御前おまへ)” の例文
どうも、そうさんもあんまり近頃ちかごろ御出おいででないし、わたし御無沙汰ごぶさたばかりしてゐるのでね、つい御前おまへこと御話おはなしをするわけにもかなかつたんだよ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
のみ足を投出し居るに九郎兵衞是を見て嗚呼御前おまへうらやましいわしは今此湖水こすゐに身を投やうか此帶で首をくゝらうかと思ひ居たりと云ふを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いや阿關おせきこうふとちゝ無慈悲むじひ汲取くみとつてれぬのとおもふからぬがけつして御前おまへかるではない、身分みぶん釣合つりあはねばおもこと自然しぜんちがふて
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
御身おんみ過去くわこ遠々とほ/″\より女の身であつたが、このをとこ(入道)が娑婆しやばでの最後で、御前おまへには善智識ぜんちしきだから、思ひだす度ごとに法華經の題目だいもくをとなへまゐらせよ。と、二首の歌も書かれてある。
それあそんでゐるのは勿体ない。あの何とか云つたね、そら御前おまへの所へく話しにた男があるだらう。おれも一二度逢つたことがある」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
だまつてては際限さいげんもなくつのつてれはれはくせつて仕舞しまひます、だい一は婢女をんなどもの手前てまへ奧樣おくさま威光ゐくわうげて、すゑには御前おまへことものもなく
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
なし實に江戸といふ處は人氣が惡いと云ければ長兵衞は是を聞て大いにわらそれは人氣のわるいのではなし御前おまへ田圃中たんぼなか歩行あるきしゆゑ子供のことなれば狐にばかされたと思ひ石を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
御米およね御前おまへ神經しんけい過敏くわびんになつて、近頃ちかごろうかしてゐるよ。もうすこあたまやすめて工夫くふうでもしなくつちや不可いけない」とつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
またしても其樣そのやうなこと御前おまへさま此々これ/\とおつたへ申さばきお返事へんじれたことなり最早もうくよ/\とはおぼしめすな
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こしらへるには毎日々々時をたがへず其所をまはれば今何やが來たからもう何時成んと家々にて其商人をあてにするやうになりすれば商ひもかならずふえるものゆゑ御前おまへも町内は申に及ばず裏々うら/\
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
御前おまへだつて満更まんざら道楽をした事のない人間でもあるまい。こんな不始末を仕出しでかす位なら、今迄折角かねを使つた甲斐がないぢやないか」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
此方こちらから強請ねだつわけではなけれど支度したくまで先方さき調とゝのへてはゞ御前おまへ戀女房こひによぼうわたし父樣とゝさん遠慮ゑんりよしてのみは出入でいりをせぬといふもいさむさんの身分みぶんおそれてゞは
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
御前おまへ一人ひとりぢやなし、にいさんもあることだから相談さうだんをしてたらいだらう。其代そのかはわたしそうさんにつて、とつくりわけはなしませうから。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
すこ御新造ごしんぞ機嫌きげんかいなれど、目色めいろ顏色かほいろみこんで仕舞しまへばたいしたこともなく、結句けつくおだてにたちなれば、御前おまへ出樣でやう一つで半襟はんゑりはんがけ前垂まへだれひもにもことくまじ、御身代ごしんだい町内てうないだい一にて
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
梅子は令嬢の教育地が京都だから、あゝなんぢやないかと推察した。あには東京だつて、御前おまへた様なのばかりはゐないと云つた。此時ちゝ厳正げんせいかほをして灰吹はいふきたゝいた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
少し御新造ごしんぞは機嫌かいなれど、目色顔色かほいろみこんでしまへば大した事もなく、結句おだてに乗るたちなれば、御前おまへの出様一つで半襟はんゑり半がけ前垂まへだれひもにも事は欠くまじ、御身代は町内第一にて
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
細君が、わたくしうちに居つても、貴方あなたて御仕舞になれば、あとが困るぢやありませんかと云ふと、なに構はないさ、御前おまへは勝手に入夫にうふでもしたらからうとこたへたんだつて
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わきかへるなみだ人事ひとごとにして御不憫おいとしぢやうさま此程このほどよりのおわづらひのもとはとはゞなにゆゑならず柔和おとなしき御生質たちとてくちへとてはたまはぬほどなほさらにいとほしおこゝろ中々なか/\ふやうなものにはあらずこのふみ御覽ごらんぜばおわかりになるべけれど御前おまへさま無情つれなき返事へんじもしあそばされなばのまゝに居給ゐたまふまじき御决心ごけつしんぞと
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)