こん)” の例文
「左樣、やすり一梃のこん仕事だから、先づ一生懸命に打ち込んでも、延べにして一千日——つまり一人の力では三年くらゐかゝりませう」
竹童ちくどうも、逃げに逃げた。折角村おりかどむらからひるたけすそって街道にそって、足のかぎり、こんかぎり、ドンドンドンドンかけだして、さて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その人としてはこんかぎりの努力をはらっていながら、かえって悲劇的ひげきてきな結果を招いたという場合もないとはいえないのであります。
青年の思索のために (新字新仮名) / 下村湖人(著)
男はやはり大通りへ出るのを避けて、うす暗い裏通りの横町を縫って池の端の方角へ逃げてゆくのを、半七もこんよく追いつづけた。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
葉子はせいこんも尽き果てようとしているのを感じた。身を切るような痛みさえが時々は遠い事のように感じられ出したのを知った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
甲州街道は大部分繃帯ほうたいした都落ちの人々でさながら縁日のようでした。途中でこんきて首をくくったり、倒れて死んだ者もあります。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
去年来ました時には前の川で魚を取る事許りにこんをつくして居ましたっけが、此頃は一角大人なみに用を足してもくれましてね。
お久美さんと其の周囲 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
女は、几帳の上からやにわにいちばん大きなノミを取ると、人形の頭に突き立て、うちきの袖を振ってこんかぎりの力でそれを打った。
(新字新仮名) / 山川方夫(著)
精もこんも吟味の練磨れんまに打ちこんで、こうも身を痩せさせているのは、しゃれや冗談でやっているのではありません。多寡がおっこちた鶴一羽。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
いつも頭に渦巻いてゐる詞藻を持たない幻が、堰を切つて流れ出すかのやうにこん限りの精力をささげて倒れるまでは熱中するのが例だつた。
熱い風 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
と少しもたいを崩さぬよう身構えて居りました。文治は其の夜二居ヶみねの谷々までこん限り尋ねましたが、少しも足が付きませぬ。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それを研究することもこんがよく、ひまがあれば古今の医書をひもといて、細かに調べているのだが、どうしたものか先生の病で
こんよくさがせば、自分の好きな映画女優に似た女が、きっと見出せる、そういう場所だった。思えば、淫売窟いんばいくつ華やかなりしころだったのである。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
私は兩手にいつぱいの力をこめて、その光る纖毛の一本をこんかぎりにつかまうとする。眼にもみえざる白い生毛に私の全神經をからみつける。
散文詩・詩的散文 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
あたかも利刃をふるって泥土をるに等しい何らの手答えのない葛藤を何年か続けた後に、二葉亭は終に力負けこん負けがして草臥くたびれてしまった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「おや、サルサこんえきのはいったびんを持ってくるのをわすれたよ。ちょいとおまえさん、大いそぎでとってきておくれよ」
奴は咄嗟とっさにあるだけの力を出して、沈んだがまた浮上った夫を背にかけて、波濤はとうをきってこんかぎり岸へ岸へと泳ぎつき、不思議に危難はのがれたが
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あれほどがんばりやだった青江三空曹も、鬼神ではなかったので、力もこんもつきはて、ついにたっと犠牲ぎせいとなりました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さすがの王さまもとうとうこんまけをなすって、それでは、どうなりとするがいいと、しかたなしにこうおっしゃいました。
ぶくぶく長々火の目小僧 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
右衛門がこんをきらせて叫んだ。とたんに泰三はそこへ両手をつき、右衛門の先手へまわって初対面の挨拶を始めた。
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ああ背立ち割られ鉛の熱湯そそがれようとままよ、いのちのかぎりこんかぎり、扇一本舌三寸でこの私は天地万物あらゆる姿を写しいださいでおくものか。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
しかしそれに屈せずなおこんよく捜していたところが、始めてあごの右半分が見つかり、さらにそこから三尺ばかり隔てた所で後頭骨が見つかったのである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
豊吉は善人である、また才もある、しかしこんがない、いや根も随分あるが、どこかに影の薄いような気味があって、そのすることが物の急所にあたらない。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
見当違いや、煩わしさや、憂鬱や偏執に、「」も「こん」も尽き果てようとする時、加奈子は、不意に、京子のその半面の気違いのロマンチックに出遇う。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それで毎日こんよくほうぼうへ出かけて、演芸えんげいをやって歩いた。けれどまだミリガン夫人ふじんの手がかりはなかった。
こんりも尽き果てた疲れを負って歩く、灰色の路の我が人生の旅の行方を想うと、堪え難く寂しく悲しい。
利根川の鮎 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
