立停たちど)” の例文
擦違うて三吉、「や。」と立停たちどまるを、美人は知らずに行過ぎて、くだんの老婆の家に入れば、何思いけん後をつけて、三吉は戸外おもてひそみぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あっしの先に立ったチイちゃんは、一町ばかり行った処の薄暗い町角に在るポストの下で立停たちどまりましたから、あっしもその横で立停まって巻煙草に火をけました。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのとき、ごく遠くの方で誰かの唱っているらしい声が耳にはいってきた。渠は立停たちどまって耳をすました。その声は水の外から来るようでもあり、水底のどこか遠くから来るようでもある。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
するととうなかから、なんともいようのない、うつくしいうたこえてたので、王子おうじはじっと立停たちどまって、いていました。それはラプンツェルが、退屈凌たいくつしのぎに、かわいらしいこえうたっているのでした。
立停たちどまつてみると、附近あたりには誰一人姿は見えない。
一散いっさんげもならず、立停たちどまったかれは、馬の尾に油を塗って置いて、鷲掴わしづかみのたなそこすべり抜けなんだを口惜くちおしく思ったろう。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
コンナ会話が交換されているところへ、老人の主厨しゅちゅうが飼っているまだらのフォックステリヤが、甲板にけ上って来ると突然に船首の方を向いてピッタリと立停たちどまった。クフンクフンと空中をぎ出した。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
山遊びの時分には、女も駕籠かごも通る。狭くはないから、肩摺かたずれるほどではないが、まざまざと足が並んで、はっと不意に、こっちが立停たちどまる処を、抜けた。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おんなは、水ぎわに立停たちどまると、洗濯盥——盥には道草に手打たおったらしい、嫁菜が一束挿してあった——それを石の上へこごみ腰におろすと、すっと柳に立直った。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
予はひやりとして立停たちどまりぬ。やゝありて犬は奥より駈来かけきたり、予が立てる前を閃過せんくわして藪のおもて飛出とびいだせり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私はまた、曲り角で、きっと、そっ立停たちどまって、しばらくって、カタリとくるるのおりるのを聞いたんです。
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれ立停たちどまつて、つゆは、しとゞきながらみづれたかはらごとき、ごつ/\といしならべたのが、引傾ひつかしいであぶなツかしい大屋根おほやねを、すぎごしみねしたにひとりながめて
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
銑吉が立停たちどまったのは、花の莟を、蓑毛みのけかついだ、舞の烏帽子えぼしのようにかざして、葉の裏すく水の影に、白鷺が一羽、婀娜あだに、すっきりと羽を休めていたからである。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十九にはなるまい新姐しんぞさきに、一足ひとあしさがつて、櫛卷くしまきにした阿母おふくろがついて、みせはひりかけた。が、ちやう行者ぎやうじや背後うしろを、なゝめとりまはすやうにして、二人ふたりとも立停たちどまつた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
母親が曲彔きょくろくを立つて、花の中で迎へたところで、哥鬱賢は立停たちどまつて、して……桃の花のかさなつて、影もまる緋色の鸚鵡おうむは、お嬢さんの肩から翼、飜然ひらりと母親の手にまる。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
母親はゝおや曲彔きよくろくつて、はななかむかへたところで、哥鬱賢こうつけん立停たちどまつて、して……もゝはなかさなつて、かげまる緋色ひいろ鸚鵡あうむは、おぢやうさんのかたからつばさ飜然ひらり母親はゝおやまる。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
思わず、私が立停たちどまると、向合むかいあったのが両方から寄って、橋の真中まんなかへ並んで立ちました。その時莞爾にっこり笑ったように見えたんですが、すたすたと橋を向うへ行く。跣足はだしです。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手を上げて招いたと言います——ゆったりと——くともなしに前へ出て、それでもあいだ二、三げんへだたって立停たちどまって、見ると、そのうずくまったものは、顔も上げないで俯向うつむいたまま
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの、別嬪べっぴんの事でしょう。私たちが立停たちどまって、お城を見ていました。四五間さきの所に、美しく立って、同じ方をながめていた、あれでしょう。……貴方あなたが(今のは!)ッて一件は。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鮒をかした盤台の前へ立停たちどまって、三傘夫人が、その大きいのを、と指さすと、ばちゃんと刎上るのを、大年増がすくった時は、尾が二の腕に余って、私はこいだとばかり思った。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
峰の、寺の、暮六くれむつの鐘が鳴りはじめた黄昏たそがれです。樹立こだちを透かした、屋根あかりに、安時計のセコンドをじっる……カーン、十九秒。立停たちどまったり、ゆっくり歩行あるいたり、十九秒、カーン。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あわただしく「あれ若いしゅさん、心棒が抜けてるよ。」車夫は仰天して立停たちどまりぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
揃って立停たちどまらなければならなかったのは、一町たらず河岸寄りの向う側、稲葉家のそこが露地の中から、蜥蜴とかげのように、のろりと出て、ぬっと怪しげな影を地にわした、服装みなりはしょびたれ
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おれが腕に覚えがあってうま立停たちどまったればこそ、さもなけりゃ、頭をるか、すねを折るか、どうせ娑婆しゃばの者じゃねえ、そりゃおれだって暮合に無燈火あかりなしも悪かったけれど、大道なかに坐ってる法はねえ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お雪は思切って立停たちどまった、短くさし込んだ胸の扇もきりりとする。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
画工、その事には心付かず、立停たちどまりて嬉戯きぎする小児等こどもらみまわす。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
画工、の事には心付こころづかず、立停たちどまりて嬉戯きぎする小児等しょうにらみまわす。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
巡査と対向さしむかいに立ったのなんぞ、誰も立停たちどまって聞くものは無い。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二歩す、フト立停たちどまる。三歩を動かす時、音楽聞ゆ。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お京も立停たちどまって振向いた。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とお千が立停たちどまって
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)