朝夕ちょうせき)” の例文
その上宗助はある事情のために、一年の時京都へ転学したから、朝夕ちょうせきいっしょに生活していたのは、小六の十二三の時までである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
当時西語にいわゆるシニックで奇癖が多く、朝夕ちょうせき好んで俳優の身振みぶり声色こわいろを使う枳園の同窓に、今一人塩田楊庵しおだようあんという奇人があった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
もちろん、かしぎのことも、朝夕ちょうせきの掃除も、まったく一人でするのであって、まだかけひが引いてないので飲水のみみずは白河へ出て汲んでくる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしは楚水そすいの者でございますが、思わぬ禍いに逢いまして、命も朝夕ちょうせきに迫って居ります。あなたでなければお救い下さることは叶いません。
その上、三人でいた間は、肥前ひぜんくに加瀬かせしょうにある成経のしゅうとから平家の目を忍んでの仕送りで、ほそぼそながら、朝夕ちょうせきの食に事を欠かなかった。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ここに住みここに朝夕ちょうせきを送るかぎり、醜きうちにも幾分の美を捜り汚き中にもまた何かの趣を見出し、以て気は心とやら
そこで志山林に在り、居宅を営まず、などと云われれば、大層好いようだが、実はしょうこと無しの借家住いで、長い間の朝夕ちょうせきを上東門の人の家に暮していた。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これはここへ来てからの、心覚えの童謡わらわうたを、明が書留めて朝夕ちょうせきに且つ吟じ且つながむるものだ、と宵に聞いた。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「単に、手本にするだけではござりませぬ。きた馬と朝夕ちょうせき起居をともにし、その習性を忠実に木彫もくちょううつしてみたいというのが、愚老の心願でござりまする」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その策如何いかんというに、朝夕ちょうせき主人の言行を厳重正格にして、家人をること他人の如くし、妻妾児孫をして己れにつかうること奴隷の主君におけるが如くならしめ
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
朝夕ちょうせきの心配はないようになったのですが、しゅうとの気分は一向に変わりませず——それはいいのでございますが、気にかかる父の行くえがどうしてもわかりません。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
夫が厳冬のも二時三時まで書いていることを、この女は知らないのだろうか、文学家の朝夕ちょうせきは、思ったより悲惨なものであるのに、その金を催促に来て、いう言葉がそれなのだ。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しばらく故郷を離れたが正作は家政の都合つごうでそういうわけにゆかず、周旋しゅうせんする人があってなにがし銀行に出ることになり給料四円か五円かで某町なにがしまちまで二里の道程みちのり朝夕ちょうせき往復することになった。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いでけたままの皮どうなるものかと沈着おちつきいたるがさて朝夕ちょうせきをともにするとなればおのおのの心易立てから襤褸ぼろが現われ俊雄はようやく冬吉のくどいに飽いて抱えの小露が曙染あけぼのぞめを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
朝夕ちょうせき糊口ここうみちに苦しみつつ、他の壮士らが重井おもい、葉石らの助力を仰ぎしにも似ず、妾は髪結かみゆい洗濯を業として、とにもかくにも露の生命いのちつなぐほどに、朝鮮の事件始まりて、長崎に至るみちすがら
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
居士がヘルメット形の帽子を被って単衣の下にネルのシャツを来て余をらっして松原を散歩するのは朝夕ちょうせきの事であった。余はかくの如く二、三日を居士と共に過ぐしていよいよ帰東することになった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
朝夕ちょうせき禅房の掃除もするし、聴聞ちょうもんの信徒の世話もやくし、師の法然にもかしずいて、一沙弥いちしゃみとしての勤労に、毎日を明るく屈託くったくなく送っていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
爾来じらい長井は何時でも、これを自分の居間に掛けて朝夕ちょうせき眺めている。代助はこの額の由来を何遍聞かされたか知れない。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おんなつかしさ少時しばしも忘れずいずれ近きうち父様ととさまに申しあげやがて朝夕ちょうせき御前様おまえさま御傍おそばらるゝよう神かけて祈りりなどと我をうれしがらせし事憎し憎しと、うらみ眼尻まなじり鋭く
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
朝夕ちょうせき水を用いてその剛軟を論じながら、その水は何物の集まりて形をなしたるものか、その水中に何物を混じ何物を除けば剛水ごうすいとなり、また軟水なんすいとなるかの証拠を求めず
物理学の要用 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
惣八郎とは、陣中で朝夕ちょうせき顔を見合わしたが、惣八郎はなんとも、その日のできごとについては、いわなかった。甚兵衛の方でも、自らその日のできごとについて語るのを避けた。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そうして、大野ともいわず、九郎兵衛とも名乗らず、単に遊謙と称する一個の僧となって、小さい草堂そうどうを作って朝夕ちょうせきに経を読み、かたわらには村の子供たちを集めて読み書きを指南していた。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
朝夕ちょうせき平穏な時がなくなって、始終興奮している。苛々いらいらしたような起居振舞たちいふるまいをする。それにいつものような発揚の状態になって、饒舌おしゃべりをすることは絶えて無い。むしろ沈黙勝だと云っても好い。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
