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帽
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ばう
或は
曰く——
禮服や
一千兩を
土用干——
此の
大禮服は
東京で
出來た。が、
帽を
頂き、
劍を
帶び、
手套を
絞ると、
坐るのが
變だ。
『
屹度返却します、
屹度。』などと
誓ひながら、
又帽を
取るなり
出て
行つた。が、
大約二
時間を
經つてから
歸つて
來た。
表は
左右から
射す
店の
灯で
明らかであつた。
軒先を
通る
人は、
帽も
衣裝もはつきり
物色する
事が
出來た。けれども
廣い
寒さを
照らすには
餘りに
弱過ぎた。
道翹が
呼び
掛けた
時、
頭を
剥き
出した
方は
振り
向ひてにやりと
笑つたが、
返事はしなかつた。これが
拾得だと
見える。
帽を
被つた
方は
身動きもしない。これが
寒山なのであらう。
手を
挙げ、
帽を
振り、
杖を
廻はしなどして、わあわつと
声を
上げたが、
其の
内に、
一人、
草に
落た
女の
片腕を
見たものがある。
心は
不覺、
氣は
動顛して、
匇卒、
室を
飛出したが、
帽も
被らず、フロツクコートも
着ずに、
恐怖に
驅られたまゝ、
大通を
眞一
文字に
走るのであつた。
其日は
朝からから
風が
吹き
荒んで、
折々埃と
共に
行く
人の
帽を
奪つた。
一人は
髮の二三
寸伸びた
頭を
剥き
出して、
足には
草履を
穿いてゐる。
今一人は
木の
皮で
編んだ
帽を
被つて、
足には
木履を
穿いてゐる。どちらも
痩せて
身すぼらしい
小男で、
豐干のやうな
大男ではない。
丁度其時、
庭に
入つて
來たのは、
今しも
町を
漁つて
來た
猶太人のモイセイカ、
帽も
被らず、
跣足に
淺い
上靴を
突掛けたまゝ、
手には
施の
小さい
袋を
提げて。
渠は
高野山に
籍を
置くものだといつた、
年配四十五六、
柔和な、
何等の
奇も
見えぬ、
可懐い、おとなしやかな
風采で、
羅紗の
角袖の
外套を
着て、
白のふらんねるの
襟巻を
占め、
土耳古形の
帽を
冠り
窓で、
彼が
帽を
脱ぐのに、
驛員は
擧手して
一揖した。
私は、とる
帽もなしに、
一禮して
感佩した。
と
帽の
庇を
壓へたまゝ
云つた。