつていつた。ひかりのこなを撒きながら。……
希臘十字 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
故郷ふるさとの水のことごと、柳河や橋のことごと、たまゆらと、空ゆ一期いちごと、我が見ると、飛ぶとかけると、我が和子わこ連れぬ。
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
マーキュ はて、足下おぬし戀人こひびとではないか? すればキューピッドのはねでもりて、からすとびのやうにかけったがよからう。
少女は嘗て其羽を脱ぎおろして、その童子の肩に結び、いざ共に空にかけらんといふ。おのれは風なす輕き身なれば、羽なきと羽あると殊ならずとなり。
八幡大菩薩も、この誠心あふるる祈願には心を動かされたのであろう、折しも雲の中から飛んできた山鳩が三羽、源氏の白旗の上を飛びかけったという。
飛びかけるような思想がささやきになり、うめき出すような詞になる。そして「どこへ行ったのだろう」と叫ぶのである。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
労働者を激励し、身を据え、立ち止まり、また駆け出し、騒擾そうじょうと努力との上をかけり、あちらこちら飛び回り、ささやき、怒鳴り、全員を鞭打むちうっていた。
月に一度は必ず、米軍の飛行機が鋭い音を響かせながら、とうげの上をかけった。ふり仰ぐと、初夏の光を吸った翼のいろが、ナイフのように不気味に光った。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
看るからに万物生動の意はわが霊魂たましひを掩へる迷妄まよひの雲をかき払ひて我身さながら神の光のなかにかけりゆくここちす。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
されば「れぷろぼす」はいよいよ胆をいて、学匠もろとも中空を射る矢のやうにかけりながら、をののく声で尋ねたは
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
色斯おどろきてがり、かけって後くだる。曰く、山梁さんりょう雌雉しちよいかなよいかなと。子路これむかえば三たびはねひろげてつ。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
彼はかうして数分間か、それとも数秒間に、メルヘンにある小人国から巨人国へ、それから再び、巨人国から小人国へ、ただ一かけりで往復して居る心地がした。
同様にまた、ずんぐりした地中の蛆虫うじむしから空中にはばたく蝶に辿られるのである。地球そのものも絶えず自らを超越し変形しつつ、その軌道をかけるようになる。
王成の鶉は王の鶉が来ると、鶏の怒ったようなふうで身をせて待った。王の鶉が強い喙でつッかかって来ると、王成の鶉は鶴のかけるようなふうでそれを撃った。
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
我先われさき獲物えものにありつこうとかけるはとにかって突進とっしんしました。ははばとは、たくみに方向ほうこうえて、子供こどもたちのいるから、てき遠方えんぽう遠方えんぽうへとさそったのであります。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
かける翼でもない限り、百五十フィートの塔の外側を登る事は出来ない。またどんなに素早くやったところで、誰にも発見されずに螺旋階段を上下する事も出来ないのだ。
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
其處そこよりたして、當藝たぎの上に到ります時に、詔りたまはくは、「吾が心、恆はそらかけり行かむと念ひつるを、今吾が足え歩かず、たぎたぎしくなりぬ」
場末の家まばらに建てられたれば青空は庭の外に拡がりて雲行き鳥かける様もいとゆたかに眺めらる。
小園の記 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
茶褐色ちゃかっしょくのうら枯れた大木の落葉がちょうど小鳥のかけるように高い峰と峰とのはざまを舞い上がってゆく。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
剣妖けんよう丹下左膳は、乾雲に乗って天をかけ闇黒やみに走って、自分のこの坤竜をいざない去ろうとしている——それに対し、われは白日坤竜を躍らせ、長駆ちょうくして乾雲を呼ぶのだ!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
暗灰色に塗った俊敏スマートな胴体で波を切りながら、スイスイと四肢をして南太平洋をはやぶさのようにかけっていた軽快な姿なぞは、もはやどこに見出し得べくもなかったのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そうして、日をり初めて、ちょうど、今日と言う日。彼岸中日、春分の空が、朝から晴れて、雲雀ひばりは天にかけり過ぎて、帰ることの出来ぬほど、青雲が深々とたなびいて居た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
あと答へて、とびのごとくの一三〇化鳥けてうかけ来り、まへしてみことのりをまつ。院、かの化鳥にむかひ給ひ、何ぞはやく重盛がいのちりて、雅仁まさひと清盛きよもりをくるしめざる。化鳥こたへていふ。
「おもしろき野をばな焼きそ古草ふるくさ新草にひくさまじりひはふるがに」(巻十四・三四五二)、「おもしろみ我を思へか、さつ鳥来鳴きかけらふ」(巻十六・三七九一)等の例があり
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
と、初めて、明るい一笑を投げて、丈八は、宙をかけるように、街道を急いで行った。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私の心は急に怒りに満ち溢れ、鋭い悲哀に貫かれて、ただひたすらにこの屈辱の地をあとに、あてもなく一直線にかけつていつた。感情が感情に鞭うち、意志が意志に鞭うちながら——。
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
その理想は外部より魂を束縛する何かではなく、魂を自由に解放することそのことである。地上につながるる奴僕たることを脱して、自由の天空にかける太陽の子たらんとすることである。
どうかすると四つ足を両方に開いて腹をぴったり芝生しばふにつけて、ちょうどももんがあのかけっているような格好をしている事もあった。たぶん腹でも冷やしているのではないかと思われた。
ねずみと猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
高きものはかけるがごとく、低きものは走るがごとく、その出没する間は数里の長きに及ぶも、だれありてその所在を確かむることできず、これを確かめんと欲してその火のある所に行けば
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
婦人ばかりが独り退しりぞいて、もう自分たちの不満な境遇を歎いている時ではなくなった。その前にまず自由に時代の学問に触れて、その空気の中でき活きと飛びかけるようにしなければならぬ。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
歓びに高くかけり、あるいは悩みに深く沈む時、彼はどっちの場合でも、今まさに、みち渡る無限の中へ溶け込もうと願う、ちょうどその刹那に、喰止められ、ちょうどその刹那に、鈍い冷たい意識へ
幻滅 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
そして、それは毎年、五月の端午たんごのお節句が過ぎた頃である。その頃になると、河原の上に川千鳥の鳴き叫ぶ声を聞くのだが、川千鳥は下総しもふさの海の方から、鮎の群れを追いながら空をかけってくるのだ。
楢の若葉 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
私は、時々、籠のせまい仕切しきりから覗く不思議な鳥の眼差まなざしを見ますよ——活々とした、そは/\した、氣丈なとらはれ者がそこにゐるのです。自由にしてやりさへすれば、それは空高くかけつて行くでせう。
あの一面に畑にしてある岡を取り巻いて、かけっていましょう。
とびが一羽ものものしげに低く浜の方にかけっていました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
ひだりかけみきはしり、四面八角しめんはつかく縱横無盡じうわうむじんとひ
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
みだれ姿の影黒みしがめる空をかけりゆかむ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「山には野鳥がかけっていましょう」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
鳥は青いさけびをのこしてかける。
メランコリア (旧字旧仮名) / 三富朽葉(著)
夏蝶のつと落ち来りとびかけ
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
大いなる鶴夜のみ空をかけ
わがひとに与ふる哀歌 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
何処へかかけりゆきけめ。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ばずかけらずりぬらむ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)