わらべ)” の例文
春はまだ浅き菜畠、白きとり日向あさるを、水ぐるままはるかたへの、窻障子さみしくあけて、わらべひとり見やれり、の青き菜を。
(新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そのときよりかのわらべは城にとどまりて、羊飼いとなりしが、たまわりしもてあそびの笛を離さず、のちにはみずから木をけずりて笛を
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
別荘へは長男かしらわらべが朝夕二度の牛乳ちちを運べば、青年わかものいつしかこの童と親しみ、その後は乳屋ちちや主人あるじとも微笑ほほえみて物語するようになりぬ。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
すると新羅しらぎ使者ししゃの中に日羅にちらというとうとぼうさんがおりましたが、きたないわらべたちの中に太子たいしのおいでになるのを目ざとく見付みつけて
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「街道からこれへ誘拐かどわかして来た女子おなごわらべを返せ。——もし無事に戻して詫びるならば免じておくが、怪我などさせてあったら承知せぬぞ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一月ばかりって、細かに、いろいろと手毬唄、子守唄、わらべ唄なんぞ、百幾つというもの、綺麗に美しく、細々こまごまとかいた、文が来ました。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
首をあげて、立ちあがろうとした武蔵守の背後から敵のわらべが迫ってきて、その首に斬りつけ、倒れ伏す武蔵守の首を取った。
さればわが愛する遠祖とほつおやよ、ふ我に告げよ、汝の先祖達は誰なりしや、汝わらべなりし時、年は幾何いくばくの數をか示せる 二二—二四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
祖母は伊勢朝長あさおさの大庄家の生れで、幼少な時、わらべのする役を神宮に奉仕したことがあるとかで神明様へは月参りをした。
或時大殿樣の御云ひつけで、稚兒文殊ちごもんじゆを描きました時も、御寵愛のわらべかほを寫しまして、見事な出來でございましたから、大殿樣も至極御滿足で
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
三ツ目錐の殿様は、日を期して、これらのわらべ共のために門戸を開放するのみならず、時としては、座敷の上まで、その闖入ちんにゅうを拒まないことがある。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「我ら蛍に手をふれたことも十年振りでござる。わらべの頃に宵々にはよく狩りに出たものだが、いつまでも童のようにしてはいられぬ。美事みごとな蛍だ。」
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
俊寛は、わらべのようなのびやかな心になりながら、両手を差し広げ、童のように叫びながら自分の小屋へ駆け戻った。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
増田に! 巷のわらべどもが悪口を云わば、用捨はいらない、切ってすてろ! 妻妾の数三十余人! それがどうした
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、一郎は、わらべのように、雪の降るのを祈っていると、それから一週間ほどたって、雪が降った。天も、一郎をはげますためか、うんと雪を降らせた。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
後には管長や院主が手を出して今のやうな地位にしてくれたのである。最初は十四歳のわらべの病気の直つた時である。
燭を運び來りし水干に緋の袴着けたるわらべ後影うしろかげ見送りて、小松殿は聲を忍ばせ、『時頼、近う寄れ、得難き折なれば、予が改めて其方そちに頼み置く事あり』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
と言わせると、きれいなきゃしゃな姿で美装したわらべが縁を歩いて来た。円座を出すと、御簾みすの所へひざをついて
源氏物語:56 夢の浮橋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
いと浅からぬ御恵みめぐみもて、婢女の罪と苦痛を除き、このにおよび、慈悲の御使おんつかいとして、わらべつかわし玉いし事と深く信じて疑わず、いといとかしこみ謝し奉る
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
田畦たあぜ数町を隔てゝ塩手村しおでむらの山陰に墓所あり。村のわらべにしるべせられて行けば、竹藪の中に柵もてめぐらしたる一坪ばかりの地あれど、石碑の残欠だに見えず。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
わらべのような首筋、長い金色の睫毛まつげ、青い目、風にそよぐ髪、薔薇色のほお溌剌はつらつとしたくちびる、美しい歯並み、などを見て、そのあけぼののごとき姿に欲望をそそられ
さて手毬てまりの大さになりたる時他のわらべが作りたる玉栗たまくり庇下ひさししたなどにおかしめ、我が玉栗を以他の玉栗にうちあつる、つよき玉栗よわき玉栗をくだくをもつて勝負しようぶあらそふ。
御坊は頓阿、浄弁、慶運の人々と相列んで、和歌の四天王と当世に申し囃さるるばかりか、文書くことは大うつわらべ、馬追う男も御坊日本一と申しておりまする。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
其処には切灯台のうす紅いがほっかりと青い畳の上を照らしていたが、その灯の光に十五六に見える細長い顔をしたわらべの銚子を持った姿をうつしだしていた。
庭の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
