さま)” の例文
面貌めんぼうほとんど生色なく、今にもたおれんずばかりなるが、ものに激したるさまなるにぞ、介添は心許こころもとなげに、つい居て着換を捧げながら
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここに一例としてインド産のピゾン一種人にるるさまを示す(図略す)。これは身長二丈余に達する事あり。英人のいわゆる岩蛇ロック・スネークだ。
さとき導者。汝等をこゝに捕ふる網、その解くるさま、地のこゝに震ふ所以、汝等の倶に喜ぶところの物、我今皆これを知る 七六—七八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
夏にはさら千鳥草ちどりそうの花がある。千鳥草、又の名は飛燕草。葉は人参の葉の其れに似て、花は千鳥か燕か鳥の飛ぶ様なさまをして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そのなかを、時々、おそろしくこんもりした密林があり、棕梠竹しゆろだけや下草が密生して、いはゆるジャングルのさまを示してゐる処もあつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
かく相讓る時に、そのつどへる人ども、その讓れるさまわらひき。ここに遂に兄儛ひ訖りて、次に弟儛はむとする時に、ながめごとしたまひつらく
この様な哀れなさまをした愚鈍そうな老爺がとんでもない喰わせものであろうとは、南洋へ来てまだ間も無い私にとってすこぶる意外であった。
南島譚:03 雞 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「……が。このさまを、成り行きまかせに、われらが傍観してもおれますまい。勝入どのに、何ぞ、御分別はお持ち合わせありますまいか」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
われは心中にララをおもひサンタをおもひつゝ、月明かなる夜、渠水きよすゐのぞめる出窓の上に、美人の獨りたゝずめるさまを敍したり。
精限り根限りの味覺を舌の尖端さきに集めようとするさまで、ぴた/\と音させて、深く考へ込んでゐたけれど、到頭分らなかつた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
白髮茨の如き痩せさらぼひたる斃死のさまの人が、吾兒の骨を諸手もろてに握つて、キリ/\/\と噛む音を、現實の世界で目に見る或形にしたら
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
この貧しげな在所から入って来ると、着いた当時はのろくさくて為方しかたのなかった寂しい町のさまが、可也にぎやかで、豊かなもののように見えて来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
我々のみじめなさまを見て、世の人は嘲って言います、「人を救いて、己を救うことあたわず」「他人の子を教えて、自己の子を教うるあたわず」
と、今は寒さに震えながら、下火に当っての物語、……茫々莫々ぼうぼうばくばくたる焼け跡の真黒な世界は、師走の鉛色な空の下に無惨なさまで投げ出されていました。
わが家の水上僅かに屋根ばかり現われおるさまを見て、いささかも痛恨の念の湧かないのは、その快味がしばらくわれを支配しているからであるまいか。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
茶山は花亭月堂等が江戸にあつて同じ月を賞するさまを思ひ遣つた。「不知東関外。得否此晶瑩。携酒誰家楼。泊舟何処汀。如見歓笑態。宛聞諷詠声。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
わがマカロニ関はそうめん関に右筈で押し行かれ土俵の剣ヶ峰で危険迫ると悟つても相手を突き離さうとするさま
木川子の腰に細引を結び付けて、将軍が巌角いわかどに足を踏ん張り、大冒険を企てて、早速奔流落下のさまを写し取った。
そうしてこれらの仮面をかぶった役者が、あるいは竜馬格闘のさまを、あるいは男女酔歓の状を演出したのである。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
活動が殆ど絶えたやうなさまをなして、そして心中には取り止め無くチラ/\と種々に物を思つて居るやうになる。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
然るに不幸にして男性の素振に己れを嫌忌するのさまあるを見ば、嫉妬もきざすなり、廻り気も起るなり、恨みにがみも生ずるなり、男性のみづから繰戻すにあらざれば
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
火の燃えさかる中にカッと開いている蓮華のさまは、如何にもさかんで勇猛心に燃えているように思われてなりません。私は、近来殊にこの勇猛心を持っております。
さう云ふ場合にすぐそれと気取られるやうな憔悴した後暗いさまを見せまいとして、わざと此方から伯母を圧倒するやうな態度に出ようと其瞬間に思つたのである。
今の心のさまを察するに、たとえば酒に酔ッた如くで、気はあれていても、心は妙にくらんでいるゆえ、見る程の物聞く程の事が眼や耳やへ入ッても底の認識までは届かず
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
やがて双眼鏡は貴婦人の手に在りて、くを忘らるるまでにでられけるが、目の及ばぬ遠き限は南に北に眺尽ながめつくされて、彼はこのグラスただならず精巧なるに驚けるさまなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