そして、彼の腕前では、仮令一生を棒に振って、力限りこん限り、働き通して見た所で、たった数万円の金さえ、蓄積することは出来そうもないのでありました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「お光ちょうい。内のお光ちょうい」。老夫婦が力の限りこん限り叫ぶ声はいたずら空明くうめいに散ってしまって、あとはただ淼々びょうびょうたる霞が浦の水渦まいて流れるばかり。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「お前に話したつて仕方がないが、おれは二三日怨靈をんりやうに襲はれてゐるよ。獨りでその事を考へてるとこんが盡きてしまふよ。……かうしちやゐられないと思ふ。」
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
どっちみちあんなにブン廻っては、早晩こん疲労つからせて、死んでしまうに相違ねえ。……オヤどうしたんだいお仙ちゃん、顔色を変えてさ、おどしちゃアいけねえ
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
在来とてもこんな場合に睡さうな眼をしたとは云へ、今日のはまるで行路病者こうろびょうしゃのそれのやうな、せいこんれ果てた、疲労しきつた色を浮かべてゐるではないか。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それで生氣の衰へない瓜は何處からでも蔓を吹き出します。爺さんは又こんよくそれを摘んでめます。
白瓜と青瓜 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この作品はぎりぎりの十月十二日に送り出して辛々からからに合わせたのでしたが、随分こんをつめました。
「草紙洗」を描いて (新字新仮名) / 上村松園(著)
そのこん創口きずぐちに比して男子に説く趣向を妙案らしく喋々ちょうちょうし居るが、その実東洋人にはすこぶる陳腐で、仏教の律蔵には産門を多くは瘡門そうもん(すなわち創口)と書きあり
彼奴きゃつら、われわれとのこんくらべに負け、押し出されるがごとく一時道場をあけて、かような片田舎へ逃げこんだものに相違ござらぬが、もとより、対策がたちしだい
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もだくるしみ、泣き叫びて、死なれぬごふなげきけるが、漸次しだいせいき、こん疲れて、気の遠くなり行くにぞ、かれが最も忌嫌いみきらへるへび蜿蜒のたるも知らざりしは、せめてもの僥倖げうかうなり
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
業房ぎょうぼうに閉じ籠もってこんをつめて居たせいもあろうが、月光を顧みたことなどはついぞなかった。然るに今夜は不思議にも、生れ故郷の月を見るような気がしてならない。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
先達て中始終しょっちゅう秋雨あめの降り朽ちているのに、後から後からと蕾を付けて、こん好く咲いているな、と思って、折々眼に付く度に、そう思っていたが、其れは既う咲き止んだ。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
千種のこんかぎり振りつづけるハンケチがいつまでもほの白く、海上の靄の中にひらめいてゐる。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
伜に戸主を譲って、一時、ほっとした気持ちになった爺は、またこんをつめて働き出した。伜は、財産の少ないのを、自分が無くしたのを、面白くなく思っているのに相違ねえ。
山茶花 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
でもね、美奈みな子。二千円あつたら、どうにかうちてられるかもれないよ。そしてそんな一つ一つの品ものなんかよりも、かんがへてみりや、そのはうがずつとこんてきことだとおもふ……
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
三角函数が展開されたように……高次方程式のこんが求められた時の複雑な分数式のように……薄黄色い雲の下に神秘的なハレーションを起しつつ、てしもなく輝やき並んでいた。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
芸者はあきれた顔をして、しばらくその方を眺めていましたが、やがてこんかぎりの大きな声で、阿呆あほうと呼びました。すると阿呆と呼ばれた客が端艇をこっちへぎ戻して来ました。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そこは此方こっちと違って頭が別製だからさ。少しこんを詰めるとガン/\するんだろう」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
家の奥の方に引込ひきこんで一切客にわずに、昼夜精切せいぎり一杯、こんのあらん限り写した。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
闊達かったつに笑って、「勝手にさせちょけ。おれは一度死んだ人間じゃ。もう、どんなことが来たって、恐いことはない。どこまで彼奴等の無茶が通るか、こうなったら、こんくらべじゃよ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
今はもうせいこんも盡き果てた、一歩を歩む力さへない。私は雨に濡れた戸口の階段の上に崩れるやうに坐つて了つた。私はうめいた——兩手を絞ぼつた。——私は激しい苦痛に泣いた。
徳之助 こんかぎり逃げるより他はありゃしない。さ、一足でも先へ逃げのびよう。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
左へ廻ればまつすぐ本館の裏口で、あとは三階の病室まで無口のままゆつくり登つていつて、精もこんもつき果てたやうにベッドに倒れて、着替へもそこそこにぐつすり寝こんでしまふ。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
あの富士山や御嶽おんたけ山などへ登る行者たちが、「懺悔さんげ懺悔、六こん清浄しょうじょう」と唱える、あの六根で、それは眼、耳、鼻、舌、身の五官、すなわち五根に、「意根」を加えて六根といったので
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)