つい先頃まで流行して居たはやり唄が和訳されてもう町のわらべの唇に上っている。なんて早い日本だろう。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
太刀たち持つわらべ、馬の口取り、仕丁しちょうどもを召連れ、馬上そでをからんで「時知らぬ山は富士の根」と詠じた情熱の詩人在原業平ありわらのなりひらも、流竄りゅうざんの途中に富士を見たのであった。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
別段これと言つて他のわらべに異つたところも無かつたといふ事だが、それでも今の老人の中には、重右衛門の子供にも似ぬ、一種茫然ぼんやりしたやうな、しつかりしたやうな
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
そしていつものかろらかな足取と違つた地響のする歩き振をして返つて来る。年の寄つた奴隷と物を言はぬわらべとが土の上にすわつてゐて主人の足音のする度に身をすくめる。
此時、わらべふすまを引かせて、茶碗を目八分に捧げて入つて來たのは、峠宗壽軒の娘お小夜です。
山東京伝さんとうきょうでん(西暦一七六一—一八一六年)は、『異制庭訓いせいていきん』にある「祖父祖母之物語じじばばのものがたり」(「むかしむかしぢぢとばばとありけり」というきまり文句ではじまる話)をわらべの昔ばなしととな
『グリム童話集』序 (新字新仮名) / 金田鬼一(著)
まだわらべなりし頃より、アントニオが技倆をば讚め居りしなり。公子。その時われは早く桂の冠をさへ戴かせたり。夫人は處女なりしとき其即興詩の題となりぬ。されど今は食卓にくべき時なり。
里人の往来、小車おぐるまのつづくの、田草を採る村の娘、ひえく男、つりをする老翁、犬を打つわらべ、左に流れる刀根川の水、前にそびえる筑波山つくばやま、北に盆石のごとく見える妙義山、隣に重なッて見える榛名はるな
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
八十吉は父の『お師匠様』の孫で、僕よりも一つ年上のわらべであつたが、八十吉が僕のところに遊びに来ると父はひどく八十吉を大切にしたものである。読書よみかきがよく出来て、遊びでは根木ねつきく打つた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
家の内にも騒ぎたち、女わらべは泣きさけび展転こいまろびてくま々にかくる。
草刈りてすみれり出すわらべかな 鴎歩おうほ
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「女、わらべの知ることならず」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
わらべは見たり
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わらべヶ丘おかとはそのお宿の砂丘にかつてたのまれて私が名付けたものであったが、こうしてちかぢかと来て眺めるのは今が初めてである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
わっと泣いて小袿衣こうちぎのたもとに黒髪をうずめたまま、わらべのようにヨヨと泣きじゃくってやまないのは権大納言ノ局であった。また
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
初めはわらべ母を慕いて泣きぬ、人人物与えて慰めたり。童は母を思わずなりぬ、人人の慈悲じひは童をして母を忘れしめたるのみ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
或時大殿様の御云ひつけで、稚児文殊ちごもんじゆを描きました時も、御寵愛のわらべの顔を写しまして、見事な出来でございましたから、大殿様も至極御満足で
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
このわらべと女の子と、道連れとは見えねば、童の入るを待ちて、これをしほに、女の子は来しならむとおもはれぬ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
矢よりもはや漕寄こぎよせた、同じわらべを押して、より幼き他のちごと、親船に寝た以前さきの船頭、三体ともに船にり。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
我はあたかもはぢて言なく、目を地にそゝぎ耳を傾けて立ち、己が過ちをさとりて悔ゆるわらべのごとく 六四—六六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
つい帰路を忘れた里のわらべたちだろう——しかしその断続した足音を聞いていると、静かではあり、軽くはあるが、踏む調子は正しい、いたずらに虫を追い
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さて手毬てまりの大さになりたる時他のわらべが作りたる玉栗たまくり庇下ひさししたなどにおかしめ、我が玉栗を以他の玉栗にうちあつる、つよき玉栗よわき玉栗をくだくをもつて勝負しようぶあらそふ。
九人の山伏殿がお堂へはいられた、どうしたことかといったように、里のわらべが二、三人揃って、そっとお堂を覗きに来たが、にわかにワッと云って逃げて行った。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この狂言に比べましては、七三郎殿の『浅間ヶ嶽』の狂言もわらべたらしのように、曲ものう見えまするわ。前代未聞の密夫みそかおの狂言とは、さすがに門左衛門様の御趣向じゃ。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この負擔だに我方にあらば、その報酬も受けらるべし。羅馬の裁判所に公平なる沙汰なからんや。かく云ひつゝ、強ひて我をきて戸を出でたるに、こゝには襤褸ぼろ着たるわらべありて、一頭のうさぎうまけり。
(男女のわらべ三は唄い連れていず。)
蟹満寺縁起 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)