明治三十三年四月十五日の日曜日に向嶋にて警察官の厄介となりし者酩酊者二百五人喧嘩九十六件、うち負傷者六人、違警罪一人、迷児まいご十四人と聞く。雑沓狼藉のさま察すべし。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ずらりと並んだ寝台に眠っている病人たちのさまざまな姿体を、尾田は眺める気力がなく、下を向いたまま、一時も早く布団の中にもぐり込んでしまいたい思いでいっぱいだった。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
と、それから四五日して夜、又、夢に、…松風がごーつと悲しく吹き渡り、そしてそれから広い/\松原の醜く真赤に枯れたさまがまざ/\と彼の目の前に現はれて来るのであつた。
(新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
やがてそれがハラハラと四方に飛散するさまは、あたかも線香花火のきえるようであった、雨はしのつかねてなぐる如きドシャ降り、刻限は午前二時だ、僕ならずとも誰でもあまり感心かんしんはしまい。
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
フロツクコオトを着て山高ぼうかぶつた姿は固陋ころうな在所の人を驚かした。再び法衣を着たことは着たが、ながの留守中放題はうだいに荒れた我寺わがてらさまは気にも掛けず格別修繕しようともせぬ。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
貧民妻子を引連れ来りて之を争ひ食へるさまは、宛然さながらありの集まる如く、蠅の群がるに異ならで哀れにも浅間あさましかり、されば一町かくの如き挙動に及ぶを伝へ聞けば隣町忽ちこれにならひ
尊良親王・宗良親王・懐良やすなが親王・北畠親房きたばたけちかふさ・北畠顕家あきいえみなそうであった。だから京都の第宅ていたくに遊園を愉しむ生活に比べれば、すこぶる荒涼として、艱難かんなん辛苦のさまは想像に余りがある。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
この句はそういう境涯にいる自分の歳暮のさまを咏じたもので、今年ももう暮れる。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
時には死と死後の有様について高壇より公衆にむかって余の思想をべたり、人の死するを聞くや、或は聖経せいきょうの章句を引用し、或は英雄の死に際する時のさまかたって、死者をかなしむ者を慰めんとし
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
そこには細君と一人の下男とが一つのさかずきの酒を飲みあっていたが、そのさまがいかにも狎褻おうせつであるから周は火のようになって怒り、二人をとらえようと思ったが、一人では勝てないと思いだしたので
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
我は如何なるさまに居るとも、足ることを学びたればなり。——
愚かなるさまして黒々と立てる屋根の下に
無題 (新字旧仮名) / 富永太郎(著)
さッと室内のさまが、うかび出た。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
勿論、兇器きょうきは離さない。うわそらの足がおどつて、ともすれば局の袴につまずかうとするさまは、燃立もえた躑躅つつじの花のうちに、いたちが狂ふやうである。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
我たゞ微笑ほゝゑめるのみ、されどそのさまめくばせする人に似たれば、かの魂口を噤み、心のいとよくあらはるゝ處なる目を見て 一〇九—一一一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
演技半ばにたちまち地に伏して屍のごとし、やがて飛び起きて棗売りの顔を見詰め、大いに叫ぶさま、どこか痛むか何か怒るものに似たり
白髪しろかみいばらの如き痩せさらぼひたる斃死のさまの人が、吾児の骨を諸手に握つて、キリ/\/\と噛む音を、現実の世界で目に見る或形にしたら
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ダンテが敍事の生けるが如きために、其さま深くも我心にりつけられたるにや、晝は我念頭に上り、夜は我夢中に入りぬ。
その泣くさまは、青山は枯山なす泣き枯らし河海うみかはことごとに泣きしき。ここを以ちてあらぶる神の音なひ二二狹蠅さばへなす皆滿ち、萬の物のわざはひ悉におこりき。
二人の女の先きを爭つてゐるのを、道臣は細いさがを溶けさうにして見やりつゝ、電報といふ恐ろしいものの來たことを氣にもかけぬさまであつた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
水が澄明で、群魚游泳のさまの手に取る如く見えるのは、南洋の海では別に珍しいことはないのだが、此の時程、萬華鏡の樣な華やかさに打たれたことは無い。
山をむしばみ、裾野をおほひ、山村を呑みつ吐きつして、前なるは這ふやうに去るかと見れば、後なるは飛ぶ如くに来りなんどするさま、観て飽くといふことを覚えず。
雲のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
脂粉や珠玉も泥土にまみらせて惜しむ眼もなかったという——長恨歌ちょうごんかのうちにもある漢王の貴妃きひとの長安の都を落ちるさまにも似て、道はすこしもはかどらなかった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
イエス答えて言いたまう「神の国は見ゆべきさまにて来たらず。また『視よ、此処ここに在り』『彼処かしこに在り』と人々言わざるべし。視よ神の国は汝らの中に在るなり」
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
浅井が留守になると、お増はその婆さん母子おやこにちやほやされているさまが、すぐに目に浮んで来た。まだ逢ったことのない女の顔なども、想像できるようであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)