武生たけふ)” の例文
越前ゑちぜん武生たけふの、わびしい旅宿やどの、ゆきうもれたのきはなれて、二ちやうばかりもすゝんだとき吹雪ふゞき行惱ゆきなやみながら、わたしは——おもひました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
町として昔の面影を留めているのは武生たけふであります。往来の中央に溝が流れて両側に並木が立つのは昔の町の風情であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それはずっとのちに母から聞かされたことだが、武生たけふ市の中学で寮生活をするうち、三年のとき肺結核にかかって帰郷した。
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「めずらしいですか。僕は福井県の武生たけふに生れたけれど、あそこらは丹尾姓は多いのです。そうめずらしくない」
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
武生たけふ国府こふに』(われはありと親には申したれ)においでになっても、私はそっと行きますよ。つまらぬ身の上ですから、それだけはあなたのために遠慮されますがね
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
たとえば越前の武生たけふなどには、今でも汽車が通るたびに、必ずおもい出す中世の遊女の歌がある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
越前えちぜんの府、武生たけふの、わびしい旅宿やどの、雪に埋れた軒を離れて、二町ばかりも進んだ時、吹雪に行悩みながら、私は——そう思いました。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何だか運よく他の基地に廻されてね、その中戦争が終ってしまった。今は武生たけふでペンキ屋をやっています」
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
福井県に武生たけふという大きな町がある。昔はここに国府があり、越前の守がいた。越前を道の口といい、日本海岸の旅路のとっかかりであった。催馬楽さいばらに有名な歌が残っている。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それが大雪のために進行が続けられなくなって、晩方武生たけふ駅(越前えちぜん)へ留ったのです。強いて一町場ひとちょうばぐらいは前進出来ない事はない。
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜中頃よなかごろには武生たけふまちかさのやうに押被おつかぶせた、御嶽おんたけといふ一座いちざみねこそぎ一搖ひとゆれ、れたかとおも氣勢けはひがして、かぜさへさつつた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
武生たけふ富藏とみざう受合うはあひました、なんにしろおとまんなすつて、今夜こんや樣子やうす御覽ごらうじまし。ゆきむかまぬかが勝負しようぶでござります。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
朝六あさむつの橋を、その明方あけがたに渡った——この橋のあるところは、いま麻生津あそうづという里である。それから三里ばかりで武生たけふに着いた。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みち十一里じふいちりだけれども、山坂やまさかばかりだから捗取はかどらない。むかし前田利家まへだとしいへ在城ざいじやう武生たけふやなぎみづをんな綺麗きれい府中ふちうである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
侘住居わびずまひまをします——以前いぜんは、北國ほつこくおいても、旅館りよくわん設備せつびおいては、第一だいいちられた武生たけふうちでも、隨一ずゐいち旅館りよくわんむすめで、二十六のとし
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
だい腕車わんしやにん車夫しやふは、茶店ちやみせとゞまつて、人々ひと/″\とともに手當てあてをし、ちつとでもあがきがいたら、早速さつそく武生たけふまでも其日そのひうち引返ひつかへすことにしたのである。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
元來ぐわんらい——歸途きとせんをたよつて東海道とうかいだう大𢌞おほまはりをしようとしたのは、……じつ途中とちう決心けつしん出來できたら、武生たけふりてゆるされないことながら、そこから虎杖いたどりさと
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あひ宿しゆくで、世事せじよういさゝかもなかつたのでありますが、可懷なつかしさあまり、途中とちう武生たけふ立寄たちよりました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ところで——ちゝの……危篤きとく……生涯しやうがい一大事いちだいじ電報でんぱうで、とし一月いちぐわつせついまだ大寒たいかんに、故郷こきやう駈戻かけもどつたをりは、汽車きしやをあかして、敦賀つるがから、くるまだつたが、武生たけふまででれた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一寸ちよつと話題わだいにはらうとおもふ、武生たけふから道程みちのりじつ二十七里にじふしちりである。——深川ふかがはくるま永代えいたいさないのを見得みえにする……とつたもので、上澄うはずみのいゝところつてかすゆづる。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たゞいたづらに、思出おもひで武生たけふまち宿やどつてもかまはない。が、宿やどりつゝ、其處そこ虎杖いたどりさと彼方かなたて、こゝろあしはこべないときはかなさにはへられまい、とおもひなやんでますうちに——
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
加州家かしゅうけの御先祖が、今の武生たけふの城にござらしった時から、おの入れずでの。どういうものか、はい、御維新前まで、越前のうちで、此処ここ一山ひとやまは、加賀かが領でござったよ——お前様、なつかしかんべい。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)