真白ましろ)” の例文
旧字:眞白
七子ななこの羽織に仙台平のリウとした袴、太い丸打の真白ましろな紐を胸高に結んださまは、何処かの壮士芝居で見た悪党弁護士を思出させた。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
蘩蔞はこべ」の花の砂よりも小くして真白ましろなる、一ツ一ツに見来みきたれば雑草にもなかなかに捨てがたき可憐かれんなる風情ふぜいがあるではないか。
髪黒く、色雪の如く、いつくしく正しくえんに気高き貴女きじょの、つくろはぬ姿したのが、すらりと入つた。月をうなじけつと見えたは、真白ましろ涼傘ひがさであつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その頂上てうじやうにはふるむかしから、大理石だいりせきのやうにかたくて真白ましろゆきこほりついてゐて、かべのやうにそゝりつ、そこまで、まだ誰一人だれひとりのぼつたものがない。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
葉は水に湿うるおいていよいよくれないに、真白ましろの皿に置かれしさまはめきて見ゆ。この時青年わかものは少女の横顔の何者にかたるように覚えしも思いださざりき。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
黄金丸は柴門しばのとに立寄りて、丁々ほとほとおとなへば。中より「ぞ」ト声して、朱目あかめ自ら立出づるに。見れば耳長く毛は真白ましろに、まなこくれないに光ありて、一目みるから尋常よのつねの兎とも覚えぬに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
田児たごの浦ゆうち出でて見れば真白ましろにぞ不尽ふじ高嶺たかねゆきりける 〔巻三・三一八〕 山部赤人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
おつと、麦酒ビイルかい、頂戴ちようだいなべは風早の方へ、煮方はよろしくお頼み申しますよ。うう、好い松茸まつだけだ。京でなくてはかうは行かんよ——中が真白ましろで、庖丁ほうちようきしむやうでなくては。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
隙間すきまなくしぶれた劈痕焼ひびやきに、二筋三筋あいを流す波をえがいて、真白ましろな桜を気ままに散らした、薩摩さつま急須きゅうすの中には、緑りを細くり込んだ宇治うじの葉が、ひるの湯にやけたまま
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
戸の内はくりやにて、右手めての低き窻に、真白ましろに洗ひたる麻布を懸けたり。左手ゆんでには粗末に積上げたる煉瓦のかまどあり。正面の一室の戸は半ば開きたるが、内には白布しらぬのを掩へる臥床ふしどあり。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
なほちからをつくしてほりけるに真白ましろなる雪のなかにそめたる雪にほりあて、すはやとてなほほり入れしに片腕かたうでちぎれてくびなき死骸しがいをほりいだし、やがてかひなはいでたれども首はいでず。
かくてただこゑもなし。あをひか硝子戸がらすど真白ましろなるかほふりむけて
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
一 真白ましろ富士ふじ みどりしま
七里ヶ浜の哀歌 (新字新仮名) / 三角錫子(著)
蘿月はにわか狼狽うろたえ出し、八日頃ようかごろの夕月がまだ真白ましろく夕焼の空にかかっている頃から小梅瓦町こうめかわらまち住居すまいあとにテクテク今戸をさして歩いて行った。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あれはと見る間に百尺ひゃくせき波状の黒線こくせんの左右より、二条の砂煙さえん真白ましろにぱツと立つたれば、その尾のあたりはほこりにかくれて
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
戸の内はくりやにて、右手めての低き窓に、真白ましろに洗いたる麻布あさぬのをかけたり。左手ゆんでには粗末に積み上げたる煉瓦れんがかまどあり。正面の一室の戸は半ば開きたるが、内には白布しらぬのをおおえる臥床ふしどあり。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
朝六時頃新宿駅に著くと、家根瓦やねがはらの上に霜が真白ましろに置いてゐた。今ごろなんだつてこんなにきびしい霜だらう。さうおもひながら僕は家に著いた。家には父母も妻も誰もゐなかつた。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
それとなき微笑ほほゑみが口元に湧いて、梅野の活溌なのが喰ひつきたい程可愛く思はれる。梅野は美しい、白い。背は少し低いが……アノ真白ましろな肥つた脛、と思ふと、渠の口元は益々緩んだ。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
明るけどあまり真白ましろきかきつばたひと束にすれば何か暗かり
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
蘿月らげつにはか狼狽うろたへ出し、八日頃やうかごろ夕月ゆふづきがまだ真白ましろ夕焼ゆふやけの空にかゝつてゐるころから小梅瓦町こうめかはらまち住居すまひあとにテク/\今戸いまどをさして歩いて行つた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
くちはなまゆ如何いかで見分けむ、たゞ、丸顔の真白ましろき輪郭ぬつとでしと覚えしまで、予が絶叫せる声はきこえで婦人がことばは耳に入りぬ、「こや人になかれ、わらは此処こゝにあることを」
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
真白ましろに光り、ひとならび、ちからあふるるおもてして
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
真白ましろなる大根の根のゆる頃
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
人は生活を赤裸々にして羽毛蒲団はねぶとんの暖さと敷布しきふ真白ましろきが中に疲れたる肉を活気付けまた安息させねばならぬ。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
忽然こつねんとしててんひらけ、身は雲に包まれて、たえなるかおりそでおおい、見るとうずたかき雪の如く、真白ましろき中にくれないちらめき、みつむるひとみに緑えいじて、さっと分れて、一つ一つ、花片はなびらとなり、葉となって
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うなじ巻く毛のぬくみ、真白ましろなるほだしのたまき
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
真白ましろなるラムプのかさ
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
わが寝返ねがえる音に、ふとこなたを見返り、それとうなずさまにて、片手をふちにかけつつ片足を立ててたらいのそとにいだせる時、と音して、からすよりは小さき鳥の真白ましろきがひらひらと舞ひおりて
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
時に真白ましろの雲の団街たままちよりのぼり
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
真白ましろなるラムプのかさ
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
びん真白ましろき手を、矢を黒髪に、女性にょしょうの最も優しく、なよやかなる容儀見ゆ。を持てるが背後うしろに引添い、前なる女のわらべは、錦の袋を取出とりいで下よりかざし向く。媛神、半ばかざして、その鏡をる。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あな楽し、真白ましろなる羽をそろへ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
とそう思うほど、真白ましろき面影、天女の姿は、すぐ其処そこに見えさせ給う。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真白ましろなるゆめの水牛すゐぎう
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)