調子もおかしく、その蝙蝠傘を脇挟んだ様子、朝夕ちょうせき立入る在来の男女とは、いた行方ゆきかたことにする、案ずるにけだし北海道あたりから先生の名を慕って来た者だろうと、取次はみつめたのである。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
荒れ果てた法勝寺のゆかをつくろい、屋根のかやいて、そのわきに、べつに粗末な一庵を建てて、やがて、朝夕ちょうせき勤行ごんぎょうの鐘も聞えだした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ウィリアムはこの盾を自己のへやの壁に懸けて朝夕ちょうせき眺めている。人が聞くと不可思議な盾だと云う。霊の盾だと云う。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今において回顧すれば、その頃の自分は十二分の幸福というほどではなくとも、少くも安康あんこうの生活にひたって、朝夕ちょうせきを心にかかる雲もなくすがすがしく送っていたのであった。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今度秀吉方につくならば、各々方も大名に取立て、勝豊はゆくゆく、北国の総大将になるであろうなど、朝夕ちょうせき説くので、家老達の心も次第に動いて勝豊にまで励めることになった。
賤ヶ岳合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
朝夕ちょうせき一寸ちょっとした話のはしにもその必要を語り、あるいは演説にあるいは筆記に記しなどしてその方針に導き、又自分にも様々工風くふうして躬行実践きゅうこうじっせんつとめ、ます/\漢学が不信仰になりました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
肋膜炎ろくまくえんを病んだ挙句が、保養にとて来ていたが、可恐おそろし身体からだを気にして、自分で病理学まで研究して、0,などと調合する、朝夕ちょうせき検温気で度をはかる、三度の食事も度量衡はかりで食べるのが、秋の暮方
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つまり、この一軒家も、そこの旅籠屋のもちで、朝夕ちょうせきの食事も、向うの台所から運んで来ることになっている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
晩食ばんめしの時宜道は宗助に、入室にゅうしつの時間の朝夕ちょうせき二回あることと、提唱ていしょうの時間が午前である事などを話した上
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雑事におかされない朝夕ちょうせきの時間の中に身を置いて十分に勉強することの出来るのを何よりもうれしいことに思いながら、いわゆる「勉学の佳趣かしゅ」にひたり得ることを満足に感じていた。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
嫜の方の朝夕ちょうせきの見舞をかくべからず。嫜の方のつとむべきわざおこたるべからず。若し嫜のおおせあらばつつしみおこなひてそむくべからず。よろずのこと舅姑に問ふて其教にまかすべし。嫜若し我をにくみそしりたまふともいかりうらむること勿れ。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そうして彼は、お杉ばばのために、裏の空地へ一室を建ててやったり、家にいる日は、朝夕ちょうせき、挨拶に出たりして、賓客に仕えるように、このばばを大事にした。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千人近くの生徒がみんな退校になったら、教師も衣食のみちに窮するかも知れないが、古井武右衛門君一人いちにんの運命がどう変化しようと、主人の朝夕ちょうせきにはほとんど関係がない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平日ふだんならば南蛮なんばん和尚といえる諢名あだなを呼びて戯談口じょうだんぐちきき合うべき間なれど、本堂建立中朝夕ちょうせき顔を見しよりおのずとれし馴染なじみも今は薄くなりたる上、使僧らしゅう威儀をつくろいて
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
世の中が夫を遇する朝夕ちょうせきの模様で、夫の価値を朝夕に変える細君は、夫を評価する上において、世間並せけんなみの一人である。とつがぬ前、名を知らぬ前、のおのれと異なるところがない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なるほど朝夕ちょうせき側に仕えてみると、弥五郎一刀斎は気難しい。善鬼の蔭口かげぐちは嘘ではない。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて定基夫婦の間のふすぶりかえり、ひぞり合い、けむを出し火を出し合うようになっている傍に、従兄弟同士の匡衡夫婦の間は、詩思歌情、ハハハ、オホホで朝夕ちょうせきむつび合っているとすれば
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さいわいにして苦沙弥先生門下の猫児びょうじとなって朝夕ちょうせき虎皮こひの前にはんべるので先生は無論の事迷亭
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「この地は、かつて関将軍が治め給うた領地でした。将軍の生けるうちすら、わたくしどもはご恩徳をたたえて、家ごとに朝夕ちょうせきはいしておりました。いわんや今、神明と帰し給うをや」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は「当り前よ、威張るだけの事はあるんだから行って御覧なさい」と答えた。自分は下宿をするまで朝夕ちょうせき寝起きをした、家中うちじゅうで一番馴染なじみの深い、もとのわが室をのぞきに立った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ねがわくは、どうか、朝夕ちょうせき帷幕いばくにあって、遠慮なく、この愚夫をお教え下さい」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主人から云えば軍隊を歓迎する前にまず自分を歓迎したいのである。自分を歓迎したあとなら大抵のものは歓迎しそうであるが、自分が朝夕ちょうせきつかえる間は、歓迎は華族様にまかせておく了見らしい。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
朝夕ちょうせきのあいだにあります」と、漠然ばくぜん答えた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)