棒縞ぼうじま)” の例文
玄は荒い棒縞ぼうじま浴衣ゆかたを着て、窓際のテーブルに向って何か本を読んでいた。私は何だか、玄の部屋に這入って行ってみたくなった。
娘たちはこの学校へいれられたが最後みんなおそろいの棒縞ぼうじまの制服を着せられて五か月たつまでは一回の外出も許されずに
映画雑感(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
其時、先程一寸名前の出た明智小五郎が、いつもの荒い棒縞ぼうじま浴衣ゆかたを着て、変に肩を振る歩き方で、窓の外を通りかかった。
D坂の殺人事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
妹はと見ると、まだ十五か十六だろう、青味がかった棒縞ぼうじまのお召にカシミヤの袴を穿いた姿が、質素な周囲と反映してあざやかに美しかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
棒縞ぼうじま糸織いとおりの一枚小袖、御納戸おなんど博多の帯一本差し、尻端折しりはしょり雪駄ばきにて、白縮緬のさがりを見せ、腕組をしながら出て
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
棒縞ぼうじまのゆかたをくつろげた胸にひもがななめに見えていたのは、何かのお守袋だろう。粋な中形に洗い髪の夫人が傍から団扇うちわの風を送ってくれる。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
おび一重ひとへひだり腰骨こしぼねところでだらりとむすんであつた。兩方りやうはうはしあかきれふちをとつてある。あら棒縞ぼうじま染拔そめぬきでそれはうまかざりの鉢卷はちまきもちひる布片きれであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ときは、めうなもので……また此處こゝをんな一連ひとつれ、これは丸顏まるがほのぱつちりした、二重瞼ふたへまぶた愛嬌あいけうづいた、高島田たかしまだで、あらい棒縞ぼうじま銘仙めいせん羽織はおりあゐつた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
葉子は断髪の黒髪をふさふさまくらに垂らして、赤と黒と棒縞ぼうじまのお召の寝衣ねまきを着たまま、何か本を手にしたままねむっていたのだが、やがてこっちを向き直った。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
井戸側へとりついていた時は早や、その棒縞ぼうじまの仕立下ろしの着物をも脱ぎ捨てて裸一貫になっていました。
荒い棒縞ぼうじまのネルの筒袖つつそで一枚を着たままで、目のはれぼったい顔をして、小山のような大きな五体を寝床にくねらして、突然はいって来た葉子をぎっと見守っていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
滅多に、藩邸の外へ出ない渋沢栄一が、古着屋をつかまえて、商人の着るような棒縞ぼうじま単衣ひとえと、角帯とを値ぎっているのだった。——それと、薄汚い盲目染めくら脚絆きゃはんか何かを、つまんで
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「私から——ええ私から——私から誰かに上げます」と寄木よせきの机にもたせたひじねて、すっくり立ち上がる。紺と、濃い黄と、木賊とくさ海老茶えびちゃ棒縞ぼうじまが、棒のごとくそろって立ち上がる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
握り太にして三尺五寸なめがわで包んだ竹刀を引っ下げ、おりから武者窓から棒縞ぼうじまをなして、幾筋か場内へ流れ込んで来た午後の日の光に半身を染めて、悠々然として突っ立った態度は
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
興味をもってもすぐに忘れがちな子供のおりのことで、川上音二郎が薩摩さつまガスリの着物に棒縞ぼうじま小倉袴こくらばかまで、赤い陣羽織を着て日の丸の扇を持ち、白鉢巻をして、オッペケ節を唄わなかったならば
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
さうして箒のマロニエ、其れに交つた砂糖漬の白樺の棒縞ぼうじま
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
一幕目がおわったときだった。自分の横へ、一人の職員風の若い男が来て坐った。青い棒縞ぼうじまの汚い着物を着て居た。
天の配剤 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
少禿天窓すこはげあたまてらてらと、色づきの顔容かおかたち、年配は五十五六、結城ゆうき襲衣かさねに八反の平絎ひらぐけ棒縞ぼうじま綿入半纏わたいればんてんをぞろりと羽織って、白縮緬しろちりめんの襟巻をした、この旦那と呼ばれたのは
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その朝も芸者のちょいちょいらしい、黒繻子くろじゅすえりの着いた、伝法でんぽう棒縞ぼうじま身幅みはばの狭い着物に、黒繻子と水色匹田ひった昼夜帯ちゅうやおびをしめて、どてらを引っかけていたばかりでなく
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
くろずんだ赤と紺との荒い棒縞ぼうじま縕袍どてらも、不断着ているので少しよごれが見えて来たが、十一月もすでに半ば以上を過ぎても、彼女はまだ二階の奥の間に寝たり起きたりしていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
板前の庖丁ほうちょうに甘いもからいもいえず、出るには焼き印のある下駄をはき、うちでは棒縞ぼうじまの丹前でお客様お客様と下にもおかれぬ不自由をしているよりは、かかる野天で、かかる湯泉に
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
窓掛の隙間すきまから硝子へ顔をしつけて、外をのぞくと扇骨木かなめ植込うえごみを通して池が見える。棒縞ぼうじまの間から横へ抜けた波模様のように、途切れ途切れに見える。池の筋向すじむこう藤尾ふじおの座敷になる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
男は八丈の棒縞ぼうじまの着物に、結城紬ゆうきつむぎの羽織を着ていたが、役者らしい伊達だてなところは少しもないのですよ。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ぬいとあらわれたのは、色の黒い、いがぐりで、しるし半纏ばんてんの上へ汚れくさった棒縞ぼうじま大広袖おおどてらはおった、からすねの毛だらけ、図体はおおきいが、身のしまった、腰のしゃんとした、鼻の隆い
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まだ晴れきらない狭霧さぎりをこめた空気を通して、杉の葉越しにさしこむ朝の日の光が、雨にしっとりと潤った庭の黒土の上に、まっすぐな杉の幹を棒縞ぼうじまのような影にして落としていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
沢山ある髪を結綿ゆいわたに結っていた、角絞つのしぼりの鹿の子のきれ浅葱あさぎと赤と二筋を花がけにしてこれが昼過ぎに出来たので、衣服きものは薄お納戸の棒縞ぼうじま糸織のあわせ、薄紫のすそ廻し、唐繻子とうじゅすの襟をかけ
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒地に目もめるような白い棒縞ぼうじまのお召が、夫人の若々しさを一層引立てゝいた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
其奴そいつ間夫まぶだか、田楽だか、頤髯あごひげすさまじい赤ら顔の五十男が、時々長火鉢の前に大胡坐おおあぐらで、右の叔母さんと対向さしむかいになると、茶棚わきの柱の下に、櫛巻の姉さんが、棒縞ぼうじまのおさすり着もの
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うへは、とおあきをとこのせりめた劍幕けんまくと、はたらきのないをんなだと愛想あいそかされようとおも憂慮きづかひから、前後ぜんご辨別わきまへもなく、棒縞ぼうじまあはせいですつもりで、かげではあつたが、かきそと
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
綿を厚く入れた薄汚れた棒縞ぼうじま広袖どてらを着て、日に向けてせなかを円くしていたが、なりの低い事。草色の股引ももひき穿いて藁草履わらぞうりで立っている、顔が荷車の上あたり、顔といえば顔だが、成程鼻といえば鼻が。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新調か、知らず筋糸のついたままなる、結城ゆうき棒縞ぼうじまねん半纏ばんてん
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男の貸広袖かしどてらを着た棒縞ぼうじまさえ、もやを分けて、はっきりと描かれた。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)